PENTAX K-30【第4回】

~“快速一眼”の動体撮影能力を試す

Reported by 大高隆


 従来ペンタックスの一眼レフカメラは、高速動体撮影に関して他社に比べ見劣りがするものとみなされてきた。しかし、「PENTAX K-30」は改良されたAFモジュールと高速なデータ書き込みを可能にするUHS-I対応カードスロットを搭載し、格段に進歩した高速動体撮影能力を持つとされている。今回はその実力を検証してみよう。

K-30に装着したDA★60-250mm F4 ED [IF] SDM

 今回のテストには「DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM」を使用した。高速なSDM(超音波モーター)AFシステムを持ち、開放からシャープなピントを結ぶこのレンズならば、結果が分かりやすいとの判断からだ。

 露出モードはTAv(シャッター速度&絞り優先オート)で、被写界深度を浅くするため絞りはF4開放、シャッター速度は天候に応じて1/1,000~1/2,000秒にセットした。ドライブモードは連写Hiモードで、ともかく“高速連写”を目指した。

 カメラ機能の設定としては、フォーカスモードはAF-Cで、カスタム設定の「AF-Cの動作」は「コマ速度優先」にセット。測距点選択は「セレクトAF」+「セレクトエリア拡大」を有効にセットした。

 書き込み速度の向上が端的にわかるように、カメラ内のデータ処理にかかる時間は極力短くしたい。そこで、データ処理関係の設定は、ディストーション補正/倍率色収差補正はオフ、ダイナミックレンジ拡大オフ、ハイライト/シャドウ補正もオフ、高感度NRオフでテストを行なった。

 テスト撮影段階でのK-30のファームウェアはVer1.00である。


高速列車を連写で捉える

 まず手始めに、AF-Cの追従性と、UHS-I採用による高速連写能力の向上をチェックするため、通過する列車を撮影してみた。

 記録メディアは、現在UHS-I仕様のSDカードとして最高速のSandisk「Extreme Pro 95MB Edition」を使用して、およそ300m先から疾走してくる成田エクスプレスを連写で捉えた。

 その結果、列車が撮影者の横を通過していくまで60コマ以上を連写してもバッファが溢れることはなく、撮影中に体感できるコマ速度の低下はなかった。AFの精度もなかなかのもので、ほとんどのコマでシャープなピントを結んでいた。その一部を下に作例として掲載する。


※共通設定:PENTAX K-30 / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 4,928×3,264 / 1/2,000秒 / F4 / 0EV / ISO250 / TAv / WB:太陽光 / 250mm / セレクトAF + セレクトエリア拡大


 比較の基準として、非UHS-Iの従来方式SDHCカードの中で最速といわれた30MB/秒のSandisk「Extreme III」でもテストを試みた。その結果、JPEG撮影の場合、概ね40コマ弱まで5コマ/秒ほどのコマ速度で撮影され、その後書き込み待ちのためコマ速度が落ちる挙動が見られた。


RAWでの連写速度はどうか?

 次に、記録形式をJPEGからRAW(DNG)に変更して同じ条件でテストを行なったが、その結果はあまり芳しくなく、Extreme Pro 95MB Editionでも16コマ辺りからコマ速度が落ちて、もたつく感じがあった。

 ファームウェア改善による向上の期待もないではないが、現状のK-30とUHS-Iカードの組み合せでは、RAW記録での動体撮影は無理があるようだ。JPEG撮影においては、UHS-I対応カードスロット採用によるパフォーマンスの向上は確かに感じられた。

Sandisk Extreme Pro 95MB Edition。読み書きとも最大95MB/秒を発揮し、従来のSDカードを大きく引き離す。K-30は今のところペンタックスのデジタル一眼レフカメラの中では唯一、UHS-Iに対応したカードスロットを持ち、高速カードの性能を引き出すことができる。

 カードの読み書き速度向上は、動体連写に限らず多くのメリットをもたらし、例えば、撮影画像の確認などの反応も機敏になる。UHS-Iカードが市場に登場した頃には8GBで2万円ほどしていたが、現在の市場価格では、8GBのExtreme Pro 95MB Editionが3,000~4,000円程度までこなれ、30MB/秒の製品との価格差は1,000円前後になっている。全般的な性能の向上がその程度の価格差で実現できるならば、導入を検討する価値は十分にあるだろう。


AF-Cの「フォーカス優先」と「コマ速度優先」の違い

 テスト結果を検討している際に、AF-C動作が「コマ速度優先」設定だったにもかかわらず、実際のコマ速度が5コマ/秒程度に落ちていたことに気付き、その点について、点検のために訪れたサービスセンターで訊ねてみた。

 その答えによると、「コマ速度優先」設定でも必ずしも最高コマ速度が出ないことがあるのは「仕様」だそうだ。筆者はオンスクリーンガイダンスを読んで、6コマ/秒で撮影されるものと勘違いしていたが、実際には、コマ速度優先の意味するところは「被写体の動きに追従しながらも、極力、多くのシャッターを切る」ということのようだ。

 では、フォーカス優先とコマ速度優先の違いはどこにあるのかと訊いたところ、「カメラシステム全体のアルゴリズムの世界の話になるので、単純な言葉で説明できない」という趣旨の回答を得た。別に秘密にしているわけではなく、誤解を与えない説明は難しいというのが真実なのだろう。

