匠の道具 -PRO SELECTION-

本間昭文さんに聞く エプソン「SC-PX1V」×ニコン「NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S」

愛用のNIKKOR Z 14-24mm f/2.8 Sを手にする本間さん。このレンズがあったからニコンを使っているし風景写真を撮っているという

子どもの成長記録を残したいからと始めた写真。すぐに写真の楽しさに気づいた本間さんは、いくつものフォトコンテストに応募するようになる。すると応募作は受賞を繰り返し、やがて独自スタイルの風景写真の表現で名を馳せるようになった。そんな本間さんが愛用するのが広角ズームのニコン「NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S」。隅々までシャープでありつつ躍動的な表現にも長けたそのレンズの描写をエプソン「SC-PX1V」は余すことなく再現する。

本間昭文

1974年秋田市生まれ秋田市在住。
地元秋田県や東北の四季折々の自然風景に魅せられ、風景をメインに撮影。また山岳写真にも興味があり北アルプス等にも足を運んで撮影などもしている。
仕事では県の観光ポスターやパンフレット等の撮影やフォトセミナーと撮影ワークショップ等活躍の場を増やしている。
ニッコールフォトコンテストや富士コン等の国内外の写真賞多数受賞。

写真を始めたのは2012年頃です。子どもの成長記録を残そうと思って一眼レフを手にしたのがきっかけでした。すぐに子どもだけでなく自然風景をはじめ、さまざまな被写体を撮るようになり、フォトコンテストにも応募するようになったんです。その中の1枚が2015年のHonda with 東京カメラ部写真展 部門大賞を獲得し、また東京カメラ部10選にも選ばれました。そのほかにもたくさんのコンテストに応募して、いろんな賞をいただくようになりました。

賞をいただいたおかげで、企業や自治体などから撮影の仕事が入るようになり、プロとしてやっていく決意を固めたんです。今でも企業や自治体などの依頼で撮影の仕事を続ける傍ら、ライフワークである自然風景を撮り続けています。

シュカブラと奇跡の幻日/秋田県北秋田市 森吉山
森吉山の山頂にある避難小屋で一晩待機して迎えた朝。雪面すれすれにカメラをセットしてシュカブラ越しに撮ったハロとサンピラーを従えた神々しい朝日
Z 7 II/NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S/14mm/マニュアル(1/125秒、F16)/ISO 80

秋田の自然を自分の写真でもっと知ってほしい

朝日に照らされて輝く春の桜/秋田県仙北市 田沢湖
昇る朝日とそれを静かに喜び迎えるかのような桜。コントラストを強調せずに穏やかな雰囲気に仕上げた。遠景の駒ケ岳にかかるモヤも穏やかな雰囲気作りに一役買っている
Z 7 II/NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S/16mm/マニュアル(1/200秒、F11)/ISO 100

なぜ風景写真を撮るのか、とよく聞かれます。少々返事に困るのですが、自分が住んでいる秋田の周りに豊かな自然があるから、としか答えようがありません。どこまで行っても見渡す限り自然が豊か。そんなきれいな景色を自分なりの表現方法で作品にしたいと思って風景写真を撮っています。主な撮影フィールドは秋田県をメインに北東北が多いですね。

自然風景を撮るのに北東北はいいですよ。自動車で行けるところまで行って、それから30分ほども歩けば人の気配がなくなります。そこで誰も見たことのないような風景を撮りたい。人がいないので撮影にも集中できます。

風景写真を撮る上で気をつけていることは、やはり自分なりの表現をどのように追求するかということ。そのために撮影する時間帯は重要です。日中に撮ることはあまりなくて、日の出、日の入りの時間帯や星景などは当然ながら夜の撮影ですよね。特に日の出や日の入りの時間帯はドラマチックな光線が写欲をかき立ててくれます。

森吉山で撮った「シュカブラと奇跡の幻日」では、太陽の周囲にハロが、太陽から垂直にサンピラーが同時に現れたんです。絶好の機会にドキドキしながら撮りました。大気の状態など諸条件が重なったせいで見ることができた現象ですが、しかしこの時間帯だからこそ撮れた写真です。そのときは避難小屋で夜明けを待って一晩を過ごしました。

NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 Sは風景撮影のメインレンズ

ニコン「NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S」

写真は独学で覚えました。初めて手にしたD7000からずっと機材はニコンを使っています。以降D4、D810、D850と使い続け、現在はZ 7 IIを使っています。ニコンのいいところは、機材が変わっても操作方法が変わらないこと。新しい機材もすぐに手に馴染むのがいいですね。

