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富士フイルム「GFX100S II」で鉄道を撮る
光と色、精緻な描写を残す楽しみ……鉄道写真家・金盛正樹さんの印象
2024年12月27日 07:00
富士フイルムのラージフォーマットミラーレス「FUJIFILM GFX100S II」は、約1億200万画素のラージフォーマットセンサーや最大8段分の手ブレ補正、強力な被写体認識機能をコンパクトなボディに詰め込んだ小型高性能モデルだ。
ラージフォーマットらしからぬ取り回しのよさもさることながら、最大約7コマ/秒の連写性能(メカシャッター)も注目したいポイントだ。さらに本機が搭載しているAI被写体検出AFの中には、「飛行機」「鳥」「クルマ」「バイク&自転車」「電車」など、いわゆる"動きモノ"を対象とした設定も多い。
ということで前回の「旅客機」編につづき、今回は「鉄道」をテーマに据えてみた。GFX100S IIを試用いただいたのは、鉄道写真家の金盛正樹さん。ロケ地は小湊鉄道沿線だ。
「ぞくり」とするような解像感に、広いダイナミックレンジ
——金盛さんの愛機はAPS-C機の「FUJIFILM X-T4」とお聞きしました。今回GFX100S IIを使うにあたって期待していたことは何でしょうか。
ラージフォーマット機という点を考えると、やはり解像感ですね。鉄道写真はエッジの立った描写が求められるジャンルでもあるし、今回は使うのを楽しみにしていました。
——写り以外の部分でカメラに求めている性能はありますか?
基本的に屋外で撮影するジャンルですし、時に過酷な環境で使うこともありますから、頑丈さにも注目したいところです。長く外で撮影していると、どうしてもぶつけたり、落としてしまうこともあるので、万一そうなってもきちんと撮れることが大事です。今回は借り物でもあるので荒く扱うことはありませんでしたが(笑)、長時間使っていても一定のレスポンスで動作してくれていたし、作りの良さは実感できました。
あとは防塵防滴、特に雨に強いことでしょうか。多少写りを犠牲にしてでも確保すべき性能だと思っています。
——それではさっそく、実際に使ってみての感想をお聞きしたいと思います。画質についてはいかがだったでしょうか?
撮影した作品を見てまず実感したのは、かつて4×5インチの大判カメラで撮影した写真を見たときのような、ぞくりとするような独特の満足感でした。
行先表示板を撮った写真に目を向けると、ボード本体のホーローと車体塗装の質感の違いや、車体の表面に刻まれた細かな傷、塗料のムラまで写っています。車体への写り込みひとつ取っても、ディテールが美しくて、楽しいですよね。
たまたま駅のホームにいた猫を写したものですが、拡大するとその毛並みもしっかりと解像しています。とっさに撮っても絵として成立する解像感には驚きました。
——明暗差が大きいシーンでのディテールもよく再現されているように見えますね。
例えば列車の下部に見える機械部分の質感を見ると、錆の上から塗装していることが表面の凹凸からはっきりとわかります。これは普通に撮ると影になってしまいがちな部分ですが、GFX100S IIで撮るとこの部分のトーンが豊かに出ていますね。現像で追い込めばもっと克明に再現できるのではないでしょうか。
線路と車体を構図に入れた作品では、線路に日光が当たっている一方、奥にある車体の色もしっかり出ています。階調が豊かで情報量の多い写真になっていますね。
——ダイナミックレンジについても優秀ということですね。
GFX100S IIは光を捉える能力の高いカメラだと思います。鉄道写真は運転席を含めた車両が細部まで見えていることが重要なジャンルなのですが、ここまで広いダイナミックレンジを備えているならば、撮り方に縛られず撮る楽しさも生まれる余地があるように思えますね。
——約1億200万画素という高画素、そしてこれだけ精緻に写っているならば、トリミング耐性も気になるところです。
もちろん、用途や切り取る範囲にもよりますが、十分ディテールは残りますので、トリミングをするにも心理的な障壁は低く抑えられると思います。下の作品の場合、トリミング後のピクセル数は9,616×7,212(約7,000万画素)。プリントするにも十分なデータ量です。
夜間の撮影にも耐えられる高感度画質
——夜間の撮影では高感度設定を利用することもあるかと思いますが、今回の撮影ではどこまで上げましたか?
