新製品レビュー

ライカT(外観・機能編)

伝統を継承しつつ、スマホ時代をも見据えたシステムカメラ

 ウル・ライカの誕生から今年で100周年を迎えたライカカメラ社は、次々と新製品を登場させている。その中でも注目なのが、新システムカメラ、ライカTシステムの登場だ。

 レンジファインダーのライカMシステム、中判デジタル一眼レフのライカSシステムに続く、3種類目のレンズ交換式デジタルカメラのシステムとなる。その1号機が、このライカT(Typ 701)だ。APS-Cサイズの撮像素子を採用し、ライカMシステムと、APS-Cサイズのレンズ一体型カメラであるライカXシリーズとの中間に位置している。

削ぎ落として生まれた個性

 ライカTは、ボディの造りも操作性も非常に個性的だ。まるでコンセプトモデルを思わせるデザインは、アウディデザイングループとの共同による。無駄を徹底的に省いたシンプルな形は、ライカTの大きな特徴となっている。そのボディは、アルミニウムの塊からの削り出し。継ぎ目のない、いわゆるユニボディだ。表面の仕上げの美しさや、エッジの立ち方は、削り出しならではの仕上がり。ライカのクラフトマンシップが伝わってくる。ホールドするとドイツ人の手に合わせたのか、やや大柄な印象はあるが、ボディにシボ革等がなくても滑ることはない。

 シンプルで美しいデザインを実現するために、バッテリーやストラップも独特だ。バッテリーは底面にカバーは設けず、バッテリーとその部分の底面が一体化されている。そのためグリップ下にバッテリー室があるのを感じさせないほど一体感のある形だ。

ライカTの特徴のひとつ、バッテリー。着脱レバーを回すと、途中まで出る。この状態ではまだ取り出せず、落下もしない。さらにバッテリーを軽く押すと、ロックが完全に解除されて引き抜くことができる。実に凝った造り。バッテリーはボディ底面と一体になった専用品だ。

 ストラップの取り付けも、新開発の「Easy-Click」システムを採用。ストラップを付けないときは、カバーが装着されていて、凹凸をなくしている。そのためライカTが持つシンプルな美しさを損なわない。

 ストラップを装着する際は、付属のピンでカバーを外し、ストラップの先端を差し込むだけ。簡単で確実、さらに一体感のある斬新な機構だ。しかもバッテリーにしてもストラップにしても、差し込んだときの「カチッ」としたクリック感が抜群に心地いい。「メルセデス・ベンツは、ドアを閉めたときの音が違う」と言われることがあるが、ここでもドイツのクラフトマンシップを感じることができる。

バッテリーと並ぶライカTの大きな特徴であるストラップ取り付け部。デフォルトでは、取り付け部にカバーが入っていて、ライカTのデザインを損なわないようにしている。ストラップを付ける際は、付属のピンを穴に差し込みカバーを外し、ストラップの先端を差し込む。ちなみに解除ピンの形もライカTの形をしているのに注目。ストラップはラバー製。しなやかだが、ホコリが付きやすいのが気になる。

タッチ主体の操作体系

 徹底的にシンプルに仕上げたデザインと同じく、操作も徹底的にシンプルにしている。操作部は、ボディ上面にシャッターボタンと同軸にフラッシュのポップアップを兼ねた電源レバー、2つのダイヤル、そして動画ボタン。たったこれだけ。

 基本的な設定は、背面の3.7型液晶モニターによるタッチ操作だ。液晶モニターは130万ドットと、決してドット数が多いわけではないが、明るい場所でも見やすく、解像感も十分だ。

 2つのダイヤルは、外側がプログラムAE時はプログラムシフト、絞り優先AE時は絞り値、シャッター速度優先AEとマニュアル露出時はシャッター速度の設定になる。また内側のダイヤルは、マニュアル露出時は絞り値の設定。それ以外のモードでは、デフォルトはISO感度。だが露出補正やホワイトバランスなど、5種類の機能の割り当てが可能だ。

シャッターボタンを除くと、フラッシュポップアップを兼ねた電源レバー、2つのダイヤル、動画ボタンのわずか4つしか操作部がない。
電源レバーをいっぱいに回すと、内蔵フラッシュがポップアップする。ガイドナンバーは4.5(ISO100)。同調の最高速は1/180秒だ。
AE時は内側のダイヤルはISO感度がデフォルトだが、使いやすいように機能の割り当てができる。ちなみに筆者は露出補正に割り当てることが多かった。

 背面のカメラマークをタッチすると、よく使う機能が登録された「マイカメラメニュー」になる。さらに上のスパナ・ドライバーマークをタッチすると、いわゆるメニュー画面となる。他のデジタルカメラとは異なり、スマートフォンのようだ。画面のスクロールもスマホと同じようにタッチで行う。

レンズ交換式のデジタルカメラで、背面に十字ボタンを持たないカメラは非常に珍しい。カメラマークをタッチすると、よく使う機能を登録したマイカメラメニューの画面になる。
さらにスパナ・ドライバーマークのタッチでメニュー画面になる。メニューはアイコンをタッチしてから機能の選択画面になるものと、タッチする度に機能が変更されるトグル式のものがあり、うっかり触って知らないうちに機能が変わっていないか、設定時は注意が必要。