もうひとつニコンを使い続ける理由は14-24mm F2.8というレンズの存在です。現在はZ 7 IIがメインカメラなので、レンズもミラーレス用の「NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S」を使っていますが、一眼レフ機ではFマウントの「AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED」を使っていました。どちらも名玉ですよね。超広角の14mmから24mmまで、どの焦点域でも全面において明瞭に解像し、ゆがみや周辺の像の流れもしっかりと抑えられています。光学性能が高いので手前から遠景まで、どんな構図でも安心して撮ることができます。私が風景と向き合う際のメインのレンズであり、私が求めるダイナミックな風景写真はこのレンズがあってこそ!

ミラーレス用のNIKKOR Z 14-24mm f/2.8 Sは、以前より逆光に強くなりました。今回取り上げた作品の中に本吉山や田沢湖、弘前公園などで撮った太陽や街灯を写したものがありますが、ゴーストやフレアとは無縁のクリアな描写です。描写がクリアだからこそ、RAW現像でも余計な手間がかからないし、作品としても上質で見応えのあるものになります。

もうひとつNIKKOR Z 14-24mm f/2.8 Sでのうれしい変更点は、前玉がデメキンでなくなり、フィルター取り付け用の溝が設けられたこと。それによってフィルターワークがとても軽快になりました。日の出や日の入りの時間帯での撮影が多いのでハーフNDフィルターを使ったり、また反射を抑えるためにCPLフィルターをよく使いますが、脱着の手間が軽減されたので撮影に集中できますし、日の出や日の入りの「一瞬」も逃しにくくなりました。

春の夜と桜水面に浮かぶボート/青森県弘前市 弘前公園
お堀の周りを探索中、それまでの強風がぴたりと止んだ。水面に映る桜と止まったボートが輪を描き、光芒がアクセントになり、静かなリズムを奏でている
Z 7 II/NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S/24mm/マニュアル(8秒、F13)/ISO 160

超広角、NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 Sの特徴を活かす

超広角レンズは、ふつうの目線で撮るといろんなものが写り込むため、テーマがぼやけてしまいがちです。そこで太陽や滝などの主役を決めたら、その主題を引き立てる脇役も一緒に写します。その脇役というのは、例えば足元付近や近くの景色ですね。そうすることで遠近感が強調されたダイナミックな写真になります。

どのような構図で撮るかは、手持ちでカメラの背面液晶モニターを見ながら、カメラの位置やアングルや画角を探します。それが決まったら三脚に固定し、さらにブレを極力防ぐために数秒後にシャッターが切れるディレイモードで撮影します。ただ、足元付近から撮影することが多いので姿勢がきついんです。というか、きつかったんです。D850やZ 7 IIで背面液晶モニターがチルトするようになって、そういった構図も整えやすくなりました。

そんな足元の景色を絡めた写真ですが、ここで掲載した「灯台の元に咲き誇るフランスギク」や「真っ赤な落葉と秋の滝」はその典型といえます。フランス菊にも落葉にも、かなり接近して撮っています。それぞれの主役は灯台であり滝であるのですが、手前の景色が写っていることでダイナミックに遠近感が強調され、アクセントやリズムも生まれます。

「灯台の元に咲き誇るフランスギク」では縦横3分割の構図にして、手前のフランス菊を見ているうちにいつの間にか灯台に目が引き寄せられるような視線誘導の効果を狙っています。「真っ赤な落葉と秋の滝」も超広角レンズの効果で前後に伸びた岩の形、そして水の流れの先に滝を配するなどしてドラマ性を持たせています。超広角レンズでは複数の景色を同時に捉えることができるので、その配置次第でストーリー性を持たせやすいということは言えるかもしれませんね。

ちなみに「真っ赤な落葉と秋の滝」は手前から奥までピントが合っているパンフォーカス写真ですが、被写界深度の深い超広角レンズといえど、これだけ遠近の違いがあるとどうしても前後どちらかにピントの甘さが生じてしまいます。そこでZ 7 IIのフォーカスシフト機能を使って複数枚のピントをずらした写真を撮り、Adobe Photoshopで深度合成をして仕上げています。以前は、このようは仕上げ方をしませんでしたが、機材が新しくなって利用できる機能が追加されたことで、このような表現も行うようになりました。機材だけでなく自分自身も成長、進化しています。

