【新製品レビュー】キヤノンPowerShot G15

〜明るいレンズに高速AF。完成度を増した高級コンパクト
Reported by 北村智史

 2010年10月に発売されたPowerShot G12(以下G12)の後継モデル。クラシカルなデザインの大柄なボディに、一眼レフのEOSシリーズに似た、電子ダイヤルとコントローラーホイールの組み合わせ。さらにアナログ感覚のダイヤル操作や光学ファインダーなど、Gシリーズの持ち味はそのままに、搭載レンズの大幅な大口径化、AFの高速化といった改良も盛り込まれている。



 発売は10月12日。大手量販店の店頭価格は5万9,980円程度となっている。




F1.8-2.8の明るいズームレンズを搭載

 撮像素子はサイズこそG12と同じ1/1.7型だが、CCDから自社製CMOSセンサーに変更され、有効画素数は1,000万画素から1,210万画素に増加。画像処理を受け持つ映像エンジンもDIGIC 4からDIGIC 5にスペックアップしている。

 ベース感度はISO80で、これはG12も同じだが、最高感度は2段アップのISO12800。G12は記録画素数が約250万画素となる「ローライト」モード時のみISO12800までの増感が可能だったが、本機はフル画素でのISO12800となる。


感度の設定範囲はISO80-12800。オート時の上限感度や感度の上がり方は好みなどに合わせて変更できる。

 搭載レンズは28-140mm相当の光学5倍ズーム。焦点距離はG12と同じだが、F2.8-4.5だった開放F値がF1.8-2.8になったのは注目のポイント。広角端は明るくても望遠端が暗いカメラは多いので、望遠端でもF2.8の明るさは魅力的。ブレを抑えるにも有利だし、ボケが大きくなるのもメリットだ。


レンズシフト式の手ブレ補正機構を内蔵した28-140mm相当の光学5倍ズームを搭載。F1.8-2.8の明るさが戻ってきたのはうれしい。

光学ズームの望遠端。フル画素では10倍まで画質劣化の少ない「プログレッシブファインズーム」が利用できる。光学5倍ズームに4倍のデジタルズームを加えると560mm相当の望遠撮影が楽しめる。

 マクロモードでの最短撮影距離は、レンズ前縁から、広角端が1cm、望遠端で40cm。最短撮影距離は望遠端のちょっと手前で大きく変化するため、望遠端よりも焦点距離24.3mmあたり(およそ112mm相当)で撮るのが撮影倍率と背景ボケの兼ね合いを考えるといちばんおいしいそうだ(ステップズームで100mm相当にして、ズームレバーを望遠側にちょんとつつくぐらい)。

 花などを多く撮る人にはいいスペックだが、バリアングル液晶モニターがなくなったのがよけいに物足りない。もっとも、液晶モニターが固定式になった分だけボディは小型軽量化しているし、サイズは2.8型から3.0型に、解像度は46.1万ドットから92.2万ドットにスペックアップしているのだから痛しかゆしではある。また、画質劣化の少ない「プログレッシブファインズーム」や(Lサイズで最大10倍まで)、デジタルズームも備えている。


望遠端での最短撮影距離は約40cm。画面上部に表示されているズームバーの黄色い下線の部分があまり寄れないエリアになる。ステップズームで100mm相当にセットして、ズームレバーをちょんとつついたのがこの位置。ここでは17cmまで寄れる。実写での焦点距離は24.3mm(112mm相当)だった。寄れるかどうかでは広角端の1cmのほうがうえだが、使い勝手のよさはこちらだと思う。

 記録メディアはSDXC/SDHC/SDメモリーカード。内蔵メモリーは搭載していない。ハイアマチュア向けモデルらしく、RAWやRAW+JPEG同時記録も可能となっている。


記録メディアはSD/SDHC/SDXCメモリーカード。キヤノンのコンパクトカメラは他社と違って内蔵メモリー非搭載が普通だ。ハイアマチュア向けの上級モデルらしくRAWやRAW+JPEGでの撮影も可能だ。

