特別企画

カメラマン直伝! 自宅でポートレートライティングを自主練習

光の質と露出のバランスを身につけるために

なかなか外で撮影できない今日このごろ。そんなときこそ! おうちで撮影はいかがでしょうか。家での撮影は、普段できないことをじっくりと試したり、勉強したりするチャンスでもあります。

今回は、(特にストロボを用いて)ポートレートを撮影している人に向けて、私がかつて家でやっていた「光の質」と「露出」を同時に勉強する方法を紹介していきます。

地味な内容と感じてしまうかもしれませんが、撮影の基本のキとなる部分です。こういう内容は書籍などにもたくさん書いてあるのですが、経験上、読んだだけではまったく身につきません。実際に自分でやってみて、体感して、きっちりとデータ取りをすることが大切なので、時間のあるときにぜひチャレンジしてみてください。

セッティング

まず、被写体としてマネキン(インターネットで普通に買えます)を用意します。筆者の自宅にあるマネキンは胸までしかないので、電話台の上に乗せて高さを稼いでいます。謎なビジュアルですがお許しください。また、髪の毛のツヤ感などがわかるように、黒髪のウィッグを被せています。マネキンがない方は、お人形など、代わりになるものを使って試してみてください。

ちなみに、こちらのマネキンは西洋人タイプなので、顔の彫りが深いです。彫りの浅めな日本人よりは、顔に影が出やすくなります。彫りの深いマネキンで練習するときは、そこだけ気に留めておきましょう。

次にカメラのセッティングです。あとで撮影結果を比較しやすくするため、三脚にカメラを固定します。焦点距離は50mmにセット。ISO感度はISO 100、シャッタースピードは1/125秒で固定します。

カメラとは別に、無線で操作できるクリップオンストロボを1灯用意します。ここでは、ニッシンのMG80 ProとAir10s(コマンダー)を使用しています。クリップオンストロボの照射角度は50mmで固定します。

この他、露出計も準備します。ストロボを使用するので、ストロボ光を測光できるものが良いです。今回は、セコニックのフラッシュメイト L-308Xを使います。

フラッシュメイト L-308X

フラッシュメイト L-308Xとは?

L-308Xは、入射光と反射光、双方の測光に対応した露出計です。受光部をスライドするだけで切り替えが可能となっています。定常光のほか、ストロボを使った時の露出も測ることが可能。このほか、静止画撮影向けにフォトモードを搭載しており、シャッター速度優先や絞り優先での数値表示にも対応しています。

解説記事はこちら:いまこそ「露出計」の使い方と基礎を覚えよう!(執筆解説:大村祐里子)

露出を同じにして光の質の違いを知る

それでは、実際に自主練習のメニューを紹介していきましょう。まずは、人物の正面から光を当てていくパターンです。直当てにした場合とバウンスさせた場合、拡散光にした場合の違いをみていきます。

この練習の目的は「光の質」と「露出」を同時に勉強することです。露出は必ず自分で決めた値になるように、光量を調整してください(それも練習のひとつです)。また、光の質を観察するときは、明るくなっている部分よりも「影」がどう出ているかをよく見てください。そして、必ずPCで撮影した写真を確認し、この記事でやっているように並べてみて、それぞれの写真がどう違うかを比較してみてください。

STEP1:ストロボ直当て

まずは、マネキンの正面からクリップオンストロボを直接当てた場合をみてみましょう。

この自主練のポイントは、毎回必ず露出をはかるようにすることです。これを繰り返すことで、光の量を数値で捉えていく感覚が身についていく、というわけです。

では、実際に測ってみましょう。マネキンの、向かって右頬・左頬の中央部あたりがともに「F5.6 0」(5.6コンマ0、と呼びます)になるようにストロボの光量を調節します(「F5.6」はあくまで私の設定です。毎回同じ値になるのであれば、好きな値で構いません。)。

