カメラマンのためのNAS入門
NASを使った“快適写真保存術”|第3回:動画活用編
パソコンやスマホでNASの動画を再生 上級NASへの移行も実践
2016年12月26日 08:00
前回の連載第2回目では主に写真(静止画)の管理をテーマにパソコンとNASの連携や「Photo Station」という便利なパッケージを使った写真管理方法、さらにはアルバムの共有やスマートフォンからの外部アクセス、データをより安全に保管するためのクラウドストレージとの連携について紹介しました。
NASを使った“快適写真保存術”
第1回:基礎編 NASの基本から機種選択、写真の保存までを解説
第2回:共有・ライブラリ構築・外部アクセス編 外付けHDDとは違う機能性の高さを確認
第3回:動画活用編 パソコンやスマホでNASの動画を再生 上級NASへの移行も実践
第4回:Lightroom活用編 2ベイから4ベイへ移行、より本格的な運用も視野に
写真については「かなり高度な管理ができるのね」ということがおわかり頂けたかと思います。そこで今回はさらに高度な管理術が必要な動画に焦点を合わせてみたいと思います。
最近のデジカメはフルHDの高精細な動画をあたりまえに撮影できますし、機種によっては4K動画を撮影することもできます。これらの動画はかつては考えられないほど高画質な反面、データサイズが大きすぎて再生するのが大変という問題もあります。
NASにとっても動画を管理するにはそれなりのパワーが必要です。今回はいままで使用してきた世界的ベストセラーのDS216jと、そのDS216jに対して動画管理機能を強化したDS216playとの比較や、DS216jからDS216playへのデータ移行(マイグレーション)の方法、そして、スマートフォンやタブレットを使って外出先から動画鑑賞する方法について紹介していきます。
DS216jとDS216playの比較
第1回の中でも簡単に紹介したDS216jとDS216playですが、両者の最も大きな違いは動画のハードウェアコード変換エンジンを搭載するかどうかと言う点です。動画のハードウェアコード変換に対応していれば、重い元動画を最適な品質に変換して様々な端末で楽しむことができます。
また、D216Playは圧縮率に優れた最新のH.265に対応しており4K動画のストリーミング再生もラクラクです。普段から動画をよく撮影するという方は動画機能に着目してNAS選びをするのも良いでしょう。
搭載するCPUもデュアルコア1.5GHz(DS216jはデュアルコア1.0GHz)と大きくパワーアップしています。そのため、複数の端末からの同時アクセスにも強くなり、前回紹介したPhoto Stationに写真や動画をアップした際のバックグラウンドでのサムネイル作成も高速化しています。
例えばPhoto Stationに直接カメラで撮影したフルHD動画(40秒、202MB)の動画をアップししたところ、バックグラウンドで変換処理が生じ、DS216jではたった40秒の動画でも約3分20秒ほどNAS側のCPU使用率が80〜90%に高止まりしてしまいました。DS216playでは同じ動画の変換が2分40秒ほどで終わり、CPU使用率も70〜80%と若干低い状態となりました。CPUのパワーの違いがハッキリ出たようです。
ただしPhoto Stationへ動画をアップロードする場合は前回紹介したPhoto Station Uploaderを使えばPC側で変換処理をしてくれるため、こちらの使用を強くおすすめします。動画の場合はアップロード時に変換後の画質も選択できます(オリジナルもアップロードされる)。
DS216jからDS216playへの移行
それでは実際にDS216JからDS216playに移行(マイグレーション)してみましょう。やり方は至って簡単。DS216jに使っていたHDDを外して、DS216playに差し替えるだけです!。
これだけで内部のデータは完全に移行できます。ただし、パッケージや一部のシステム設定はこれだけで移行できないため、完全な移行をしたい場合は別途バックアップを作成しておく必要があります。詳しくはSynologyの公式ヘルプ(Synology NAS(DSM 5.0 以降)間で移行する方法)を参照ください。
まずはDS216jの筐体を開け、HDDを取り出してDS216playに差し替えます。内部構造はほぼ同じなので迷うこともありません。ドライブの取り付け順序が逆にならないようにだけ注意します。
HDDの移し替えが済んだらLANケーブルを挿して電源投入。1〜2分ほど待ち、最初と同じくブラウザで「find.synology.com」にアクセスして画面の案内に従いマイグレーション処理をしていきます。初回設定とほぼ同じ流れで特に難しい操作はありません。
マイグレーション処理が済んだら以前と同じIDとパスワードでログイン可能。サーバー名なども同じ状態です。
以前使用していたデータももちろんそのまま移行されてすぐに使える状態です。
ただし、注意したいのが「Photo Station」や「Cloud Sync」といったパッケージはマイグレーションすると一旦削除されてしまいますので、別途パッケージセンターから追加でインストール(修復)する必要があります。
