特別企画
今年こそ上手に撮りたい人のための「花火撮影講座」
必要な機材は? カメラの設定は? 三脚の使い方も伝授
2017年7月19日 07:00
今年も夏の花火の季節が到来しました。でも、意外に知られていないのが花火の撮り方。必要なものは? カメラの設定は? どんな構図にするの?……というわけで、花火写真家の金武武さんに花火写真の撮影法を解説してもらいました。(編集部)
※掲載した撮影画像には若干の補正を加えています。
花火撮影に必要なものとは?
カメラとレンズ
撮るだけならスマートフォンでも無理やり撮れますが、自分の見た通りに美しく撮りたいのなら、一眼レフカメラやミラーレスカメラといった、レンズ交換式のカメラが有利です。レンズ交換式のカメラならば画質が良いのはもちろん、自分の撮りたいイメージに合わせ、超広角レンズから望遠レンズまで様々なタイプのレンズが使用できます。
三脚と雲台
花火の撮影では、三脚と雲台は欠かせない機材です。三脚はシッカリしたものが良いです。
可能であれば自由雲台よりもパーン棒(パーンハンドル)で操作できる3ウェイのタイプの方が良いでしょう。花火の撮影では縦位置・横構図の両方で撮ります。そのとき、自由雲台だと両手で操作しなければならず、カメラを水平にセットするのに少しだけ手間がかかります。パーン棒タイプならば片手で操作ができ、スムーズに撮影の準備ができます。
三脚を選ぶときは自分の身体(身長)に合った三脚を選びましょう。脚を伸ばしてカメラを雲台に乗せた時に、カメラが目の前に来る三脚が自分の身体に合った三脚だと言えます。なぜなら、目線よりも下にカメラがある場合、カメラの操作をする時は花火から目を離しカメラの操作をすることになるからです。これではタイミングを逃してしまいます。
このとき三脚のエレベーター(中央のパイプ)を伸ばして高さを調整することもできますが、カメラマン席や観覧席などでの至近距離で撮影していると、花火の振動で客席が揺れることがあります。三脚を使用していてもブレることがあるのです。
特にエレベーターを伸ばせば伸ばすほどブレが大きくなります。撮影中は気が付かないのですが、パソコンのモニターで拡大するとブレに気が付くことがあります。花火の撮影ではできるだけエレベーターは伸ばさない方が良いのです。三本の脚だけで高さ調整ができた方が安心です。
しかし、遠く離れた花火を撮影するならばエレベーターを使用してもブレの影響は少ないでしょう。
ケーブルレリーズ
カメラボディにケーブルでつなぎ、シャッターを切るためのアクセサリーです。メーカーによってケーブルレリーズ、リモートコード、リモート―コマンダーなど名称が違います
上級機種にはタイマーが付いているタイプがありますが、花火の撮影ではシャッターボタンとロック機構のみのシンプルなタイプで十分です。ケーブルが長めだと使いづらいことがありますので、短めのケーブルが良いでしょう。
なぜ三脚が必要なのか?
ここ数年、各カメラメーカーの努力により手ブレ補正機能がアップしました。また高感度の画質が向上し、夜景が手持ちで撮れる時代になりました。では花火も手持ちで撮れないのでしょうか?
花火の撮影は、花火の開花に合わせてシャッター幕を自分で開け閉めして撮ります。例えば、中型の4号玉の単発打上花火だと4〜6秒程度、大きな尺玉だと8〜10秒間、三尺玉になると20〜30秒間、シャッターを開けなければ花火全体が写りません。
これだけの長時間を手持ちで撮るとなると、手ブレ補正機能があってもブレてしまいます。しかし三脚があればカメラを固定できるので、ブレることなく撮れるわけです。花火の撮影にとって三脚と雲台は必需品なのです。
カメラの設定は?
