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富士フイルム「GFX100S II」で雪景色を撮る
圧倒的な解像力と広いダイナミックレンジ 風景写真家・木村琢磨さんの印象は?
2025年1月30日 12:00
富士フイルムのラージフォーマットミラーレスカメラ「FUJIFILM GFX100S II」は、約1億200万画素のイメージセンサーや最大8段分の手ブレ補正機構などを備えたデジタルカメラだ。
様々な撮影ジャンルに対応できる汎用性も魅力だが、その中でも風景写真はラージフォーマットのカメラが得意とする分野の1つだろう。今回は風景写真家の木村琢磨さんにGFX100S IIを試用いただき、その感想を伺う機会を得たので作品とともに紹介したい。
主なロケ地は岡山県と鳥取県にまたがる那岐山中と、奥大山の木谷沢渓流。掲載した写真はPhotoshop Lightroom Classicで現像。フィルムシミュレーションもLightroom上で適用している。
1984年、岡山県生まれ。写真・映像制作スタジオ はち株式会社代表。地元広告写真スタジオで経験を積んだのち独立。主に地元岡山県を被写体に「写真」の言葉にとらわれない写真表現を追求。カメラ雑誌への寄稿やフォトツアーやイベントでの写真講師も務める。
AFをはじめレスポンスが向上
——今回はGFX100S IIで冬の風景撮影を行っていただきました。ラージフォーマットカメラでの風景撮影について、どのような印象を持っていますか?
風景写真では解像感や抜け感が見どころの1つであり、僕の好きな被写体についてもディテールがしっかり写っていることが大事なので、その観点からいえば、画素数の多いGFXシステムを使うことには安心感があります。
——仕事では、前モデルの「GFX100S」をお使いとお聞きしました。GFX100S IIで改善されたと感じた点はどこでしょうか?
明らかに良くなっているなと思ったのは、全体の操作レスポンスが上がっていることでしょう。起動速度や操作のレスポンス、AFはじめ操作の快適度が上がっています。
特にAFの合焦速度は実用面で大事ですよね。思ったところにスッとピントが合ってくれるのは撮影の快適さに直結しますから、僕の場合は風景写真でも重視しているポイントです。
——今回のロケ地は豪雪地帯ということで、手袋を着けて撮影されていたと思います。実はGFX100S IIのグリップには三ツ矢状のパターンで滑りにくくした「BISHAMON-TEX」が採用されています。使ってみて実感はありましたか?
普段からストラップを使わずに運用することが多い私にとってかなり嬉しい仕様でした。今回は雪山や雪景色の撮影だったので基本的には手袋を着用していましたが、それでもGFX100Sと比べてホールド性の向上を体感しています。
撮影時以外にもメリットを感じる瞬間があります。それはレンズ交換の時で、カメラにとってレンズ交換時は無防備の状況です。レンズ交換のときにカメラをしっかりとホールドできるのは、未然に事故を防ぐことにも繋がるため安心感がありました。デザイン的にもカメラ製品としては目新しさを感じますね。
RAW現像でわかる圧倒的な階調の広さと解像力
——風景写真の中でも、今回は特に雪景色を撮影いただきました。雪景色を撮影する中で、気をつけているポイントはどこでしょうか?
ハイライトが飛ばないように撮るというのが大前提ですね。僕の場合、飛ぶか飛ばないかのギリギリを狙って撮っておき、現像のときに少し落とす方向で調整しています。
そうするとトーンジャンプが起きがちなのですが、GFX100S IIの場合、オーバー目に撮ってもしっかり階調が残っています。しかもハイライト側が粘り強くて、情報が多く残るがゆえに、後から再現できる幅が広いのです。階調の広さからくる後処理での可能性については、ネガフィルムに近いものを感じました。
下の写真はシャッター速度を遅くしたかったので拡張感度のISO 40(標準はISO 80から)を使ったのですが、拡張感度にありがちな白飛びしやすさもなく驚きました。
——白と黒で構成される渓流の雪景色で、ここまで階調が表現できるのですね。解像感についてはいかがでしょうか。
GFX100S IIの良いところは、広いダイナミックレンジに加えて、約1億200万画素の解像力も享受できるところにもあります。しかもレンズが高性能。高い解像性能があるからこそ生まれる立体感があります。
——解像力に階調。この2つが表現力を高めるということですね。
はい。凍結した湖面の写真では、複雑な形状を残したまま凍りついた水面のディテールと、深い青のグラデーションを写したかったので、あえて逆光が反射するような撮り方をしてみました。氷の細かいディテールを再現しつつ、光の芯が当たっているハイライト部分が、白飛びせずにしっかり写ってくれています。
——約1億200万画素ということで、手持ちでの撮影ではなく、基本的に三脚を使われたのでしょうか。
いえ、手持ちでも撮影しています。GFX100S IIでは手ブレ補正が強化されているので、手持ちでも粘れるようになりました。手ブレをあまり意識せず、低感度でバリバリ撮影できるカメラに進化していますね。
雪景色の中、ちらりと見せる鮮やかな色彩
——階調、解像ときたら、次は色再現ですね。
色もしっかりRAWデータに残っている印象です。例えば晴れ空の下の渓流を撮ると、空の青や水底の緑がかった色がきれいに出ていて、このあたりは富士フイルムの得意とするところなのかなと思いました。
他にわかりやすい例として選ぶならば、森の中から空を撮った作品でしょうか。ほぼ真っ白に写るかと思っていたら、空の青がちゃんと残っている。現像したときに驚きましたね。
——今回はLightroomで現像した作品を紹介していますが、それらとは別に、撮影時にどんなフィルムシミュレーションを設定されていますか?
