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NASに保存した写真データを効率的に管理…「Synology Photos」先行レビュー
高速でのサムネイル表示に便利な自動アルバム機能、そして強力なスマホも連携
2021年6月2日 09:45
写真や動画の保存先にみなさんはどのようなストレージを使っているでしょうか? 多くの人は外付けHDDかオンラインストレージを使っていると思いますが、ここ数年写真を多くとる人たちに注目されているのがNASによる写真管理です。
外付けHDDは導入も簡単で手軽に大容量のデータを保存できる一方で、大量の写真を効率的に管理するには専用のアプリケーションとそれを使いこなすスキルが必要です。また、万が一の事態に備えて日々のバックアップも欠かせません。
クラウドストレージを利用する場合はクラウド側で写真を自動でアルバム化してくれたり、AIによる分類をしてくれて便利ですが、無料で使える容量はごく僅か。特に1TBを超える大容量の写真をクラウドで管理するためには年間1万円以上の出費と高速なインターネット環境を用意しなければなりません。Googleフォトの無制限アップロードが終了されるというニュースも記憶に新しいです。
最近注目されているNASによる写真管理は外付けHDDとクラウドストレージのハイブリッド的な存在であり、両者のメリットをバランス良く持っていることが特徴です。NASに搭載されるアプリケーションの進化スピードも速く、例えばSynology社の Synology Photos というアプリではまるでクラウドストレージに写真を預けているかのように大容量の写真を管理出来てしまうのです。今回は快適な写真管理を手軽に実現できるSynology Photosについて深掘りしながら紹介していきたいと思います。
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Synology Photosとは
Synology Photosについて説明する前に「Synology」について簡単に紹介しましょう。
現在、世界中には様々なNASメーカーが存在しますが、その中で世界シェアトップレベルの実力を持つのが台湾に本社を置くSynologyというメーカーです。CP+にも積極的に出展するなど写真の管理にも強みを持っており私個人もかれこれ5年ほどSynologyのNASをメインストレージとして使用しています。
SynologyのNASで使える写真管理用のアプリ(Synologyでは「パッケージ」といいます)はこれまで「Photo Station」と「Moments」という2つのアプリがありました。
Photo Stationは写真の詳細なフィルター機能などに優れる一方、設計がやや古く玄人向き。
Momentsはタイムライン生成機能も備え手軽に使える現代的な設計ですが、詳細な設定がしづらいためライトユーザー向けという印象でした。
新たに登場したSynology Photosは Photo StationとMomentsのいいとこ取りをしたアプリです 。これからはじめてSynology Photosを使う人はもちろん、これまでPhoto StationやMomentsを使っていたユーザーでも簡単に乗り換えして快適に写真管理をすることができるのです。
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充実したスマホとの連携
後で詳しく紹介しますがSynology Photosには専用のスマホ向けアプリ(iOS, Androidに対応)も用意されているので スマホとの連携も簡単です 。
NASに保存されている写真を閲覧することはもちろん、新規にアルバムを作る、家族や友達と共有する、スマホで撮影した写真をバックアップするなどかなり完成度の高い使いやすいアプリに仕上がっています。
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今回のレビューで使用した機材
前置きが長くなりましたがここから実際に私がSynology Photosを使ってみた印象を含めながら詳細な機能や便利な使い方などについて紹介していきます。
今回使用したNASはDS720+という2ベイの機種で、HDDはHAT5300 8TBです。なんとこのHDDはSynologyのNASに最適化したSynologyブランドのHDDです。24時間運用可能な耐久性を持つのはもちろん、NASのOSアップデート時にHDDのファームアップを行うことができ、常に最高のパフォーマンスを発揮できる設計となっています。
もちろんWesternDigitalやSeagateなど一般的なHDDを使う事もできますが、NAS本体からアプリケーション、ストレージまで すべて自社ブランドで揃えられるというのもSynologyの強みです 。
また、DS720+にはHDDとは別に超高速なNVMe SSDをキャッシュ専用ストレージとして利用することも可能です。今回はSynology製のSNV3400も使用しました(一般のSSDを使う事も可能)。
なお、今回のレビューはSynology Photosのβ版を用いています。正式版とは一部挙動が異なる部分がある可能性がある点にご注意下さい(OSもDSM 7.0 β版を使用しています)。
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はじめてでも分かりやすい直感的なUI
Synology PhotosのUIはとても分かりやすく、写真をアップロードすると写真の撮影日に応じたタイムライン表示がデフォルトになります。Googleフォトなど多くのクラウドストレージでもタイムライン表示が主流ですのではじめてでも直感的に操作できると思いますが、次の3つの概念を覚えておくとより効率的な管理が出来るでしょう。
なお、これから紹介する機能は注意書きが無い限り、パソコン(ブラウザ)版、スマホ版両方で使う事ができます。
1.「タイムライン表示」と「フォルダ表示」