灯台の元に咲き誇るフランスギク/秋田県男鹿市 入道崎
ボリューム感を出すために花の間から撮影。縦横の3分割構図と手前のフランス菊のボケによってピントの合った灯台に視線が自然に向かう仕掛けを施している
Z 7 II/NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S/14mm/マニュアル(1/30秒、F4.5)/ISO 125
真っ赤な落葉と秋の滝/福島県猪苗代町 達沢不動滝
滝を撮りに行くたびに気になるのが足元の風景。躍動感のある滝や水の流れと岩に張り付いたしっとりとした落葉を対比するように14mmの超広角域で捉えた
Z 7 II/NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S/14mm/マニュアル(8秒、F8)/ISO 100

SC-PX1Vでプリントする贅沢時間

ラボに依頼するプリントと比べても遜色のないSC-PX1Vのプリントにご満悦の様子。プリントする作業そのものも楽しいという

これまで作品プリントはずっとラボにお願いしてきました。写真らしい雰囲気の銀塩プリントですね。その方が、手間もかからないし、画質もいいですから。…と思ってはいたのですが、やはり評判のいい写真画質プリンターも気にはなっていたんです。この企画の話を聞いた時、最新プリンターの実情を知るチャンスと、楽しみにしていました。

楽しみにしていたプリンターが届いて、数日間プリント漬けの毎日を送ったんですが、このSC-PX1Vはいいプリンターだと思いました。もちろん忖度はありません(笑)。ラボの銀塩プリントもいいですが、自分の空いた時間に作品をプリントできるのは、とても贅沢な時間だと感じましたね。もっというと、SC-PX1Vがスマートにプリントを刷っている姿は見ていて飽きません。もちろん、画質においてもなんら遜色はなく、額装して販売できるレベルと断言します。SC-PX1Vでプリントしてみて、これまでラボに依頼してきたことが自分でできる、ということが本当に画期的でした。

A3ノビ対応のインクジェットプリンター「SC-PX1V」

数日間じっくりとプリントをして改めて思うことは、プリントには写真としての重みがあるということです。プリントした作品を見て思わず口にしたのは「写真って、いいなぁ」という一言でした。比べるとモニターで見る写真はどこか薄っぺらく感じます。もちろんPCのモニターやスマホで見ることが悪いわけではありません。SNSなどを利用すればより多くの人に気軽に見てもらえます。しかし、同じ写真でも紙にプリントすることで存在感や重厚感を纏うんですよね。「写真のゴール」とは写真の内容や表現にあった用紙を選んでプリントすること、かもしれません。

同じ写真を異なる用紙にプリントをしてそのでき上がりを吟味する。写真のゴールは、その写真に合った用紙にプリントすることだと再認識した

用紙がレンズの描写と写真を引き立てる

SC-PX1Vを使ってみて、いろいろなタイプの用紙にプリントでき、それぞれ風合いが特徴的であることにも改めて感心しました。今回はエプソンの「Velvet Fine Art Paper」と「写真用紙クリスピア<高光沢>」、ハーネミューレの「ジャーマン エッチング」を試しました。どれも良くて写真ごとに使い分けることで、その作品世界が深まるように感じます。

特に自分の作品全般に合いそうなのはVelvet Fine Art Paperです。もともとマット系の用紙が好きということもありますが、コントラストを抑えることの多い私の作品に向いているように思います。精細感があって表面の凸凹のテクスチャーもほどよく、気品のあるよりアートな佇まいに仕立ててくれます。

左から「エプソン Velvet Fine Art Paper」「エプソン 写真用紙クリスピア<高光沢>」「ハーネミューレ ジャーマン エッチング」

「シュカブラと奇跡の幻日」をVelvet Fine Art Paperにプリントしてみたのですが、抑えた日の出の穏やかなトーンが再現され、その一方でシュカブラの細かな模様や遠くの小さな樹々までがきちんと見えています。NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 Sで捉えた一瞬と、そしてそれを私がどう解釈したかが伝わるようなプリントでした。今回はA3ノビですが、SC-PX1VLを使ってA2ノビで出したプリントも見たくなります。ワイドレンズで撮った広大な風景は、大きくプリントするほど臨場感を高めてくれますから。

