PENTAX Qで「オート110」用レンズを使う
110(ワンテン)フィルムは、1972年にコダックが開発したカートリッジフィルム。画面サイズは13×17mmで、ポケットに入る超コンパクトカメラと同時に誕生した。カメラ本体は横に長い箱形で、ポケットに入るサイズであることから、ポケットカメラと呼ばれていた。ほどなく、フジ、コニカや、キヤノン、ミノルタなど、国内メーカーが参入。110カメラブームが巻き起こった。
ペンタックスオート110は1979年にペンタックス(当時の社名は旭光学)が発売した110フィルムを使う一眼レフカメラ。当時、一眼レフカメラ専業だったペンタックスが「110カメラを作るなら一眼レフしかない」という意気込みで開発した世界初&唯一のレンズ交換式110カメラだ。
写真を見れば分かる通り、35mm一眼レフをそのままギュっと縮めたようなデザインを採用。全部で6本の交換レンズのほか、ワインダーや専用ストロボ、クローズアップレンズ、フィルター、フードなど35mm一眼レフ顔負けのアクセサリー群も用意。いわば110フィルムを使うシステムカメラだ。また、それまでの110カメラと大きく違うのは写りの良さ。本格的なレンズ設計で、「小さくて手軽に使えるけれど写りはそれなり」という110カメラの常識を覆した。
PENTAX Qは、「オート110のデジタル版」というアイデアから誕生した製品だ。フィルムとデジタルの違いから、今のPENTAX Qにオート110の面影を探すのは困難だが、世界最小のレンズ交換式カメラという意味で、オート110のDNAはしっかり受け継がれたと言えるだろう。
今回紹介するアダプターは、オート110用レンズをPENTAX Qで使うためのアクセサリーだ。オート110の製造が中止されてからすでに20年以上経つが、中古市場には意外と商品が多く出回っている。ただ最近ではフィルムの入手が困難になり、ペンタックスオート110を含め110フィルムを使うカメラ全体の人気は下降ぎみだ。だが、このアダプターの登場で、オート110用交換レンズにスポットライトが当たることになった。
PENTAX Qのセンサーは1/2.3型。オート110より画面が小さいので、画角が狭くなるのは避けられない。たとえばオート110の標準レンズである24mmをPENTAX Qに取り付けたときの画角は35mm判の132mmに相当。いずれにしても、どのレンズを選んでも望遠撮影専用になる。
しかしオート110用レンズの開放F値はF2.8に統一されているので、大口径望遠レンズとして利用可能だ。またペンタックスオート110のシャッターはシャッター幕が絞り羽根を兼ねたビハインド式。そのためレンズ側に絞り機構がなく、アダプター使用時は常時絞り開放になる。要するにオート110用レンズは被写界深度の浅い表現にぴったりということだ。
PENTAX Q(左)とペンタックスオート110 | キポン オート110→P/Qアダプター。中国のマウントアダプター専門メーカーキポンが製造。非常に丁寧な作りで、110レンズが気持ち良くロックされる。日本での代理店は焦点工房。発売日、価格は未定 |
■撮影モードについて
P、Tv、Av、BC、SCN、AUTOいずれのポジションにモードダイヤルをセットしても、アダプター使用時は絞り優先AEになる。Mではグリーンボタンを押すシャッタースピードが変化して適正露出になり、このとき電子ダイヤルを操作すればシャッタースピードの変更が可能。露出補正を多用する撮影にはMが便利だ。もちろん動画撮影にも対応している。なお開放絞り専用なので、ISOを高感度にセットしておくと露出オーバーになりやすい。実際の撮影ではISOオートで使うのがお薦めだ。
アダプター使用時、シャッターは電子式になるので、被写体が露光中に動いたりカメラブレを起こすと、被写体が歪んで写る、いわゆるコンニャク現象が起きる。三脚を使えば、ある程度抑えられるが完璧ではない。このあたりの欠点を理解したうえで、楽しむとよいだろう。
■ピント合わせについて
マウントアダプターを使うときは、フォーカス設定メニューでMFアシストをオンにする。このとき、OKボタンを押すと画面が拡大されるが最大拡大倍率は4倍なので、ピント合わせは意外と難しい。撮影倍率をもっと上げるか、新製品のK-01に搭載されたピーキング機能が欲しいところだ。アダプター使用時の手ブレ補正機能とともに、ファームウェアのアップで何とかならないものだろうか。
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
・ペンタックス110 18mm F2.8
オート110では35mm判の35mmに相当する広角レンズ。PENTAX Qに組み合わせると約100mmの中望遠レンズになる。なお18mmにはパンフォーカス撮影用にピントを固定式したPFレンズもあるが、絞り開放だとピンボケになるので今回は除外した。
以前マイクロフォーサーズで使ったときもそうだったが、このレンズは解像度がそれほど高くなく画面全体に柔らかな印象になる。シャープさを望むならRAWで撮って現像時に調整すると良いだろう。ボケ味は自然で好感が持てる。
・ペンタックス110 24mm F2.8
オート110用標準レンズ。PENTAX Qと組み合わせたときの画角は約132mmに相当し、フィルム時代の定番だった135mm望遠レンズと同じ感覚で使うことができる。ディストーションがなくボケ味もキレイ。最短撮影距離が35cmと短くマクロレンズとしても役に立つ。
・ペンタックス110 50mm F2.8
オート110用中望遠レンズで、PENTAX Qに組み合わせると275mm相当の望遠になる。解像度が高くPENTAX Qとの相性が良い。最短撮影距離は0.9m。それほど被写体に近づけないが、焦点距離が長いので、高い撮影倍率を活かしてマクロレンズ的な使い方もできる。
・ペンタックス110 70mm F2.8
最も焦点距離が長いオート110用レンズ。PENTAX Qに組み合わせると385mm相当の超望遠レンズになる。色収差が目立つが、コントラストが高く解像力も優れている。
・ペンタックス110ズーム 20-40mm F2.8
オート110用で唯一のズームレンズ。35mm換算で110-220mmの望遠ズームになる。以前マイクロフォーサーズに組み合わせたときは像面彎曲のため良い結果が得られなかったが、センサーが小さいPENTAX Qなら画面全体に均一な画質が得られる。
ただし像はかなり軟調で、まるでソフトフォーカスレンズのよう。今回試写した5本のレンズの中で、使って楽しいレンズの筆頭と言えるだろう。
■「Auto110モード」の実験
PENTAX Qにはスマートエフェクトという通常とは違った色合いの写真が撮れる機能がある。この中に含まれる「Auto110モード」を選ぶとトイカメラのようなフィルム調の仕上りになる。Auto110の名を冠しているがトイカメラの代表として名前を借りただけで、実際のAuto110の写りを忠実に再現したわけではないらしい。だが名前が同じということで、ホントの110レンズで写した画像と、PENTAX Q用レンズで撮影しAuto110モードで仕上げた画像を比べてみた。
具体的には、彩度+3、キー+3、コントラスト-4、シャープネス-3に設定される。色相は3段階で調節可能だ。簡単に説明すると、色みを鮮やかにすると同時に画質を軟調にすること。いわばカラーネガからプリントしたような写真になる。今回の実験ではAuto110モード1と3がオート110レンズで撮影した画像に近いものとなった。
ペンタックス110レンズでAuto110モードを選択。もともと110レンズの画質は軟調なので、色味だけが変化したという印象になった。
2012/2/14 00:00