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富士フイルム「GFX100S II」で旅客機を撮る

動く被写体にどこまで迫れるのか……航空写真家・佐々木豊さんが挑戦

富士フイルム GFX100S II/GF500mmF5.6 R LM OIS WR/500mm(396mm相当)/マニュアル露出(1/1,250秒、F7.1)/ISO 200

富士フイルムのミラーレスカメラ「FUJIFILM GFX100S II」は、上位機種「GFX100 II」と同等の有効約1億200万画素のラージフォーマットセンサーや画像処理エンジン「X-Processor 5」を搭載。最大8段分のボディ内手ブレ補正やAI被写体検知AF機能なども特徴となっている。

GFX100S II(装着レンズはGF63mmF2.8 R WR)

航空機や列車、スポーツカーのような乗り物は、そのフォルムが持つ機能美もさることながら、金属外装をはじめとした質感も魅力の1つ。ラージフォーマットセンサーと1億を超える高画素機の被写体として惹かれるものだが、その一方で動体であるという、撮影の難しさを持ち合わせている。

近年のGFXシリーズは最大約7コマ/秒を超える連写速度を謳うなど、かつて苦手としていた分野を克服しつつあるようにも見える。が、実際に動きモノを撮影した場合はどうだろうか?

今回は航空写真家・佐々木豊さんのロケに同行し、旅客機撮影における「GFX100S II」の使い勝手を中心にお話をうかがった。ロケ地は「伊丹スカイパーク」と「千里川土手」の2カ所。掲載した作例写真はすべてフィルムシミュレーション「Velvia」で撮影、Photoshop Camera RAWで現像している。

佐々木豊

1966年京都府生まれ。これまでモータースポーツや様々なスポーツ競技を撮影。雑誌などに作品を発表。その経験を活かし、現在は航空機撮影を主に行う。月刊エアライン、ヒコーキ写真テクニック(イカロス出版)や同社カレンダーなどにも作品を提供。どんなシーンでも自身独自の視点とエッセンスをちりばめることに主眼を置いて撮影に挑む。伊丹空港を中心に全国各地の空港で活動。日本航空写真家協会(JAAP)準会員。

精細感・色再現・階調表現に文句なし

——佐々木さんは普段、35mmフルサイズのミラーレスカメラをお使いとのことですが、今回「GFX100S II」を試用いただくにあたり期待したことは何でしょう。

旅客機のような被写体の場合、細部のディテールがあればあるほど、作品が魅力的になります。そういった意味で約1億200万画素の有効画素と、ラージフォーマットに合わせて設計されたGFレンズの解像力がどこまでのものなのか期待しました。それにイメージセンサーのサイズが大きいので、階調表現にも期待を寄せてしまいます。

——逆に不安を覚えたことはありますか?

AF性能は正直不安でした。フィルムカメラの時代のイメージですが、中大判カメラで動きモノを撮るなんて想像もしていませんでしたから(笑)。そのあたりがデジタルになって、ミラーレスカメラになって、どこまで進化したのか楽しみでもありました。

——まず、画質からお聞きしましょう。実際に撮影された作品を見ていかがでしたか?

まず感じたことは、解像感の違いでした。機体表面に書かれた文字やドアのディテール、ノーズギアのメカ感、浮き出たリベット、金属の質感が克明に表現できています。これには正直、驚きました。航空機の写真で解像感を出すには、陽炎などの条件にどうしても左右されますが、それらをクリアしたときの実力は本当にすごい。

——確かにびっくりするほどの解像力ですね。拡大率が高いのはもちろんですが、ちゃんと解像している。細かい線や凹凸が手に取るようにわかります。変な表現ですが、遠距離ではなく近距離で本物を見ているような気分になりました。

機体表面だけでなく、ランディンギアやエンジンといった部分の描写もすごいですね。拡大してみるとわかるのですが、かなり細かいところまで解像してくれています。

富士フイルム GFX100S II/GF500mmF5.6 R LM OIS WR/500mm(396mm相当)/マニュアル露出(1/1,250秒、F7.1)/ISO 200
<等倍で拡大>
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——色再現についてはいかがですか?

