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ソニーの裏面照射型CMOSセンサー工場を訪ねる

〜高い技術力でイメージセンサーのリーダーに
Reported by 本誌:武石修

長崎テクノロジーセンターのクリーンルーム。ウエハーへのリソグラフィー(露光)や現像に影響を与えないように黄色い照明になっている

 ソニーが世界で初めて実用化した「裏面照射型CMOSセンサー」は、従来比約2倍の感度を実現した撮像素子だ。高感度撮影でもノイズが少ないのが特徴で、ソニーでは“Exmor R”の名称で訴求している。また今春は、ソニー以外のデジタルカメラ各社からも裏面照射型CMOSセンサーを搭載したモデルのリリースが相次いでいる。

 今回、ソニーの裏面照射型CMOSセンサーを量産するソニーセミコンダクタ九州の長崎テクノロジーセンターを見学する機会に恵まれた。工場内部は自由な撮影ができないなど最先端技術が詰まった半導体工場らしい一面もあるが、少しでも雰囲気をお伝えできればと思う。(写真と図版はすべてソニー提供)


MOS LSIとCCDの技術を融合してイメージセンサーを生産

 ソニーにおける半導体ビジネスは、企画や設計などを行なう半導体事業本部とそれを受けて量産立ち上げと製造を行なう複数の関連会社からなる。

 全国にある生産関連会社の中でも、CCD、CMOSセンサー、高温ポリシリコンTFT液晶、SXRD(プロジェクター向け液晶ディスプレイデバイス)、バイポーラトランジスタ、MOS LSIを担当しているのがソニーセミコンダクタ九州(本社所在地:福岡県)だ。設立は2001年4月。2009年3月期の売上は約4,000億円で、現在約9,000名の人員を擁する。九州に本社を置く法人では、九州電力、トヨタ自動車九州、大分キヤノンに次ぐ売上規模とのこと。

ソニーの半導体生産拠点は全国に散らばる。このほかに海外工場もある ソニーセミコンダクター九州は4つの生産拠点を持つ

 ソニーセミコンダクタ九州は、生産品目や工程別に4つの工場(ソニーでは“テクノロジーセンター”あるいは通称で“TEC”と呼ぶ)を展開している。今回訪れたのは、CMOSセンサーやMOS半導体を生産している長崎テクノロジーセンターだ。それ以外には、映像デバイスを生産する熊本テクノロジーセンター、システムインパッケージや半導体の実装拠点となる大分テクノロジーセンター、各種半導体のウエハー製造から組み立てまでを一貫して行なう鹿児島テクノロジーセンターがある。

 長崎テクノロジーセンターは大村湾、島原湾、橘湾という3つの湾に囲まれた長崎県諫早市に位置する。長崎空港からもほど近いロケーションだ。工場は約140社が進出する諫早中核工業団地にある。

長崎テクノジーセンターは長崎県諫早市にある。長崎自動車道の諫早インターチェンジからも近い 工場全景。道路を挟んで両側に生産棟がある

 長崎テクノロジーセンターは、もともと米フェアチャイルドの工場だったものが1987年にソニーに譲渡され、ソニー長崎としてスタート。ゲーム機用のコアLSIを中心に各種ソニー製品が搭載するMOS LSIを製造してきた。現在はCMOSをベースにしたイメージセンサーや、「PS2」、「PS3」、「PSP」用IC、「ブラビア」用の液晶パネルドライバICなどを生産している。

ソニーセミコンダクタ九州の執行役員で長崎テクノロジーセンターTECプレジデントの副島実津郎氏

 最新の生産棟は2層構造で、上層が自社のラインとなっている。下層は、ソニー、ソニー・コンピュータエンタテインメント、東芝のジョイントベンチャーである「長崎セミコンダクターマニュファクチャリング」のラインになっている。それぞれ自社Fabは200mmウエハーのラインを、長崎セミコンダクターマニュファクチャリングは300mmウエハーのラインを備えている。

 長崎テクノロジーセンターでは半導体を自社生産するのはもちろんのこと、先端MOS LSIを他社に製造委託する場合もある。その際はウエハーレベルでの歩留まり向上策などの技術サポートにより、製品の品質向上や垂直立ち上げを実現している。こうしたことができるのは、最先端の技術でラインを立ち上げた経験を持つところが大きい。

 ソニーセミコンダクタ九州の執行役員で長崎テクノロジーセンターTECプレジデントの副島実津郎氏は、「これまで培ってきたMOS LSIのプロセス技術と、CCDにおけるカラーフィルターや集光の技術を融合させているのがCMOSイメージセンサーにおけるソニーの強み」と自信を見せる。


