【特別企画】デジカメ+スマートフォンの今(前編)

〜カメラ側の対応をチェック
Reported by 甲斐祐樹

 2012年になって発売されたコンパクトデジタルカメラにみられる1つのキーワードが、スマートフォンとの連携だ。デジタルカメラで撮影した写真をワイヤレスで転送するという機能は以前から存在したが、その対象がスマートフォンとなることで新たな展開を見せている。今回はデジタルカメラとスマートフォンの連携というソリューションの代表例をピックアップ、その魅力をレビューする。


スマートフォン連携が可能な「第2世代」の無線LANデジタルカメラが登場

 2012年に入り、キヤノン「IXY 1」、キヤノン「IXY 420F」、富士フイルム「FinePix Z1000EXR」、ソニー「サイバーショットDSC-TX300V」といった、無線LANを搭載したコンパクトデジタルカメラがメーカー各社から相次いで登場。「デジタルカメラと無線LAN」という組み合わせが改めて注目されている。

キヤノンIXY 1キヤノンIXY 420F
ソニーサイバーショットDSC-TX300V富士フイルムFinePix Z1000EXR

 無線LAN搭載デジタルカメラといえば、ニコンが一般向けのコンパクトデジタルカメラとしては初めて無線LAN機能を搭載した「COOLPIX P1」「COOLPIX P2」を2005年に発表済み。その後、ニコンに加えて、パナソニックやソニーも2008年から2009年にかけて無線LAN対応デジタルカメラを発売していた。

 これらを第1世代の無線LANデジタルカメラとすると、昨今の無線LAN搭載カメラの違いはスマートフォン連携にある。これまでデジタルカメラで搭載していた無線LAN機能はPCへの転送機能だったり、カメラからの直接アップロード機能が主な用途だったが、近年普及がめざましいスマートフォンと連携することで、PCを使わず外出先からも気軽にデジタルカメラの画像を取り込んで編集したり、Web上へアップロードすることが可能になった。

 もちろんスマートフォン自体が高性能なカメラを備えているモデルも存在するが、カメラ性能だけで比べてしまえば専用機であるデジタルカメラのほうが上。デジタル一眼ブームも手伝い、スマートフォンのカメラだけでは満足できないというユーザーも多いだろう。

 その一方で「写メール」の登場以降、写真は1つのコミュニケーション手段として確立されており、「撮影した写真を送りたい」「Twitterに写真を投稿したい」というニーズも強い。デジタルカメラで撮影した写真をスマートフォン経由でアップロードするという点において、最近の無線LANデジタルカメラは以前とは違う第2世代の無線LANデジタルカメラとも言えるだろう。


カメラ内蔵型、メモリーカード型など多様なスマートフォン連携

 現状、スマートフォンと連携するデジタルカメラのソリューションは大きく2つに分類できる。1つはデジタルカメラ本体、もしくはデジタルカメラ周辺機器側にワイヤレス転送機能を持つもの、もう1つはメモリーカード側に転送機能を持つ方法だ。

 ワイヤレス転送機能を搭載したデジタルカメラは前述の通り、キヤノンの「IXY 1」「IXY 420F」、富士フイルムの「FinePix Z1000EXR」、ソニーの「サイバーショットDSC-TX300V」など、コンパクトデジタルカメラを中心にメーカー各社が対応モデルを発売している。また、周辺機器としては、オリンパスが同社のマイクロフォーサーズ機向けのBluetoothユニット「PENPAL PP-1」を発売している。

OLYMPUS PENPAL PP-1。AP2を搭載したOM-D E-M5およびPENシリーズに対応する。

 一方、メモリーカード側のソリューションとしては、アイファイジャパンの無線LANを搭載SDカード「Eye-Fi」が代表的な存在だが、東芝もSDHCカードに無線LANを搭載した「FlashAir」を発売したほか、プラネックスも無線LAN機能内蔵のSDHCメモリーカード「Flucard PRO」をリリースしている。

 さらに日立マクセルは市販のSDカードを利用できる無線LAN機能搭載カードリーダー「AirStash」を発売。先行するEye-Fiも4月13日、Andoroidのスマートフォン(キャリアは不問)ならPC不要で設定できる「Eye-Fi Mobile X2 for docomo」を発売するなど、メモリーカード側のソリューションも急速に充実している。

東芝FlashAirプラネックスFlucard PRO
Eye-Fi Mobile X2 for docomo

 今回は前編と後編に渡り、デジタルカメラとスマートフォンの連携について検証。前編ではデジタルカメラおよびデジタルカメラ周辺機器側の代表的なソリューションを紹介、その利便性をレビューする。


無線LAN機能を搭載したコンパクトデジタルカメラ「IXY 1」

 前述の通り、無線LAN機能を搭載してスマートフォンと連携できるコンパクトデジタルカメラは各社から登場しているが、今回はその中からキヤノンの「IXY 1」を取り上げる。スマートフォンを含め、無線LANを利用した転送機能がもっとも充実しているのがこのIXY 1だからだ。