感度
花火は非常に明るい被写体なので、ISO100またはISO200などの基本の最低感度にします。ただし、拡張機能で常用感度以下に下げることはおススメしません。
絞り
ISO100の場合はF13、ISO200の場合はF19にします。また、ISO100 でND4フィルターを使用するときと、ISO200でND8フィルターを使用するときにはF8にします。
花火は暗い「和火花火」から明るい「銀冠菊」まで様々な明るさがあります。上記の絞りで撮影すると適正露出で撮れる花火もありますが、「和火花火」などの暗いタイプは露出アンダーになります。また、「銀冠菊」などの明るいタイプは露出オーバーになるでしょう。
撮影直後に液晶モニターで確認し、露出オーバーまたはアンダーだと感じたらすぐに絞りを1段変えて次の花火を撮りましょう。適正露出で撮るためには、その都度花火の明るさに合った絞りを選択する必要があります。花火の明るさは煙火(えんか)店によっても違います。例えば青い花火でも暗いタイプと明るいタイプを作る煙火店があります。
花火は非常に明るい被写体です。露出オーバーを防ぐために絞って撮影しますが、回析現象が出てしまうことがあります。露出オーバーと回析現象を少しでも防ぐためにNDフィルターの使用をおススメします。最低感度がISO100のカメラにはND4、同ISO200のカメラにはND8フィルターが良いです。
ホワイトバランス
花火の種類によって2つのホワイトバランスを切り替えて撮影します。色鮮やかな花火は、「電球」または色温度設定3,200K。錦冠菊や和火などは、「晴天」または色温度設定4,500K〜4,800K。切り換えが難しい場合は色温度設定3,800Kにしてみましょう。オートで撮るよりはきれいな色で撮れます。
ピント合わせ
最初に上がるスターマインにAFでピントを合わせます。すぐにMFに切り替えれば、後の花火は全てピントが合った状態で撮れます。このような「置きピン撮影」をおススメします。
長秒撮影時のノイズ低減
60秒以内の撮影でしたらOFFで良いでしょう。60秒以上開ける場合にはONにします。ノイズが気になるようならONにします。
手ブレ補正
花火の撮影は三脚を使用しますのでOFFにします。
ケーブルレリーズを使おう
花火の撮影はシャッターをバルブやタイムにし、1秒以上の長時間露光(長秒撮影)を行います。カメラのシャッターボタンを指で押して撮影すると、指の振動が伝わってブレの原因になります。そこで、ケーブルレリーズ(リモートコード)を使用すればブレを防げます。
スマートフォンをリモコンの代わりにして撮影できるカメラもあります。しかしスマートフォンの場合、常に片手で持っていなければならずカメラの操作をするときには邪魔になってしまいます。
ポケットに入れたり何処かに置けば良いのですが、花火大会での撮影中では、その動作の時間も煩わしく感じます。現状ではケーブルレリーズを使用したほうがスムースに撮影できると感じます。
単発打ち上げを撮るときのシャッターボタンを押すタイミングは、花火が打ち上がると同時にシャッターボタンを押し、花火が上空で消えるのを確認したらシャッターボタンから指を離します。大きな玉だと30秒程度掛ることもあります。
三脚の伸ばし方
大混雑する花火大会では脚を広げたまま脚を伸ばすと、周囲の人やほかの三脚にぶつけてしまうことがあります。三本の脚をまとめた状態で1本ずつ上下に伸ばす方がよいでしょう。
また、三脚にストーンバッグを付けておくと記録メディア、バッテリー、ライトなどを入れておけるので便利です。
三脚のたたみ方
花火終了後は観覧客が一斉に帰ります。暗い会場で周囲に歩いている人がいるところでは三脚の脚を広げたまま畳むのは危険です。まず3本の脚をまとめてから1本づつ短く縮めます。
今回お借りしたベルボンの三脚「プロフェッショナル・ジオV630」は脚部のロックナットの作りが良くできていました。軽い力で緩めることも締めることもできます。各部の動きも滑らかです。設置が短時間でできました。きっと冬の寒さの中でも快適に作業ができるでしょう。
私が10年以上使用している数本の三脚は、緩める時も締める時も思いっきり力を入れて作業しなければなりません。これが当たり前だと思っていましたが今回新しい三脚を試させて頂き、三脚の進化に驚きました。
雲台の使い方
一般的な雲台にはハンドルが1〜3本付いています。ハンドル部をパーン棒またはパーンハンドルと呼びます。左右に動かすことを「パーンする」と言い上下に動かすことを「チルトする」と言います。パーン棒を操作しカメラの向きを調整してから撮影します。
ところで、花火のメイン会場(カメラマン席)で撮影していると花火がほぼ真上で開花する時があります。その時カメラを上に向けると、雲台を一般的な使い方で撮影している場合、パーン棒が三脚にぶつかり、カメラを真上に向けることができません。
そこで、雲台の向きを逆にすればカメラを真上に向けることができます。レンズとパーン棒を同じ向きにするとズームリングを操作した左手で直ぐにパーン棒の操作ができ、素早く撮影に入れます。
花火写真の構図とは?