ソニーが64画素のCCDを開発したのは1972年のこと。それ以来、業務用から民生品までさまざまなイメージセンサーを開発してきた。CCDは、ソニーが世界で初めて量産化に成功している ソニーにおけるイメージセンサーの累計生産量は、2009年1月に10億個に達した。ピクセルピッチは毎年0.1μmのペースで小さくなっているという

裏面照射型CMOSセンサー量産の難しさ

 改めて、裏面照射型CMOSセンサーを簡単に説明しておきたい。従来のCMOSセンサーは、光を感じるフォトダイオードの上に配線層が載る構造になっている。このため配線層が入射光の一部を遮ってしまい、感度が低いという問題があった。感度を上げるために増感するとノイズも一緒に増えてしまい、画質に悪影響が出ていた。裏面照射型CMOSセンサーは、配線層の無い裏面から光を入射させることで光のロスを無くして感度を上げたセンサーだ。

裏面照射型CMOSセンサーの概要。入射光が配線に邪魔されないため、従来の表面型よりも多くの光を取り入れることができる

 ソニーのデジタルカメラ春モデルでは、「サイバーショットDSC-HX5V」、「サイバーショットDSC-TX7」、「サイバーショットDSC-TX5」が採用している。また、同社のデジタルビデオカメラでも一部の機種が裏面照射型CMOSセンサーを搭載している。

裏面照射型CMOSセンサー「Exmor R」を搭載したサイバーショット春モデル。左から「サイバーショットDSC-HX5V」、「サイバーショットDSC-TX7」、「サイバーショットDSC-TX5」

 裏面照射型CMOSセンサーの考え方は20年以上前から知られていたが、製造技術が追いつかず長い間世に出ることはなかった。ソニーでは、独自の製造技術を確立することで2009年2月に裏面照射型CMOSセンサーを搭載した初めての製品である「ハンディカム」の発売に至った。

 裏面照射型CMOSセンサーの大まかな製造工程はこうだ。まずシリコン基板(ウエハー)上にフォトダイオードを設け、その上に配線層を設置する。ここまでは従来の表面照射型CMOSセンサーと同じだ。次に、全体をひっくり返してフォトダイオードの位置までシリコン基板を削っていく。その後、カラーフィルターやオンチップレンズを載せて完成となる。

裏面照射型CMOSセンサーの製造過程。シリコン基板を削る作業が、これまで量産を阻んできた大きな要因だった 裏面照射型CMOSセンサー「Exmor R」。写真は、「Exmor R」を搭載した初めてのデジタルカメラ「サイバーショットDSC-WX1」および「DSC-TX1」に搭載されていたセンサー。1/2.4型で、有効1,020万画素だ

 裏面照射型CMOSセンサーの製造で最も困難なのが、シリコン基板を削る工程だという。表面照射型CMOSセンサーのシリコンから配線層までの厚さは約730μm。一方、裏面照射型CMOSセンサーはシリコン基板をフォトダイオードに達するまで削り、約8μmまで薄くする。実に1/90だ。どうやってそこまで薄く削るのかが気になるが、方法は秘密中の秘密という。

 ソニーセミコンダクタ九州の常務で熊本テクノロジーセンターTECプレジデントの久留巣敏郎氏は、「正確に削るのが難しい。削りムラがあれば、正しい色で撮影できないなどの問題が出る。一方、削りすぎれば入射した光がセンサーを突き抜けてしまい、信号にならない」と話す。

 これまでも、半導体の組み立て工程には削る作業自体はあったというが、裏面照射型CMOSセンサーの削る量に比べると僅かだった。8μmともなると薄すぎて単体では存在できないレベル。形が保てるのは最低50μm(髪の毛の太さ程度)とのことだ。

ソニーセミコンダクタ九州の常務で熊本テクノロジーセンターTECプレジデントの久留巣敏郎氏

 高感度が売りの裏面照射型CMOSセンサーだが、そのままでは構造上の理由で表面照射型の2倍のノイズを発生してしまう点も製品化が遅れた要因の1つだった。

 CMOSセンサーは、フォトダイオードに接する境界面で素材が変わるためノイズの発生源になる。このノイズ発生源は、表面照射型ではフォトダイオードと配線層間の1面だけだが、裏面照射型の場合はフォトダイオードを挟んで配線層とカラーフィルターの2面になってしまう。ソニーでは、裏面照射型に最適化した独自のフォトダイオード構造とオンチップレンズを開発したことで境界面のノイズを減らすことに成功。シリコン基板を削る技術と合わせて、裏面照射型CMOSセンサー量産の大きな足掛かりになった。

 最新テクノロジーを満載した裏面照射型CMOSセンサーだけに、価格は従来型よりも高い。これまでの表面照射型CMOSセンサーに比べて、工程数が増えてしまうのが理由の1つ。コスト低減が今後の課題だ。


