匠の道具 -PRO SELECTION-
喜多規子さんに聞く エプソン「SC-PX1V」×OM SYSTEM「M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO」
- 提供:
- エプソン販売株式会社
2024年3月1日 07:00
季節の空気をダイナミックに捉え、一日の光と影を繊細に写し出し、自然のリズムやフォルムを優雅かつストイックに描き出す。自然と真摯に対峙することでしか得られない、それが喜多規子さんの写真表現だ。そんな喜多さんがOM SYSTEMの望遠マクロレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO」を手にしたことで新たな表現を手に入れた。その小さな世界はエプソン「SC-PX1V」でプリントすることで眼前に広がりだす。日常ではあまり見ることのない小さな世界。しかしこれも確かに自然風景写真だ。
東洋英和⼥学院⼤学卒。写真家、前川彰⼀⽒に師事。 ⽇本国内の⾃然⾵景をテーマに光・ ⾊・フォルムを見つめ表現する。アマチュア時代、多数のカメラ誌の⽉例コンテスト にてグランプリや年度賞を受賞し、 フリーとして活動を始める。
2019年 『MOMENT』(富⼠フイルムフォトサロン東京・⼤阪・名古屋・福岡・札幌)開催。
2020年 『栞ーfour seasonsー』(オリンパスプラザ東京・⼤阪)開催。
2022年 『 FORME(フォルム)』(OM SYSTEM GALLERY)開催。
写真集に『 MOMENT 』(⽂⼀総合出版)、『 FORME(フォルム)』(⾵景写真出版)、共著に『美しい⾵景写真のマイルール』 (インプレス)、『極上の⾵景写真フィルターブック』(⽇本写真企画)がある。
公益社団法⼈ ⽇本写真家協会(JPS)会員。公益社団法⼈ ⽇本写真協会(PSJ)会員。
撮影には必ず連れ出すM.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO
2023年の登場以来、M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO(以下90mmマクロ)は、撮影に持ち出す定番のレンズになりました。
それまでは、M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II、M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROの3本をメインに使っていて、特に不自由は感じなかったんです。これらのズームレンズでもかなり被写体に寄ることができ、マクロ的な表現も可能だったからです。しかし、最大で4倍もの接写能力を備える90mmマクロを手にしてからは、それまで撮ってこなかったような被写体も積極的に撮るようになりました。このレンズが私の写真表現の幅を広げてくれた、そんな気がします。
肉眼では見えないものを大きく写せること、私がこのレンズを使う一番の理由です。このレンズを通して世界を見ることで、本当に小さくて見えないもの、あるいは小さくて見過ごしてしまうような被写体を捉えることができます。このレンズの焦点距離は35mm判換算で180mmですから、多少被写体と離れていても大きく写せますし、寄れば寄っただけさらに大きく写すことができます。そして、その小さな被写体を大きくプリントすると、まるでファンタジーの世界が広がるようです。マクロレンズで撮った写真こそ、大きなプリントで見てもらいたいですね。
私自身、広角レンズを使って手前の被写体を大きく見せながら、周囲の風景もしっかり見せる、そんな表現が得意かなと思っています。そんな私に、この90mmマクロが見せてくれる世界は新鮮でした。そこそこ大きなレンズですが、35mm判換算180mmのマクロレンズとしてはそれでも小さい。マイクロフォーサーズ規格のOM SYSTEMの機材は小型軽量のため、システムとしても携行しやすく、また、悪天候や水にも強いので森や渓谷にどんどん分け入っても心配がありません。さらに強力な手ブレ補正は頼もしいですし、深度合成機能も必要に応じて使っています。
90mmマクロは、絞りを開けるとどうしても被写界深度が浅くなります。見せたい世界がボケすぎることがあるんですね。そんなときは、絞りを絞ったり、深度合成機能を使ったりして自分が思い描く表現に近づけます。基本は三脚でしっかり構えて撮る派の私ですが、手持ちでもそれに負けないクリアな写真を撮ることができます。このレンズ、このシステムだからこそ得られる表現、というのは確かにありますね。