AF-Cの動作マナーはカスタムファンクションで切換える。フォーカス優先とコマ速度優先のいずれかに設定する。

 ユーザーレベルでは、この2つのオプションの違いは、コマ速度優先にセットしたときにはカメラが“多くの写真を残す”ために適した動作を行なう、というように理解すればよさそうだ。対するフォーカス優先にセットした場合は、ペンタックス一眼レフの伝統である“正確なピントが最優先”とされる動作に近づくのだと思われる。その件についても「フォーカス優先にしてもピンぼけ写真がゼロになるわけではありません」との丁重なコメントが付け加えられたことは申し添えておきたい。

コマ速度優先にセットするとAF-Cの連写時に、より多くのコマを撮影することができる。デフォルトのフォーカス優先モードは、コマ速度がやや落ちるものの、より正確な追従に適した動作をする。

セレクトAFとセレクトエリア拡大で飛びモノを捉える

 AFの確実さを最優先するなら中央1点のスポットAFが一番だが、画面中央に主要被写体をおかねばならず、自由な構図をとることが難しい。それを嫌って測距点オート選択にすると、先の作例のような場合に、カーブを曲がってくる列車の先頭ではなく、後部車輛や周辺の構造物、すれ違う列車などにフォーカスが左右されてしまう怖れが大きい。

 そんな時はセレクトAFに切換えれば、あらかじめ想定した構図の中の希望のエリアにスポット測距点を設定することができる。

メニュー項目のAF設定ではAFに関する項目を一覧して設定できる。「測距点切替」を「セレクト」に設定する。撮影中にセレクトAFに切換える場合は、INFOボタンを押してコントロールパネルを開き、そこから設定するのが早い。
セレクトAFでは、待機中のステータススクリーンに選択した測距点が赤く表示される。測距点の変更は十字キーで移動・選択する。スーパーインポーズがONならば、変更はファインダーでも確認でき、直感的に操作できる。

 さらに「セレクトエリア拡大」を有効にすれば、選択した測距点から被写体が外れたり、測距点が被写体の合焦しにくい部分にあたってしまった場合も、近傍のセンサーが被写体を捉えていれば、それ使って追尾し合焦を維持する。先の成田エクスプレスの例でいえば、測距点が車輛の白一色のエリアにあたったとしても、そこであっけなくピントを外してしまうことなく、追尾し続けてくれるわけだ。

メニュー項目からセレクトエリア拡大を有効にする。セレクトエリア拡大が有効になると、主測距点の周りの補助測距点が薄赤色にハイライトされる。明快。

 下の作例はセレクトAFで中央の測距点を選択し、セレクトエリア拡大もONにしてトビとカラスの喧嘩を追ったものだ。


※共通設定:PENTAX K-30 / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 4,928×3,264 / 1/2,000秒 / F4 / -0.3EV / ISO200 / TAv / WB:オート / 250mm / セレクトAF + セレクトエリア拡大


 上の作例の1/2/8/12コマ目辺りは、被写体が中央測距点から外れているのでピントが背景に抜けてしまっても不思議ではない条件だが、近傍の測距点でいずれかの鳥を捉えているため、大きくピントを外すことはない。セレクトエリア拡大はセレクトAFの時だけ有効になりスポットAFでは使えないので、中央の測距点を使う場合も、動体撮影ではセレクトAFで中央測距点を選択する方が有利だ。

 一方でデメリットもあり、セレクトAF使用中は十字キーが測距点選択に割り当てられるため、感度/ストロボモード/WB/ドライブモードの変更など、通常ここに割り当てられている機能が直接操作できなくなる。それらを変更したい時には、OKボタンを長押しすると、十字キーの機能が一時的に通常モードに切り替わり、操作可能になる。

OKボタン長押しで一時的に十字キーの機能が通常に復帰する。もう一度OKボタンを押せば、また測距点移動にもどる。

突然のチャンスに即応する瞬発力を見る

 コンティニュアスAFの追従性とは別に、被写体が突然フレームに入って来た時に素早くAFが作動して合焦する“応答性”とでもいうべき性能についても見てみよう。

 イルカショーのジャンプを捉えた作例では、半押しで被写体を待ち構えていたために、最初は背景の壁近くにピントが来ている。そこにイルカがジャンプしたので追い写しをしながらコンティニュアスAFで撮影した。2コマ目までは背景にピントが逃げているが、3コマ目でイルカを捉え、その後は着水の瞬間までしっかりと追尾している。


※共通設定:PENTAX K-30 / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 4,928×3,264 / 1/2,000秒 / F4 / +1.3EV / ISO6400 / TAv / WB:オート / 118mm


 次の例は、遠くから飛んで来た鳩に気付き、とっさに肩から下げたカメラを構えて抜き打ちで連写したものだ。2コマ目と3コマ目がややピントが悪いものの、速度が変わる被写体にも粘り強く追従しているのがわかるかと思う。


※共通設定:PENTAX K-30 / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 4,928×3,264 / 1/2,000秒 / F4 / 0EV / ISO200 / TAv / WB:オート / 250mm


まとめ

 以上、通り一遍ではあるが、K-30の動体撮影能力を明らかにするためのテストを試みてきた。あえて筆者の主観で述べるならば、少なくともJPEG撮影におけるK-30の高速動体撮影能力については、十分に高い得点を与えられるものと考えている。

 そのことは、何よりも、ほとんど飛びモノなんか撮ったことのない筆者でも、短期間にこれだけの写真をモノにすることができたという事実に、端的に現れているだろう。結論は作例を見た上での読者の方々の判断にお任せしたい。







大高隆
1964年東京生まれ。美大をでた後、メディアアート/サブカル系から、果ては堅い背広のおじさんまで広くカバーする職業写真屋となる。最近は、1000年存続した村の力の源を研究する「千年村」運動に随行写真家として加わり、動画などもこなす。日本生活学会、日本荒れ地学会正会員

2012/11/19 00:00