特別企画
7万円台で買える大口径広角レンズ「7Artisans 28mm F1.4 ASPH」
コストパフォーマンスに優れたライカMマウントレンズ
2019年5月28日 13:56
28mm単焦点といえば、広角スナップに最適な焦点距離と言われている。ライカのQ2しかり、RICOH GRシリーズしかり、広角レンズを搭載した人気のカメラの多くは28mmレンズを採用している。今回使用した7Artisans 28mm F1.4 ASPHは、こうした28mmレンズの中でも格段に明るいF1.4という開放F値を実現したレンズだ。
中国メーカーの侮りがたい実力
7Artisans 28mm F1.4 ASPHの製造元は中国の深圳(シンセン)にある七工匠というレンズメーカー。ライカMマウント対応のレンズのほかにも、ソニーEマウントや富士フイルムのXマウントなどのAPS-C対応レンズなども発売している。
今回使用した7Artisans 28mm F1.4 ASPH以外にも何本かのレンズを使ったことがあるのだが、鏡筒の作り、質感、そして描写力などは価格からは考えられないほどの実力だと感じている。
日本国内での代理店は名古屋に本社を置く「焦点工房」という会社。七工匠の製品以外のレンズやマウントアダプターなどを取り扱う会社で、その製品群はどれも魅力的なものばかりである。
手ごろな価格でF1.4の広角単焦点が楽しめる
ライカMマウントのレンズと言えば価格がびっくりするくらい高額なのが当たり前。ライカ純正のF1.4レンズとなるSUMMILUX-Mでは50万円以下のものなど存在しないのである。
それに対し、7Artisans 28mm F1.4 ASPHは、焦点工房の通販サイトでの価格が7万3,800円(税込)。もちろん、純正レンズとサードパーティー製レンズとの違いといえばそれまでなのだが、この価格ならお試しで購入してみても良いと思えるのではないだろうか。
純正レンズを意識したデザイン
7Artisans 28mm F1.4 ASPHは、9群11枚のレンズ構成で特殊低分散(ED)ガラス2枚と高屈折低分散ガラス3枚を使用している。商品名にASPHの名が冠されているとおり、非球面レンズ1枚も採用されている。
マウントはライカMマウント。ライカMシリーズでの使用が前提のレンズのため、当然、フォーカス機構はMFオンリーとなっている。また、最短撮影距離も0.7mとなる。これはレンジファインダーカメラとなるライカMシリーズでは、ファインダーを覗きながらピント合わせでは0.7m以下の距離に対応できないという特性に合わせたものだ。
コンパクトながら心地よい重さ
レンズの本体サイズは直径60mm×長さ81.5mmで、重さは約490g。MF専用レンズとはいえ、他社のフルサイズ用レンズと比べると驚くほど小さくて軽い。
もともと、ライカMマウント用レンズはマウント径も小さめたのコンパクトなレンズが多いのだが、7Artisans 28mm F1.4 ASPHもそれらと同様にレンズ単体としてはとても小さくて軽い。
しかし、実際にレンズを持ってみるとずっしりと重たく感じる。鏡筒に金属を採用していることと相まって、このずっしり感がとても心地よく感じるのである。
操作系に宿るつくりの良さ
絞りリングはレンズの先端部に装備される。F1.4からF16までの8段階で、1/2ステップや1/3ステップの細かな刻みはなく1段刻みとなる。絞り値の表記にF11がないが、これは印字スペースの問題のようで、実際はF8とF16の間にF11用のクリックがある。絞りリングを廻すと適度なクリック感とカチカチという音がして絞りを変える楽しさを味わえる。
フォーカスリングも適度なトルク感で、MFレンズとしてはトップクラスの廻し心地だと感じる。最短の0.7mから∞(無限)までの角度は90度くらいで、ピント位置を大きく変える場合も何度も持ち直して廻すというほどではない。
絞りリング、ピントリングともに最新のAFレンズでは味わえない楽しさというものがあるのがこのレンズだ。
MFレンズらしくフォーカスリングには距離指標が印字されているのも特徴。
距離は白地のメートルと黄色地のフィートの2種類。日本人にとってはメートル表示だけあればよいのだが、白地と黄色地の色分けがなんともライカレンズっぽい(笑)。
