気になるデジカメ長期リアルタイムレポート

ライカM【第3回】

ライブビューが新たなM型の歴史をつくる

 「ライカM」の大きな特徴といえるのが、M型ライカで初めてライブビューが可能になったこと。そしてEVFの「ライカEVF 2」が装着できるようになったことだ。これにより、従来では苦手としていた部分が克服された。

ライカEVF 2とSUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH.を装着したライカM(左)と、MACRO-ELMAR-M f4/90mm(中央)、APO-TELYT-M f3.4/135mm(右)。

 1つは超広角レンズでの正確なフレーミング、そして近接撮影、さらに望遠撮影だ。しかも、それが現行のライカMレンズでも使い勝手が大きく向上できる。では具体的にどう使いやすくなったのか検証してみた。

ライカX2と同時に登場したライカEVF 2は、他社のEVFと同じく上方向にチルトでき、ローアングルからの撮影に便利。表現の幅がグンと広がるだろう。ライカMユーザーはぜひ購入したいアクセサリーだ。

 ここで使用したレンズは、「SUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH.」、「MACRO-ELMAR-M f4/90mm」、「APO-TELYT-M f3.4/135mm」の3本だ。

 SUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH.は、名レンズと評価の高い、SUPER-ANGULON f3.4/21mmの後継と言われている超広角レンズだ。M型ライカのファインダーは、1980年の「ライカM4-P」以降、デジタルも含めて、ブライトフレームは28mmまで(ファインダー倍率0.85倍のモデルを除く)。それより広角レンズを使う場合は、アクセサリーシューに単体のビューファインダーを装着する。ライカカメラ社からは、現在も「ライカ ビューファインダーM」が発売されている。ライカのビューファインダーはとてもクリアで見やすいが、一眼レフのような正確なフレーミングは難しい。特に視野の下はレンズ鏡筒やレンズフードが被ってしまい、厳密な構図は決めにくい。

SUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH.とビューファインダーを装着したライカM。
SUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH.とレンズフード、ライカEVF 2を装着。

 筆者はM型ライカと21mmというと、ジャンルー・シーフを思い出す。単体ビューファインダーでも実に完成されたフレーミングで撮影されているので驚いた覚えがある。しかも当時はデジタルではなくフィルム。現像しないと構図が正確かどうかわからない。筆者もELMARIT-M f2.8/21mmを所有していて、これまで単体のビューファインダーで厳密な構図を決めるのが難しいのは知っていた。

これまでの超広角レンズは、ピント合わせは本体のレンジファインダーで行う必要があった。
光学ビューファインダー。下にSUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH.のレンズフードが見える。上の点線は最短撮影距離でのパララックス補正。
ライカEVF 2のファインダー内。もちろん視野率100%なので、正確なフレーミングができる。

 しかしライブビューやEVFなら、超広角レンズでも正確なフレーミングが可能だ。また従来は本体のレンジファインダーでピントを合わせ、単体ビューファインダーに覗きかえて構図を決める必要があったが、ライブビューやEVFならそのままピント合わせができる。もちろんビューファインダーのスッキリした視野も魅力的だが、厳密な構図にはライブビューやEVFが有利なのだ。

ライカMで搭載されたライブビュー。ミラーレス機と同じような使い方ができる。特に三脚使用時に有効だ。手持ち撮影では、ライカEVF 2が便利だと感じた。
ライブビューやEVFでボディ前面のフォーカスボタンを押すと、拡大の倍率設定ができる。背面の設定ダイヤルを回すと、1倍、5倍、10倍の選択が可能だ。これは拡大しない1倍。画面中央の枠は10倍。
背面の設定ダイヤルを1クリック右に回すと、5倍の拡大になる。中央の枠は10倍。
さらに設定ダイヤルを右に回すと、最大の10倍になる。シビアなピント合わせに便利だ。
メニューからフォーカスピークをオンにすると、ピントが合った部分が赤くなるピーキングが可能だ。
ピントが合った部分が赤くなっているのがわかるだろう。フォーカスピークにより、迅速なピント合わせができる。
フォーカスエイドがマニュアルだと、拡大するときに必ずフォーカスボタンを押す必要がある。オートにすると、ピントリングを回しただけで、自動で設定した倍率に拡大される。
液晶モニターの輝度は、オートにするとセンサーで自動調整されるが、マニュアルで固定することも可能。グレーチャートを見ながら設定できる。
ライカEVF 2を装着時にも、EVFの輝度調整できる。内容は液晶モニターと同じだが、グレーチャートは表示されない。