測光方法は、わかりやすい「入射光式」を選択しています。下の写真のように、光の方向に向かって光球を向けて測光します。

以上のステップをふまえて撮影した写真がこちらです。影の出方に注目してください。首の下や背後に、くっきりと強い影が出ています。全体的に、“しっかり、はっきり”と描かれている印象です。

直当て

STEP2:バウンス(反射)

今度は、正面光には変わりないのですが、ストロボを白いものにバウンス(反射)させた光で撮ってみます。ここでは、背後の白い布にバウンスさせています。白壁、白レフ、シーツ、白い服などなど、家にある白いもので代用してもOKです。露出は、先ほどと同じく両頬の中央部がF5.6になるように調整します。

撮影した写真がこちらです。

バウンス

さきほど、直接光を当てたものと顔の露出はまったく同じなのですが、印象がだいぶ異なります。バウンスは、ある程度大きな面を利用した光が降り注ぐので、自然な雰囲気となります。首下や背景の影はかなり薄くなっています。

直当て(左)、バウンス(右)

STEP3:ディフューズ(拡散)+トレペ・ストロボの位置が近い場合

次は、ディフューズ(拡散)光で撮ってみます。ストロボの前にトレーシングペーパー(以下、トレペと表記)を張り、その背後からストロボを照射します。こうすると、トレペで拡散された光がマネキンに当たります。トレペがなくても、薄い白布、ルーセントのレフ、シャワーカーテンなどで代用してもOKです。露出は、同じく両頬の中央部がF5.6になるように調整します。

撮影した写真はこちらです。

直当て、バウンスのときと顔の露出はまったく同じなのですが、印象がまた異なっているのがわかるでしょうか。直当てよりもマイルドな印象ですが、バウンスに比べるとやや芯が残る雰囲気です。

直当て(左)、バウンス(中)、拡散(右)

STEP4:ディフューズ(拡散)+トレペ・ストロボの位置が離れている場合

では、ここでもうひとつ試してみます。トレペ越しにストロボを照射するのは同じですが、今度は、さきほどよりもストロボをトレペから離してみます。

撮影した写真はこちらです。

顔の露出は同じですが、トレペとストロボが近いときと比べて、影がだいぶ和らぎ、自然な雰囲気になりました。

拡散・近い(左)、拡散・離す(右)

こうやってみると、バウンスのときと印象が近くなります。このように、トレペとストロボの距離によっても、光の質が異なってきます。

バウンス(左)、拡散・離す(右)

以上、露出を同じにして、光の角度や質を変えることで、どのような印象になるのかをみてきました。覚えておいてほしいことは、両頬の「露出」を同じにすると「光の質」の違いがよくわかる、ということです。

光の質しだいで、写真の印象が大きく変わることが実感いただけたのではないでしょうか。わたしたちは、思い通りの絵を撮るために「光の質」を学んでいかなければならないということが、実感できます。

露出差と光の質の違いを知る

さて、ここからは「サイドから光を当ててみる」場合のケーススタディです。

ここでの目的は引き続き「光の質」と「露出」を同時に勉強することです。今度は、マネキンの左と右頬の露出が異なるケースです。露出計の扱いに慣れない方は、露出計でしっかりと左右の露出をはかり、その差が「何段」なのか瞬時に計算できるようにトレーニングしましょう。あとは、撮影した写真の露出データは必ずメモしておきましょう。

STEP1:直当て

今度は、マネキンの向かって斜め右上から直接ストロボを照射してみます。

さきほどの正面からの光のときと同じように、マネキンの両頬の露出をはかります。向かって右頬の中央部あたりは、さきほどと同じ「F5.6 0」(5.6コンマ0、と呼びます)になるようにストロボの光量を調節します。

ただし、今度は光が向かって右側から当たっているので、左頬の露出は右頬と同じにならないことはなんとなく想像できると思います。この場合、左頬の中央部の露出は「2.0 5」でした。

