キヤノン初のミラーレス機「EOS M」が登場した今秋、エントリーからミドルレンジにかけてのノンレフレックス機は、いつにも増して魅力的なモデルが多い。各社ともEOS Mにシェアを奪われまいと、訴求力のあるモデルで対抗しようというわけだ。オリンパスPEN Lite E-PL5もそうしたモデルのひとつで、OM-Dと同等の高画質を実現している点が大きな特徴である。
■OM-Dと同じイメージセンサーを搭載
はじめにオリンパスPENシリーズのラインナップをおさらいしておこう。現在のPENシリーズは、最上位がPEN E-Pシリーズ、ミドルレンジがPEN Lite E-PLシリーズ、エントリーがPEN mini E-PMシリーズという構成だ。そしてPENシリーズの上位モデルとして、ハイアマチュアやプロユーザーをターゲットにしたOM-D E-M5が君臨する。ここで取り上げるE-PL5はPENシリーズ内のミドルレンジという位置づけだが、レンズ交換式デジタルカメラ全般ではエントリーモデルといって差し支えないだろう。初級中級者をターゲットにしたコンパクトでハンドリングしやすいノンレフレックス機だ。
エントリーモデルは一般に、わかりやすい画作りの機種が多い。高彩度でハイコントラスト、万人向けの鮮やかな画だ。それに対し、E-PL5はOM-D画質を実現している。OM-Dと同じ1,605万画素Live MOSセンサーと画像エンジン「TruePic Ⅵ」を搭載し、名実ともにOM-Dと同等の本格画質だ。後半にJPEG撮って出しの作例を掲載しているが、階調性の豊かさは目を見張るものがある。画質的にはE-P3よりも格上となり、クラスを超えた高画質が本機のアドバンテージといえるだろう。
OM-D E-M5と同じイメージセンサーならびに画像エンジンを搭載している | 新型センサーは最大感度ISO25600に対応。低ノイズを実現し、ノーフラッシュで精細な暗所撮影が可能だ |
■自分撮り対応のチルト式モニター
撮影機能は初級中級者向けの使いやすさを重視している。まず、タッチシャッタースタイルを採用し、ライブビュー画面でピント合わせしたい場所をタッチするだけで、合焦してそのまま撮影することが可能だ。FAST AFシステムのおかげで、AF動作でモタつくことなく、ワンタッチで即座にシャッターが切れる。はじめてこの機能を使うと、感嘆がもれるほどのハイレスポンスだ。なお、タッチシャッターは無効化したり、ピント合わせのみにすることも可能だ。
液晶モニターは従来機E-PL3と同じくチルト可動式だが、新たに自分撮りに対応している。液晶モニターが上方向170度まで可動し、ライブビュー画面を見ながら自分撮りが可能だ。カスタムセルフタイマーを併用すると、撮影開始時間、撮影間隔、撮影枚数をきめ細かく設定でき、任意のタイミングで連続して自分撮りが行なえる。スマートフォンでおなじみの自分撮りが、デジタルカメラでも可能になったわけだ。
上方向170度までチルトでき、自分撮りが可能。自分撮りの位置にすると、ライブビュー画面の上下が入れ替わる | カスタムセルフ設定では、セルフタイマーの開始時間、撮影間隔、枚数が設定できる |
外観面は着脱交換式グリップに対応した点が目新しい。このグリップはE-P3ではじめて採用されたギミックで、側面のネジで着脱できる。ウエイトのあるレンズはグリップ付きで、パンケーキレンズなどの軽量なレンズはグリップレスで、といった使い分けが可能だろう。E-PL5のグリップはE-P3と互換性があり、E-P3用のグリップを流用できる。また、従来機E-PL3がフラットなフロントマスクを採用していたのに対し、E-PL5は上下にラインが施してある。一見すると、E-P3をミニチュア化したようなデザインだ。
E-P3で注目を集めた着脱式グリップを採用。オプションでプレミアムカメラグリップも用意する | グリップを外すと、従来機E-PL3に似た外観となる。 |
E-P3のグリップが流用可能。ここではE-P3予約特典のグリップを装着してみた |