また、距離指標の下には被写界深度確認用の目盛りが書かれている。下の写真でいえば、2mにピント位置を合わせたときに、F16ならば1mちょっとからほぼ∞までピントが合って見えるという意味である。
マウントアダプターでミラーレス機にも対応
7Artisans 28mm F1.4 ASPHはライカMマウント用レンズのため、フランジバックは27.8mm。これよりもショートフランジバックとなるミレーレスカメラであれば、マウントアダプターを装着して使用することができる。
各社のミラーレスカメラでライカMマウントレンズを使用できるようにするマウントアダプターが焦点工房から発売されている。しかも、マウントアダプターに繰り出し用のヘリコイドを装備することで最短撮影距離を0.7mよりも短くすることが可能となるのである。
今回はソニーα7 IIIとニコンZ 6にそれぞれのマントアダプターを装着しての撮影もおこなってみた。
画質チェック
解像力・周辺減光
開放F値となるF1.4からピント面は非常にシャープ。最短撮影距離付近では少し滲んだ感じの柔らかな描写となる印象だが、数mから先の被写体であれば驚くほどシャープに写ってくれる。歪曲収差はほとんど気にならず、建物などを撮っても気持ちよく直線を再現してくれる。
F1.4でも十分に高い解像力は得られるが、細部までをきっちりと再現するならF4くらいに絞ると申し分ない解像力となる。
周辺部の光量落ちだが、空などを撮るとF1.4の開放絞りではやや大きめの光量落ちとなる。F2.8まで絞ると光量落ちはほとんど解消される。
2m程度のススキにピントを合わせて絞りを変えながら撮ってみた。α7 IIIですべて絞り優先AE・1/1,250秒・-1/3EV・ISO 200・ホワイトバランスオートで撮影している。
F1.4ではピントを合わせた前後のススキはボケているがピントを合わせた部分の解像力は高い。F5.6くらいになるとススキの全体にピントが合っているように見える。F8では遠景のビルにほぼピントが合って見える。パンフォーカス的な写真を撮るならF8以上が良いだろう(ただし、イメージセンサーに付着したゴミが目立ってくるので、センサークリーニングなどをまめにおこなうようにしたい)。
周辺部の光量落ちに関してはF1.4ではそれなりに大きく四隅が暗めに見える。F2にするとほとんど気にならないが、厳密に光量落ちが無くなるはF2.8からのようだ。
F5.6に絞り、鉄橋を渡る電車を狙った。MFレンズのため、あらかじめ鉄橋にピンを合わせて撮影している。レンズ自体のコントラストも高く、くっきりとした印象の写真に仕上がってくれた。
大口径ならではのボケ
開放F値のF1.4を使用すれば、スナップでも背景を大きくボカすことできる。ただし、28mmという焦点距離のためボケが大きすぎて背景に何が写っているか分からない、というようなボケにはならない。むしろ形をしっかりと残しつつ、ピント面との落差で立体感を感じさせてくるという印象だ。
標高の高いところにいったら5月でもまだ桜が残っていたのでマウントアダプターSHOTEN LM-NZ M (EX)を使いZ6で撮影した。若干、風に揺られてピントに不安があったため、F2.8に絞って撮影している。最短撮影距離付近でも、F2.8まで絞ると極めてシャープな描写となる。背景の自然なボケと相まって、ピントを合わせた桜の花が浮き立つような立体感で描写された。
マウントアダプターでぐっと寄る
レンズ自体の最短撮影距離はライカMマウントのため0.7mとなっているが、ヘリコイド機能付きのマウントアダプターを介して、ソニーのα7シリーズやニコンZシリーズに装着すれば、最短撮影距離を大幅に短縮できる。当然、ボケ量も多くなるので、28mmとはいえマクロレンズのようなボケの写真を撮ることが可能となる。
Z 6にSHOTEN LM-NZ M (EX)を使用し7Artisans 28mm F1.4 ASPHを装着。ヘリコイドを繰り出さない状態と、繰り出し量を最大にした場合の比較だ。繰り出し量を最大にすると20cm程度の距離での撮影が可能となる。被写界深度は極薄となるが、M型ライカのレンジファインダーでは撮れないような写真を撮ることができるようになる。
夕暮れ時のタンポポ。α7 IIIにSHOTEN LM-SE Mを装着してヘリコイドの繰り出し量を最大にして撮影。この距離になるとカメラのピーキング機能を使ってもほぼ正確なピントを検出することができず、微妙に距離を調整しながら何枚も撮った。ピント面から微妙にずれた位置にあるボケが滲んだようでとても印象的な写真となった。
