カメラマンのためのNAS入門

NASを使った“快適写真保存術”|第1回:基礎編

NASの基本から機種選択、写真の保存までを解説

カメラマンにとって撮影した写真の保存、管理は悩ましい問題の1つです。特に最近では高解像度のカメラも増え、4K動画すら簡単に撮影できる環境が整いつつあるため気付けば年間テラバイト(TB)クラスの写真を撮っているという読者も多いでしょう。

これまで、大量に撮影した写真の保管先はUSB接続の外付けHDDにするというのがお決まりのパターンだったわけですが、年間テラバイトクラスで写真を撮ってしまうと外付けHDDが1台、2台……と増え管理が煩雑になってしまいます。また、USB接続のHDDでは他の端末からはイチイチ繋ぎ直さないと中の写真を見ることすらできないという問題もあります。特にタブレットやスマートフォンは接続端子の形式も異なり、直接HDDの中身を見るのは非常に困難でした。通常のHDDでは何か異常が発生するとデータを一瞬ですべて失ってしまうというリスクもつきものです。

そんなカメラマンを悩ませる上記のような問題をすべて解決してしまうのがNASというネットワークHDDです。NASを使えば複数のHDDを1つにまとめられ、複数の端末からHDDにアクセス可能、HDDに問題が起きた場合にもデータの保全が可能と言った多くのメリットがあります。そこで今回ははじめてNASを使う人にも分かりやすいようNASの基礎知識から設定、使いこなしまでを4回の連載でお届けしていきます。

NASってなに?

ますはNASについて説明していきましょう。NASとは「Network Attached Storage」の略称で、「ネットワーク(LAN)に繋がったHDD」とイメージするのが良いでしょう。

外付けHDDはUSBでパソコンと1対1の関係で接続するのに対し、NASではLANを使って複数の端末から接続できるというのが最も大きな違いです。

NASを使用すれば自宅やオフィスに1台置いておくだけで家族やメンバーがいつでも同じデータにアクセスが可能ですし、1人でデスクトップ、ノートPC、タブレットと複数の端末を使っている場合にも大きなメリットがあります。

設定次第ではインターネット経由で世界中から許可したメンバーのみがアクセスできるようにすることも可能です。旅行先、出張先でもネット環境さえあれば自宅のHDDにアクセスできるのです。

NASはパソコンに繋がなくても動作するため、NASそのものが1つのパソコンのように振る舞います。HDDをネットワークを介して繋げるというより、HDD管理に特化したミニパソコンにパソコンやタブレットを接続するというイメージをもっていると分かりやすいかと思います。

下の写真がエントリークラスともいえるNAS、SynologyのDS216jです。外付けHDDに似た外観ですが、中には高性能なCPUやシステムメモリが搭載されています。

安全性の高いデータ保管が可能

NASのもう一つの大きなメリットが、複数のHDDを束ねてデータの安全性を飛躍的に高めて運用できるという点です。

通常の外付けHDDではHDDに何らかの障害が起きると貴重なデータが一瞬でゼロになる可能性があるという大きな問題がありますが、HDDを複数搭載できるNASではRAID(レイド)という技術を使ってデータの安全性を高めることが可能です。

例えば、2台のHDDに同じ内容を書き込む設定にしておき、1台が故障してもデータが保全される仕組みとしたり、4台のHDDを束ねて、そのうち1台までなら故障してもOKというような高度な使い方もできます。

RAIDという技術自体はそれほど新しいものではありませんが、設定が専門的で初心者が安易に手を出すのは難しいものでした。しかし、近年では初心者でも安全にRAIDを使えるNASや専用ストレージが入手しやすくなっており、導入のハードルが下がってきています。

RAIDとは

RAIDには様々なモードがあり、RAID0, RAID1, RAID5……というように末尾の数字で区分されます。そのうち、一般的に使われる代表的なものがRAID1とRAID5です。

RAID1
ミラーリングとも呼ばれ、2台のHDDに同じデータを書き込むことによりデータの安全性を高めます。使える容量は1台分になってしまいますが、片方が故障してもすぐにもう一台で復帰できるもっとも安全性の高いモードです。外付けHDDをお使いの方で手動でバックアップを取りながら運用している方もいると思いますが、RAID1を使えばリアルタイムに自動で完全なバックアップとりながらHDDを運用できます。

