インタビュー

「PENTAX Q7」はセンサーの大型化でどう進化したのか?

画像処理も一新し解像感が向上

 ペンタックスリコーイメージングが7月5日に発売したミラーレスカメラ「PENTAX Q7」は、従来モデルからセンサーを大型化したことで注目されている。今回は、センサーサイズにまつわるカメラの進化点ついて、同社開発陣にお話を伺った(本文中敬称略)。

お話を伺ったメンバー。ペンタックスリコーイメージング マーケティング統括部 商品戦略部 商品企画1グループ マネージャーの若代滋氏(前列右、レンズ交換式カメラ全般の商品企画を担当)、同マーケティング統括部 商品戦略部 商品企画1グループの荒井孝氏(後列右、QシリーズとKシリーズの商品企画を担当)、同開発統括部 第2開発部 部長の小迫幸聖氏(前列左、ボディのメカ設計のまとめを担当)、同開発統括部 第1開発部 マネージャーの平井勇氏(後列左、画質設計を担当)。

待ちわびた新型センサー

――まず、PENTAX Q7の企画意図とターゲットユーザーを教えたください。

荒井:Qシリーズに共通して言えることですが、カメラの経験年数に関わらず、自分でレンズ交換をしたり、色調を変える、エフェクトを掛けるといった、自分なりの撮影スタイルを楽しんで頂きたいという方に対して、手軽に使って頂けるカメラというコンセプトにしています。加えて、一眼レフカメラのサブカメラとして使って頂けるユーザーも多くいらっしゃいまして、この2つを主なターゲットと考えています。

 これまでQとQ10を出してきましたが、手軽さ、簡単さ、レンズ交換の楽しさというところで高く評価されていると認識しています。一方で、登録ユーザーのアンケート結果を見ると、画質でこのカメラを選んだという人はやや低い傾向も見られました。ですから画質の部分を改善することでもっとアピールできれば、間口が広がると考えたのです。

07 MOUNT SHIELD LENSを装着したPENTAX Q7

――Q10とQ7の関係はどうなりますか?

荒井:Q7はQ10の上位モデルということになり、Q10は併売します。

――センサーの大型化にはどういった経緯があったのでしょうか?

荒井:Q10やQでも撮影してみると驚くほど高精細に写ります。実際に使用してみたユーザーの画質に対するユーザー満足度は凄く高いんですね。ただ、購入を検討されている段階の方が「コンパクトカメラと同じ位のセンサーサイズ」ということで敬遠されてしまっているのではないか? という推測もあり、今回は大きなサイズのセンサーを採用しました。

若代:Qを立ち上げた当初は、CMOSセンサーは1/2.3型しかありませんでした。CCDにはより大きなセンサーもありましたが、当時のCCDでは高感度性能が十分ではありませんでした。むしろ1/2.3型CMOSセンサーの方が高性能だったのです。当時からより大きなCMOSセンサーがあればそれを採用したかったのですが、ここに来てようやくセンサーメーカーから大きなCMOSセンサーのロードマップが出てきました。そこで1/1.7型のイメージサークルを検討したところ、搭載できることが確認できたため今回採用を決めました。

Q7の撮像素子(1/1.7型、右)とQ10の撮像素子(1/2.3型、左)

――ということは、Qマウントは当初から1/1.7型センサーの搭載を前提にしていたということですか?

若代:“1/1.7型”と具体的に決めていたというよりは、センサーサイズのトレンドとしてはどんどん大きくなっていますので、それを考慮してイメージサークルに余裕を持たせて設計したということです。トレンドというのは、例えばかつて1/2.5型だったものが、1/2.3型になるといったことです。

――Qマウントは、将来的には1/1.7型よりも大きなセンサーにも対応できるのでしょうか?