掲載している中では、ISO 6400まで上げた写真があります。1億を超える画素数なのに、感度を上げたところでそれほど問題ないのには驚きました。このあたりは、ラージフォーマットならではのメリットを端的に享受できている気がします。
フィルムライクな粒状感もあるため、モノクロの作品ではその味を活かしてみました。
——掲載している作品ではすべてフィルムシミュレーションを使っていただいていますが、こちらの所感についてお聞きしたいです。
主に「PROVIA」と「Velvia」を使っています。フィルム時代から写真をやっている身としては思い入れのある名前です。掲載写真では、鮮やかな車体の色や空の青、周辺環境の色までよく出ています。周囲の風景を写し込むことも鉄道写真の面白さですので、記憶色がきれいに出るのは楽しいですね。
信用に足る「被写体認識」の精度の良さ
——AFに話を移しましょう。オートフォーカスの速度や精度はいかがでしたでしょうか。
ラージフォーマットということで、ある程度レスポンスが悪いと想像されるかもしれません。でもそんなことは全然なくて、期待通りの速度で合焦しますし、食いつきも良いです。特に被写体検出機能で「電車」を選ぶと、ストレスのない撮影が可能でした。鉄道写真では、連写と併用すると有用ですね。
——ああ、被写体検出に「電車」があるのですね。認識に問題はなかったですか?
今回はすべてのカットで被写体検出を有効にしています。別の日にテストで撮影した新幹線の例を見てください。少し意地悪をして、絞りを開放にしています。
被写体検出をONにすると、まず運転席を追い続け、構図から運転席が外れると車両全体を追う挙動に切り替わります。
今回の試用では在来線や新幹線を連写しましたが、どの撮影でもフレームアウトまでしっかり食いついてくれました。カーブがある場合は構図の中で列車が急加速する(ように見える)のですが、そのような場合でも追従します。ボディだけの性能ではなくて、レンズの方もしっかり駆動しているのでしょう。
流し撮りの場合でも同様で、速めにカメラを振っても、車体がフレームインしている限り追ってくれます。これはちょっとすごいですね。
広角から望遠、マクロやシフトまで交換レンズも充実
——交換レンズについても主要な製品を一通りお使いいただいていますが、レンズはどのように使い分けていますか?
大前提として、走る車両には近づけないので基本的には「GF500mmF5.6 R LM OIS WR」などの望遠レンズを使いました。Gマウントはラージフォーマットなので焦点距離が少し広角に寄りますので、「GF100-200mmF5.6 R LM OIS WR」などは中望遠ズームとして便利に使えましたね。望遠側が充実している印象ですし、特に「GF500mmF5.6 R LM OIS WR」はその焦点距離からすると軽くてかつ高画質です。しかも1.4倍のテレコンバーターも使えますから、利用範囲は広いと感じます。
私は列車そのものだけではなく、鉄道の現場に関わる人たちの姿を残すのも好きなので、停車している車両の近くで働く人や、駅の待合室などで標準レンズや広角レンズを使う機会も多いです。
使い分けという観点でいえば、車両と人物を合わせて撮る時は大体標準レンズを使っています。広角レンズを使うのはパースがかかって面白い画にしたいときや、遠近感を強調したいシチュエーションですね。それにしても広角から望遠、さらにマクロ、シフトレンズまで揃っているのはさすがですね。静物撮影の仕事でも使ってみたいです。
“撮る面白さ”を再認識させてくれるカメラ
——GFX100S IIを使う前と後で印象は変わりましたか?
はじめは私自身の偏見もあって、35mmフルサイズ機やAPS-C機と比べて多少レスポンスは劣るのかな? と思っていましたが、実際に使ってみると全くそんなことはなかった。使い勝手としては35mmフルサイズ機とほとんど同じ感覚で使えるので、実感としてラージフォーマットであることを意識したことはないです。
鉄道写真をあえてラージフォーマットで撮る意味は、車両を精緻に写すことなんだと改めて思いました。私はメカ好きなので、メカの質感が出るディテールについ目を向けたくなる楽しさがありますね。
撮影者としては、撮る行為自体の面白さを再確認することができました。レンズを選び、設定を詰め、思い通りに撮る。思い描いたイメージにより近いものが確実に撮れる楽しさをしみじみと感じた機会となりました。