新製品レビュー

ライカM

CMOS採用で新領域へ進んだM型ライカ

 ライカカメラ社の最新M型ライカ「ライカM」。外観や仕様などは編集部によるファーストインプレッションをはじめ、すでにお伝えしているので、ここでは実際に使用した印象や「ライカM9」との比較を中心にレポートしよう。今回はベータ機ではなく製品版だ。

 また、別売の外付け電子ビューファインダー「EVF 2」も使用している。なお「マルチファンクションハンドグリップM」と「ライカRアダプターM」は、まだ発売されていないため使用していない。

 ライカMはこれまでのM型ライカの伝統を守りながら、大きく進化したレンジファインダーデジタルカメラだ。M型ライカの伝統とは、ボディデザインに始まり、ピント合わせを行なうレンジファインダーの構造などが、1954年に登場した初代M型ライカ「ライカM3」のスタイルを受け継いでいることだ。特に、バッテリーやメモリーカードを出し入れするのにフィルム交換のように底ブタを開ける必要があるのは、いかにもライカらしいこだわりを感じる。そのスタイルは最新のライカMでも同様だ。

 しかしライカMは、これまでのM型とは大きく異なる部分がある。それはブライトフレームが採光式からLED式になったことだ。LEDを使用したブライトフレームは2010年に限定発売された「ライカM9チタン」でも実現しているが、レギュラーモデルでは初だ。ちなみにLED照射の仕組みは、ライカMとライカM9チタンでは異なるとのこと。ライカMの方がより均一な明るさになるような構造だそうだ。これまで距離計を内蔵するM型ライカは本体を正面から見ると、ファインダー窓、採光窓、距離計窓の3つが並んでいたが、ライカMはファインダー窓と距離系窓の2つだけだ。その分、赤丸のライカバッジがライカM9より大きくなり、レンズの光軸上に配置された。

 そして2012年9月にライカMと同時発表した「ライカM-E」(有効1,800万画素CCDモデル)と同じく、フレームセレクターレバーがなくなった。フレームセレクターレバーはレンズ交換をしなくても各焦点距離のブライトフレームが表示できるレバーで、ライカM3の前期型の途中から搭載され、それ以降の距離計を持つM型ライカにはすべて搭載されてきた。なぜライカMでは省略されてしまったのかはわからないが、なくても撮影に支障はないため、実用上は困ることはない。

 だがライカMでは付属のボディキャップが新しくなり、キャップの取り付け角度を変えることによってブライトフレームを切り替えることができるようになった。キャップの「Leica」のロゴが水平の場合は50/75mm。下から読む形は35/135mm、上から読む形は28/90mm。ユニークなアイデアで、レンズ装着前に使用する焦点距離を吟味するのに役立ちそうだ。

50/75mmフレーム
35/135mフレーム
28/90mmフレーム

 それでは筆者がこれまで愛用してきたライカM9と外観を比べてみよう。正面から見ると、ライカMは採光窓やフレームセレクターレバーがなくなったが、フォーカスボタンが追加された。まるでライカM2やM1のフィルム巻き戻しボタンのようだ。背面は大きく異なり、液晶モニターの大きさやボタン、ダイヤルなども変更されている。また親指を載せてしっかりホールドできるサムグリップがあるのもライカMの特徴だ。メニュー表示も全く異なる。そしてライカMには、EVFなどのアクセサリー用端子がホットシュー部分に追加されている。

右がライカM9、左がライカM。ライカMはファインダー採光窓やフレームセレクターレバーがない。またフォーカスボタンを装備する。シャッター幕がライカM9とは異なることにも注目。ライブビューに対応した新型シャッターだ。
右がライカM9、左がライカM。液晶モニターをはじめ、ボタンやダイヤルは全く異なる。メニュー表示やフォントも異なる。

 上面にはシャッターボタン横に動画ボタンが新設された。動画用のモノラルマイクも搭載する。シャッター速度の最高速は1/4,000秒でライカM9と同じだ。

右がライカM9、左がライカM。シャッターボタンやメインスイッチ、シャッターダイヤルの位置は共通だが、ライカMは動画撮影用のMボタンが追加されている。
手前がライカM、後ろがライカM9。ライカM9は段差があるのが特徴だったが、ライカMはそれがなくなり、モノラルマイクを装備している。

 底面は底ブタ、バッテリー、メモリーカードスロットの位置、三脚座などが異なっている。底ブタを開けるのは共通だが、全く別物なのがわかる。なおライカM9ではSDHCメモリーカードまでの対応だったが、ライカMではSDXCメモリーカードにも対応した。