操作面ではカスタマイズ機能に注目しておきたい。E-PL5は撮影セッティングをマイセットとして登録できる。マイセットは最大4つまで登録でき、モードダイヤルに割り当てることが可能だ。たとえば「iAUTO」「ART」「SCN」といったモードは、ある程度カメラに精通してくると使用頻度が下がってくる。こうしたあまり使わないモードに、マイセットを割り当てておくわけだ。暗所撮影用やオールドレンズ撮影用など、用途に最適化したマイセットを登録すると便利だろう。
今回試用して、ひとつ気になった点がある。それは撮影時に使うダイヤル系コントローラがひとつしかないことだ。E-P3にはメインダイヤルとサブダイヤルがあり、たとえば絞り優先AEの場合、メインダイヤルは絞り、サブダイヤルは露出という具合に1コントローラ1機能で撮影できる。しかし、E-PL5はコントロールダイヤルしか搭載していない。絞り優先AEを例にとると、コントロールダイヤルの上下カーソルで絞り、左右カーソルで露出という操作になる。この操作が思いのほか神経を使うのだ。基本的にはエントリーモデルなので、カメラ任せでの撮影を優先しているのだろう。OM-D画質ということで中上級者も購入を検討すると思うが、操作フィーリングについては実機を触って判断した方が良さそうだ。
モードダイヤル機能を使う際は、前もってマイセットを登録しておく | モードダイヤル機能で、登録したマイセットを任意のモードに割り当てる |
マイセットを割り当てたモードにセットすると、カメラセッティングが切り替わる | E-PL5はコントロールダイヤルでふたつの撮影パラメータをコントロールする |
■新アートフィルター&エフェクトを搭載
E-PL5は新しいアートフィルターとアートエフェクトを搭載している。新アートフィルター「ウォーターカラー」は、暗部をカットして淡い色彩をにじませた仕上がりになる。ありていにいえば水彩画風の画作りだ。これにより、アートフィルターは全12種類となった。また、アートエフェクトにも新たに「モノクロエフェクト」が追加されている。これは調色とモノクロフィルターの効果を再現したもので、「ラフモノクロームI/II」と「ドラマチックトーンII」で適用可能だ。
ムービーエフェクトは「アートフェード」が加わった。これはフェード効果をともないながらアートフィルターを切り替えていくエフェクトだ。ムービーモードで録画中にFnボタンを押し、左右のカーソルボタンで任意のアートフィルターを選ぶ。OKボタンを押すと、選択したアートフィルターにフェードしながら切り替わっていく。アートフィルターをかけ録りするためコマ落ちが顕著だが、クレイアニメっぽい雰囲気がおもしろい。
・ウォーターカラー
オリジナル画像 |
ウォーターカラーI。シャドウをカットした水彩画風の効果が得られる | ウォーターカラーII。アウトラインがにじみ、より水彩画っぽい画に仕上がる |
オリジナル画像 | ウォーターカラーIにソフトフォーカス効果とホワイトエッジ効果を適用してみた |
・モノクロエフェクト/調色
オリジナル画像 | ドラマチックトーンII/調色:無し |
ドラマチックトーンII/調色:セピア | ドラマチックトーンII/調色:青 |
ドラマチックトーンII/調色:紫 | ドラマチックトーンII/調色:緑 |
・モノクロエフェクト/フィルター効果
オリジナル画像 | ラフモノクロームII/フィルター効果:なし |
ラフモノクロームII/フィルター効果:黄 | ラフモノクロームII/フィルター効果:オレンジ |
ラフモノクロームII/フィルター効果:赤 | ラフモノクロームII/フィルター効果:緑 |
・アートフェード
通常撮影から、リーニュクレール→ドラマチックトーン→クロスプロセス→ラフモノクローム→ファンタジックフォーカスの順にアートフェードをかけてみた。
アートフェードを使う際は、前もって「動画エフェクト」をONに設定しておこう |
サムネイルをクリックするとオリジナルファイルが開きます(H.264/約55.2MB) |
■キットレンズで実写テスト