RAID5
容量の効率化と安全性の両立を図ったモードで、HDD3台以上の構成から設定可能です。複数台のHDDを1つに束ねて、そのうち1台分のバックアップ用データ(パリティ)をそれぞれのHDDが分担して保持する仕組みです。つまり、RAID5構成なら束ねたHDDのうち1台が故障してもデータは保たれます。使える容量もRAID1は半分だけでしたがRAID5ならHDDの台数が増えるほど増え、例えば4台のHDDなら全容量の75%を使うことが可能です。

また、既存RAIDの利便性をより高めた独自のRAIDを持っているメーカーも存在します。例えばSynology社が提供するSHR(Synology Hybrid RAID)などです。RAIDは通常同じ容量のHDDを複数使うことが原則ですが、SHRなら容量の異なるHDDを使っても最適な効率となるようRAIDを自動で組んでくれる優れた機能です。

RAIDが初めての場合、使える容量はいったいいくつになるのか計算が難しい場合もありますのでSynology社が提供するRAID計算機を使ってみるとイメージしやすいかと思います。

RAID 計算機 - サポート | Synology Inc.
https://www.synology.com/ja-jp/support/RAID_calculator

NAS選びの基礎

NASは複数のメーカーから様々な機種が販売されていますが、価格比較サイトや大手通販サイトのNASランキングで1位を獲得しているのNASはSynology社のDS216jという機種です。扱いやすいシンプルなHDD2台構成で非常に高機能であるにも関わらずコストパフォーマンスにも優れるため日本だけでなくUSやドイツ、イギリスなど欧米のAMAZON NASランキングでもトップに立つ世界的なベストセラーです。

Synology(シノロジー)というブランドははじめて聞いた方もいるかもしれませんが、台湾のNAS専業メーカーで前述したとおり欧州、北米などでもトップレベルのシェアを持つグローバル企業です。

NAS専業メーカーということもありSynology社はホームユースからビジネスユースまで数十種類のNASをラインナップしていますが、今回はその中でもカメラマンにおすすめできるDS216j、DS216play、DS416play、DS916+の4機種を比較しながら紹介してみます。

ずらり並んだSynologyのNAS。左からDS216j、DS216play、DS416play、DS916+。
機種名HDD搭載数CPUシステムメモリリードライト動画エンコーダ
DS216j2デュアルコア1.0GHz512MB112.5MB/秒以上107.43MB/秒以上-
DS216play2デュアルコア1.5GHz1GB107.0MB/秒以上91.0MB/秒以上
DS416play4デュアルコア1.6〜2.48GHz1GB224.0MB/秒以上142.0MB/秒以上
DS916+4デュアルコア1.6〜2.48GHz2GBまたは8GB225.0MB/秒以上209.0MB/秒以上

主な特徴を簡単に説明すると、DS216jとDS216playは2ベイモデルで、2台のHDDを使うことができます。DS416playとDS916+は大容量化可能な4ベイモデル。2ベイのDS216jとDS216playの最も大きな違いは動画機能で、DS216playは動画をリアルタイムでハードウェアエンコードする機能が付いています。例えば、NASの中に4K動画を保存した状態でスマートフォンからアクセスする場合、スマートフォンに最適な動画サイズに変換しながらストリーミング再生することができます。また、CPUもよりパワフルなデュアルコア1.5GHzのものを採用(DS216jはデュアルコア1.0GHz)。

DS416playとDS916+は共に4ベイモデルで動画のエンコード機能がついていますが、DS916+に搭載されるCPUはクアッドコア1.6GHz、メモリーも2GB搭載(8GB版も選択可能)でより多数の作業を同時にこなすことが可能です。さらに最大9ベイまで機能拡張が可能なハイエンドモデルとなります。

