トピック
ライカが買い取る中古カメラ「Pre-Owned」は、今がホットかもしれない
“ドイツ基準”はどれほど厳格なのか? 整備点検の現場も見学
- 提供:
- ライカカメラジャパン株式会社
2024年12月24日 07:00
ライカカメラジャパンが直営店を通じて、中古のライカやライカレンズを買い取っていることをご存知だろうか。2024年4月にオープンした「ライカ表参道店」には、日本の直営店として初めて「Leica Pre-Owned」(ライカ プリ・オウンド)、つまり中古品を扱うためのフロアが最初から設けられている。
ライカが展開する中古サービスについて、売るひと・買うひと双方のメリットを探ってきた。筆者自身もライカ機材の入れ替えを検討していたので、その目線からお伝えしたい。(写真:藤井智弘)
安さだけでなく「出会い」を楽しんでもらう中古販売
世界的にもライカのPre-Owned……つまり中古品の需要は高まっており、ライカとしては新品と同じような基準でメンテナンスを行って販売することで、既存のマーケットとの差別化を考えたという。これにより廉価モデルを用意しないライカのカメラも、少し前のモデルを選んだりすることで価格的にエントリーしやすくなるというわけだ。
また、Pre-Ownedといっても必ずしも“安く売る”だけが目的ではなく、ライカ表参道店の担当者いわく「出会い」を楽しんでほしいという。70年の歴史を持つライカMレンズは、例えば“ズミクロン35mm”といった同じレンズ名であっても世代により仕様や描写が異なり、それぞれにファンがいる。そうした現行品以外との「出会い」を楽しんでもらう(=より深くライカにハマる)機会を提供するのも目的のひとつなのだという。
Pre-Ownedだけに品揃えも変わるので、ときどき新たな出会いを求めて立ち寄ってみたくなることだろう。ちなみに、新品を買ってもPre-Ownedを買ってもライカストアの顧客であることに変わりはなく、気兼ねなく購入後も相談などに訪れてほしいという。
買い取りの対象は? ライカストアに売るメリットは?
「だからさ、結局いくらで買い取ってくれるワケ?」という声が聞こえるから、先へ進もう。
Leica Pre-Ownedの買い取り対象製品は「整備可能なモデル」という考えがベースにある。最長で2年の保証をつけるため、ライカとして修理対応が可能なものでなければならないからだ。これはデジタルカメラでもフィルムカメラでも同じ。
ただ、必ずしも現行品以外はお断りというわけではないようだ。人気がある製品だったり、古くても特に状態が良い個体だったり、保証を付けない“現状渡し”で販売できるような品であれば、状況により買い取れる場合もあるという。まずはとにかく相談してほしい、とのことだった。
さあ、買い取り価格について聞く。当初は「お客様にとって、お得感があるように……」という微妙なニュアンスだったが、しばらく食い下がっていたところ、立ち会っていた別の担当者から「市場で恥ずかしい値段は付けません、とお伝えください」との力強い言葉があった。それは気になる! ひょっとして、Leica Pre-Ownedをアピール中の今がチャンスなのだろうか?