 MACRO-ELMAR-M f4/90mmは、現行のライカMレンズで唯一のマクロレンズだ。また現行で唯一の沈胴式レンズでもある。レンズ単体での最短撮影距離は77cm。同じ90mmでも、APO-SUMMICRON-M f2/90mm ASPH.の最短撮影距離は1mなので、レンジファインダー用望遠レンズとしては寄れる方だ。さらに付属のLEICA MACRO-ADAPTER-Mを装着すると、50cmまで近づくことが可能だ。このアダプターは一種の中間リングで、レンジファインダーの距離計やパララックスを補正するためのファインダーアタッチメントが一体化されている。50cmで撮影した際の撮影倍率は1:3だ。

MACRO-ELMAR-M f4/90mmとライカEVF 2を装着。レンズ単体では、通常の90mmとして使える。現行唯一の沈胴式レンズだ。
レンズを沈胴させると、望遠とは思えないほど小さくなる。なおデジタルM型ライカで沈胴させられるのはこのレンズだけ。それ以外の沈胴式レンズは沈められない。
MACRO-ELMAR-M f4/90mmとLEICA MACRO-ADAPTER-M、レンズフード、ライカEVF 2を装着。標準や広角レンズを装着しているときとは異なり、迫力のある姿になる。

 しかし一眼レフやミラーレスで、最短撮影距離が50cmのレンズは珍しくない。いかにレンジファインダーはマクロ撮影が苦手かわかるだろう。さらに望遠ではファインダーのブライトフレームは小さくなり、フレーミングが難しいと共にボケもわからない。

MACRO-ELMAR-M f4/90mmとLEICA MACRO-ADAPTER-M使用時のライカMのファインダー。中央の赤いフレームが90mmだ。ボケがわからず、また画面右下はレンズフードでケラレてしまい、確認できない。
ライカEVF 2のファインダー内。レンジファインダーとは全く異なる。構図が決めやすく、ピントも合わせやすい。またボケの確認もできる。

 だがライブビューやEVFなら、その問題はクリアされる。いわゆるミラーレス機とほぼ同じになるため、正確なフレーミングができて、ボケも確認できる。近接撮影は圧倒的に使いやすい。

 M型ライカの距離計は、通常70cmまで連動する(ライカM3は約1m)。そのためアダプター類を使用しないレンズは、最も寄れても70cmまでだった。しかしライカMの登場により、その必要性はなくなった。いずれアダプターなしで等倍まで寄れるマクロレンズが登場しても不思議ではない。

 APO-TELYT-M f3.4/135mmは、ライカMレンズの中で最も焦点距離が長いレンズだ。もともとレンジファインダーは標準から広角が得意で、望遠は苦手といわれてきた。レンジファインダーはレンズ交換しても一眼レフのように像の大きさが変わることがなく、写る範囲を示すブライトフレームが切り替わるだけだ。望遠では、ブライトフレームが小さくなるため、正確な構図が決めにくい。もちろんボケも確認できない。そのため標準や広角と比べて人気が低かった。さらにデジタルになって、ファインダー倍率が従来の標準だった0.72倍から0.68倍に下がったことで、135mmを使用時には2段以上絞るように、と説明書に記載されている。

APO-TELYT-M f3.4/135mmとライカEVF 2を装着。望遠レンズらしい姿だ。
APO-TELYT-M f3.4/135mmの内蔵レンズフードを引き出した状態。

 だがこうした問題も、ライブビューやEVFなら解消される。構図が決めやすく、またボケも確認できる。しかも絞り開放でもピントがしっかり合わせられる。MACRO-ELMAR-M f4/90mmと同様、レンジファインダーより圧倒的に撮影しやすい。M型ライカで望遠レンズを頻繁に使うのは新鮮な感覚だった。

APO-TELYT-M f3.4/135mmを装着。中央の小さな赤いフレームが135mmだ。レンジファインダーは望遠レンズ向きでないのがわかるだろう。
同じ位置からEVFで見るとご覧の通り。実は背景はこんなにボケていたのだ。ライカMなら望遠撮影がスムーズに行える。

 ライブビューができること、そしてEVFが装着できることで、M型ライカの表現の幅がグンと広がった。ライブビューとEVFだけを見ると、ミラーレス機と変わらないように感じられそうだが、基本はあくまでレンジファインダー。それをサポートする形でライブビューやEVFを活用すると、ライカらしい使い方ができるように思う。