若代:そこは難しいところですね。当社には「SR」というボディ内手ブレ補正機構がありますが、その駆動範囲を考えると、どこまで行けるのかははっきり申し上げることができないんですね。1/1.7よりもちょっと大きなセンサーを積める可能性はありますが、実際には試作機を作って評価しなければわかりません。また、SRを動かさなければ、より大きなイメージサークルをカバーできると理論的にはいえるのですが……。

Q7のマウント部

――確かにボディ内手ブレ補正機構を省けば、さらに大きなセンサーも搭載できそうに見えますね。

若代:レンズ内に手ブレ補正機構を設ける可能性もゼロでは無いと思いますが、現状で弊社の考えとしては、どのレンズを付けても手ブレ補正が効くメリットを重視しています。マウントアダプターで古いレンズを装着しても手ブレ補正が効くという部分で差別化していますので、そこを無くすのは非常にもったいないというのはあります。

 ただ、「より大きなセンサーを」というニーズがどんどん強くなってくると、手ブレ補正機構をボディ内ではなくレンズ側にするといった方向性も検討しなければならないのかなとは思っています。

若代滋氏(レンズ交換式カメラ全般の商品企画を担当)

画素数は同じでも解像感は向上

――Q7ではセンサーが大型化したことで当然画質は向上していると思いますが、具体的にはどれくらい変わったのでしょうか?

平井:ここにQ7とQ10で撮影したプリントを用意しました。まず低感度のサンプルですが、同じ画素数だとしてもQ7のほうがモコモコ感が少なく細密感が向上しているのがわかっていただけるかと思います。

 同一画素数でセンサーサイズが大きくなりましたので、画素ピッチがセンサーサイズの違いに比例して大きくなっています。これは、センサーとして捉える空間周波数が低くなっていることを示しています。レンズの描写性能は、一般に高周波になるに従って悪化します。よって、同じレンズを使って、同じ被写体をQ10とQ7で撮影した場合、Q7の方がレンズ描写性能の高い領域となる低周波数による描写となります。このことも、Q7の描写力アップにつながっています。

Q7(左)とQ10(右)のプリントサンプル。写真ではわかりにくいが、Q7のほうが葉の表面のディテールがよく再現されている。

 また、ISO6400の比較サンプルを見て頂くと、被写体の細かい文字部分の再現性がだいぶ改善しています。ノイズを数値化するのは難しいですが、人が実際に見て判断する画質ということでは確実に画質が向上していると思います。

 最高感度はQ10のISO6400に対して、Q7はISO12800に向上しています。これはセンサーサイズが大きくなったことで可能になりました。Q10のISO6400とQ7のISO12800を比べて同じ画質とまではいきませんが、それに近いところを狙っています。例えばISO6400で和紙を撮影した場合、表面のでこぼこがよりくっきり表現できるようになりました。

小迫:Q7のセンサーは単に大きくなったというだけではなく、センサーそのものの性能も進化しており、それを最大限に引き出していることも高画質化に寄与しています。

――画素数がQ10と同じだということですが、なぜ据え置いたのでしょうか?

荒井:1/1.7型では、現時点で有効1,240万画素以上の画素を持つCMOSセンサーは出ていません。ですから、画質などもトータルで見れば、今回のセンサーがベストということになります。画素数が同じなので、「解像感は変わらないのでは?」と捉えられるかもしれません。しかし、画像処理を一新したことも効果を上げています。

荒井孝氏(QシリーズとKシリーズの商品企画を担当)

若代:実際に撮影した写真を見て頂ければ、従来機のお客様には「ずいぶん良くなったな」と感じて頂けると思います。

――では、画像処理がどう変わったのか教えてください。

平井:「Q ENGINE」と呼ぶ新しい画像処理エンジンを採用しました。前段でのノイズ処理を見直したことと、後段でシャープネスのかけ方を変更しています。あまり詳しいことはお話しできないのですが、ローコントラスト部の解像感の引き上げを狙いとしています。それから、シャドー補正の掛かり具合を状況によって自動的に最適化するようにしています。

 画像処理ということでいえば、撮像素子の大型化とは直接関係ありませんが、AEのアルゴリズムも新しくしていまして、露出補正をあまりしなくても綺麗に撮れる確率が上がっています。例えば明るい背景で撮影した場合、従来は主被写体が暗く写ってしまうことがありましたが、今回は自然に明るく撮れるようになっています。

平井勇氏(画質設計を担当)

――画質面以外でセンサーの大型化がもたらしたメリットはありますか?