M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PROで撮った「この1枚」
90mmマクロで撮った作品を今回、何枚か用意しました。その中から「この1枚」を選ぶとすれば氷に閉じ込められた気泡の写真ですね。撮影現場は富士山の麓の西湖で、他の皆さんが朝陽を狙って撮影している時間帯です。もちろん私も朝陽を撮ってはいるんですが、その後、何か氷がないかなと、湖の淵の浅瀬で見つけた被写体です。90mmマクロを手にしてから水や氷をよく撮っています。他の方からは何を撮っているんですか? と不思議がられました。
この作品は、薄氷に閉じ込められた気泡と、その氷の下を漂う波を狙いました。気泡の丸い曲線美と全体の造形に惹かれたんですね。手持ちで撮っているので、「当たり」の写真が撮れるまで何枚も撮っています。気泡のフチにピントを合わせつつ、氷の下の波のタイミングに合わせて連写しています。倍率は2倍ほどでしょうか。PLフィルターも使って反射を取り除きながら虹色も取り入れて…。夢のような世界を描写できました。
一方、こちらも泡の写真です。一見すると細胞のようにも見えるし、岩石の断面のようだという人もいます。ふだん見慣れないものを見せてくれるのが、マクロレンズの面白さですよね。これ、とても小さな泡でかなり接近して撮っています。しかも泡が動いているので、ピントもずれやすい状況でした。注意深く泡を追いかけながら手持ちの連写での撮影でした。
被写界深度を浅くすると気泡のきめ細かさを表現できないと考え、絞りはF5.6に設定しています。成功率はかなり低いです。ですが、気に入った1枚が撮れればいいので、何度も何度もシャッターを切っています。ねばって納得のいく1枚が撮れたときの満足感は、写真を撮る喜びや次へのモチベーションにつながります。
プリントこそが写真本来の姿であり写真の最終形
プロになる前、写真誌の月例フォトコンテストに応募していました。写真を仕事にしてもいいかなと思うようになったのは、月例コンテストで満足のいく結果を残せたからです。フォトコンテストにはエプソンの「SC-PX5V」や「SC-PX5V II」でプリントした作品を応募していました。毎月、複数の作品を応募していたのでプリントには慣れ親しんでいます。
プロになってからも、写真展や雑誌掲載に向けて作品を確認する際は、モニターではなくプリントで確認しています。写真展の場合はA3ノビで、雑誌掲載の際はA4でプリントします。また大量の写真から何点かを選ぶような場合は、2L判にプリントすることが多いですね。
モニターではなくプリントで写真を選んだり評価したりするのは、プリントのほうが写真全体を捉えられるのと同時にすみずみまでチェックできるから。また、プリントの方が写真が放つ存在感をダイレクトに感じ取れるから。プリントは写真本来の姿であって写真の最終形ではないでしょうか。同じ写真でもモニターで見るよりプリントで見た方が目に焼き付くような気がしませんか。
皆さんにもぜひプリントに慣れ親しんでほしいと思います。プリントをするのも見るのも、写真の上達に欠かせないと考えます。ただし漠然とプリントをしたり、見たりするのではダメ。この写真はどんな視点で撮っているのだろう、なぜこのような用紙を選んだのだろう、などと意識しながらプリントを見ることで審美眼が育つと思います。他人の作品に対してだけでなく、自分の作品に対して改めて問いかけることも重要です。私が写真を始めた頃は、自分の写真をプリントした後、白い紙でトリミングして構図を変えながら「こう切り取ればよかったなぁ」と、そんなトレーニングもしていました。私自身、プリントをしながら写真が上達したと思っています。
高い表現力が期待できるSC-PX1VとVelvet Fine Art Paper
お借りしたSC-PX1Vですが、率直に言って欲しくなりました(笑)。今、使っているSC-PX5V IIも画質の良いプリンターだと思っていますが、改めてSC-PX1Vを使ってみたら、マット系の用紙でも色の発色やコントラストがいいですし、潰れがちな黒のトーンも出てきて、写真の迫力が増すだけでなく、上品さも感じられます。
今回試した用紙は、エプソンの「Velvet Fine Art Paper」と「写真用紙<絹目調>」、ピクトランの「局紙」、そして伊勢和紙Photo「雪色」です。Velvet Fine Art Paperは、緑の発色がよくマット系なのに黒の階調も豊かで驚きました。写真用紙<絹目調>は素直なプリントで好感が持てます。局紙は独特の質感と光沢感で高い表現力や存在感を放ち、伊勢和紙Photoはふんわりと幻想的な雰囲気に仕上がります。さまざまな用紙に対応しているのが顔料プリンターの魅力ですが、SC-PX1Vは用紙の良さも引き出してくれるように感じましたね。