RAW現像だけでなく、同時にフイルムシミュレーションも使用して作品を仕上げています。
フイルムシミュレーションにはさまざまな種類がありますが中でもGFX100S IIから新しく搭載された「REALA ACE」は適度なメリハリと色の忠実性のバランスが絶妙で、今回の雪景色の雰囲気を再現するには丁度よい選択肢でした。
特に雪や氷の反射面のハイライト部分の色味は、「REALA ACE」で撮影したことで再現できたと感じています。下の作品はフィルムシミュレーションを「REALA ACE」に設定、JPEGで撮影したままのものです。
ラージフォーマットならではの豊かなボケ
——今回のロケで使用したレンズの使用感についてもお聞かせください。
この記事に掲載した写真は「F20-35mmF4 R WR」「GF20-35mmF4 R WR」「GF55mmF1.7 R WR」「GF45-100mmF4 R LM OIS WR」の4本で撮影しました。GFレンズは単体で見ると大きい印象を受けますが、実際ボディに装着して持つとバランスが良く、撮影中は意外と疲れにくかったです。
——レンズの性能はいかがでしたか?
冬の風景写真は線をシャープに見せたい被写体が多いので、解像力がほしくなるものです。曇り空の下、被写体の冷たい鋭さを表現するなら余計に解像力が要るので、画面の隅々までしっかり写ってくれるあたり、レンズが約1億200万画素のパワーを引き出している感じがしますね。
——明るい単焦点レンズ「GF55mmF1.7 R WR」で撮影した落ち葉の作品は、背景の柔らかいボケが主役を自然に引き立ててきれいですよね。
被写界深度の浅さはラージフォーマット機の難しさでもあり、楽しさでもありますね。下の写真もよく見ると背景がボケているのですが、それがかえって雪の降り積もった木々の存在感を引き出しています。ほんのちょっとしたことで立体感に違いが出るのが面白いところです。
——被写体にクローズアップした写真も印象的でした。
黒い落ち葉を撮った作品は、絞り開放のF1.7で撮影したことで、雪の中でやや異質な存在感を浮かびあがらせることができました。これまでハイライトの話ばかりしてしまいましたが、シャドー側の階調もかなり豊かですよね。
——すぐ下の地面がボケているところが、ラージフォーマットらしいです。
実は下の作品のように、少しだけトリミングしているものもあります。それでも数千万画素あるので実用上は十分。被写体にもよりますが、極論をいえば、望遠レンズやテレコンバーターを必要としないケースも考えられます。
“ストレスのない”ラージフォーマットカメラ
——GFX100S IIの持つ機能や性能の中で、風景写真を撮影するにあたり特に良かったと感じたものはありますか?
自然風景の撮影は一般的な被写体と比べて融通のきかない現場が多いので、まずはいつでもきちんと動くことですね。どんなにいいロケーションでも、カメラが動かなければなんの意味もないですから。
その意味では、防塵防滴性能や耐寒性能は最重要視しています。足場の良くないところも多いし、どこにでも三脚が立てられるわけではないので、手ブレ補正の性能も大事です。もちろん画素数やダイナミックレンジも、風景の魅力を伝えるのに力を発揮してくれるでしょう。
ラージフォーマットカメラとしては、気軽に持ち出せるシステムなのも良いですね。いろいろな現場に気負わず使えるのが強みでしょう。GFXはボディとレンズのサイズのバランスがよくて、使っていてストレスがないので、触る機会があればぜひ手に持ってみてほしいですね。