まず、背景の青空がすごくきれいに出ますね。これは航空写真においてとても重要です。フィルムシミュレーションで選択した「Velvia」も効いているのでしょう。全体的に記憶色に近いながらも、しっかりと本物の色味を再現しています。ANAの"青"やJALの"赤"がわかりやすいのではないでしょうか。これらは企業のブランドを象徴するカンパニーカラーなので、色がきちんと出るのは大事なことです。今回の作例ではいずれも色調整をしていません。

富士フイルム GFX100S II/GF500mmF5.6 R LM OIS WR/500mm(396mm相当)/マニュアル露出(1/2,000秒、F5.6)/ISO 400

——ラージフォーマットの強みの1つ、階調表現についてはいかがでしょう。

これも期待していた通りで、機体の大部分を締める白い部分、特にハイライトのディテールが生々しいまでによく出ています。金属外装への写り込みもすごくリアルです。このあたりも階調表現の良さが生きているのでしょう。

富士フイルム GFX100S II/GF500mmF5.6 R LM OIS WR/500mm(396mm相当)/マニュアル露出(1/1,250秒、F7.1)/ISO 200
<等倍で拡大>
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また、シャドウ部の粘りもすごい。撮影条件によってはアンダー目に撮り、後処理で暗部を上げることがよくありますが、このカメラでそれをやると、ハイライトから暗部まで、破綻することなくきれいに絵が出てくる。例えば中間から暗部を持ち上げたこの作例では、空港内の椅子やコンテナに書かれた文字まで判読できます。夜間の撮影で可能性が広がるのを感じました。

現像前
富士フイルム GFX100S II/GF500mmF5.6 R LM OIS WR/500mm(396mm相当)/マニュアル露出(1/4秒、F8.0)/ISO 800
現像後

——旅客機の撮影といえば、高速シャッターで撮影するイメージがあります。さらに今回は夜間での撮影もお願いしていますが、高感度画質についてはでいかがでしたか?

夜間の撮影ではISO 5000〜25600まで上げてアンダーで撮影、その後現像時に露出を上げていますが、思ったよりノイズが少ないです。そのあたりはラージフォーマットの利点をしっかり生かしていると感じました。

現像前
富士フイルム GFX100S II/GF500mmF5.6 R LM OIS WR/500mm(396mm相当)/マニュアル露出(1/320秒、F5.6)/ISO 5000
現像後

——どちらかといえば、RAW現像で画質が生きてくる感じですか?

いや、"撮って出し"でもかなりクオリティの高い、思っていたものに近い画像が得られます。そこも富士フイルムらしいところなのでしょう。撮る時点である程度設定を詰めていれば、後から調整する必要をほとんど感じません。今回はフィルムシミュレーションを「Velvia」にしていますが、これも再現度が高く、フィルム時代から撮影している自分にとって楽しめるものでした。

驚きのAF性能……実用的な「飛行機認識」も

——ラージフォーマットながら、メカシャッターで約7コマ/秒、電子シャッターで約30コマ/秒という連写性能も特徴です。今回の撮影で生かせるシーンはありましたか?

旅客機の撮影で使った限りでは、ほとんどメカシャッターの約7コマ/秒で事足りると思います。電子シャッターも使ってみましたが、プロペラの回転にローリング歪みが出て気になりました。それくらいですね。

——AFの精度や速度についてはどうでしょう。これもラージフォーマットで弱いイメージがあります。

他の35mmフルサイズ機と同じように、コンティニュアスAFを使用しました。経験上、コンティニュアスAFは遠ざかる被写体にはあまり強くないのですが、「GFX100S II」はかなり遠くまで追ってくれます。それに、ほぼ真っ暗な夜間で連写しても、安定して被写体を追いかけ続けたことに驚きました。

作品を拡大して見ていただいた通り、フォーカスの精度もバッチリです。マニュアルフォーカスに切り替えて、ライブビューでじっくり合わせる……といった操作が必要になることはないでしょう。実は被写体検出機能の「飛行機」が優秀だったので、今回はそれを多用しています。

——暗いところでも大丈夫でしょうか?

それがかなり優秀で驚きました。ほぼ真っ暗な状況でも、着陸する旅客機を連続で捉えてくれましたから。

富士フイルム GFX100S II/GF55mmF1.7 R WR(44mm相当)/マニュアル露出(1/320秒、F1.7)/ISO 25600

——ラージフォーマット機なのに被写体検出AFがあるのですね。どのような挙動をするのでしょうか。

「飛行機」そのものの形状とコックピットを追いかけてくれます。構図にコックピットが含まれている場合はコックピットを優先、コックピットが入らない後方からのアングルなどでは尾翼や飛行機全体のシルエットにフォーカスします。認識の精度はかなり高く追随力もかなりのものです。いったん食いついてくれれば、その後は機影がかなり小さくなるまで捕捉してくれますね。