 ただ唯一不満があるのが、拡大表示が中央のみなこと。拡大位置がスクロールできないのだ。三脚に据えて撮影する際、とても不便だ。またマクロ撮影や大口径レンズでは、中央でピントを合わせたあとにカメラを振ってフレーミングすると、コサイン誤差でピントを外す可能性も高い。これはぜひファームアップでできるようにしてほしい。

 とはいえ、ピントリングを回しただけで拡大されるフォーカスエイドや、ピントが合った部分がわかりやすいフォーカスピークなど、よく考えられていると感心してしまう。M型ライカの新たな歴史が始まったことが実感できるだろう。

ライブビュー撮影は三脚使用時に便利だ。その際に有効なのが電子水準器。左右の傾きだけでなく、上下も確認できる。これもライカMで初めて搭載された機能だ。
  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。

・SUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH.の作例

LEICA M (Typ 240) / SUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH. / 約10.6MB / 5,952×3,968 / 1/125秒 / F8 / -1EV / ISO200 / 絞り優先AE / 21mm
LEICA M (Typ 240) / SUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH. / 約9MB / 3,968×5,952 / 1/360秒 / F11 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 21mm
LEICA M (Typ 240) / SUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH. / 約9.1MB / 3,968×5,952 / 1/360秒 / F4 / +0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 21mm
LEICA M (Typ 240) / SUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH. / 約7MB / 5,952×3,968 / 1/30秒 / F8 / 0EV / ISO800 / 絞り優先AE / 21mm
LEICA M (Typ 240) / SUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH. / 約11.7MB / 5,952×3,968 / 1/360秒 / F11 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 21mm
LEICA M (Typ 240) / SUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH. / 約9.3MB / 5,952×3,968 / 1/750秒 / F8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 21mm

・MACRO-ELMAR-M f4/90mmの作例

LEICA M (Typ 240) / MACRO-ELMAR-M f4/90mm / 約7.3MB / 5,952×3,968 / 1/180秒 / F4 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 90mm
LEICA M (Typ 240) / MACRO-ELMAR-M f4/90mm / 約8.5MB / 5,952×3,968 / 1/125秒 / F5.6 / -0.7EV / ISO400 / 絞り優先AE / 90mm
LEICA M (Typ 240) / MACRO-ELMAR-M f4/90mm / 約7.1MB / 5,952×3,968 / 1/90秒 / F5.6 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 90mm
LEICA M (Typ 240) / MACRO-ELMAR-M f4/90mm / 約8.5MB / 5,952×3,968 / 1/45秒 / F4 / +0.7EV / ISO400 / 絞り優先AE / 90mm
LEICA M (Typ 240) / MACRO-ELMAR-M f4/90mm / 約10.8MB / 5,952×3,968 / 3秒 / F16 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 90mm
LEICA M (Typ 240) / MACRO-ELMAR-M f4/90mm / 約7.9MB / 5,952×3,968 / 1/250秒 / F4 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 90mm

・APO-TELYT-M f3.4/135mmの作例

LEICA M (Typ 240) / APO-TELYT-M f3.4/135mm / 約7.7MB / 5,952×3,968 / 1/360秒 / F3.4 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 135mm
LEICA M (Typ 240) / APO-TELYT-M f3.4/135mm / 約10.6MB / 3,968×5,952 / 1/500秒 / F8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 135mm
LEICA M (Typ 240) / APO-TELYT-M f3.4/135mm / 約8.7MB / 3,968×5,952 / 1/3000秒 / F4 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 135mm
LEICA M (Typ 240) / APO-TELYT-M f3.4/135mm / 約10.3MB / 5,952×3,968 / 1/180秒 / F8 / -0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 135mm
LEICA M (Typ 240) / APO-TELYT-M f3.4/135mm / 約5.5MB / 5,952×3,968 / 1/180秒 / F3.4 / -0.7EV / ISO800 / 絞り優先AE / 135mm
LEICA M (Typ 240) / APO-TELYT-M f3.4/135mm / 約9.6MB / 5,952×3,968 / 1/360秒 / F5.6 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 135mm

藤井智弘

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になる。現在はカメラ雑誌での撮影、執筆を中心に、国内や海外の街のスナップを撮影。公益社団法人日本写真家協会会員。