無線LAN機能を搭載した「IXY 1」

 IXY 1ではスマートフォンへの転送に加えて、無線LANを利用したPC接続、対応機種「IXY 1」「IXY 420F」間での転送機能に加え、IXY 1単体で画像をアップロードすることも可能だ。スマートフォン転送も、IXY 1から直接スマートフォンへ転送できる機能に加えて、アクセスポイントを経由した転送も可能になっており、無線LANを利用した転送については「全部入り」と言える充実度だ。

 今回のテーマはスマートフォン連携ではあるものの、IXY 1の持つ画像アップロード機能にも少々触れておく。というのも、カメラ単体の直接アップロード機能を踏まえると、デジタルカメラとスマートフォンの連携というソリューションの魅力が見えてくるからだ。

 IXY 1では、アップロードに必要なキヤノンのオンラインアルバム「CANON iMAGE GATEWAY」、TwitterやFacebook、YouTubeといった投稿先サービスの設定はすべてPCで行ない、その設定をPC経由でIXY 1に接続する仕組み。アクセスポイントの設定はソフトキーボードでSSIDや暗号化キーを入力できるが、ソーシャルメディア投稿の際はあらかじめ登録しておいた定型文のみに限られ、投稿ごとに好きなメッセージを入力することはできない。

 暗号化キー程度であればデジタルカメラに英数字のみのソフトキーボードを搭載すればいいが、日本語入力となると日本語変換機能とそれに伴う辞書機能、場合によっては予測変換の機能なども必要になり、機能だけでなく操作ボタンなども複雑になる。また、対応する投稿サービスも、サービスの仕様が変わるたびにデジタルカメラ側でも対応が必要になってしまう。開発のコストや発売後のメンテナンスを考えると、デジタルカメラ側でアップロードまでをフォローするのは非常に負担が大きい。

 その点スマートフォン連携であれば、デジタルカメラは画像を送ることに徹しさえすれば、文字入力はすべてスマートフォンに任せておけばいい。Webサービス対応も、ユーザーが好きなWebサービスを選んで画像を投稿する形式にすれば、事実上どんなにマイナーなサービスでも対応できることになる。

 デジタルカメラは写真を撮るという本来の機能にこだわり、それに付随する文字や編集、アップロードといった機能はスマートフォン側で担う。それぞれの特徴を活かしたこの役割分担は、現状もっとも効率的なソリューションだろう。


・アクセスポイントとアドホック2通りの連携が可能

 本題となるIXY 1のスマートフォン連携は、前述の通りアクセスポイント経由での転送機能と、IXY 1とスマートフォンが1対1で接続するアドホックの2種類がある。また、転送にはスマートフォン側に専用アプリ「CameraWindow」のインストールが必要だ。

スマートフォン連携の接続はアドホックとアクセスポイントの2種類

 アクセスポイント経由のメリットは、インターネットへの接続を保持したまま画像転送が可能ということだ。インターネット接続は間に存在するルータがその役割を担うため、スマートフォンでは転送した画像をそのままWebサービスへ投稿できる。一方、ルータを介する以上、利用シーンは家庭やオフィス内か、外出時にモバイルルータなどを持ち歩く必要がある。

アクセスポイントモードではIXY 1の無線LANアクセスポイントにスマートフォンから接続する

 アドホックの場合は、スマートフォンとデジタルカメラさえあれば画像を転送できるという点では、場所や機材を問わずに利用できる点がメリット。一方でスマートフォンの無線LANがデジタルカメラに接続するためインターネットには接続できなくなり、画像転送が終わったら無線LANをオフにして携帯電話の回線に切り替える、もしくは別の無線LANに接続するといった設定が必要になる。

 どちらも一長一短であるのだが、自宅やモバイルルータを持っている環境であればアクセスポイントが圧倒的に便利だが、外出先などで使うことを考えるとアドホック接続も魅力的だ。デジタルカメラによってはアドホックのみの機種も多いが、せっかくのワイヤレス転送であればアクセスポイント、アドホックの両方をシーンに応じて選択したいところだ。

 なお、専用アプリ「CameraWindow」は現状iOSのみに対応しているが、iOS版では「設定」アプリから手動で無線LANアクセスポイントを切り替える必要がある。一方、富士フイルムの「FinePix Z1000EXR」、ソニーの「サイバーショット DSC-TX300V」はどちらもiOS版、Android版のアプリを提供しているが、どちらもiOS版ではアクセスポイントが手動切り替えなのに対し、Android版はアクセスポイントを自動で切り替える機能を搭載している。CameraWindowのAndroid版が6月に延期されたため実際の仕様は確認できていないが、今のところ切り替えの操作性についてはAndroid版のほうが利便性は高いと言えるだろう。

 画像の転送はIXY 1の場合、1枚ごとに転送するか、複数の画像を選択してまとめて転送することもできる。旅行中にデジタルカメラで写真を撮り、休憩時や帰宅時などに何枚か投稿したい、というシーンを考えると、複数枚選択できるこの機能も嬉しい。オンラインアルバムにまとめてアップロードしたい、という使い方であれば、デジタルカメラで撮影した写真をすべてスマートフォンに転送したいというニーズもあるだろう。こうしたニーズをほぼ対応しているIXY 1は、無線LAN搭載デジタルカメラのスマートフォン連携としてはほぼすべてを網羅していると感じた。

