特別企画

海面を滑走するヨットの迫力 日本初開催「アメリカズカップ」撮影記

EOS 5D Mark IV + SP 150-600mm G2の組みあわせをレポート

ソフトバンク・チーム・ジャパンのコードゼロ(前部の帆)には“お父さん”のイラストが。遠くからでもよく目立っていた。ハル(船体)の先端にいるクルーは、ヨットのバランスをとっている。
EOS 5D Mark IV・SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2・1/800秒・F8.0・-2/3EV・ISO400・絞り優先AE・600mm・RAW(DPPにてJPEGに生成)

去る11月19日と20日、博多湾にて「ルイ・ヴィトン・アメリカズカップ・ワールドシリーズ第9戦」が開催された。

アメリカズカップの詳細については文末を見ていただきたいが、「AC45F」と呼ばれるカタマランタイプ(双胴艇)のヨットを用い各国を代表するヨットマンたちがそのスピードを競うレースである。船体中央に装着されたダガーボードにより船体を海面から浮かび上がらせ60km近いスピードで滑走していく姿は力強さと美しさを兼ね備えたものだ。

整然と並ぶレース前のヨット。会場となった地行浜には一目レースを見ようと連日1万人近い観客で賑わった。
EOS 5D Mark IV・SP 24-70mm F/2.8 Di VC USD(Model A007)・1/1250秒・F8.0・+1/3EV・ISO200・絞り優先AE・29mm・RAW(DPPにてJPEGに生成)

今回、日本チームとしては15年ぶりとなる「ソフトバンク・チーム・ジャパン」の参戦と、日本初の開催で大いに注目された。

撮影は、主催者の用意するメディア(フォト)艇から行った。海岸よりもはるかにヨットに近づくことができ、迫力ある写真が撮ることができる。

主催者が用意したフォト艇からインターバル中のレース艇を望む。レース中はここまで近寄ることはできないが、Model A007のズームレンジの広さに助けられた。

大揺れの海上で大活躍の機材たち

持ち込んだ機材は、カメラがキヤノン「EOS 5D Mark IV」、レンズがタムロン「SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2」という組み合わせ。

EOS 5D Mark IVは、人気、性能とも高かったEOS 5D Mark IIIの後継を務める35mmフルサイズイメージセンサーを搭載するデジタル一眼レフカメラ。約7コマ/秒の連写性能と、より精度の高まったAFに期待した。

キヤノン EOS 5D Mark IV

SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2は、SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD(Model A011)の後継モデル。解像感をはじめとする描写特性の向上、AFの高速化、手ブレ補正の強化などが図られる。ズームレンジの広さも、このレースの撮影に適しているように思えチョイスした。

タムロン SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2

筆者はヨットレースの撮影は今回が初めてであるが、一番の敵が波浪であることを思い知らされた。波が大きいほど風が強く吹いているわけで、それだけ迫力あるシーンが狙える反面、揺れるフォト艇(3、4トンほどのプレジャーボート)の上ではアングルがまったく安定しないのである。

特に画角が狭ければ狭いほど、その影響は大きく、AFフレームどころかファインダーからも被写体が外れてしまうことも。さらに船上で立って撮影することが困難になることも少なくない。

しかしながら、いったん外れてしまった被写体も、Mark IVは再びAFフレームと重なると間髪おかず速やかに捕捉を再開。ストレスは極めて小さかった。

ライバルと激しく競うソフトバンク・チーム・ジャパン。出場チームは、イギリス、アメリカ、フランス、ニュージーランド、スェーデン、そして日本の6チーム。AC45Fと呼ばれるカタマランタイプのヨットで競う。
EOS 5D Mark IV・SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2・1/400秒・F8.0・-1/3EV・ISO400・絞り優先AE・205mm・RAW(DPPにてJPEGに生成)
船体をダガーボードで浮上させ(フォイリングという)、高速で滑走する様子は、このレースの醍醐味といってよい。船体後方の中央付近に乗っているのはゲストで、ルール上必ず乗船させなければならない。
EOS 5D Mark IV・SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2・1/4000秒・F8.0・−2/3EV・ISO800・絞り優先AE・500mm・RAW(DPPにてJPEGに生成)

ちなみに今回、測距エリア選択モードは、領域拡大AF(任意選択周囲)か、もしくはそれよりも領域の広いゾーンAF(ゾーン任意選択)を状況に応じて使い分けている。

撮影で役に立った機能といえば、ISOオートに関する「オートの低速限界」の設定だ。撮影モードは絞り優先AEとしたが、これは少しでも被写界深度を稼いでおきたかったため。絞り値は焦点距離によって異なるがF5.6からF8としている。

しかしながら乗船しているボートは激しく揺れることも多く、少しでも速いシャッター速度を切ることが望ましい。

そこでISOオートの低速限界は1/1,000秒に設定。これによりシャッター速度が1/1,000秒よりも遅くなると自動的に感度を上げ、1/1,000秒以上の速いシャッター速度をキープする。撮影では、絞り値もシャッター速度も気にせずにすみ、被写体に集中できたことはいうまでもない。

ちなみに「オートの範囲」はISO400からISO6400までとしたが、高感度特性の長けているEOS 5D Mark IVではこの範囲内の感度であれば気になるようなことはないだろう。