 電源は容量920mAhのリチウムイオン電池NB-10L(7,350円)。CIPA基準で約350コマの撮影が可能となっている。実写では400コマちょっと撮ったが、ストロボを使わなかったせいもあって、電池残量表示はフルのままだった。


電源のリチウムイオン電池NB-10LはPowerShot G1 Xと共通。CIPA基準の撮影可能コマ数は約350コマだ。


AFが大幅に高速化

 操作系では、特徴的だった3つのダイヤルのうち、ISO感度ダイヤルが省略され(設定範囲が広がったものだから、アナログ感覚のダイヤル式ではカバーしきれなくなったのかもしれないが)、左手側にあった露出補正ダイヤルが右手側に引っ越してきた。右手側の2つのダイヤルは、同軸の2段式から回転軸をずらしたタイプに変わっている。見た目は好みが分かれそうな気もするが、視認性は高いし操作もしやすい。G12までは露出補正が左手側だったせいで不便を感じたが、本機は右手で操作できるようになり、カメラを構えたままでも快適に露出補正が行なえる。また、補正範囲が±2段から±3段に拡張されたのもうれしい点だ。


軸をずらした配置の2段式ダイヤル。露出補正が右手側に移動したのがいちばんの改良点だと思う。補正範囲も広がったし。左手側はダイヤルがなくなって、代わりに内蔵ストロボがポップアップ式に変更された。

 G12と同じく、前面に電子ダイヤル、背面にコントローラーホイールを装備。一眼レフのEOSに似ていて、マニュアル露出時は電子ダイヤルでシャッター速度、コントローラーホイールで絞り値の設定が行なえる。が、独立した露出補正ダイヤルがあるため、AE時はホイールが空き家になってしまっている。ダイヤル、ホイールの機能をカスタマイズすることは可能だが、割り当てられる機能は、「アスペクト比」「WB補正」「ステップズーム」「i-コントラスト」の4種類のみ。どうせなら、プログラムシフトやISO感度などを割り当てられると便利なのにと思う。


グリップ上部の電子ダイヤル。出っ張りは少なめだが、クリックが重すぎないので操作感はいい。背面の十字キー外周には、EOSのサブ電子ダイヤルのようなコントローラーホイールがある。

絞り優先AE時に電子ダイヤルで絞りを変えたときの表示。これは露出補正操作時の表示。

露出補正の表示が出ているうちに「MENU」ボタンを押すとAEBの設定が行なえる。撮影メニューから電子ダイヤルとコントローラーホイールの機能をカスタマイズできる。

設定できるのはステップズームなどの4種類。どうせならここに感度を割り付けられるといいのにと思う。

撮影可能状態で「FUNC./SET」ボタン押しで表示される「FUNC.(ファンクション)メニュー」。「FUNC.メニュー」では、ホワイトバランスやマイカラー、ドライブ、セルフタイマーなどの設定が可能。

 AFが大幅に高速化しているのも見逃せない進化。撮像素子からの読み出しフレームレートを従来の1.5倍にアップしたほか、AFアルゴリズムの改善やAFシーケンスの見直し、AF駆動モーターのパワーアップにフォーカス群の軽量化などによってスピードと精度の両方を向上。シャッターボタン半押しから合焦までの所要時間を、G12に比べて、広角端で約2.1倍、望遠端でも約1.6倍速くなっているという。

 操作してみての印象も、コントラスト検出AFとしてはかなり速い。広角端なら、半押し即合焦といえるレベルだし、望遠端でも迷いなくすっとピントが合ってくれる。位相差検出AFにも負けない気持ちのいいAFで、半押しなしでピント合わせ動作を行なう「コンティニュアスAF」機能と併用すれば、ピント合わせでストレスを感じることはないだろう。