ヘンな期待を生まないために具体的な金額は伏せるが、筆者が入れ替えを検討しているフィルムのM型ライカ(旧製品)の買い取り額を聞く限り「ちゃんと中古市場に参入してきたな」という印象を持った。
買う側のメリット、“ドイツ基準”のメンテナンス現場
さて、買う側のメリットについても言及したい。いざ中古のライカを買おうとする場合には、Leica Pre-Ownedの「ライカ本社が定めた“ドイツ基準”で点検・調整されたものである」という保証が安心感を与える。街の中古カメラ店でも“ライカカメラジャパン点検済み”の個体は見かけるが、Leica Pre-Ownedは全個体がそのドイツ基準の点検・調整を受けており、ライカが発行した証明書も付属する。
そこでライカ表参道店を後にし、ライカカメラジャパンのカスタマーケア拠点に移動。“ドイツ基準”を支える体制と、実は日本が世界的にも恵まれたサポート環境にあるという状況を取材した。
カメラが届くと、まずは外観に衝撃を受けた痕跡があるかなどをチェック。そして距離計の精度とイメージセンサーの位置を測定器で確認する。イメージセンサーの位置というのは、撮像面がちゃんとマウント面に対して平行であるかどうか、イメージセンサーの中央と四隅で測って確かめる。その後、シャッタースピードや露出を確認して、内部機構の整備点検が完了したら外観のクリーニング、場合によっては張り革も交換して店頭に並ぶ。動作確認では、音も大事な判断材料だそうだ。
M型ライカの距離計は、長く使っていると運搬時の衝撃などで微妙にズレが生じ、ピントに影響を及ぼすことがある。フルメカニカルゆえに仕方のない部分で、ライカに限らずレンジファインダーカメラを使う上では承知のことでもある。
しかし初めて使う人だと「カメラが悪いのか、レンズが悪いのか、自分が使い方を知らないだけなのか判断できない」という場合がある(※筆者がそうだった)。やはり最初はメンテナンス済の品が安心だろう。
実際に筆者が初めて買ったM型ライカ(中古品)も、ライカを使い慣れた写真家に見てもらって初めて「距離計が縦ズレしている」というのがわかったぐらいだ。縦ズレとは、ファインダー内の二重像が上下方向にズレてしまっている状態のこと。決してケチって買った個体ではなかったけれど、ちょっと悲しいような恥ずかしいような気持ちになったことを今でも覚えている。
そんなMデジタルの距離計の精度確認には「W6」と呼ばれる最新世代の専用機器を用いる。これを持つ日本のカスタマーケアは、本社と同水準の作業が行えるハイレベルな拠点である証。同様の場所は世界でもほかにアメリカと中国しかないという。
この日本のカスタマーケア拠点には6年ぶりに訪れたが、以前より更に増床しており、ライカQシリーズやコンパクトカメラを担当するエリアが別に用意されていた。カメラメーカーによるこうしたサポート体制への投資は、ライカに限らずユーザーからはなかなか見えづらい部分だ。
そして交換レンズの整備点検は、ピント精度が出ているかどうか、絞り羽根やヘリコイドの動作に問題がないかをチェックする。キモはMTF検査だ。これもドイツとネットワークで繋がり、最新のデータが順次反映されている最新の測定機器がある。この機器を使ったMTF検査にパスしないと、ライカ認定の中古商品につくサーティフィケイト(証明書)が発行できないのだ。
MTF検査とは、レンズが白黒の細かなパターンをどれぐらい分解できるかを見て性能を測るもので、その模様を分解できているか(レンズの解像性能に問題ないかどうか)の判断ももちろんコンピュータが行う。こうして発行される証明書が付く個体は、その信頼性が大きく高まるだろう。
この機器も、レンズに光を入れる部分の首振りこそ自動だが、レンズそのものを回転させるのは手動。あくまで省力化ではなく、結果の均質化が目的とわかる。もうちょっとこう……ボタンをポンと押したら離席中に測定しておいてくれる……みたいな利便性を考えないのもドイツ流なのか。これだと預かり期間もやむなしという感じがする。
おまけ:まだまだあります、マニアックな測定機器
というわけで、Leica Pre-Ownedが標榜する“ドイツ基準”の概要をカスタマーケアからお伝えした。……しかし、普段は見られない非日常空間に筆者とライカユーザーのカメラマンが興奮していたところ「せっかくですから」と、さらにいくつかの面白そうな機器についても解説してもらえた。読者の皆さまにも、もう少しお付き合いいただこう。