手前がライカM、奥がライカM9。底ブタをはじめ、バッテリーやバッテリーとメモリーカードのスロット位置、三脚座は全く異なる。

 ライカMを手にすると、ずっしりした重さが伝わってくる。重さはライカM9が585gなのに対し、ライカMは約680gもある。大きさがほぼ同じなのに100g近い増加はかなり重く感じる。とはいえシボ革の目が細かく、ソフトな感触で滑りにくいのと、背面のサムグリップのおかげでホールディングはしやすい。

 ファインダーを覗くとクリアな視界の中に距離計だけ見える。ブライトフレームがLED式なので、シャッターボタンを半押しすると現れる。従来のM型ライカに馴染んでいると最初はやや戸惑うが、しばらく使っていると慣れて気にならなくなった。

 シャッターボタンのフィーリングは大きく変わった。ファーストインプレッションにもある通り、ライカM9は半押し、AEロック、全押しの3段階だったが、ライカMは半押しとAEロック、全押しの2段階になった。そのため軽快になった印象だ。さらにシャッター音も全く異なる。ライカMはボディ内部にこもるような音で、とても静かになった。シャッター自体がライカM9とは異なること、そしてライカMは防塵・防滴構造なので密閉性が高いせいもありそうだ。静かなシャッター音はスナップ派にはありがたい。連写速度が2コマ/秒から3コマ/秒になったことで、リズミカルに撮影できる。

 使っていて気になったのは、露出補正がやりにくいことだ。ライカM9では背面のダイヤルでダイレクトに露出補正をすることができたが、ライカMでは前面のフォーカスボタンを押しながら背面ダイヤルを回す。このフォーカスボタンがやや押しにくく、スピーディーな操作が難しい。またライブビューやEVFでは、拡大率もフォーカスボタンとダイヤルで設定するため、露出補正のつもりが誤って拡大率を変更してしまうことが何度もあった。SETボタンから露出補正を選択する方法もあるが、やはり迅速な操作は難しい。ぜひライカM9と同様に、背面ダイヤルのみで露出補正ができるようになってほしい。

 ライカMでは、M型ライカで初めてCMOSセンサーを採用した。また画像処理エンジンは、中判デジタルのライカSシリーズに搭載されている「ライカ マエストロ」を採用。ライブビューやEVFによる撮影、そして動画撮影も可能になった。

 EVFはAPS-Cコンパクト機の「ライカX2」と同じEVF 2を使用する。ピント合わせは5倍と10倍の拡大の他、ピーキングも可能。フォーカスアシストをオートにすると、ピントリングを回すと自動で設定した拡大率になり、スピーディーなピント合わせが可能だ。特に超広角や望遠、マクロ、大口径レンズを使用する際に便利。まるでミラーレス機のようだが、通常の撮影ではやはりレンジファインダーが使いやすい。状況に応じてレンジファインダーとライブビュー、EVFを使い分けられるのもライカMの特徴だ。M型ライカなのにライブビューやEVFで撮影するのはとても新鮮な感覚だ。

EVF 2とSUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH.を装着したライカM。

 さて気になるのは、ベルギー、CMOSIS社の有効2,400万画素CMOS「LEICA MAX 24 MP CMOSイメージセンサー」による画質だ。ちなみにこれまでのM型ライカのデジタルと同様、ローパスフィルターは搭載していない。ライカM9では、ピントが合った部分が立ち上がってくるような解像感を見せていたが、ライカMではまろやかな印象だ。それでいて、ピントが合った部分の解像力はとても高い。解像感と階調再現のバランスに優れているように感じる。またオートホワイトバランスは、ライカM9ではやや個性的な仕上がりを見せることもあったが、ライカMは精度が大きく上がったようだ。

 さらに高感度にも強くなった。筆者はライカM9で、どんなに暗くても上限をISO800にしていた。だがライカMでは、常用の最高感度であるISO3200でもノイズは多いが不自然ではなく実用的。ISO1600なら常用域といえるほどだ。2,400万画素になるとわずかなブレでも目立ってくるが、高感度に強いと積極的に感度を上げて高速シャッターを切れるのが嬉しい。またライカM9はJPEGとRAW(DNG)との画質の差が大きく、RAWでの撮影がおすすめだったが、ライカMはJPEGの画質も良好だ。

ベース感度はISO200。
拡張でISO100にすることも可能。
拡張の最高感度はISO6400。

 新設されたフィルムモードは通常の他に、カラーではヴィヴィッドとスムース、白黒はで6種類のコントラストフィルターと2種類の調色が選べるようになった。特に白黒の充実ぶりが目立つ。撮影した時点で仕上がりが決まるJPEG派に向いていると感じた。