右頬は「F5.6 0」で左頬は「F2.0 5」なので、左右の頬で「2段半の露出差がある」ことになります。

撮影した写真はこちらです。左右の頬で「2段半の露出差がある」と、こういった陰影感がもたらされます。直当てという光の質もあいまって、結構、強めに陰影感がついています。

ここで大切なのは「2段半の露出差」がこのくらいの陰影感であると知ることです。そうすれば、撮影する前に、光の質を考慮しながら、左右の頬の露出をはかった段階で「こういった陰影感のある写真に仕上がる」と想像できるようになります。

STEP2:直当て+白布で反対側をおこす

さきほどの写真だと、陰影感がきつすぎると感じる方もいらっしゃると思います。そこで、今度は向かって左側に白布を近づけ、左頬にもう少し光が当たるようにしてみます。白布がない方は、白レフ、シーツ、白い服など、家にある白いものでOKです。

露出をはかってみると、右頬は「F5.6 0」、左頬は「F4.0 2」でした。左右差は「1段弱」まで縮まりました。白布なしのときよりも、だいぶ左頬が明るくなったと推測できます。

撮影した写真はこちらです。左右の露出差が「1段弱」だと、こういった陰影感がもたらされます。さきほどよりもだいぶ左側が明るくなりましたね。でも、1段弱の差でも、意外と左右で陰影感がついている、ということもわかります。

左右の頬で露出差が「2段半」のときと、「1段弱」のときでは、だいぶ陰影感が変わることがわかりました。大切なのは、“露出差がどのくらいあると、どのくらいの陰影感がつくのかを知ること”です。シャッターを押す前に、露出計ではかった段階でそれが想像できれば、次にどうすればよいのか(陰影感がつきすぎるのでレフを入れるか、等)を的確に判断できるので、最終的に撮影がとても早くなります。

白布なし・露出差2段半(左)、白布あり・露出差1段弱(右)

また、陰影感を数値で把握できていれば、別の場所で同じ陰影感の写真を「再現」できます。「このあいだと同じ写真を撮って欲しい」は、プロの現場だとよくあることです。もちろん、これは狙い通りに撮影できてこそ。プロ・アマ問わず、撮影の質を向上させるために、ぜひ気に留めて練習してみてください。

STEP3:バウンス(反射)

今度は、サイドからの光、は同じですが「バウンス光」を使います。写真のように、右側にはった白布に光をバウンスさせてみます。

露出をはかってみると、右頬は「F5.6 0」、左頬は「F4.0 1」でした。左右差は「1段弱」です。直接光+白布ありのときとほぼ同じ露出差です。左側に白布は入れていませんが、バウンス光は光が大きく降り注ぐので、左側も明るくなっていると推測できます。

撮った写真はこちらです。

直接光+白布ありの時とほぼ同じ露出差なので、似たような陰影感がもたらされています。でも、直当てと光の質が異なるので、やや柔らかい雰囲気です。

直当て+白布あり・露出差1段弱(左)、バウンス(右)

ここでわかるのは、「露出差」が同じであれば同じ陰影感がつきますが、「光の質」が異なると、写真の雰囲気そのものは異なる、ということです。

同じ陰影感をつけたい場合でも、ハードな印象にしたいのであれば直当て、柔らかい印象にしたいのであればバウンス、などとイメージに合わせて光の質を使い分ける必要があります。

まとめ

以上、淡々と説明してきましたが、「光の質」と「露出」の基本的な部分がわかっていただけたのではないでしょうか。さらに余裕があれば、ソフトボックス、アートレ越しなど、様々な光の質を試してみるのもオススメです。

特にストロボを用いる場合は、「光の質」と「露出」を理解した上で撮影に臨む必要があるので、わかっているようでわかっていないな、という方は、おうちで過ごす時間でぜひ試してみてください。

ものすごく地味な内容ですが、こういったことの積み重ねが、最終的に現場での撮影スピードやクオリティを高めてくれると思います。

大村祐里子

1983年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。有限会社ハーベストタイム所属。雑誌・書籍での執筆やアーティスト写真の撮影など、さまざまなジャンルで活動。