デフォルト設定では「タイムライン表示」となるSynology Photosですが、ディスプレイモードを「フォルダ表示」とすることでNAS内に存在する実フォルダベースの表示で閲覧できます。これにより WindowsのエクスプローラーやMacのFinderを使っているような感覚でSynology Photosを利用できます 。従来のPhoto Stationユーザーやいままで外付けHDDでフォルダ管理していた人にも馴染みやすい表示です。
2.「アルバム」は仮想のグループ
Synology Photosで効率的に写真を管理、閲覧するときは「アルバム」機能の活用がポイント。画面上部(スマホ版では下部)にある「写真」と「アルバム」のタブを切り替えるだけで利用できます。
写真をフォルダ管理する場合、あるテーマのグループを新たに作る時は新しいフォルダを作り、そこに元データのコピーを作って保存するという煩雑な操作をしなければなりませんが、「アルバム」を使えば元データを参照する仮想のグループを作ることができます。
「アルバム」の実態は元データへのリンクの集まりですのでいくらアルバムを作っても元データが増えてNASの容量を圧迫するということはありません。1枚のお気に入り写真を複数のアルバムに含めることも可能です。
Lightroomをお使いの方なら「フォルダ」と「コレクション」、iPhoneなら「ライブラリ」と「アルバム」の関係に似ていると言えます。
3.「共有スペース」と「個人スペース」
「写真」タブでは 写真の表示を「個人スペース」と「共有スペース」で切り換える事ができます 。グループ利用を得意とするNASならではの機能です。
例えば、家族や職場などグループで利用したい写真は共有スペースに保存し、プライベートな写真はユーザー一人ひとりに用意された個人スペースに保管して管理することもできます。従来のPhoto StationとMomentsが融合した機能といえるでしょう。ただし、個人スペースに保管した写真はNASの管理者は見ることができてしまうため完全にプライベートな領域ではない点には注意が必要です。
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高度なフィルター機能も搭載
1万枚を超えるような大量の写真を撮る人の場合、「昔撮影したあの写真がなかなか見つからない……」という状況は日常茶飯事ではないでしょうか。特に外付けHDDでフォルダ管理していると記憶を頼りにひたすらフォルダを開けて探し出すという場合もあるでしょう。
Synology Photosには高度なフィルター機能が搭載されているので 複数のヒントから素早く写真を絞り込むことが出来ます 。
特におすすめなのが「クイックフィルタ」です。これを使えば「2020年にEOS R5で撮影し、レンズはRF 24-70mm F2.8L IS USMで、F値はF2.8 」といった細かな撮影条件を指定して瞬時に該当する写真を絞り込めます。
ファイル名や写真に紐付いているタグ(キーワード)を手がかりにワード検索することももちろん可能です。
ただし、残念ながらフォルダ名を検索にヒットさせることはできませんでした。フォルダ管理する場合はフォルダ名に「○月○日△△旅行」と言った具合に手がかりになり得るワードが入っていることが多いので今後のアップデートで対応してくれると有り難いですね。
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指定した条件でアルバムを自動生成する条件付きアルバム
クイックフィルタは複数の条件を指定して持っている写真を一時的に絞り込む機能でしたが、同じ機能をアルバムに紐付けて 完全自動でアルバムを作ってしまう便利機能も存在します 。それが「条件付きアルバム」です。
アルバムタブの+アイコンで「アルバムを作成するための条件設定」を選択し、クイックフィルタのような 条件を設定しておくと、条件に合った写真を自動でまとめてアルバムにしてくれるのです 。ある程度決まった条件で撮影することが多い人にとってはかなり便利な機能といえるでしょう。
ただしタグ情報は手動で入力する必要があります。日頃からコツコツ情報を入力しておくのが重要です。Lightroomから書き出した画像の場合はキーワードがタグとして認識されます。将来的には画像認識などで自動でタグ付けまでやってくれると嬉しいですね。
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高い顔認識精度で人物写真も自動アルバム化
Synology Photosには自動顔認識機能も搭載されています。顔認識機能はデフォルトではOFFになっていますが設定から「顔認証を有効にする」にチェックを入れることで保存されている写真に顔が含まれているかどうかチェックしてくれます。
しばらく経ってからアルバムタグの「人々」というアルバムを見てみると人物ごとに写真がまとまっているのが分かります。ここでユーザーが正しい名前を入力すれば以後アップロードされた人物の写真は自動で人物ごとに分類されていくという仕組みです。
実際に個人的な写真で試してみたところ、 思った以上に正確な分類ができていました 。大人の顔は小さく写っているものやある程度横から撮影したものでもしっかり認識しています。
子供でも乳幼児の顔の場合は誤認識が多い結果となりましたが、ある程度大きくなれば精度良く判別してくれました。
とりあえずチェックをオンにしておけば自動で分類してくれますのでポートレートや家族、友人の写真を多く撮る人は活用してみるのも良いと思います。その他、写真に紐付いたGPSデータによる分類も可能です。
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高速なサムネイル生成でストレスの少ない管理を実現
クラウドストレージに大量の写真をアップロードするとしばらく時間が経たないと写真を見ることができないという状況に陥ることがありますが、Synology Photosではサムネイルの生成速度もアップしているといいます。