試した用紙の中で特に気になったのはVelvet Fine Art Paperです。今回取り上げた写真をVelvet Fine Art Paperでプリントしてみましたが、どれも気に入りました。大きな気泡の写真では、絡み合う青や虹色が豊かで、気泡の輪郭は至ってシャープ。細胞のような泡の写真も青がとても深い。凍った紅葉の写真は氷の質感が手に取るように分かりますし、ワニのような葉の写真は緑がとっても鮮やかです。桜の花の写真ではピントの合ったシベとボケた前後のふんわりとした距離感が狙い通りに表現されています。
いろいろな写真を「Velvet Fine Art Paper」でプリントしてみて、これまでの発色が悪く黒が潰れやすいというマット系用紙に対するイメージが覆されました。「SC-PX1V」との相性もいいんでしょうね。イメージに近いプリントに仕上がるので、高い表現力を備えながらも使いやすい用紙だと言えます。私は半光沢の「ピクトリコプロ・セミグロスペーパー」をよく使うのですが、展示したり家に飾ったりするのに、これからは「Velvet Fine Art Paper」も選択肢のひとつになりそうです。あ、その前に「SC-PX1V」を買わなくちゃ……。
撮影イベントでの感動がきっかけで風景写真の道へ
写真を始めたきっかけは、飼っているワンちゃんをかわいく撮りたかったから。当時のスマートフォンのカメラはそれほど性能が良くなく、一眼レフカメラだとかわいく撮れるということで購入しました。2008年のことです。わからないことが多かったので写真教室にも通って操作を学んだり、撮影実習で水族館や動物園に行ったり、スナップやポートレートなどを撮ったりしました。
いろんな被写体を撮って写真が面白くなってきた2010年の秋、GANREF主催の志賀高原での撮影イベントに友達を誘って申し込んだんです。しかし当日、東京には台風が接近していて。今でこそ雨の日はシャッターチャンスの宝庫と思っていますが、当時は雨の日に撮るのがイヤでイベントが中止にならないかと願うほどでした(笑)。でも参加費も払っているし、友達も誘っているしと、しぶしぶ参加したら、雨上がりの森のとても幻想的な景色に出合えたのです。その感動も大きかったんですが、講評会で見た他の参加者の方々の写真が、同じ森を撮っているのに切り取り方がそれぞれ異なっていて、とっても感動したんですね。それからです。風景写真の魅力に取りつかれたのは。今では、春は桜や花、春が過ぎると新緑、夏は渓谷などの水辺、秋は紅葉、冬は氷や霧氷など、季節を追いかけて全国各地を訪ねています。
私は、季節や自然との巡り合いや自然に対する畏敬の念といったものを写真に込めて、見る人に届けたいと思っています。花や新緑の写真だったら命や息吹を感じ取ってもらいたいし、水の写真であれば現場の水の音まで聞こえるような。1枚の写真からそこに写し取られている以上のさまざまな感情や情景が湧き上がってきたら、ステキだと思いませんか。そんな作品づくりを心がけています。
桜を題材にした写真展を開催
この3月に東京銀座の「富士フイルムフォトサロン 東京」からスタートする個展は桜を題材にしたものです。タイトルは「桜 −刹那と永遠−」。ずっと何年も桜を撮っていて写真もたくさんあり、漠然とですが写真展をする機会を伺っていました。やっと実現します。短い間に咲いて散る桜の儚い美しさがあり、一方でいつか寿命は来るけれど長く生き続けてほしい桜の樹。また、人の命が桜の花に例えられたりもして、そんな思いや願いを込めた写真展です。
桜といってもいろいろあります。花見の代名詞とも言えるソメイヨシノの開花期間は7日くらいありますが、東北に多い大山桜はわずか3日ほどしかありません。しかし樹の寿命でいえばソメイヨシノは数十年ですが、枝垂れ桜は数百年と言われます。命や人生もさまざまです。そんな命がテーマではありますが、テーマに絡めつついろんな種類の桜の写真も展示する予定です。会場でご覧いただければ嬉しく思います。
喜多規子写真展「桜 ―刹那と永遠―」
- 富士フイルムフォトサロン 東京:2024年3月15日(金)〜3月21日(木)
- 富士フイルムフォトサロン 大阪:2024年3月29日(金)~4月4日(木)
- 富士フイルムフォトサロン 名古屋:2024年4月12日(金)~4月18日(木)
- 富士フイルムフォトサロン 札幌:2024年5月10日(金)~5月15日(水)