いずれのモデルもデュアルコア以上のCPUを搭載しており、個人ユースならエントリー向けのDS216jでも十分な性能です。

イメージとしてはEOS Kiss 8i、EOS 7D Mark II、EOS-1D X Mark IIといったカメラのグレードを比べるのと似ています。普通の環境であればどれも十分満足いく画質が得られますが、連写機能やセンサーのサイズが異なるといった違いがあるように、NASでも動画機能が必要かどうかや自分の所有するデータの容量、同時にアクセスする機器や人数に応じて自分に合ったものを選びたいところです。

また、カメラもレベルに応じて初級機から中級機へとステップアップできるように、SynologyのNASもデータはそのままに簡単にステップアップが可能です。例えば2ベイのDS216jを使用して4ベイが欲しくなったらDS416playを購入し、DS216jで使用していたHDDをDS416playに挿せばそのままデータの移行が手軽にできるという便利な使い方ができます。

この機能はマイグレーションといい使い方についてはこの連載の後半で詳しく紹介予定です。

HDDの取り付け

では早速、冒頭でも紹介したベストセラーとなっているDS216jを使って導入の手順を紹介してみましょう。

NASというと黒くて重厚なイメージの製品が多いですが、このDS216jはホワイトでリビングに置いても違和感のないデザイン。本体をスライドさせてHDDを取り付けます。

取り付けは至って簡単。市販の3.5インチ外付けHDDをそのまま差し込んで付属のネジで固定するだけ。あとはカバーを閉めれば準備完了。2〜3分もあれば終わる作業です。2ベイモデルでは2台のHDDは同じ容量のHDDとしてください。

HDDとの接点にはすべて防振ゴムが使われており騒音にも配慮された設計です。

NAS OSのインストール

HDDの準備ができたら、今度はパソコンとのセットアップです。DS216jとルーターなどを付属のLANケーブルでルーターかハブに繋ぎます。通常はインターネットに繋がっている無線LANルーターのLANポートと繋げればOKです。

ルーターと繋げたらパソコンのブラウザでアドレスバーに「find.synology.com」と打ち込みます。すると、DS216jと接続されクイックセットアップが始まります。NASの電源投入直後は起動が完了していな事があるので、うまく繋がらない場合は1〜2分まってから再アクセスすると良いでしょう。

接続できれば、あとは画面の指示に従いながら数クリックすればセットアップ完了と非常に簡単。まず最初にDiskStation Manager(DSM)というSynologyのNAS専用OSをDS216jにインストール。10〜15分ほどど待っているだけでOKです。

DSMのインストールが終わったら管理者アカウントを作成します。管理者アカウントは今後DS216jに接続するときに必ず必要なものですので忘れないようにし、パスワードも強度の高いものに設定しておきましょう。

管理者アカウントの設定が済めば基本設定は終了です。

NASの初期設定

クイックセットアップに従う形でそのまま各種設定まで行います。

まずはDS216jのOSであるDSMのアップデート設定。NASはネットワークに繋がる性質上、セキュリティは万全にしておかねばなりません。常に最新のDSMを使えるよう自動アップデートされる設定にしておくのがおすすめです。

続いてQuickConnectの設定。これはDS216jを外出先からインターネット経由でも使えるようにする設定です。通常、NASをインターネット経由で使うにはDDNSの設定やポート開放といったネットワーク初心者にとってハードルの高い作業を行う必要があるのですが、QuickConnectを使うとな面倒な作業を一切せずにインターネット経由でいつでも自宅のNASに接続できるという便利機能です。

やることは簡単で、まずはじめにSynologyアカウント用情報を入力してQuickConnect IDを設定。すでにSynologyアカウントを取得済みの場合はそれを使うことができます。前述の管理者アカウントとは別な点に注意しましょう。

QuickConnect IDは任意の好きなIDを入力します。例えば「nas01-testuser」というIDを設定したら「http://quickconnect.to/nas01-testuser」というアドレスでインターネットからアクセスが可能です。このときログインに必要なのははじめに設定した管理者アカウントです。インターネット経由での接続を希望しなければスキップすることも可能。