荒井:AF動作の最低輝度が、Q10の1EVに対してQ7では0EVとより暗い環境に対応できました。撮像素子が大きくなり感度が良くなったことで実現しました。

 また今回、AF速度が最大で1.5倍になっています。基本的にはセンサーではなく画像処理によって高速化を実現していますが、最低輝度に近い明るさでの高速化にはやはりセンサーの高感度化が貢献しています。ちなみにレスポンスでは、起動時間がQ10の1.8秒からQ7は1秒に短縮しています。

――ダイナミックレンジもQ10に比べて向上しているのでしょうか?

平井:これは特に変わっていません。

――今回センサーを大型化するに当たっての工夫や苦労した点をメカ設計の面から教えてください。

小迫:実はすごく苦労した、ということはなかったんですね(笑)。というのも、先ほどありましたようにQを開発する際に1/2.3型よりも少し大きなセンサーを将来載せる事を想定していました。そのため、センサーユニットを収めるシャーシ部分はQ10と共通化できました。

 新たに手を加えた所というと、センサーユニットだけなのです。センサーを載せている基盤も少し大きくなっていますので、その周りを変更していって最終的にはQ10と同じシャーシに収めました。苦労と呼べるか分かりませんが、詰め込みの努力はしました。

シャーシに収まったセンサーユニット。
背面側から見たシャーシ。

――SRは新設計なのでしょうか? センサーユニットが重くなるとコイルや磁石をより強力にする必要がありますよね?

小迫:QシリーズのSRは磁石ではなくステッピングモーターで動かしていますが、今回は少しの差でしたのでSR機構は変更することなく対応できました。

Q7のカットモデル。レンズは02 STANDARD ZOOM。

レンズの画角はどう変わるのか?

――センサーが大型化したことで、レンズにケラレが出ませんか?

荒井:高性能レンズシリーズと呼んでいる「01 STANDARD PRIME」、「02 STANDARD ZOOM」、「06 TELEPHOTO ZOOM」および、今回Q7と同時に発売した「07 MOUNT SHIELD LENS」に関してそうした問題はありません。

若代:これらのレンズは、1/1.7型センサーでSRを動作させた際にもイメージサークルをカバーできるように考慮して設計しています。

荒井:ただし、02 STANDARD ZOOMに当初用意していたフードを付けると広角側でケラレが発生します。このレンズにはQ7で使用するために新しいフードを用意していますので、こちらを使って頂くようご案内しています。また、少し厚みのあるフィルターを装着すると枠が写り込む場合があります。

 それから、ユニークレンズシリーズの「03 FISH EYE」、「04 TOY LENS WIDE」、「05 TOY LENS TELE PHOTO」ですが、Q7では微妙にイメージサークルがカバーできておらず、ケラレます。そのため、これらのレンズを装着すると最適化したクロップを行ないケラレなく記録するようにしています。

Qマウントレンズの全ラインナップ。

――Q7はQ10とフランジバックは同じですが、センサーが大きくなったことで、光の入射角がセンサー周辺部ではより寝てくるのではないでしょうか? そうすると心配なのが、周辺光量低下や周辺部の画質低下です。

小迫:そうした問題はフランジバックではなく、レンズ設計とイメージエリアの関係になります。レンズとボディの境目であるマウントをどの位置に置くか、ということとは直接的には関係しないのです。ご質問の部分に関しては、レンズ設計ともバランスが取れており、特に問題はありません。