フィルムモード
フィルムモード内「白黒」
白黒コントラストフィルター
白黒調色

 動画は1,920×1,080のフルHD記録が可能。フレームレートは25fpsと24fpsから選べる。まさかM型ライカで動画が撮れる時代が訪れるとは驚きだ。動画撮影はシャッターボタン横のMボタンを押すとスタート。もう一度押すとストップ。このボタンにはロックも何もないが、筆者がライカMを使用した限りでは、誤って押してしまうことはなかった。とはいえ、動画撮影はしない人もいるはず。別の機能に割り当てもできると嬉しかった。ちなみに30秒程度の撮影なら書き込みを待つこともなく(サンディスクExtreme Proを使用)、全くストレスは感じなかった。画像処理エンジンのおかげだろう。

 ライカファンは保守的な人が多い。ライブビューや動画機能を備えたライカMは受け入れ難いという人もいるかもしれない。しかし、実際に手にした感触やクリアなファインダー、使い心地は明らかにM型ライカだ。もちろん従来のスタイルがよいという人にはライカM-Eがあり、モノクロ専用のライカMモノクロームも存在する。それぞれのライカファンに応える絶妙なラインナップといえるだろう。ライカM8でデジタルになり、ライカM9でフルサイズセンサーを搭載。そしてライカMでライブビューや動画という、新たな領域へ進んだM型ライカ。ライカの伝統と革新という2つの世界が同時に堪能できるカメラだ。

実写サンプル

  • ・作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
  • ・特に記載のないものは、RAW+JPEGの同時記録JPEGを掲載しています。
  • ・撮影データのF値は実際にレンズで設定した絞り値を記載しています。

共通データ:LEICA M (Typ 240) / SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH. /

・ISO感度

ISO100(拡張)
ISO200
ISO400
ISO800
ISO1600
ISO3200
ISO6400(拡張)

・フィルムモード

OFF
ヴィヴィッド
スムース
(白黒)コントラストフィルター:OFF
(白黒)コントラストフィルター:イエロー
(白黒)コントラストフィルター:オレンジ
(白黒)コントラストフィルター:レッド
(白黒)コントラストフィルター:グリーン
(白黒)コントラストフィルター:ブルー
(白黒)モノクロ色調:ウォーム
(白黒)モノクロ色調:クール

・(参考)ライカM9と撮り比べ

ライカM(同時記録JPEG)
ライカM9(DNGをAdobe Camera Rawでストレート現像)

・動画

※サムネイルをクリックするとオリジナルファイルをダウンロードします。(LEICA M (Typ 240) / Motion JPEG / 1,920×1.080 / 約128.7MB)

・作例

LEICA M (Typ 240) / SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH. / 約7.6MB / 3,968×5,952 / 1/2,000秒 / F1.4 / +0.7EV / ISO200
LEICA M (Typ 240) / SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH. / 約8.1MB / 5,952×3,968 / 1/360秒 / F1.4 / -0.7EV / ISO200
LEICA M (Typ 240) / SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH. / 約10.8MB / 3,968×5,952 / 1/90秒 / F8 / 0EV / ISO200
LEICA M (Typ 240) / SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH. / 約8.7MB / 3,968×5,952 / 1/45秒 / F5.6 / 0EV / ISO400
LEICA M (Typ 240) / SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH. / 約14.4MB / 3,968×5,952 / 1/60秒 / F8 / 0EV / ISO400
LEICA M (Typ 240) / SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH. / 約12.6MB / 5,952×3,968 / 1/45秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO400
LEICA M (Typ 240) / SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH. / 約8.8MB / 5,952×3,968 / 1/360秒 / F2 / +0.7EV / ISO200
LEICA M (Typ 240) / SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH. / 約9.1MB / 3,968×5,952 / 1/360秒 / F2 / 0EV / ISO200
LEICA M (Typ 240) / SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH. / 約12.6MB / 5,952×3,968 / 1/60秒 / F4 / 0EV / ISO200
LEICA M (Typ 240) / SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH. / 約8.5MB / 5,952×3,968 / 1/500秒 / F2 / 0EV / ISO200
LEICA M (Typ 240) / SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH. / 約10.8MB / 5,952×3,968 / 1/90秒 / F5.6 / 0EV / ISO200
LEICA M (Typ 240) / SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH. / 約13.3MB / 5,952×3,968 / 1/360秒 / F8 / 0EV / ISO200
LEICA M (Typ 240) / SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH. / 約15.9MB / 5,952×3,968 / 1/250秒 / F11 / 0EV / ISO200

藤井智弘

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になる。現在はカメラ雑誌での撮影、執筆を中心に、国内や海外の街のスナップを撮影。公益社団法人日本写真家協会会員。