続いて行うのが各種パッケージのインストール。SynologyのNASには基本ソフトのDSMに様々な便利なアプリをインストールして使えます。このアプリをSynologyでは「パッケージ」と呼び後からDSMに用意されているパッケージセンターで好きなものをインストールすることも可能です。初めに出てくるのは推奨の7つのパッケージでそのままインストールしてしまいましょう。

これですべてのセットアップは終了です。ブラウザの中にこのようなパソコンのデスクトップが表示されます。

冒頭でも説明したとおり、NASはHDD管理に特化したミニPCですので、ブラウザ経由で管理画面にアクセス、設定します。特にSynologyはわかりやすくNASに関するすべての操作は、パソコンのデスクトップのようなこの画面から行えます。

ちなみに今回紹介したクイックセットアップに従って作業を行うと作成されるRAIDの形式はSynology独自のSHRになります。2ベイでSHRを使うとRAID1と同じくミラーリングとなるため3TBのHDD 2台を使った今回のセットアップでは使える容量は3TB分で、2台のHDDに同一のデータが書き込まれます。もし他のRAID形式を選びたければDSMから変更することも可能です。

気になるデータの転送速度は私の環境ではリード、ライトともに100MB/sを超えておりLANの規格(1,000Mbps = 125MB/s)上限ギリギリまでスピードが出ていることが分かり十分です。

データの転送速度を重視するなら有線LAN接続が有利です。この場合ルーターがギガビット・イーサネット(GbE、1000BASE-T)に対応していることが重要。安価な普及価格帯のルーターでは100Mbps(12.5MB/s)までしか対応していない場合があり、この場合はギガビットに対応したDS216jのスピードを十分活かせないので注意しましょう。

無線LAN接続の場合も無線LANルーターおよび子機が高速な規格(IEEE802.11acなど)に対応していればリード、ライトともに60〜70MB/sほど速度が出ることを確認しています(ルーター:TP-Link Archer C3150、子機:Archer T9E)。少なくとも今回紹介するSynologyのNASに関しては転送速度のボトルネックはNASではなくHDDといったストレージやルータ側にあることが大半ですので、NAS環境導入の際は無線LAN親機の性能も確認しておきましょう。

写真のデータをNASに保存

それでは実際に写真を保存してみましょう。ここでは最も基本的な使用方法のみ紹介します。より発展的なデータの保存方法や活用方法は次回の記事にまとめる予定です。

DSMのデスクトップを見てみると「パッケージセンター」「コントロールパネル」「File Station」「DSMヘルプ」の4つのアイコンが並んでいますが、データの保存や管理を行うのは「File Station」です。ちょうどWindowsのエクスプローラーやMacのFinderと同じような機能だと思っておいて良いでしょう。

クイックセットアップに従ってインストールした場合、File Stationの中には「home」「photo」「video」などいくつかのフォルダーが並んでいます。今回は「photo」に写真を入れてみましょう。

保存の仕方は簡単で、ブラウザ上の「photo」フォルダに写真をドラッグ&ドロップするだけ。普通のPC上の操作と同じです。画面左上の「アップロード」と書いてあるドロップボックスからアップロードすることも可能です。
※ドラッグ&ドロップを使う場合は古いブラウザでは動かない場合があるので注意。

ファイルをアップロードや移動した場合、「上書き」と「スキップ」というワードが時折出てきますが、これはアップロード(移動)先に同じ名前のファイルがあったときにそのまま上書きするか、スキップするかを選択することです。

フォルダーを新しく作る場合はいつもと同じように右クリック「フォルダの作成」を行えばOK。この辺の操作は普通のパソコンと同じです。写真のサムネイルを表示したい場合は右上のドロップボックスから表示形式を選択できますし、ソートや検索も可能です。

まずは直感的にファイルをNASにアップロードできることがおわかり頂けたでしょうか。ここにアップロードしたデータにはアクセス権をもった人であればネットワーク上から自由にアクセスすることが可能になります。

以上、1回目の今回はNASとは何? ということから、DS216jのセットアップから基本的なデータの保存方法までを紹介しました。

次回はエクスプローラーやFinderにマウントして普通のHDDと同じように使う方法やより発展的な写真の管理などを中心にお伝えしていこうと思います。

制作協力:Synology.Inc

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワーク ショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主催