新製品レビュー

キヤノンPowerShot G7 X(機能編)

堅実な作り込みを感じるキヤノン初の1型コンパクト

比較的低価格な普通のコンパクトデジカメの売り上げが壊滅的になってしまったのを受け、メーカー各社はより利益率の高い、付加価値を持ったコンパクトデジカメの開発にリソースを割いているのは皆様ご存じの通り。

高倍率ズーム系や水中使用もOKなタフネス系、そして大きめ撮像素子を搭載した高性能系など昔からあるカテゴリーだが、そういった付加価値を持つコンデジの競争が激化している。

キヤノンPowerShot G7 X(以下G7X)は同社がプレミアムシリーズと位置づけるPowerShotシリーズの一員で、ラインナップ的にはシリーズ最上位機種であるPowerShot G1 X Mark II(以下G1X MkII)の下位モデルとなる。

仕様についてはすでに何度か記事になっているが、一応おさらいしておこう。

搭載する撮像素子は有効2,020万画素の1型CMOSセンサーで、それに組み合わされる画像処理エンジンはDIGIC 6。G1X MkIIの1.5型には及ばないが、PowerShot G16などが搭載する1/1.7型に比べると、約2.7倍の面積を持つ。

搭載レンズは24-100mm相当(35mm判換算)の光学4.2倍ズームで、開放値がF1.8-2.8とズーム全域で明るいのが特長。光学式の手ブレ補正機構を備え、NDフィルターも内蔵している。

最短撮影距離はズーム域によって異なり、広角端では5cm、望遠端では40cmとなる。設定可能感度はISO125-12800。動画は1080/60PのフルHD。

左から電源OFF時、ズーム広角端、ズーム望遠端。望遠側へズーミングするほど鏡胴は伸びるが、望遠端でもそれほど長くは出っ張らない。もちろん、レンズ前面には自動開閉式のバリアを備えている。アクセサリー取り付け用のネジなどは見当たらないので、レンズフードやコンバーター類は少なくとも純正では用意されないだろう。

精悍なデザイン

撮像素子の大きさなど、構成デバイス的にはソニーのサイバーショットDSC-RX100(初代、以下RX100)に近いが、G7Xの方が広角側のズーム倍率が高く(RX100は28-100mm相当)、F値も明るい(RX100は1.8-4.9)。この影響もあってか、大きさは3ディメンションともG7Xの方がやや大きく(RX100は101.6×58.1×35.9mm、G7Xは103×60.4×40.4mm)、重い(RX100は240g、G7Xは304g。共に電池とメディア込み時)が、1型撮像素子と明るい4.2倍ズームを搭載していることを考えれば十分に小型軽量といえる大きさ・重さだ。

外装の質感は好感を持てるもので、ボディ下部のレザートーンぽい仕上げはこのカメラの性格にマッチしていると思う。ボディ前側にグリップはないが、背面親指位置にある控えめなフィンガーグリップが功を奏してホールディングは決して悪くない。

モードダイヤルとシャッターダイヤル下部には赤いアクセントラインが入っている。小さいアクセントだが、実物ではかなり目立つ。

オーソドックスで分かりやすい操作系

操作系はボタン配置を含めて比較的オーソドックス。特に独自のお作法などもなく、取説をそれほど熟読しなくても、ほとんどの操作を行なえるタイプだ。

最近の高性能コンパクトデジカメではもはや必須の装備となった感のあるレンズ基部のコントローラーリングだが、デフォルトの「STD」ではプログラムAE時にはISO感度、Av時には絞り値、Tv時にはシャッター速度といったように、モードごとにコントローラーリングの機能が変化する。

レンズ基部のコントローラーリングには菱目模様のローレットが入っており、指かかりは良好。

もちろん、コントローラーリングに他の機能を割り当てることも可能。たとえば「ZOOM」を割り当てた場合はステップズームとなり、1クリックごとに24mm・28mm・35mm・50mm・85mm・100mm相当に変化する。しかも、この場合は電源を切ったときのズーム位置を記憶しているため、たとえば100mm位置で撮影した後に電源を切った場合、次回使用時は電源ON後ただちに100mm位置に自動的にズームする。

これなら「基本的にはなるべく50mm相当で撮りたい」といった単焦点派の人も使いやすいし、撮影中にズーミングしなければずっとズーム位置固定の単焦点感覚で使うことも可能だ。

コントローラーリングの機能は入れ替え可能。

AFはCIPA準拠で0.14秒という高速性を誇り、実使用でもAF速度に不満を持つことはなかった。ただし、マクロに切り替えた場合、遠景には一切合焦しなくなる仕様はちょっと不便。多少時間がかかってもよいから、マクロモードのまま遠景にもピントが合うようにしてほしかった。

メニューの操作レスポンスは良好で、十字キーで素早く操作しても十分に追従してくれる。またメニュー操作はタッチでも可能だが、メニューのUIがタッチ操作には最適化されていない旧来と同様のもののためか、どちらかというと十字キー+セットキーの方がレスポンス、確実性共に上だ。