Photo Stationをインストールし直したところ、アルバムなどのデータはきちんと引き継がれていることがわかりました。また、マイグレーションではQuickConnectも解除された状態ですので、DSMデスクトップの「コントロールパネル」→「QuickConnect」から有効化させておきましょう。
このとき、「設定したQuickConnect IDは現在別のDiskStationが使用しています。…」といったメッセージが出ますが、旧機種からのマイグレーションであれば「はい」を選択しておいて問題ありません。これでインターネット経由からも以前と同じくNASにアクセスすることができます。
撮影した動画やPC内の動画をNASに保存する
無事マイグレーションが終わったところでDS216play最大の特徴である動画機能を見てみましょう。
SynologyのNASではどんな機種でも動画の保存やオンライン再生は可能です。ブラウザが対応した動画形式ならFile Station上で動画ファイルをダブルクリックするだけで動画の再生が可能です。
しかし、デジタルカメラで撮影した動画のビットレートは30〜60Mbpsと非常に重いためオリジナルをそのままブラウザやスマートフォンで再生しようとすると途中で再生が止まってしまう可能性があります。この場合ビットレートを低めに変換して再生すればよいのですが、動画の変換はCPUパワーを大きく使うためDS216jのようなCPUでは難しいのです。
ところがDS216playであればハードウェアコード変換エンジンを搭載するためCPUにそれほど負担を掛けることなくフルHDだけでなく4K動画ですらリアルタイムに最適画質に変換しながらストリーミング再生することが可能です。
カメラで撮りっぱなしの高画質なデータをパソコンだけでなく、スマートフォン、タブレット、テレビなどからいつでも楽しむことができます。
Video Stationで動画を管理する
様々な機器で動画を再生するのであれば「Video Station」というパッケージを使うのがおすすめです。初回セットアップでスキップしていなければ自動でインストールされているはずです。
ちょうど「Photo Station」の動画版のような機能で、動画専用のライブラリを作成して管理したり、他のユーザーと共有したりできます。
カメラで撮影した動画をVideo Stationに登録するにはちょっとした下準備が必要です。はじめて使う場合は少し戸惑うかもしれませんが、これから紹介する手順に従えば大丈夫です。
まずはじめに「ライブラリ」という動画を管理するグループを作成します。デフォルトで「ムービー」「TV番組」「ホームビデオ」という3つのライブラリが用意されているのでそれを使っても良いですが、最初から自分用に新規のライブラリを作ってしまった方が何かと便利です。
ライブラリを作るにはVideo Stationの画面左上の「+」ボタンをクリック。ここでライブラリの名前と属性を決めます。
最大のポイントはビデオタイプを「その他」にすること。ムービーやTV番組を選んでしまうと動画をアップロードしたときに動画のサムネイルが表示されなくなってしまいます。日本人的感覚だと「ムービー」でも良さそうですが、これは「映画」を想定した設定なのでカメラで普通に撮影した動画には向かないので注意しましょう。
許可タイプは好きなものでOKです。「公開」ではこのNASにアクセス可能なすべての人が見ることができます(インターネットに公開されるわけではありません)。「プライベート」に設定すれば公開範囲を限定することが可能です。
今回は「子供」ライブラリを作ってみました。画面左側に「子供」ライブラリが表示されました。
次に、「子供」ライブラリとDS216playのフォルダを紐付けします。「子供」ライブラリの右に表示される「+」をクリック。「フォルダ」欄に紐付けたいフォルダを指定します。
すでに動画が保存されているフォルダを指定しても良いですし、新規に専用フォルダを作成しても良いでしょう。今回はデフォルトで用意されている「video」フォルダの下に「My_Children」というフォルダを作成してみました。1つのライブラリには複数のフォルダを紐付けることもできます(他で紐付いているフォルダは使えない)。
これでVideo Stationを使う準備ができました! ジャンルごとに「旅行」や「自然」など自分の好きなライブラリを作成しておくと良いでしょう。デフォルトで用意されているライブラリを非表示にしたい場合は画面左上の「…」をクリックすると整理することができます。
下準備さえ完了してしまえばあとはDSMのFile Stationから紐付けたフォルダにどんどん動画をアップロードするだけで自動的にライブラリに登録されてゆきます。DSMでは動画のサムネイルは表示されませんが、Video Stationにはきちんとサムネイルまで表示されています。
パソコンやスマホで動画を再生
動画をアップロードしてしまえば後は簡単です。サムネイルをクリックして再生をするだけ。ブラウザ上で自動的に動画の再生が可能です。