作例はキットレンズの「M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6 II R」を組み合わせた。35mm判換算で28-84mm相当の標準ズームレンズだ。まずISO感度別のノイズののり具合を見ていくと、OM-D画質を謳うだけあって、ISO6400あたりまではディテールを保っている。ISO3200前後なら何ら支障なく常用できるだろう。ISO12800以降はさすがにノイジーだが、L判程度の小さなプリントなら耐えられそうだ。
一般作例はJPEG撮って出し(ラージ/ファイン)を掲載している。エントリー機のJPEGはシャープネスと彩度がきつくなりがちだが、E-PL5はディテールの描き方が自然で、なおかつ階調性の豊かさが実感できる。コントラストに無理がなく、シャドウの粘り具合も心地よい。ひと言でいえば、細部にわたってていねいな画作りだ。ノンレフレックス機としてトップクラスの画質といえるだろう。
・ISO感度
ISO200 | ISO400 |
ISO800 | ISO1600 |
ISO3200 | ISO6400 |
ISO12800 | ISO25600 |
・作例
■“ボディキャップレンズ”を試す
オリンパスはE-PL5の発売と同時に、ボディキャップレンズ「BCL-1580(15mm F8)」をリリースした。ボディキャップ兼簡易レンズというユニークな製品で、15mm F8というスペックからもわかるように、パンフォーカスで手軽にスナップできるレンズだ。簡易レンズとはいえ、3群3枚のオールガラス製で、思いのほかよく写る。レンズバリアを搭載し、実用面にも配慮した製品だ。製品の性格上、トイレンズをイメージしがちだが、ガラス製レンズだけあって描写はそつがない。
サイズはボディキャップそのままで、3群3枚のガラスレンズを搭載する | レバーをスライドするとレンズがあらわれる。ピント位置は無限遠と0.3mが切り替えられる |
電子接点は未搭載で、ボディと電子的な連動はない。絞り固定のMFレンズだ | 初期設定で手ぶれ補正の焦点距離が15ミリになっており、ボディキャップレンズが最適環境で使用できる |
初期状態のE-PL5は、ボディキャップレンズの装着を前提としたセッティングがなされている。PENシリーズの手ぶれ補正機能は、レンズの焦点距離に合わせて動作が最適化される仕組みだ。ただし、マウントアダプター経由でレンズを装着するような場合、電子的な情報伝達が断たれてしまうため、レンズの焦点距離をボディが取得できない。そのためPENシリーズの手ぶれ補正機能は焦点距離の手入力が可能だ。実はボディキャップレンズは電子接点がなく、そのままではボディ側で焦点距離を把握できない。通常であれば手入力で焦点距離を設定することになるが、E-PL5はこの焦点距離設定が初期状態で15ミリになっており、設定変更せずにボディキャップレンズが使えるのだ。それだけボディキャップレンズの出来に自信があるということだろう。
■オールドレンズとの相性
マウントアダプターを介してCマウントレンズを装着してみた |
最後にオールドレンズ撮影についてふれておこう。他のPENシリーズと同様、E-PL5はマウントアダプター介して絞り優先AEの実絞りでオールドレンズ撮影が可能だ。オールドレンズの装着に関して、カメラ側で特に設定は必要ない。拡大表示はシャッターボタン半押しで通常表示に復帰でき、オールドレンズのベースボディとして使いやすい。オールドレンズ装着時もボディ内手ぶれ補正が機能し、特に望遠レンズは快適に使用できるだろう。
今回はCマウントの「Cooke Ivotal Anastigmat 25mm F1.4」を組み合わせてみた。25mm F1.4クラスのCマウントレンズは、四隅にケラレが発生することが多い。このレンズも開放近辺では四隅に影が目立つものの、比較的イメージサークルが広く、F8まで絞ると隅々まで明るく撮れる。周辺の流れも最小限で、全域にわたって緻密さを感じさせるレンズだ。ここではJPEG撮って出し(ラージ/ファイン)を掲載しているが、ディテールの繊細さ、ほどよくマイルドなコントラストなど、オールドレンズらしさをうまく引き出している。オールドレンズ撮影でも、OM-D画質のアドバンテージを実感できた。
2012/10/22 00:00