 左右方向の傾きだけでなく、前後方向の傾きも検知できる「デュアルアクシス電子水準器」の搭載もトピック。G12も水準器は内蔵していたが、左右方向のみの対応だった。ただ、縦位置での表示位置が右手側に固定されているので、グリップを上にして構えると画面の上側に表示されることになる。これがちょっと違和感のあるところだ。


左右と前後の両方の傾きを検知する電子水準器を内蔵。グリップを下にした縦位置撮影時は画面下側に水準器が表示される。
グリップを上にしたときは画面の上側に水準器が表示される(画面が傾いてるときは指標が赤色になる)。これがちょっと違和感あり。「DISP.」ボタン(十字キーの下キー)で切り替えられる表示内容の設定画面。筆者の好みはグリッド入りで、水準器の有無の選択式。
ヒストグラムはけっこう場所を食うので、非表示にした方がすっきりした画面になる。

一眼レフユーザーのサブ機にも

 明るい光学5倍ズームに強力な手ブレ補正、高速AFに加えて、操作性も良好。ブレを抑えやすく、リアルタイム感のあるファインダー像を見ながら撮れる光学ファインダーも内蔵しているなど、機能や性能以外の部分まで充実している。コンパクトカメラとしては大きめ重めではあるものの、持ち歩きが苦になるほどではないし、一眼レフのユーザーがサブとして持つには問題はないだろう。快適な撮影が楽しめるカメラをとお考えの方にはおすすめできる。


EOS用の外付けストロボが利用できるアクセサリーシューを装備。背面右手側上隅に動画ボタンがある。


動画撮影中の画面はこんな感じ。残念ながら撮影中は水準器が表示されない。

今どき貴重な光学ファインダー。手ブレを抑えるのにも効果がある。背面左側上隅の「ショートカットボタン」はカスタマイズが可能。

「ショートカットボタン」に割り当てられる機能の一覧。「コンティニュアスAF」を「入」にしておくと、半押しなしでもAFが作動する。なので、素早くピントを合わせることができる。

AFフレーム(測距点)の大きさは2段階に変更できる。

シャッター速度3段分のND(光量減少)フィルターを内蔵。意図的にスローシャッターで撮りたいときや明るい場所で絞りを開きたいときに便利。
アート系の表現が楽しめる「クリエイティブフィルター」は11種類を内蔵している。「FUNC.メニュー」でフィルターを変えられる。

実写サンプル

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。

・感度

 同じ撮像素子を搭載していると思われるPowerShot S110と同じく、ベース感度はISO80。やはりISO800あたりからノイズ処理によってディテール再現が悪くなり、部分的にもわっとした感じになってくる。ピクセル等倍で見る分にはISO800が限界で、小サイズのプリントならISO1600でもいけそうだ。人によってはISO3200も許容範囲に入るかもしれない。


ISO80ISO100ISO200
ISO400ISO800ISO1600
ISO3200ISO6400ISO12800

・ズーム範囲
 光学ズームの範囲は28-140mm相当だが、4倍のデジタルズームも利用できる。画質劣化の少ないプログレッシブズームはフル画素では光学ズームと合わせて10倍(280mm相当)まで、デジタルズームは20倍(560mm相当)までとなる。


広角端(28mm相当)望遠端(140mm相当)
プログレッシブファインズーム(280mm相当)デジタルズーム(560mm相当)

クリエイティブフィルター

 アート系作風機能のクリエイティブフィルターには新しく「ソフトフォーカス」が追加。中には効果の強弱や色味などを変化させられるため、バリエーションを含めると20種類以上になる。発色やコントラストを変えられるマイカラーは、好みに合わせて設定可能なカスタムを含めて11種類から選択できる。