 マイカメラメニューは、デフォルトでは8種類の機能が登録されている。プラスのアイコンをタッチすれば、メニュー画面から他の機能を追加登録が可能だ。また頻繁には使わない機能は、長タッチするとアイコンがドラッグできるようになり、ゴミ箱マークにドロップすれば削除される。このような操作もパソコンやスマホの感覚だ。

マイカメラメニューは、アイコン長タッチしてからドラッグすることで、アイコンの並びの変更ができる。ここでははじめ左上にあったISO感度を、右上に移動してみた。

 さらにマイカメラメニューは、アイコンの並び順の変更も可能。自分が使いやすいようにカスタマイズできる。使い始めこそ、設定したい機能のアイコンがどこにあるのか探してしまうが、カスタマイズして慣れてくると、指がアイコンの位置を覚えてしまうため、素早い設定ができるようになる。

マイカメラメニューは、プラスのマークをタッチすることで、メニューから機能の追加ができる。ここではオートブラケットを追加した。
あまり使わない機能は、アイコンを長タッチしてからドラッグして、ゴミ箱マークにドロップで削除。とてもわかりやすい。

 AFは11点。タッチAFやタッチAFとレリーズも可能。コントラストAFのみで、AF速度は速い、というほどではないが、特に不満は感じない。シャッターを切ると、静かで響かない。音が気になる場所でも安心して撮影できるだろう。シャッターを切った感触からも、ライカTの造りの良さが実感できた。

AFモードは5種類。スポットAFと1点測距は、AFモード画面から測距点の位置が移動できる。できれば撮影画面から直接タッチで移動できるようになってほしい。タッチAFやタッチAF+レリーズは、三脚使用時に便利だ。

知らずに戸惑う再生方法

 ライカTは、なんと再生ボタンすら持たない。液晶モニターにも再生用のアイコンはない。ではどうやって撮影した写真を再生させるのか。実は液晶モニターを上から下へ、あるいは下から上へ素早く指を動かす。すると再生画面に切り替わるのだ。

ライカTを手にして多くの人が迷うのが、撮影した写真の再生だ。画面を上下に素早くなぞると再生画面になる。個性的な操作だが、慣れるとサッとできて使いやすい。

 再生画面は、または液晶モニターのダブルタップで拡大される。再度ダブルタップすると戻る。または、スマホのように指を広げるピンチ操作でも拡大が可能だ(外側のダイヤルで拡大、縮小もできる)。画面送りも、タッチで可能(内側のダイヤルでもできる)。ライカTは、スマートフォンを使っている人なら、すぐに使いこなせるはずだ。

2本の指で画面を広げると拡大になる。スマホではお馴染みの操作だろう。拡大後も、タッチでスクロールができる。
再生画像の戻る、送る、もタッチで可能。スマホユーザーは迷わず扱うことができる。逆にスマホやタブレット端末を使っていない人には、やや馴染むのが難しい操作かもしれない。
ライカTは16GBの内蔵メモリーを搭載。さらに本体横からSDカードが装填できる。内蔵メモリーのデータをSDカードに移したり、SDカードのデータを内蔵メモリーにコピーすることも可能だ。
ライカTはWi-Fi機能を搭載し、iOSでは「LEICA T app」をインストールすることでライカTと接続でき、iPhone側でリモート撮影や再生などが可能になる。またAndroidでは、無線LANで「Browser Gallery」に転送できる。

アクセサリーも個性的ラインナップ

 ライカTと同時に登場された新EVF「ビゾフレックス」は、センサー内蔵でファインダーを覗くとEVFに切り替わる。さらにGPSのレシーバーも兼ねていて、撮影位置の測位が可能だ。

外付けEVF「ビゾフレックス」を装着。240万ドットで、優れた視認性だ。90度にティルトもできる。
ビゾフレックスを装着すると、GPSによる測位が可能になる。撮影した写真のExifに、位置情報が記録される。

 ボディカラーはシルバーとブラック。シルバーが先に発売され、後にブラックが追加された。ここではシルバーを使用したが、ブラックも精悍な美しさがある。またオプションの「ライカT用スナップ」も用意され、着せ替えのように楽しむこともできる。さらに液晶モニターを保護する「ライカT用フラップ」やホルスターなど、豊富なアクセサリーが用意されているのも嬉しい。

ライカT用のスナップを装着。カラーはオレンジの他、イエロー、ホワイト、ブラックの4色。同色のストラップも用意されている。ライカというと重厚なイメージだが、スナップはポップな雰囲気になる。なお付属のストラップは長さ調整ができないが、オプションのストラップでは調整が可能だ。

まとめ

 最近の日本メーカーのデジタルカメラは、昔ながらのカメラらしい形やダイヤル式の操作にこだわった機種が目立つが、ライカTはその正反対を行くカメラだ。側面がラウンドしたフォルムやクラフトマンシップなど、ライカらしい伝統を継承しながらも、現代だからこそ可能にした斬新な操作性を持つ、個性的なカメラといえる。次回の「実写編」では、実際にライカTで撮影した感想をお届けしたい。

藤井智弘

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になる。現在はカメラ雑誌での撮影、執筆を中心に、国内や海外の街のスナップを撮影。公益社団法人日本写真家協会会員。