キヤノンEOS M【第3回】

クリエイティブフィルターで遊んでみたのだ。

Reported by 北村智史


 アート系の作風機能の搭載は、キヤノンでは2010年9月発売のEOS 60Dが初。発売当初は「アートフィルター」だったのが、途中から「クリエイティブフィルター」に改められた。なにしろ、他社の類似機能とまるっきり同じ名前なのだ。結果、ファームウェアアップデートと同時に改名とあいなった。


前回はズームを使ったので、今回は単焦点レンズ(EF-M 22mm F2 STM)で攻めてみた。

 EOS 60Dでは、ラフモノクロ、ソフトフォーカス、トイカメラ風、ジオラマ風の4種類だけだったが(天体撮影用のEOS 60Daも同じ)、2011年3月発売のEOS Kiss X5では魚眼風が増えて5種類になり、2012年6月発売のEOS Kiss X6iにはさらに油彩風と水彩風が追加されている。

 が、ここまではいずれも後処理方式である。撮った画像に対して画像処理を行なう方式なので、撮影時は通常の映像を見ながらやることになる。もちろん、こんな感じに仕上がるんだろうなぁというのを思い浮かべつつ撮るのだけれど、この手のアート系のは仕上がりを予測するのが難しい。だから、「あ、こんなふうに写るんだ」というのを目で確認しながら撮れるほうがありがたいわけだ。

 ほかのメーカーも、多くは効果を見ながら撮れるリアルタイム処理方式だし、後処理の「画像編集メニュー」方式のニコンも、D5100にはリアルタイム処理の「スペシャルエフェクトモード」を装備している。ようは、この部分でもキヤノンはちょっと出遅れちゃってるんである。で、ようやくリアルタイム処理になったのが、このEOS Mという次第である。


「クリエイティブフィルター」を選択しているときの画面。撮影時にも効果がたしかめられるのはキヤノンのレンズ交換式カメラではEOS Mが初である。

 で、EOS Mに搭載されているクリエイティブフィルターはEOS Kiss X6iと同じ7種類。ジオラマ風以外はフィルター効果を3パターン(強弱だったり色調だったりを変えられる)から選べるようになっている。ジオラマ風は測距点の位置に応じてシャープに写る範囲(という、正確にはぼかし処理が適用されないエリア)が移動し、かつ横方向と縦方向を切り替えられる。

 ライブビュー映像はスムーズで、カメラを振っても表示がもたついたりパラパラしたりはしない。通常撮影と変わりはない。このあたりは優秀だ。

 シャッターを切るとブラックアウトして(これは通常撮影でも同じ)一瞬だけ「BUSY」が表示され、それからポストビュー映像が出る。油彩風と水彩風はBUSYが長め、逆にトイカメラ風はBUSYなしである。前に書いた原稿を見てみたら、オリンパスE-620のアートフィルターの待ち時間が、ファンタジックフォーカスで2秒、ラフモノクロームで3秒、トイフォトで8秒だった。新しいE-M5は処理待ちはほとんどないが、EOS Mもそれに負けないくらいの速さを備えている。

 ただ、シャッターが切れたあとのブラックアウトだけはもうちょっとなんとかならないかなって思う。ストップウォッチで計ったところ、手動の誤差と筆者の反射神経の悪さをさっ引いても1秒ほど画面が真っ暗になる。真っ暗になる分、心理的に不安になりやすいのだろう、実際よりも遅いと感じるのではないかという気がする。

 それと、記録画質がJPEGのみ(RAW、RAW+JPEG以外)の状態でないと利用できないのも残念な点。もちろん、この手の機能はRAWには適用されないから、これはまあ普通の対応といえる。けれども、せっかくRAW+JPEGで撮ることもできるんだから、クリエイティブフィルター撮影時もRAWを残せる設定が欲しかった。というのは、フィルターを使って撮って、あとでやっぱり普通のも欲しい、なんてことがあるからだ。


RAWやRAW+JPEGだと「クリエイティブフィルター」はグレーアウトして選択できない。サービス精神がちと不足していると思う。

 まあ、使用説明書には「クリエイティブフィルターを使わない画像も保存したいときは、再生中にクリエイティブフィルターを使ってください」と書かれている。つまり、フィルター効果が反映された画面で撮れる便利さか、通常処理画像の同時記録かの二者択一なのだ。


後処理方式の「クリエイティブフィルター」も搭載されていて、フィルターの重ねがけもできる。このへんは面白いところ。

 が、これが例えばオリンパスなら、RAW+JPEGでもアートフィルターは使えるし、RAWのみにしていた場合は、自動的にRAW+JPEG(ラージ・ファイン)に切り替えてくれる。なので、普通の写真も欲しいときはRAWから現像すればいい。

 そのうえ、付属のOLYMPUS Viewer 2での現像時にアートフィルターを適用できる(撮影時と違うフィルターを使ったり、アートエフェクトを変更したりもできる)。カシオのコンパクトカメラEXILIM EX-ZR1000なんかも、「HDRアート」のときだけだけど、普通処理の画像も同時記録できるようになっている。

 というふうに、つぶしのきく仕様にしてくれているメーカーもあるわけで、だから、キヤノンさんにも、うまく対処してもらえたらなぁ、と願っているのである。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています

通常撮影

ラフモノクロ(コントラスト: 弱め)ラフモノクロ(コントラスト: 標準)ラフモノクロ(コントラスト: 強め)
ソフトフォーカス(ぼかし具合: 弱め)ソフトフォーカス(ぼかし具合: 標準)ソフトフォーカス(ぼかし具合: 強め)
魚眼風(効果: 弱め)魚眼風(効果: 標準)魚眼風(効果: 強め)
油彩風(効果: 弱め)油彩風(効果: 標準)油彩風(効果: 強め)
水彩風(効果: 淡い)水彩風(効果: 標準)水彩風(効果: 濃い)
トイカメラ風(色調: 寒色)トイカメラ風(色調: 標準)トイカメラ風(色調: 暖色)
ジオラマ風

※以上、レンズはEF-M 22mm F2 STMを使用



パッと見は素粒子っぽいけれど、エッジのある粒子じゃないし、解像感もしっかりあって、これはこれで楽しめる。EOS M / EF-M 22mm F2 STM / 5,184×3,456 / ラフモノクロ(コントラスト: 標準) / 1/160秒 / F2.8 / 0.3EV / ISO100 / WB: オートコントラストは3段階に変えられる。硬めにすると白トビしやすいので、リアルタイム処理のほうが露出を決めやすくて便利。EOS M / EF-M 22mm F2 STM / 5,184×3,456 / ラフモノクロ (コントラスト: 標準) / 1/100秒 / F2.8 / -1EV / ISO100 / WB: オート
サムネイルで見ると効果がわかりづらいから見落としそうだが、大きくするとしっかりソフトフォーカスって感じである。EOS M / EF-M 22mm F2 STM / 5,184×3,456 / ソフトフォーカス(ぼかし具合: 標準) / 1/1,600秒 / F2.8 / -1EV / ISO100 / WB: オートピントの芯はちゃんとあって、けれど、ふわっと柔らかい。けっこういいソフト加減だと思う。EOS M / EF-M 22mm F2 STM / 5,184×3,456 / ソフトフォーカス(ぼかし具合: 標準) / 1/2,000秒 / F2.8 / -1EV / ISO100 / WB: オート
魚眼風は被写体選びが難しい。魚眼風ってだけで、画角は狭いし、背景もきっちりボケるし。EOS M / EF-M 22mm F2 STM / 5,184×3,456 / 魚眼風(効果: 強め) / 1/125秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / WB: オート魚眼風は、画像処理で中心部を引き延ばしているので、その分解像が悪くなってしまうのが難点。EOS M / EF-M 22mm F2 STM / 5,184×3,456 / 魚眼風(効果: 標準) / 1/1250秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / WB: オート
個人的にはこの油彩風はかなりお気に入り。ポップアート系のフィルターとはちょっとクセが違っていて、色の乗り方に厚みがある感じが面白い。EOS M / EF-M 22mm F2 STM / 5,184×3,456 / 油彩風(効果: 強め) / 1/80秒 / F3.5 / -1EV / ISO100 / WB: オートリバーサルフィルムのベルビアの発色を、もっと極端に誇張するとこんな感じになるのかもしれない。EOS M / EF-M 22mm F2 STM / 5,184×3,456 / 油彩風(効果: 強め) / 1/25秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO100 / WB: オート
見慣れないものを水彩風で撮ると、ものすごく得体の知れない画になりやすい。一応、これも植物なんですけどね。EOS M / EF-M 22mm F2 STM / 5,184×3,456 / 水彩風(効果: 淡い) / 1/160秒 / F2.2 / 0EV / ISO400 / WB: オート効果だけでなく、露出を変えることでも大きく色味が変わってくる。なので、大幅に露出をばらして撮っておくのがよさそう。EOS M / EF-M 22mm F2 STM / 5,184×3,456 / 水彩風(効果: 濃い) / 1/60秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / WB: オート
四隅の落ち具合が控えめな感じ。標準の色調だと、シャドー部だけグリーン系に偏る印象。EOS M / EF-M 22mm F2 STM / 5,184×3,456 / トイカメラ風(色調: 標準) / 1/250秒 / F4 / -0.7EV / ISO400 / WB: オート標準、寒色、暖色と、色調を変えるだけでずいぶん雰囲気が違って写る。そのあたりが楽しいところでもある。EOS M / EF-M 22mm F2 STM / 5,184×3,456 / トイカメラ風(色調: 寒色) / 1/500秒 / F2.2 / -1.3EV / ISO400 / WB: オート
オリンパスのジオラマはかなり処理が重くてパラパラ感がすごかったが、EOS Mのはスムーズに表示してくれる。EOS M / EF-M 22mm F2 STM / 5,184×3,456 / ジオラマ風 / 1/800秒 / F3.2 / -0.7EV / ISO100 / WB: オートこれはわざと縦方向にピントを残してみたカット。EOS M / EF-M 22mm F2 STM / 5,184×3,456 / ジオラマ風 / 1/640秒 / F3.2 / 0.3EV / ISO100 / WB: オート





北村智史
北村智史(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。2011年、東京の夏の暑さに負けて涼しい地方に移住。地味に再開したブログはこちら

2012/11/2 12:07