画像転送画面

複数の画像をまとめて転送することも可能

スマートフォンから転送したい画像を選ぶこともできる

Bluetoothで連携するオプション型の機器「PENPAL PP-1」

 デジタルカメラ側でワイヤレス転送機能を搭載するのに対し、周辺機器を利用してスマートフォンへの転送を実現するのが、オリンパスの「PENPAL PP-1」。コンパクトデジタルカメラでは無線LANによるワイヤレス転送が標準的であるのに対し、PENPAL PP-1ではBluetoothを利用する点も異なるポイントだ。

PENPAL PP-1。アクセサリーポート2対応のオリンパス製デジタルカメラで利用できるE-P3に装着したところ

 無線LANの場合、スマートフォンで画像を受け取るには専用アプリが必要になるが、Bluetoothはもともと画像を転送するプロファイルが仕様として存在するため、専用アプリの必要なく、スマートフォンとペアリングするだけで転送が可能。一方、PENPAL PP-1からBluetoothで転送するには、画像転送プロファイル「BIP(Basic Imaging Profile)」、アドレス帳などの転送プロファイル「OPP(Object Push Profile)」をサポートする必要があり、iPhoneやiPad、これらプロファイルをサポートしないAndroidでは利用できない。

 画像を転送する場合は、あらかじめBlutoothのペアリングを行なってPENPAL PP-1のアドレス帳に転送先スマートフォンを登録。次に撮影した画像を表示し、アドレス帳に登録したスマートフォンを選択して画像を転送する仕組みだ。

PENPALを装着したE-P3から転送先スマートフォンを登録

スマートフォンとBluetooth経由でペアリングする

転送したい画像を選んで1枚ずつ転送する

PENPALからの転送をスマートフォンで承諾

専用アプリを介さずBluetooth経由で転送できる

 無線LAN経由の場合、デジタルカメラとアドホック接続するとインターネット接続の際に無線LANを切り替える操作が必要だったが、無線LANを利用しないBluetoothであればそういった操作の必要なく転送した画像をスマートフォンでアップロードできる。ルータなどの機器を必要とせず、インターネット接続も保持できるという点に関しては無線LAN経由の転送よりも非常に手軽だろう。

 一方、最大の課題は画像の転送速度。無線LANであればIEEE 802.11nに非対応であっても最大54Mbpsの理論値が得られるのに対し、Bluetoothは3.0の拡張モードでも最大で24Mbps、PENPAL PP-1が準拠するBluetooth 2.1+EDRでは1306.9kbps程度。そのためPENPAL PP-1ではオリジナルサイズの画像を転送することはできず、最大でも1,920×1,440ピクセルにリサイズして転送する必要がある。

 無線LANとBluetooth、どちらも一長一短ではあるが、両方を使い比べるとBluetoothの転送速度の遅さとそれに伴う画像のリサイズ、対応プロファイルをサポートしないスマートフォンでは一切利用できないという範囲の狭さが気になった。もちろん対応スマートフォンであれば問題なく利用でき、スマートフォン転送でさほど大きな画像を必要としないユーザーには十分だが、プロファイルの問題でiPhoneに対応していないという点は、ソリューションとして考えた際に大きなデメリットだろう。

 無線LANの場合はアプリのインストールは必要なものの、現行のiPhoneとiPad、そしてAndroidと幅広くサポートできる点は大きい。また、仕様によってアクセスポイントモードとアドホックモードを実装しておけば、環境を気にせずスマートフォン転送を便利に利用できる。メーカー側からするとBluetoothであれば対応アプリを開発しなくてよいというメリットもありそうだが、デジタルカメラ本体とスマートフォンの連携という点では、現状のところ無線LAN経由での転送がもっとも効率のよいソリューションと感じた。


 なお、今回のレポートには間に合わなかったが、ニコンもデジタル一眼レフカメラ「D3200」のオプション機器として、スマートフォン連携が可能な「WU-1a」を発表した。専用アプリを介して無線LAN経由で画像を転送できるほか、ユニークな機能としてスマートフォンの液晶をモニターとしてリモートで撮影できる機能も備える。対応機種はいまのところ同時発表されたD3200のみだが、元々コンシューマー向けデジタルカメラへの無線LAN搭載はニコンが積極的に展開してきたこともあり、そのニコンが改めて無線LAN連携に取り組むという点では今後が楽しみだ。

ニコンD3200に装着したWU-1a

 前編はデジタルカメラおよびデジタルカメラ周辺機器とスマートフォンの連携についてレビューした。後編ではメモリーカードを中心としたスマートフォン連携を紹介、その利便性をレポートする。






甲斐祐樹
電機メーカー営業を経てWebニュースサイトを運営する「Impress Watch」の記者としてネットワーク関連やブログ・SNSなどネット系のジャンルを取材。その後アジャイルメディア・ネットワークでソーシャルマーケティングに携わり、現在はフリーランスで活動中

2012/4/24 00:00