ブラウザで動画を再生する場合はオリジナル画質がデフォルト設定ですが、回線状況によっては重すぎる場合があるので、右下の歯車アイコンから画質を指定して再生もできます。この画質の指定がDS216jにはないDS216playの大きな特徴。ハードウェアコード変換エンジンによりCPUに負担を掛けずにリアルタイムで変換を行いながら再生できます。
また、オリジナル画質だとブラウザによっては相性が悪く再生が途中で止まってしまうような場合でも画質を変えると再生できることがあります。私もChromeでは再生が途中で止まってしまうのにFirefoxでは最後まで再生できたという現象に何度か遭遇しましたが、画質をオリジナルから「高」にするとどちらも最後まで再生できました。
さらにブラウザでは対応していない形式のビデオも変換すれば再生できるといったメリットもあるでしょう。ここからPhoto Stationと同じように動画をURLで共有することも可能です。
スマートフォンやタブレットで動画を再生するのであれば専用アプリの「DS video」を使うのがおすすめです。
アプリを使うにはApp StoreまたはGoogle Playから「DS video」をインストール。あとは画面に従って登録するだけで第2回で紹介したDS photoと同じようにどこにいてもインターネット経由でVideo Stationのすべての動画にアクセス可能です(QuickConnectの設定が必要)。
ここでもスマホやタブレットに最適な画質にリアルタイム変換されて快適に動画を視聴可能です。カメラで撮影したフルHD動画はもちろん、4K動画ですらリアルタイムに変換を行いストリーミング再生することができます。ただし、4Kの場合今回試した中ではソニーα7R IIで撮影したXAVC S 4K(30p、60Mbps)の再生ができずフォーマットとの相性問題が生じる場合もあるので注意。
デフォルトでは視聴画質は自動で設定されていますが、再生が途中で止まってしまうような場合は画質を「高」か「標準」にすると良いでしょう。
注意したいのがDS216playに繋がっているインターネット回線の速度。夜間など回線が非常に混み合う時間帯ではNASからスマホ、タブレットへ動画を転送する際、回線のアップロード速度がボトルネックになってしまうことがあるのです。
自宅の回線のアップロード速度が数Mbpsしか出ないときは高画質で視聴することが難しい場合があるので注意。これはDS216playの問題ではなく回線の問題です。もちろん、動画の受け手のダウンロード速度も十分である必要があります。
もし回線の速度がストリーミングするのに十分でないときは動画をダウンロードして視聴することも可能です。この場合でも巨大な元ファイルでなくある程度圧縮された動画をダウンロード可能です。
動画をダウンロード用に圧縮するには「オフラインコード変換」機能を使います。DS videoから当該動画選択画面右上の「…」アイコンから「ダウンロード」を選択。ここでダウンロード画質を選ぶわけですが、元動画以外を選ぶと一旦DS216play側でオフラインコード変換処理がなされます。
進行状況はメニューの「ダウンロードしたビデオ」の「トランスコーディング」から確認可能。変換が終了したら再度ダウンロードすることでオフライン視聴も可能になります。
いちいちオフラインコード変換するのが面倒な場合はVideo Station側であらかじめオフラインコード変換してダウンロード用のデータを用意しておくこともできるので覚えておくと良いでしょう。
画質「高」でも10Mbps程度に圧縮されるためデジカメで撮りっぱなしの元動画よりも大幅に軽いデータをダウンロードできます。もちろん、回線環境が十分な場合はDS216playの得意とするストリーミング再生をするのが最も手軽です。
まとめ
以上、DS216jからDS216playへの移行(マイグレーション)の方法とカメラで撮影した動画の管理の方法について重点的に紹介してみました。
マイグレーションは同じメーカーの機器だけあって非常に簡単に行えますので始めはエントリーモデルから入って、NASの扱いに慣れてきた頃にステップアップするという使い方も十分可能です。
また、動画の管理についても導入部分を中心とした紹介ではありましたがそれでも今まで外付けHDDを使っていた読者にとっては十分すぎる機能であることがおわかり頂けたかと思います。
さらに応用すればChrome CastやFire TV StickといったDLNAに対応した機器等を通じてNAS内の動画をテレビで視聴するなど高機能なメディアサーバーとしての機能を持たせることも可能です。
普段は写真がメインで動画はほとんど撮影しないという方も多いかとは思いますが、ここ数年でカメラ側、ストレージ側が一気に動画に強くなってきていますのでNASの導入を機会に動画にチャレンジしてみるのも良いでしょう。
最終回となる次回は2ベイのDS216playから4ベイNASへのマイグレーションをご紹介しつつ、カメラマンの間ではデファクトスタンダードになりつつあるAdobe Lightroomの活用方法についてご紹介していこうと思います。
制作協力:Synology.Inc