コラム

スマホユーザーに「きれいな写真の撮り方を教えて!」ときかれたら

初心者向け写真教室の先生に教えてもらった

初心者向け写真講座「たのしいカメラ学校」でカメラ初心者に撮り方を教える矢島直美さん。スマホでの撮り方教室も開催している。

スマートフォンの普及が進み、誰もがふとした場面で気軽に撮影する昨今。SNSなどを見ると「ほんとにそれスマホで撮ったの?」と驚くような写真もある。でも実際は、スマホのカメラ機能をほとんど使いこなせず、なんとなく撮ってみて「もうちょっとおしゃれに撮りたいんだけどな……」という人も多いのでは?

あるいはデジカメ Watchの読者なら、家族や知人から「カメラに詳しいんでしょ? スマホでうまく撮るにはどうしたらいいの?」と尋ねられて困っている人もいるのではないだろうか。

そこで今回は、初心者向け写真講座「たのしいカメラ学校」代表で、『カメラ1年生 iPhone・スマホ写真編(たのしいカメラ学校の教科書)』(インプレス)の著者、矢島直美さんに、スマホのカメラできれいな写真を撮るコツや、初心者に教える際の注意点などを聞いてみた。

できることは大体同じ。用語が通じないだけ?

——今日はよろしくお願いします! 矢島さんは写真教室でカメラ初心者に撮り方を教えているんですよね? スマホの撮り方についても尋ねられることはありますか?

矢島直美さん(以下、矢島さん):はい。ただ実は、スマホのカメラはみなさん日常的に使っていらっしゃるので、すでに上手に撮れている方も多いんです。つまり、デジカメでは撮れないけどスマホなら撮れる、という方が結構いらっしゃるわけですね。

ご存知の通り、カメラとスマホで、撮影の原理は共通です。例えばiPhoneの純正カメラアプリなら、画面をタップすると「太陽マーク」が出てきます。これを上下に動かすと「明るさのコントロール」ができます。それを先に体感してもらって、最後に「これは(カメラでいうところの)『露出補正』という機能なんです」と伝えます。こうして、スマホの撮影教室の中で、カメラの用語や設定の意味を理解してもらうこともあります。

グリッド線もそうですね。iOSの「設定」メニューの「カメラ」で「グリッド」をONにすると表示されるのですが、まっすぐ傾かないように撮ることの大切さや、デジタルカメラにおける分割構図の考え方を説明するときに伝えやすくなります。

iPhoneの標準カメラアプリで「明るさのコントロール」をしてるところ。デジタルカメラでいうところの「露出補正」に近い機能。「グリッド」もONにしている。

——グリッド線は初期設定だと非表示ですよね。

矢島さん:そうなんですよ。こういう機能が意外と撮影の手助けになります。それから撮った後の補正もお伝えしています。2時間半くらいの教室ですけど、みなさん撮影する写真がまったく変わりますよ。

——なるほど、本当に簡単なことから始めるんですね。ただ「露出補正」「F値」などの専門用語を出すと、難しくなってしまう人もけっこういるような気がするんですが……。

矢島さん:話し方によりますね。最初に「太陽マークを操作しましょう」と入り、「これで明るさのコントロールができます」と言って実践してもらった後、最後に「これは露出補正と言います」と順序を踏めば、みなさん自分からその言葉を使い始めます。iPhoneにも機種がいろいろあり、画素数や焦点距離は違いますよね。そのスペックを表にしてスライドで写すと、みなさんメモを取り始めます。女性でもちゃんと紐解いて話していけば、スペックの話に拒否反応を示す人ばかりではありません。逆に仕組みを説明してあげないと、太陽マークに気づかず撮って終わっていることもあります。

——実際に撮りながら理解してもらうのが一番だと思いますが、矢島さんのスマホの授業で一番盛り上がるのはどんな内容でしょうか。

矢島さん:ポートレート撮影ですね。普段、自分が撮られることってあんまりないじゃないですか。講座に来た人たちでふたりひと組を作ってもらい、お互い撮りあいっこするんです。そうするとすごく盛り上がるんですよ。最初は照れてるんですよ。最後はポーズまでバッチリとるようになるんです。やっぱりきれいに撮られるのは嬉しいですよね。スマホの場合はあとから補正ができるので、さらにいい仕上げになります。それをSNSのプロフィール写真にされている方も多いみたいです。

2人で撮り合う授業でどうしても恥ずかしい方には、モノクロで撮るよう勧めています。洋服や背景の色も気にしなくていいし、なっといってもモノクロのカッコいい雰囲気が手軽に楽しめますから。iOSの標準カメラアプリの場合、撮影した後にスマホ内でカラーに戻すことができます。そのことを説明すると、結構な確率で驚かれますね。

——おお、本当だ! 元データが残ってるようですね。知らなかった。ポートレート撮影以外の実習で人気があるのは?

矢島さん:ブツ撮りが多いですね。ボケの作り方、スタイリング、光、構図やアングルを一気に説明します。ただしどちらかというと、参加者の方それぞれが撮りたい写真や絵があって、それを個々に聞いていく感じですね。

——結局、みなさんどういう写真を撮りたいんでしょう?