もうひとつのマット系用紙であるジャーマンエッチングは、アイボリーがかっていて凸凹のテクスチャーが強め。空や穏やかな水面が広がる写真には少々使いにくいかもしれませんが、ディテールをしっかり見せたい写真にはピッタリです。朝日と桜を撮った「朝日に照らされて輝く春の桜」をプリントしましたが、NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 Sが写し撮った桜の花のひとひらまでがきちんと見えて、さらに強めのテクスチャーがそれをより立体的に見せてくれました。

高光沢のクリスピアは、シャープでクリアでコントラストが高く、全体的な印象は銀塩プリントに近いです。光沢感を生かして、素直に夜景や星景の写真が合いますね。弘前公園で撮った「春の夜と桜水面に浮かぶボート」は、宵闇の深さとライトアップされた桜や街灯の光芒とのコントラストが鮮やかです。中禅寺湖で撮った星景写真の「冬の湖畔に昇る天の川」も、深遠な宇宙に輝く星々や流れ星がキラリと輝いて印象的に見えます。特にこの星景写真では、NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 Sによって隅々まで流れることなく写った星がプリントでもきちんと点として再現されていて、精緻さや密度感を感じることができます。マット系の用紙だとこのようなシャープさは多少犠牲になりそうですが、クリスピアのような高光沢で高精細な用紙は星景写真に合いますね。

冬の湖畔に昇る天の川/栃木県日光市 中禅寺湖と男体山
天の川が十分に入る超広角で明るく、なおかつ隅々までシャープという条件を満たすのがこのレンズ。高い描写力への期待に、すべてが凍えるような寒さも忘れる
Z 7 II/NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S/14mm/マニュアル(120秒、F4.5)/ISO 400
用紙ごとの表面のテクスチャーの違い。上から「ハーネミューレ ジャーマン エッチング」「エプソン Velvet Fine Art Paper」「エプソン写真用紙クリスピア<高光沢>」

ストレスのないプリント作業が作品づくりを加速する

今回はSC-PX1Vを試させていただきましたが、届いた箱を開けた瞬間、めちゃくちゃかっこいいなと思いました。とにかくスタイリッシュでクール。外観のインパクトは強烈です。パソコンのある部屋ではなくてリビングに置きたくなるようなデザインですよね。プリント中もその様子が内部照明に照らされて窓から覗けるのがいい。プリント中、飽きずにずっと見ていました。動作音もシュッシュと何気にかっこうよくないですか(笑)。液晶の操作パネルも大型で見やすく、直感的に操作することができました。

一緒に使ったEpson Print Layoutもよくできていると思いました。用紙レイアウトはとても簡単で、さらに用紙を選べばICCプロファイルが自動的に選ばれます。純正紙だけでなく他メーカーの用紙とICCプロファイルを登録すれば、純正紙と同じように扱えるのも便利でした。シンプルなインターフェースで、プリントミスを起こさせない工夫が感じられます。

内部照明で照らされたプリンター内部を眺める。プリントが刷られていく様はずっと見ていても飽きないという

普段はAdobe Lightroom Classic(以下Lightroom)でRAW現像を行っていますが、Epson Print Layoutと連携できるのもよかったです。プリントにすると、やはり写真の印象が少し変わります。そこで、Lightroomに戻って微調整をして、またプリントをして確認して……ということを何度か繰り返しました。この言葉だけだと面倒な作業のように思われるかもしれませんが、思い通りの作品に仕上がっていく過程は時間を忘れるほどとても楽しいものでしたね。

Epson Print LayoutがあるおかげでRAW現像からプリントまでが本当にシームレスな感覚で、言うなればSC-PX1VにLightroomが内蔵されているような、そんな錯覚さえ覚えました。この組み合わせはプリント作業にストレスを感じないので、作品の仕上げ(RAW現像やレタッチ)に集中できるという点も見逃せないメリットだと思います。

しかしながら、SC-PX1Vでのプリントは、数日間でしたが本当に至福の時間でした。プリントの明るさやトーンや色合い、さらに写真と用紙の組み合わせを追求できたのも貴重な体験で、プリントを自分で仕上げることの充実感も心地よかった。これまでラボにお任せでしたが、これからはSC-PX1Vでの自宅プリントも視野に入れたいと思います。

朝日に透かされて輝く水芭蕉/秋田県仙北市 刺巻湿原
早春の息吹や命の輝きをダイナミックに捉えた。絞り込んではいるが、水芭蕉にかなり接近したことで背景が少しぼけ、遠近感が強まると同時に水芭蕉の存在が際立った
Z 7 II/NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S/14mm/マニュアル(1/100秒、F20)/ISO 100
吉田浩章