作業の無駄を省いてコスト競争力を高める取り組みの1つが「埋蔵金発掘プロジェクト」。高いパフォーマンスのチームには、金メッキの大判を進呈している

 さて、日本がリードしているイメージセンサー開発だが、昨今は「台湾セミコンダクター・マニュファクチュアリング・カンパニー」(TSMC、半導体製造専業の世界最大手)など、裏面照射型CMOSセンサーの量産を手がける企業も現れ始めている。

 「台湾メーカーは、まだまだ我々には及ばない。技術ではソニーが2年程度先行している」(久留巣氏)と自信を覗かせる一方、「決して楽観視はしていない」と警戒感も隠さない。久留巣氏は、「現在よりもさらに画質を良くしたセンサーで世界と勝負していきたい」と意気込む。


工場は作業者の動線に沿ったレイアウトに

クリーンルームに入る際には、体全体を覆う防塵服を着用する。その後、写真後方のエアシャワーの廊下を通りクリーンルームへ。青色のマットは、靴底のゴミを取るための粘着シートだ

 今回は、長崎テクノロジーセンターFabの上層にある200mmウエハーラインのクリーンルームに入ることができた。

 クリーンルームは、製造装置を工場の空間にそのまま設置したオープンベイ型で、クラス1000(0.5μmの粒子が1,000個/立方ft)で構成してある。ウエハーを移動させる場合にはポッドと呼ばれる容器に入れるが、この中はクラス1(0.5μmの粒子が1個/立方ft)に保ってある。

 クリーンルームに入るには、防塵服と呼ばれる服に着替える。目の部分以外は完全に覆うことができる。その後、エアシャワーの廊下を通り塵を落としてクリーンルームに入った。

 半導体工場は一般的に、製造工程ごとに関連装置をまとめるのが一般的という。だがこのFabでは、製造装置のレイアウトを人の流れに沿ったレイアウトにすることで動線を短くし、生産効率を上げる工夫を行なっている。

 半導体の回路形成は、ウエハーにパターンを露光するリソグラフィーから始まる。レチクルと呼ばれるパターンの原板を投影レンズを通してウエハーに転写する。帯域幅の狭いレーザーを光源にしている。リソグラフィー装置の投影レンズは数十枚以上のレンズエレメントを使用して収差を取り除いている。平坦に見えるウエハーは、実際には僅かにうねりがある。そのためオートフォーカスの先読みセンサーでウエハーのうねりを読み取りながら、それに追従して転写を行なう仕組みになっている。

工場内の展示室には、ウエハーの元になる柱状のシリコンインゴットが飾ってあった。シリコンインゴット自体は外部から調達している こちらも展示室にあったパターン完成後のウエハー

 次にウエハーを現像し、パターンを形成する。現像装置ではウエハーを水平に回転させておき、その上に現像液を投下して現像を行なう。

 パターンが完成すると、ウエハーの状態でパターンの検査を行なう。この行程も重要なセクションになっている。ここで欠陥を見逃すと、それ以降に製造したウエハーにも同一原因の欠陥が現れてしまう可能性があるためだ。ウエハーの画像検査装置は自社で開発した。例えると、人工衛星から地上の1円玉を発見できるほどの性能という。

 こうした一連の工程を経て、ウエハーはパッケージングを行なう別の工場に送られる。輸送の際はポッドの内部をほぼ真空にするそうだ。

半導体工場にとって怖いのはカラス!?

 長崎テクノロジーセンターは活火山である普賢岳から直線距離で27kmほどの位置にあるが、噴火が起きて火山灰が到達しても工場の稼働には問題ないとのこと。また、工場は震度6程度の揺れにも耐えられる造りとなっている。むしろ現在は、中国方面から飛来する光化学スモッグ対策に苦慮しているのだという。

 半導体工場にとって、さらに怖いのは停電だ。瞬停と呼ばれる、短い停電あるいは電圧降下に対しては工場として対策を取っており問題はないという。だが、一般的な停電が起きると製造は止まってしまう。

 長崎テクノロジーセンターでは、佐賀県にある九州電力玄海原子力発電所から電源の供給を受けている。そのため途中の送電路付近に雷雲が発生した場合には、工場に連絡が入るシステムになっている。雷雲発生の連絡を受けると、停電の影響を受けるプロセスについてはその工程に入る手前でラインを止めるなどの対策を講じる。その辺りのオペレーションには、独自のノウハウを蓄積しているという。

 稀な例だが、鳥が原因で停電したこともあった。10年ほど前に鹿児島テクノロジーセンターへの送電路で、カラスが巣を作ったためショートして停電。製造中のセンサーがだめになってしまうというエピソードがあった。ちょうど各社のデジタルカメラ生産が盛り上がりを見せていた時期だっただけに、センサーの供給先メーカーに停電の理由を説明するのにかなり苦労したそうだ。






本誌:武石修

2010/3/4 00:00