右手側操作部の各ボタンは大きめで押しやすい。
その右手側操作部にある「RING FUNC.」ボタンはデフォルトではコントローラーリングの機能を変更するためのボタンだが、別の機能を割り当てることも可能。なお「RING FUNC.」ボタンに別機能を割り当てた場合でも、コントローラーリングの機能は撮影メニューから変更することができる。
撮影モードで十字キーの下方向キー「DISP.」を押したときに表示させる項目もアレンジ可能。「1」はDISP.ボタンを1回押したとき、「2」は2回押したときの表示項目。

タッチ操作はAF位置の指定ももちろん可能。タッチシャッターも可能だが、こちらは単独でオフにすることもできる。このあたりの操作ロジックはこなれた感じで使いやすい。

内蔵ストロボはボディサイドのレバーを下げることでパンタグラフ式に立ち上がるタイプ。後幕シンクロや調光補正も可能。G7Xはアクセサリーシューを備えていないので通常のクリップオンストロボはそのまま装着できないが、ブラケット併用のハイパワーフラッシュHF-DC2(内蔵ストロボの光を検知して連動発光するスレーブ式)が別売オプションで用意されている。
モードダイヤルと露出補正ダイヤルは同軸上にある。初期のメーカー貸し出し品は露出補正のクリックがかなり硬かったが、市販バージョンはもう少し柔らかく、なおかつクリックが明確で使いやすくなっている。
操作ボタンはシャッターボタンを含め、すべて同心円状のローレットが施され、高級感を醸し出すと同時に、操作時の滑り止めの役を果たす。
Wi-Fi連動スタート用に専用のボタンをボディ右サイドに備えている。ボタンの上下にプラスネジの頭が見えるが、ネジの表面まで操作ボタンと同様の同心円状ローレットが施されているのは驚く。
インターフェースはA/V OUT兼USBとHDMIの2つ。こうしたカバー内のネジまで同心円状ローレットが施されている。
Wi-FiはNFCにも対応。アンテナが入っていると思われる底部カバーにはNFCのマークが。
十字キー中央の「FUNC.」ボタンを押したときに表示させる選択項目は、自分が必要なものだけに絞り込むことが可能。ここで消した項目は撮影メニューに自動的に追加されるのは賢い。

液晶モニターは“セルフィー”対応

G7Xの液晶モニターは3型TFTの約104万ドット。アスペクト比は3:2だ。チルト式で、可動範囲は約180度あるため、グルりと立ち上げれば表示面がレンズ側になって自分撮りがやりやすくなる。他社のチルト式では2カ所のヒンジを持ったZ型に引き出す形式のものが多いけれど、G7Xの場合は上側ヒンジ1カ所だけのきわめてシンプルな形式。Z型だとちょっとチルトさせたいときにいったん手前方向へ引き出した後にチルトさせなければならないのに対し、G7Xなら何も考えずにチルトするだけ。機構も使い勝手もきわめてシンプルだ。

ただし、そのシンプルさと引き替えに、下方へのチルトは行えず、カメラを頭上にかかげてハイアングルで撮影したいときは液晶の視野角頼りになってしまう。アジア圏を含めた現在のセルフィー(自分撮り)ブームを考えると、ハイアングルの利便性は捨てても自撮りを優先したこの構造は十分「アリ」だと思う。

液晶モニターはシンプルな上ヒンジ式。この構造では下方へチルトは行えないが、使い勝手はきわめてシンプル。ヒンジ部の剛性も2軸ヒンジに比べて高そう。
液晶モニターは約180度回転するので、構図を確認しながら自撮りできる。ズームの広角側が24mmからなのも自撮りには好都合だ。
液晶モニターを自撮り位置にした場合、表示の左右を反転できる鏡像表示を行なうことも可能。
電池室はメディアスロットと兼用。メディアはSDXC/SDHC/SDのいずれか。UHS-I対応だが、UHS-IIには非対応。電池のもちはデフォルトでは約210枚だが、エコモードに切り替えると約310枚となる。いずれもCIPA基準枚数なので、ストロボの発光が少なければもっともつ。
電池はNB-13Lで、定格は3.6V、1250mAh、4.5Wh。付属チャージャーはCB-2LHで、折りたたみ式コンセントタイプ。充電時間は約130分。これとは別にオプションでACアダプターキットACK-DC110も用意されている。

まとめ

1型撮像素子を搭載した高性能コンパクトはソニーRX100シリーズがすでにあるので、特別新鮮な印象はない。仕様的にも手堅くまとめられた感じで、特に飛び道具的な機能は付加されていない。ただし、それだけに真面目で実直なカメラに仕上がっているのではないかと思う。

次回は高感度性能を含め、実写でいろいろと検証してみたい。

河田一規