注目したのは、ピントリングの重さを可視化するトルク計。全てのMレンズに具体的な数値基準が設けられており、基準値内に収める助けになるという。最も新しく導入された機器だそうだ。
基準値とは「ピントリングが重すぎるのでは or 軽すぎるのでは?」というユーザーの不安を解消するもので、基準値内である=安心して大丈夫、と伝える要素に活用される。もちろん基準は基準なので、心得ている人であれば「より重く」「より軽く」という希望に沿った調整は可能だ。求める粘度に合わせてグリスを調合する様子も見られた。
しかし、例えばフローティング機構を持つ近年のMレンズの場合。トルクが軽すぎると途中でピントレバーの操作トルクに変化があり違和感が生まれる。その場合基準値内に合わせると、その操作トルクの段がグリスの粘度に隠れてスムーズに感じられるのだとか。これは日本のカスタマーケア担当者も「実際に試してみて、なるほどと納得した」という部分。こんなことまで考えているとは正直想像もしなかった。測定時にピントリングを動かすのが人力という部分にも、きっと深い理由があるのだろう。
レンズカムの測定器は、そのレンズをM型ライカに装着して正しく無限遠が出るかを確認するもの。カムとはライカMレンズのピント位置(繰り出し量)をボディに伝える部分で、測定器のマウント内にはM型カメラのように距離計のコロ(ローラーとも呼ぶ)が見えた。これでピントリングを無限遠に突き当てたときの数値が基準内にあるかを確認する。
そして、どうしても覗きたかったのがパーツストックだった。事情により今回はアップの写真だけだが、シャッター速度ダイヤル、ライカM10から搭載されたISO感度ダイヤルなど、機種ごと、パーツごとに整理整頓されていた。
パーツといえば、古いライカの修理はもれなくドイツ本社送りになるケースが多いという。これにも理由があり、各国で修理できるようにパーツを分散保有すると、枯渇が早くなり、むしろ修理を長く受け付けられなくなる可能性があるからだそうだ。
最後に点検整備をメーカーサポートに任せたい理由をもう一つ。カスタマーケアの入室時には、静電気チェッカーに指を触れ、静電気対策が施されたスリッパに履き替え、帯電防止の白衣(胸にはライカロゴの刺繍)に着替える。預かったカメラに手を触れる場合は、静電気を逃がすバンドを腕に巻く。
これらは電子部品の「静電破壊」を起こさないために必要で、あらゆる電子部品を扱う工場などでも徹底されている常識的なことだ。ライカの場合、カスタマーケアの特定のエリア以外でトップカバーを開けたものは、内部回路に静電破壊が起きている可能性があることから“社外分解品”という扱いになり、保証は受けられなくなる。
修理費用や預かり期間を気にして、「これぐらいなら自分で調整できそう……」と魔が差すケースもあるかもしれないが、それほど大事なものだからこそ、無闇に手を出すのはやめよう。そして、そのような個体がシレッと放流されている可能性があるのが中古カメラの市場なのだ。
「安心できる店」を勧める理由
実際のところ、中古ライカで“いい買い物”をするのは意外と難しい。これは筆者の体感だが、インターネットの普及で相場価格が可視化され、もはや中古ライカに掘り出し物はないと思ったほうが安全だ。安いと思っても、だいたいワケがある。
先に触れた静電破壊のことはもちろん、例えば中古のフィルムライカを手に取って、ネジの周辺に傷が付いていたとする。それはドライバーの扱いに慣れていない一般ユーザーが分解したカメラである可能性があり、精度は不安だし、大事なパーツが欠けているかもしれない。こうした危険サインを知らないと、撮影もロクにできない個体を掴まされてしまう恐れもある。外観写真だけで判断する個人売買などは、目の肥えたカメラマニアでさえも失敗覚悟の“賭け”なのだ。
そうしてもし状態の悪いライカを掴んでしまったら、そもそも楽しくないし、なんなら時間もお金も余分にかかり、新品を買ったほうが安かったというケースも起こりうる。尻込みする理由が値段だけなら、そこは多少高くても手堅いものを選ぶことをオススメしたい。
自分が本当に欲しいのは、単に安く買えるライカなのか、安心して撮影を楽しめるライカなのか。買い物にコツがあるとしたら、その意志をブラさないことが大事だ。その時、Leica Pre-Ownedはかなり良い選択肢に食い込んでくるのは間違いない。それは見方を変えれば、新たにライカを始めたい人達にも安心して薦めやすい買い方なのだ。
写真撮影:藤井智弘