矢島さん:「記録的な写真になっちゃう」という悩みが多いんですよね。ただ写しただけの写真になりがちなので、どうしたら良くなるか悩まれているようです。被写体にぐっと寄ったり、「素敵だな」と思った部分だけを切り取ったりしてみましょうと話すと、写真が随分変わります。

できることはデジカメとスマホで基本的に同じです。でもスマホだけの人はどうしても撮影の基本が身についていない。例えば室内などの暗い状況だと、シャッター速度が遅くなって手ブレしやすくなりますけど、その原理がわからないからいつも通りに撮ってブレちゃう、といった具合です。脇を締める構え方や、AEロックの後はカメラを動かさないことなどを教えると、格段に写真が上手くなります。

それから、レンズ(カメラユニット)が複数ついているスマホが増えて広角と望遠を切り替えられるようになりましたが、その原理を知らない方も多いです。広角のまま被写体に近寄って、電子ズームを使ってしまう。結果的には望遠と切り替えたことと同じなのですが、撮りたい絵に操作や理解がついていってない様子です。あと、スマホカメラのレンズは大抵汚れています(笑)。服などの布で拭くだけで写真が良くなります。

——生徒さんたちが撮りたい「いい写真」の基準はなんでしょうか。

矢島さん:ひとりひとり違いますよね。いわゆる観光写真が好きな人もいれば、好みの世界観を持っている方もいます。その方々がどんな写真を「いい」と思うのかを聞いて、それに寄せるような教え方をしますね。

——最近ではスマホが電子的に背景ボケを作る機能がありますが、そういった機能や後補正ではなく、光学的にボケを作る方法なども教えてもらえるのですか?

矢島さん:そうですね。被写体に寄って、背景を離して撮影すれば、普通のモードでもボケを作れると説明します。「ポートレート」は基本的に人物撮影にむいたモードですけど、応用編として、デュアルレンズのブツ撮りにも使えます。ただ、カメラと被写体はある程度離れないとポートレートモードは使えないんです。

スマホ写真は補正もセットで

——撮影後の補正を教わりたい方も多いのでしょうか。

矢島さん:多いですね。撮影と補正はセットで覚えてもらいたいです。授業にいらっしゃる方は、おしきせのフィルター機能を使うではなく、もっと細かい補正を知りたい傾向があります。iOS純正の写真アプリでも詳細に補正できますが、私がオススメしているのは「シャドウ」のパラメータを変更すること。写真の中の暗い部分を調整する機能で、明るくすれば爽やかな写真になるし、暗くすれば引き締まった写真になります。

補正でよく聞かれるのは「どこまでやっていいんですか?」という質問です。写真によって許容範囲はバラバラなので、その方の写真を見せてもらって一緒に補正して、適度なところで止める、という感じですね。「まずはマックスまで調整して、そこから徐々に落としていきましょう」といっています。徐々に上げていくやり方だと「もうちょっと」を繰り返して歯止めが効かなくなりますから。

——OS標準ではないアプリを授業で勧めることはありますか?

矢島さん:無料の範囲内でオススメしているアプリがあります。例えばAdobe Photoshop Fix。余計なものを消したり肌をきれいにしたりするのは、デフォルトの写真アプリでは難しいですが、こちらなら操作もかんたんですし、Adobeのアカウントを作れば無料で使えます。修正結果を見てもらうと盛り上がりますよ。パソコンでRAW現像をするのはどうしてもハードルが高いですし、どこまででも追い込めるから終わりがないんですよね。それを感覚的に指で操作できるのは気軽なので、みなさん喜んで使ってらっしゃいます。

レンズ交換式カメラにはない便利な機能を持つアプリもたくさんありますし、スマホでしかできない表現もたくさんあります。iOS純正カメラアプリの「Live Photos」はその典型ですよね。静止画の前後を動画で記録しているので、それを利用してループ動画を作ったり長時間露光のような写真に加工したりできます。

——ここまでたくさんスマホの便利な機能を教えてもらいましたが、スマホでは撮りにくい写真の代表はなんですか?

矢島さん:花火や星空を撮りたいとリクエストされることがありますが、それはさすがにデジタルカメラにはかなわないですね。撮れるには撮れますけど、みなさんが頭の中に描いているような写真にするのはスマホでは難しいですね。

スマホを入口にデジタルカメラでの撮影にはまる人もいます。スマホで撮った写真をSNSにアップして、そのSNSで他の人のきれいな写真を見て「自分もこう撮りたいな」と思うようになり、デジタルカメラを買ってという流れです。あとは銀塩フィルム風のフィルターも流行っているので、自宅で眠っていたフィルムカメラを活用する人もいますね。

——授業に来られる方は、動画にも興味をお持ちでしょうか。

矢島さん:動画についての質問は結構ありますね。特にスローモーションやタイムラプスはレンズ交換式カメラでもなかなか撮れないので、何気ないものを撮るだけでも面白いですよ。

——僕らカメラ側のユーザーが「タイムラプス」と聞くと、三脚を立てて夜通し撮影するようなものを想像してしまいます。

矢島さん:手持ちでもいいので手軽に撮影して欲しいですね。例としては「結婚式の余興ムービーで使うといいよ」と教えてあげます。ボードに文字を書いて順番に撮り、タイムラプスでメッセージに仕上げると、それだけで個性的なムービーになるんですよ。あと車のフロントガラスに携帯を置いてずーっと撮影しているのも面白いですよ!

——矢島さんさんのセミナーに参加する人は、きれいに撮りたいという人はもちろん、そうやって機能を楽しみたいという人も多そうですね。スマホもデジカメも、両方撮れるようになると、撮れるものの幅が広がりそうです。

デジタルカメラ、スマホのカメラそれぞれに良さがありますから、それを伝えて、広められることに少しでも役立てたらなと思います。スマホでの撮影も基本はデジタルカメラと同じです。デジタルカメラで得た知識が応用できるので、スマホの場合もメモ的に撮るだけでなく、より思いをこめた作品にトライしてはいかがでしょうか。

中村僚

編集者・ライター。編集プロダクション勤務後、2017年に独立。在職時代にはじめてカメラ書籍を担当し、以来写真にのめり込む。『フォトコンライフ』元編集長、東京カメラ部写真集『人生を変えた1枚。人生を変える1枚。』などを担当。