今回の環境ではPhoto Stationなど従来のパッケージをインストールすることができないため厳密な比較はできていませんが、私が個人的に使用しているDS1517+とPhoto Stationの組み合わせよりも サクサクと処理が進んでいた印象です 。
試しに333枚(約1.6GB)の写真をアップロードしたところ、サムネイル生成処理は300秒で終了。1枚1秒以下の処理スピードでした。
また、バックグラウンドでサムネイル生成が行われている状態でも一覧に表示される小さなサムネイルはアップロードが終わった瞬間に表示されているのもポイントです。小さな画像でもすぐに表示されるというのは大量アップロード時のストレスを大きく軽減してくれるはずです。
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スマホアプリとの連携
ここまで紹介した機能はパソコン(ブラウザ)版とスマホ版両方で使える機能でしたが、スマホアプリにはスマホならではの機能も搭載されています。それが NASへの自動アップロード機能 。
スマホアプリをインストールし、自動バックアップをONにしておけば写真だけでなく動画も自動的にSynology Photosの個人スペースへアップロードしてくれます。これで万が一の事態にも安心できますし、スマホ写真のバックアップをとるのに有料のクラウドストレージを使う必要もなくなりますね。
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高度な共有機能も搭載
Synology Photosを使えば写真の共有も簡単です。写真単位はもちろん、アルバム単位、フォルダ単位での共有も可能です。写真を選択して共有アイコンを選択するだけで簡単に使う事ができます。
インターネット経由で公開するためセキュリティが気になる人もいるかと思いますが、 セキュリティレベルはユーザーが細かく指定できるので安心です 。NASにアカウントを持っている特定のユーザーやグループに限定してセキュアに共有したり、ログイン不要のパスワード付き公開URLを発行することもできます。
家族や友人間での写真共有に便利なのはもちろん、プロカメラマンでもパスワード付きURLを送ってクライアントへ納品という方法も考えられます。
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ヘビーユーザーは専用アプリと補完しながら使うのがおすすめ
ここまでがSynology Photosの主な特徴になります。しばらくの間実際に使ってみましたが、撮影枚数がそれほど多くないライトユーザーなら撮影した写真をすべてSynology Photosに突っ込んでしまえば管理はそれでOKではないかなと感じる完成度に仕上がっていると感じます。これまでGoogleフォトなどのオンラインストレージをメインで使っていたユーザーならおそらく満足いく体験ができるのではないでしょうか。
ただし、私のような撮影枚数が非常に多いヘビーユーザーの場合はLightroomなど高度な専用アプリと併用しお互いの短所を補完し合うシステムを構築するのが良いかと感じました。
Synology Photosは従来アプリよりパフォーマンスが向上し、今回のDS720+で使用しているSSDキャッシュなどを併用することでかなり快適な動作を実現していますが、WEBベースのアプリなため、Lightroomのようなパソコンの強力な演算能力と大量のメモリー、ネットワークを介さないデータ転送を使える専用アプリに比べれば速度的に劣ってしまい、現状ではできることも限られます(パソコンのスペックにも大きく依存します)。
万枚単位の写真をすべてSynology Photosで管理するというのはあまり現実的ではありません。一方で、操作の簡便さや写真の共有といった機能は圧倒的にSynology Photosが勝っていると感じます。
ハイスペックマシンでLightroomを使っているユーザーであれば撮影してきた元データはSynology Photosとは切り離し、NAS内に用意した別の共有フォルダに保存してLightroom用として運用するのがやはり快適です。Synology PhotosはRAWデータの表示にも対応していますが、未現像の絵がサムネイルになるというのも理由の一つ。
そして、現像が終わったデータを自身の作品集や納品用フォルダーとしてSynology Photosの個人スペースまたは共有スペースに書き出していくというのがおすすめです。
Lightroom内で付けたキーワードはSynology Photosにも反映されるため、Synology Photos用の書き出しプリセットを一つ用意しておけば現像済みデータをどんどん書き出すだけで自動的に自身の作品集ができてしまいます。
条件付きアルバム機能も併用すればさらに管理を自動化できるようになり、世界中どこにいても好きなタイミングで自分のお気に入り作品を見たり、だれかと共有することができるようになるでしょう。
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まとめ
以上、Synologyの新しい写真管理アプリSynology Photosの特徴や便利な使い方について紹介してきました。私はSynology NASのリアルユーザーとしてPhoto Stationを使ってきたのですが、ここ数年はMomentsのあの機能もいいなぁ、でも2つのアプリを使い分けるのも面倒くさいなぁとモヤモヤした思いをしてきたのも事実。
それが今回Synology Photosとして機能統合され、さらに使いやすくなったのはユーザーとしてとても喜ばしいことです。正式版公開が待ち遠しいです。
今回はSynology Photosを使った写真管理だけに焦点を当てて紹介してきましたが、 SynologyのNASにはデータを安全に補完するためのバックアップ用アプリも充実していることも見逃せないポイントです 。
すでにSynologyのNASを使っている人も、これからNASデビューしようと考えている人もさらに使いやすくなったSynology Photosを体験してみてはいかがでしょうか。
協力:Synology