通常撮影HDRノスタルジック(レベル1)
ノスタルジック(レベル2)ノスタルジック(レベル3)ノスタルジック(レベル4)
ノスタルジック(レベル5)魚眼風(レベル1)魚眼風(レベル2)
魚眼風(レベル3)ジオラマ風(横)ジオラマ風(縦)
トイカメラ風(標準)トイカメラ風(寒色)トイカメラ風(暖色)
ソフトフォーカス(レベル1)ソフトフォーカス(レベル2)ソフトフォーカス(レベル3)
モノクロ(白黒)モノクロ(青)モノクロ(セピア)
極彩色オールドポスターワンポイントカラー(赤系を残す)
スイッチカラー(赤系を青系にスイッチ)

・作例

こういうシーンではバリアングル液晶モニターがなくなったのが悔しく思える。PowerShot G15 / 4,000×3,000 / 1/30秒 / F2.5 / -1.0EV / ISO80 / WB:オート / 15.2mm(70mm相当)プログラムAEはあまり絞り込まない仕様のようで、この明るさでもF2.8になっている。PowerShot G15 / 4,000×3,000 / 1/1600秒 / F2.8 / 0.3EV / ISO80 / WB:オート / 8.5mm(39mm相当)
かのクラーク博士の構想にもとづいたという農場の建物。明治時代に建てられたものらしい。赤い屋根が印象的。PowerShot G15 / 4,000×3,000 / 1/500秒 / F2.8 / -1.7EV / ISO80 / WB:オート / 10.9mm(50mm相当)レンガ造りの建物を日陰で撮ったら、青っぽくなるのが当たり前だと思っていたら、予想以上に優秀なオートホワイトバランス。PowerShot G15 / 4,000×3,000 / 1/80秒 / F2.5 / 0.0EV / ISO80 / WB:オート / 7.6mm(35mm相当)
画像処理で補正している可能性が高いと思うが、広角端の歪曲収差がきれいに補正されているのは気持ちがいい。PowerShot G15 / 4,000×3,000 / 1/60秒 / F2 / -1.3EV / ISO80 / WB:オート / 6.1mm(28mm相当)陰の部分は黒つぶれしているように見えるが、画像処理でシャドーを持ち上げると、案外にノイズが少なくて、階調も良く残っている。PowerShot G15 / 4,000×3,000 / 1/800秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO80 / WB:オート / 6.1mm(28mm相当)
建物の中だからって感度を上げてみたけど、そんなに暗くなかったというパターン。ISO400ぐらいは余裕で常用できる。PowerShot G15 / 4,000×3,000 / 1/125秒 / F2.8 / 0.7EV / ISO400 / WB:オート / 6.1mm(28mm相当)広角端の画面四隅はわずかながら像の流れが見られるものの、コンパクトカメラとしてはかなり優秀な画質だと思う。PowerShot G15 / 4,000×3,000 / 1/1250秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO80 / WB:オート / 6.1mm(28mm相当)
AFフレームは、コントローラーホイールでは大きく、十字キーでは細かく動かせる。両者を使い分ければ素早い操作が可能だ。PowerShot G15 / 4,000×3,000 / 1/50秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO80 / WB:オート / 30.5mm(140mm相当)一眼レフと比べて云々するのは間違っているとは思うが、もう少しハイライトが粘ってくれたらなぁという感じはする。PowerShot G15 / 4,000×3,000 / 1/200秒 / F2.8 / -1.7EV / ISO80 / WB:オート / 30.5mm(140mm相当)
望遠端のほぼ最短撮影距離で。この距離でもすっとピントが合ってくれるのが気持ちよかった。PowerShot G15 / 4,000×3,000 / 1/160秒 / F2.8 / 0.7EV / ISO80 / WB:オート / 30.5mm(140mm相当)通常時の最短撮影距離は広角端でレンズ前5cmだが、マクロモードに切り替えると1cmまで寄れる。ここまで寄ると背景も大きくボケてくれる。PowerShot G15 / 4,000×3,000 / 1/60秒 / F2.5 / 1.0EV / ISO80 / WB:太陽光 / 6.1mm(28mm相当)





北村智史
北村智史(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。2011年、東京の夏の暑さに負けて涼しい地方に移住。地味に再開したブログはこちら

2012/10/11 00:00