小迫幸聖氏(ボディのメカ設計のまとめを担当)

――今回センサーサイズが大きくなったことで同じレンズでも画角が広くなるわけですが、それを踏まえて交換レンズラインナップの考え方を教えてください。

荒井:例えば01 STANDARD PRIMEですと、Q10では35mm判換算で47mm相当、Q7では39mm相当になります。同様に02 STANDARD ZOOMですと27.5-83mm相当が23-69mm相当となります。

 数字を丸めれば01 STANDARD PRIMEは、Q7で「40mmレンズ」、Q10では「50mmの標準レンズ」と言えます。02 STANDARD ZOOMは、Q7だと「24-70mmレンズ」、Q10では「28-85mmレンズ」になると考えて頂くと、弊社も含めて各メーカーが揃えているレンズラインナップの1本分違うくらいの感覚になります。

 となると、Q10/QのユーザーがQ7に買い換えた場合、今まで持っていたレンズ資産を総取り替えしたくらいのインパクトがあるのではないかと思います。

若代:「あ、だからレンズ名が番号になっていたんだ!」と気づいてもらえたかもしれません(笑)。「8.5mm」といった実焦点距離を書いてもなんのこっちゃ? となりますし、じゃあ35mm判換算の焦点距離を書くべきだということになると思いますが、当初から将来画角が変わることはわかっていたので、焦点距離ではなく番号制にしたのです。

――今後はどのようなレンズをラインナップされるのでしょうか?

 実は、35mm判換算の焦点距離がどうなるのかを1/1.7型と1/2.3型の両方のセンサーサイズについて考える必要があって、結構複雑な議論になっています(笑)。ただ、どちらに重きを置くかと言えば、1/1.7型に合わせて画角を考えることになるでしょう。例えば、1/1.7型でどこまで広角を攻めるか? ということになってくると思います。

――ところでQマウントレンズのロードマップには、「WIDE」と「TELEPHOTO MACRO」という2つのレンズが2013年以降に登場すると記載されています。これらはどういったレンズになるのでしょうか?

Qマウントレンズのロードマップ。

若代:詳しいことはまだ言えませんが、どちらもユニークレンズシリーズではなく、画質を重視したタイプになります。試作品はできているのですが、素晴らしい描写という印象です。「1/1.7型でもこんなに綺麗に撮れるんだ」ということを実感してもらえるレンズになると思います。とりわけ広角レンズは、スマートフォンやコンパクトデジタルカメラでは撮影が難しい世界ですので、それをこんなに小さなシステムで撮影できるという点でお客様に喜んで頂けるのではないかと期待しています。

――この2本はどちらも単焦点レンズでしょうか?

若代:それも今は非公開ということでお願いします(笑)。

――Qシリーズの今後ですが、2つのセンサーサイズのモデルを両方とも続けていくということでしょうか?

若代:将来的にセンサーメーカーがどのような展開をするかによっても、戦略を変えざるを得ないところもあるのですが、両方のセンサーサイズ系を残していくという考えを現時点で決めているわけではないです。

 ラインナップでいえば、これまでのファッショナブルなQシリーズとはまた違ったコンセプトのQマウントカメラを充実させていきたいと思っています。いま考えているのは、登山をする方向けの風景撮影に重きを置いたコンセプトのカメラです。

 風景を撮影するために山登りをされる方は、レンズ交換が面倒になるのでカメラを2~3台持つ場合があります。Qマウントのカメラであれば小型、軽量のため、複数台を持ち歩いても従来のシステムより機動性があるでしょう。現状でQシリーズを2台、3台とお使いのユーザーも結構いらっしゃいまして、このボディにはこのレンズ、別のボディには違うレンズというぐあいにして使われているということを聞いたのがヒントになっています。

インタビューはペンタックスリコーイメージング(東京都板橋区)で行なった。

本誌:武石修

撮影:國見周作