花火全体
1カ所から打ち上がる花火で、かつ「昇り」と言われる火の筋が付く場合は、縦位置で撮るとバランスの良い構図になるでしょう。
神奈川新聞花火大会で撮った写真です。海上に浮かべた台船から花火を打ち上げています。写真は「緑芯紅牡丹花火」の単発打上です。筒場(打上場所)から「昇り」を伸ばしながら上昇し、到達点に達した時に開花します。下側は海を入れ上側は花火の上部が切れないように縦で構図を作りました。
露光時間は花火のタイミングに合わせバルブで9秒間かかりました。夜景や建物などが一緒に写るときには水平を慎重に合わせます。
まとめ
花火の撮影は、構図や露出が決まったら後は花火のタイミングに合わせてシャッターボタンを押すだけです。しかし、最初はピンボケだったり、露出オーバーになったり、タイミングが合わなかったりと失敗することもあるでしょう。
失敗の中でも最大の敵は「ブレ」です。ブレは、三脚があれば簡単に防げます。自分の身長や撮影スタイルに合った三脚を選んでください。
花火会場は暗いため、機材の扱いに慣れてないと戸惑うことが多々あります。初めて花火の撮影に行くならば「1枚きれいな写真が撮れれば成功」と考えましょう。そして経験を積み、カメラや三脚や雲台の扱い方にも慣れてくればイメージ通りに撮れるようになります。
近年、各地の花火大会でカメラマン達のトラブルが増え「三脚禁止」になってしまった会場が出てきています。大混雑する会場では、周囲への気遣いを忘れないで下さい。会場によっては三脚の使用のルールが決められています。事前に大会運営者のWebページなどを確認してください。
おまけ1:混んでいる会場では小さな三脚を使うのも手
混雑している花火会場で三脚を高く立てると、後ろのお客様の邪魔になることがあります。朝一番で会場に行って撮影場所を確保したとしても、自分の後ろにスペースがあるならばそこにはお客様が集まってくることを想像しなければなりません。座って撮影すれば周囲に迷惑を掛けることが無くなります。
座って撮影すると良いことがいくつかあります。三脚を低くしますので小さい三脚でも使用可能です。機材を運ぶのが楽になります。また、レンズ交換の際にはカメラバックに直ぐ手が届き素早く作業ができます。2時間以上の花火大会でも身体が楽です。
立って撮影したい場合は会場の一番後ろや建物の前、看板の前など後ろに人がいない場所を選んだ方が良いでしょう。
おまけ:縦位置撮影時に便利な雲台もある
横位置で撮影の準備していても、花火によっては縦位置で撮りたくなることがあります。その場合、パーン棒を動かして縦位置にするのですが、一般的な雲台だとカメラの位置が数cm斜め下側にずれてしまいます。
すると、三脚の中心軸からずれてしまうので重たい機材だと安定が悪くなります。しかも、ファインダーを覗くのに屈まなければなりません。超混雑していてお隣さんの肩が未着しているような会場では、ホンの数cm横にズラすことすらできない場合もあるのです。
ベルボンの雲台「PHD-66Q」は、カメラがほとんど移動することなく縦位置と縦位置を切り替えられます。混雑した会場でも快適に撮影が続けられます。
制作協力:ベルボン株式会社