「オートの低速限界」の存在を思い出したのは、恥ずかしながら最終日のレース直前で、その使い勝手のよさからもっと早く気付いていればと後悔することしきり。本来、動体撮影はシャッター速度優先AEの使用が定説だが、本機能を活用すれば絞り優先AEでも何ら問題なく撮影が楽しめそうだ。

ニュージーランド艇とイギリス艇が競う。ニュージーランド艇の船体が水面についているが、いうまでもなくフォイリングした状態のほうが水の抵抗が少なくスピードはアップする。
EOS 5D Mark IV・SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2・1/1250秒・F8.0・−1/3EV・ISO400・絞り優先AE・150mm・RAW(DPPにてJPEGに生成)

カメラのヨコ位置とタテ位置でAFエリアおよびAFフレームがそれぞれ別々に選択できることも今回の撮影では重宝した。この設定はAFメニュー4の「縦位置/横位置のAFフレーム設定」で可能となる。ヨコ位置ではハル(船体)に、タテ位置ではセールにピントを合わせることが多かったが、その都度AFフレームの位置を大きく移動する必要がなく、結果シャッターチャンスを見逃すようなことは少ないように思えた。

SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2の選択は、まさに読み通り。ズームレンジの広さ、強力な手振れ補正機構、頃合いのよい大きさ・重さの鏡筒など、このレースのためにあるように思えたほどである。特に広いズーム域はレンズ交換の手間が省けるほか、アングルの自由度も大きい。

また、簡易タイプながら防塵防滴の鏡筒は安心感も高く、多少の波しぶきを被ってもそのまま撮影が続けられたいへん心強く感じられた。このレンズに関しては、新聞社や通信社のカメラマンたちの注目も高く、度々声をかけられたことを付け加えておきたい。

混戦のなかから抜け出す。クルー(乗員)は5名で、それぞれ役割が決まっている。チームワークがレースの勝因を決めることが多い。ハルはカーボン製で全長13.45m、マスト高は21.5m、重量は1.320kg。
EOS 5D Mark IV・SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2・1/1000秒・F8.0・-2/3EV・ISO1000・絞り優先AE・600mm・RAW(DPPにてJPEGに生成)
大きく風を受け、ラダー(舵板)が浮くほど船体を傾けカーブを曲がる。船艇に逆L字となったダガーボードが見える。船尾中央付近に座りクルーにカメラを向けているのはゲスト。
EOS 5D Mark IV・SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2・1/1250秒・F8.0・−2/3EV・ISO800・絞り優先AE・600mm・RAW(DPPにてJPEGに生成)

今回の撮影では幸いにして土砂降りのような雨や波しぶきを巻き上げるような強い風は吹かなかったが、それでもカメラにとっては過酷な状況であったことは間違いない。そのようななかEOS 5D Mark IVもSP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2もトラブルはなく、撮影者の期待に十二分に応えてくれるものであった。

日本で始めて開催されたアメリカズカップ。個人的にも応援していた「ソフトバンク・チーム・ジャパン」の結果は6チーム中5位であったが、上位チームに迫る気迫ある戦いを最後まで見せてくれた。次回の日本での開催は未定であるが、再びカメラを向けられる日が来ることを期待したい。

レース前には日本のエアレース第一人者、室屋義秀氏によるエアショーも開催。会場を大いに盛り上げた。
EOS 5D Mark IV・SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2・1/1600秒・F8.0・−1/3EV・ISO400・絞り優先AE・600mm・RAW(DPPにてJPEGに生成)

世界最高峰のヨットレース、アメリカズカップ

アメリカズカップは1851年、イギリスで最初に開催された歴史あるヨットレース。レース名の“アメリカ”とは、そのときの優勝チーム名である。現在、レースはまず複数のヨットが競う「ルイ・ヴィトン・アメリカズカップ・ワールドシリーズ」、そして「アメリカズカップ・チャレンジャーシリーズ」を経て、勝ち抜いた1チームが前回大会の勝利チームと対戦する本戦へと挑む。今回撮影したのはワールドシリーズ最終第9戦となるもので、2016年11月19日と20日の両日、福岡で開催。アメリカ、イギリス、ニュージーランド、スウェーデン、フランス、そして日本の6チームが出場した。

ソフトバンク・チーム・ジャパン

その名のとおり携帯電話やインターネット関連でよく知られたソフトバンクがスポンサーとなるチーム。過去4回アメリカズカップの出場経験のある早福和彦がセーラー兼総監督としてチームをまとめ、ニュージーランドチームで実績を積んだディーン・バーカーがCEOを兼ねたスキッパーとしてチームを牽引する。ちなみに日本チームのアメリカズカップ出場は実に15年ぶりのこととなる。福岡大会で幕を閉じた「ルイ・ヴィトン・アメリカズカップ・ワールドシリーズ」。ソフトバンク・チーム・ジャパンはシリーズ総合5位の結果に終わったが、同チームの今後の活躍に大いに期待したいところだ。

取材協力:ソフトバンク・チーム・ジャパン

大浦タケシ

(おおうら・たけし)1965年宮崎県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、二輪雑誌編集部、デザイン企画会社を経てフリーに。コマーシャル撮影の現場でデジタルカメラに接した経験を活かし主に写真雑誌等の記事を執筆する。プライベートでは写真を見ることも好きでギャラリー巡りは大切な日課となっている。カメラグランプリ選考委員。