——(背面モニターを見ながら)本当だ、きちんと追いかけていますね。一般的なミラーレスカメラの被写体認識AFと遜色ないレベルに感じます。

飛行機認識AFの動作状況(EVF内の映像)

積層型のイメージセンサーではないので、シャッターレリーズの際、さすがにブラックアウトが入ります。ただし、0.84倍と広くて576万ドットの精細なEVFは、旅客機をフレームに収めながら追いかけて撮るのに十分な性能でしょう。

——手ブレ補正の効きについてはいかがでしょうか。

高速シャッターで撮ることがほとんどなのであまり気にしていませんでしたが、そういえばこのカメラは有効1億200万画素なのですよね。それを「GF500mmF5.6 R LM OIS WR」で手持ちで撮っていたと。改めて、すごい時代になったのだと思います。

撮影時・撮影後の取り回しは?

——普段お使いの35mmフルサイズ機で撮る場合、デフォルトの縦横比は3:2だと思います。このカメラは4:3が最大画素数になりますよね。その違いに違和感が覚えましたか?

最初はとまどいましたが、慣れてくると個性の1つとして受け入れられますね。4:3ならではの構図を考えて撮るようになりました。特に上下に余裕があるためでしょう。前や後ろ、斜めから画角いっぱいに機体を捉えるような構図だと、3:2より収まりが良い。何なら約1億200万画素もあるため、気になるなら後から3:2にトリミングするのも問題ないかと思います。

富士フイルム GFX100S II/GF55mmF1.7 R WR+GF1.4X TC WR(554mm相当)/マニュアル露出(1.5秒、F9.0)/ISO 1600

——風景からポートレート、トラベルまでシーンを選ばず使えるということで、「GFX100S II」は「GFX100 II」からボディサイズが一回り小さくなっています。とはいえ、一般的な35mmフルサイズセンサーのミラーレスカメラよりも若干迫力あるボディであることは間違いありません。重量やサイズについて感じたことはありますか?

確かにボディは大きめなのですが、ハンドリングという観点から見れば、フルサイズ機とあまり変わらない感覚で使えました。撮り方がフルサイズ機と全く違うとか、AFのクセが強いというわけでは全くないからでしょう。今回の撮影では「GF100-200mmF5.6 R LM OIS WR」や「GF500mmF5.6 R LM OIS WR」と組み合わせて使うことが多かったのですが、それほど気負うことなく持ち出せました。

グリップが縦に長く、握ったときに小指が余らないのも良いですね。グリップのラバーに採用されたBishamon-texのおかげか、しっかりした握り心地も好印象です。

——バッテリーの持続時間はどうでしょうか。

自分の撮影の場合、体感では半日で1本使い切る感じでしょうか。丸1日撮る場合は予備を含めて2本あれば安心でしょう。

——有効約1億200万画素ということで、1枚あたりのデータ量はかなりものになると思います。データの取り回しについてはいかがだったしょうか。

RAW1枚あたり200MBくらいなので、さすがに重いですね。記録メディアがSDカードなので、できればもっと速いメディアが使えたらよかったなとは思いました。PCにデータを取り込むときの待ち時間はどうしても気になります。書き込み時間についてはそこまで不便を感じることはありませんでした。

まとめ……取材を終えて

ラージフォーマットのデジタルカメラといえば、デジタルバックの時代から、個人的には「画質はすごいいけど、どうしてもレスポンスに難がある」というイメージが強かった。そのため今回、ラージフォーマットで旅客機(動く被写体)を撮ると聞いたときは、それなりに不安を覚えたのは確かだ。

ところが佐々木さんの撮影に同行して、そのスムーズなAFやレスポンスにびっくり。35mmフルサイズと同様、軽々と撮り続ける佐々木さんの姿に少々とまどってしまった。一般的なカメラ用リュックにボディーやレンズが一式が収まるのを見て、改めて「GFX100S II」の小さなボディに感銘を受けた。

一般的なカメラ用リュックに、GF500mmF5.6 R LM OIS WRを含むレンズ6本とGFX100S IIが入る

撮影した作品データを見せてもらったときにも、35mmフルサイズとは次元が違うことを実感。佐々木さんも同じ思いだったようで、「高画素・ラージフォーマットの力を感じる一方で、レスポンスが犠牲になっているわけではない。もうそういう時代ではないのでしょう」との感想を漏らしていた。

他の撮影ジャンルの写真家にも同様の取材を行うので、期待いただきたい。

富士フイルム GFX100S II/GF55mmF1.7 R WR+GF1.4X TC WR(554mm相当)/マニュアル露出(1/800秒、F8.0)/ISO 200
関根慎一