画質総評
比較的手頃な価格のレンズだが、描写力は申し分ない。F1.4の開放からピント面はシャープだし、周辺部がイヤな流れ方をすることもない。ただし、周辺の光量落ちに関してはF1.4では比較的顕著に見られる。
カメラとの接続に電子接点がなく、カメラ側が光量落ちなどを自動補正することもないため、レンズの性能がそのまま写るという状態だ。
とはいえ、この手のレンズにおける周辺の光量落ちは、マイナス要素というより、人によってはむしろプラスといってもよいだろう。明るい単焦点レンズならではのクセを活かした写真を撮るという意識のほうがより楽しめるからだ。
F5.6くらいまで絞るとパンフォーカスレンズ的な使い方もでき、被写界深度が深くなることも相まって、画面全体が引き締まったようにキリっとシャープに写ってくれる。ボケに関しては、ピント面前後のボケは柔らかく滲むような印象。
遠景のボケは絵柄によってはやや主張の強さが感じられることもある。基本的にはF1.4の絞り開放を多用しながら、被写体によってはあえて絞るという使い分けをすればよいだろう。
作品
日没直後の空をバックにススキを狙った。F1.4での撮影のため画面周辺部の空がいい感じに光量落ちしてくれた。
カメラのピーキング機能を使いながら猫の瞳にピントを合わせた。F1.4の開放でここまでシャープに写してくれればいうことはない。とろけるようなボケというよりは、やや主張が強い感じとなった。
28mmの広角表現とF1.4の開放F値とが相まって、独特の距離感が感じられる仕上がりとなった。連続的に変わる手すりのボケ感が特徴的。
F5.6まで絞った遠景。画面の隅々まできっちりと描写されており、均一性が感じられる仕上がりとなった。
駅舎の窓から見た景色。形を残したボケが立体感を感じさせてくれる。ハイライトからシャドーまでのトーンも申しぶんない。
まるでオールドレンズで撮ったような優しい描写が魅力。それでいて、ハイライト部ににじみなどはまったく見られない現代レンズの高性能ぶりが感じられる一枚。
日没まぢかのどんよりとした空気感を上手く再現してくれた。ピントは手前の草に合わせたが、後ろの水辺はもうボケの領域にはいっている。広角レンズでのこのボケ感が、撮っていて楽しくなる。
至近距離の被写体にピントを合わせたときの中距離のボケにこのレンズの面白さを感じる。ボケによって背景が消えてしまうのではなく、ある程度の存在感が感じられるボケになるようだ。
同じような距離に密集した菜の花の描写がとても面白い。ピント面の直近の前後がにじむようなボケとなるのがこのレンズの特徴であって、魅力と言える。
背景に見える木々の木漏れ日は、少し楕円形の丸ボケとなっているが、F1.4の開放でこの丸ボケなら合格点と言って良いだろう。
喫茶店での一コマ。アイスコーヒーのグラスに付いた水滴、その後ろにわずかに差し込む日差し、そして背景のボケと、三拍子揃った素敵な描写を見せてくれた。
まとめ
このレンズをライカM10に装着して使っていると、まるでライカ純正レンズを使っているかのような気分になってくる。それはデザインだけでなく、フォーカスリングや絞りリングの質感、そして写りそのものがM型ライカにつけて使うに値すると感じるクオリティだからだ。
逆に、マウントアダプターを介してミラーレスカメラに装着すると、近距離撮影に強くなることもあって、遊び心いっぱいで撮影に臨める。オールドレンズをつけて撮るような気分でいながら、実はピント面のシャープさや画面全域での描写力の高さなど、現代レンズとしての高い実力を味わえるのがアンバランス感が不思議な魅力として成り立っていると感じる。
これほどまでに魅力のあるレンズが10万円を大きく下回る価格で手に入るというのは驚き以外の何者でもない。ライカユーザーにもミラーレスユーザーにも、お勧めしたい単焦点レンズと言えるだろう。
お知らせ
焦点工房によると、近日にも7Artisans 28mm F1.4 ASPHの“ミラーレスカメラ向けバージョン”を販売するとのこと。フルサイズミラーレスカメラのイメージセンサーに最適化された製品になるようだ。現行のMマウント専用タイプと比べて、周辺部の画質が向上しているという。
制作協力:株式会社焦点工房