新製品レビュー

Nikon Z fcにベストマッチするレンズを探して(その2)

1万円前後で手に入る格安レンズ、質感と描写は?

ニコンZ fcを手に入れた人にとって、もっとも悩ましいのは「Z fc用にどのレンズを購入すべきか?」ということではないだろうか。というわけで、ここではZ fcに似合いそうなレンズを純正から2本、サードパーティメーカーのTTArtisanから3本選び、Z fcとの見た目の相性やハンドリング、描写性などを確かめていった。今回は銘匠光学のTTArtisanシリーズをピックアップ。Zマウントにネイティブで装着できて、かつ約1万円前後で買える中華レンズの実力を探っていった。

めくるめく中華レンズの深淵へ

ニコン純正以外のサードパーティレンズの購入を考えたとき、もっとも現実的なのがTTArtisanのレンズ群だろう。どれも価格が安いので気軽に購入できるし、絞りリングが付いているので、ダイヤル類を駆使した明示的な操作性という点でもZ fcとの相性はとてもいい。

いずれも総金属製なので、大きさの割には重量がある。が、絶対的には軽いので携帯性もいい。注意点はどれもマニュアルフォーカスレンズなのでAFの安楽さを求める人には適さない、ということだろうか。とはいえフォーカスリングのフィーリングは3本とも非常に良好なので、マニュアルでピントを合わせることに悦びを感じる人だったらハマるはず。

いずれもデザインはAiニッコールというより、それよりも古い1960年代以前のレンジファインダー用レンズ的なテイストだが、Z fcに装着すると不思議とよく似合う。価格を考えるとZ fcユーザーなら買わない理由がないくらいのレンズ達だといえるだろう。

これら3本のレンズはレンズキャップも金属製で、しかもネジ込み式を採用しているところもユニークだ。金属フェチの人には喜ばしい仕様だといえる。速写性を重視する人は径が合う他社製の普通のレンズキャップに変えるのもアリだろう。

17mm f/1.4 C ASPH(1万5,930円)

35mm判フルサイズ換算で26mm相当となる広角レンズ。APS-C専用レンズなのでフルサイズには対応しないが、F1.4の大口径広角レンズとしては驚くほどコンパクト。アルミニウム合金製の外観は質感面も高く、マウントも金属製だ。実売価格(焦点工房オンラインストア価格は税込1万5,930円)からはにわかに信じられないほど作りが良い。

ストラップで下げたときの前傾角度は約23度

ちょっとアンダー目にしてドラマチックな印象にした。絞っていることもあるが、解像はシッカリと出ている。

Z fc / 17mm f/1.4 C ASPH / 絞り優先AE(F5.6・1/4,000秒・-1.0EV) / ISO 100

絞り開放で撮影。若干のコマ収差があるようだが、絞り開放の近接撮影でも解像力は意外なほど高い。

Z fc / 17mm f/1.4 C ASPH / 絞り優先AE(F1.4・1/3,200秒・) / ISO 100

ピントは文字に合わせた。同じ構図で手前の網に合わせたカットも撮影したが、F1.4の開放では明確にその差を描ききれるのが楽しい。

Z fc / 17mm f/1.4 C ASPH / 絞り優先AE(F1.4・1/500秒・+1.3EV) / ISO 100

35mm f/1.4 C(8,910円)

TTArtisanを扱う焦点工房オンラインストアの販売価格が税込8,910円という衝撃的な低価格な1本。低価格ではあるものの、マウントを含め、鏡胴は総金属が採用されており質感が高い。節度あるフォーカスリングの動きを含め作りも非常に良好。しかも写りもかなりいい、と実にニクイ製品だ。

絞り開放の周辺部はやや流れ気味ではあるが、むしろ、周辺が流れるからこそ合焦部のモチーフがある種の雰囲気を伴って立ち上がってくる印象さえある。もちろんF5.6まで絞れば周辺流れは解消する。レンズフードは別売で用意されている。

ストラップで下げたときの前傾角度は約14.5度

ほぼ最短で撮影。撮影距離によってはボケ味にややクセを感じる事もあるものの、それも面白い。

Z fc / 35mm f/1.4 C / 絞り優先AE(F1.4・1/1,000秒・) / ISO 800

玉ボケはかなり明確な輪郭があり、オールドレンズっぽい賑やかな印象になる。

Z fc / 35mm f/1.4 C / 絞り優先AE(F1.4・1/50秒・) / ISO 800

絞り開放で撮影。結像はやや甘いものの、雰囲気のある描写だと思う。

Z fc / 35mm f/1.4 C / 絞り優先AE(F1.4・1/40秒・-1.3EV) / ISO 800

50mm f/1.2 C(税込1万3,950円)

35mm判フルサイズ換算で76mm相当の画角になる中望遠レンズ。特徴はF1.2という大口径ながら、常時携帯も十分に可能なコンパクトなサイズ感を実現していること。しかも他の2本の例に漏れず本レンズも非常に安価(税込1万3,950円)だ。

さすがに絞り開放では緩めな描写だが、ポートレートならその柔らかさが効果的に活かせそう。F2.8くらいまで絞ると解像感は劇的に良くなる。そうした意味では1本でいろいろな描写を楽しめるところも、本レンズを積極的に選ぶ理由になりそうだ。別売でレンズフードが用意されている。

ストラップで下げたときの前傾角度は約29度

絞り開放で撮影。合焦部はかなり緩めだけど、撮影するモチーフ次第ではこの柔らかさがマッチしそう。

Z fc / 50mm f/1.2 C / 絞り優先AE(F1.2・1/160秒・) / ISO 250

F2.8に絞って撮影。開放時に比べて解像性能は格段に向上する。

Z fc / 50mm f/1.2 C / 絞り優先AE(F2.8・1/1,600秒・) / ISO 250

絞り開放で撮影。このレンズも玉ボケの輪郭は明確に強調されるタイプだ。

Z fc / 50mm f/1.2 C / 絞り優先AE(F1.2・1/2,000秒) / ISO 250

まとめ

Z fcに装着したときのバランスについては前傾角度の画像を見て頂ければ分かるとおり、50mm f/1.2 C装着時のみややレンズヘビーな感じになる。とはいえF1.2の超大口径中望遠レンズとしてはこれでもかなりコンパクトな方であり、特段携帯しにくいということはない。17mm f/1.4 C ASPHと35mm f/1.4 Cについてはサイズ的にも重量的にもZ fcと好バランスであり、ストラップで下げたときの携行性はすこぶる良好だ。

操作性については各レンズ共にMFレンズとして違和感のないフォーカスフィーリングを実現しており、バックラッシュの少なさや回転角度、適度なトルク感に至るまで非常に良く出来ていると思う。

AFカメラしか使ったことがない人にとっては、MFに対する不安もあるかもしれないが、Z fcのEVFは接眼光学系の設計が良いためピントの山を見極めやすく、MFでのフォーカシング作業は快適だ。F1.2やF1.4の絞り開放で動きモノにピントを合わせ続けるということは難しいが、静止した被写体であればライブビューの拡大やフォーカスピーキングといった各種アシスト機能を使うことで、被写界深度が浅くなる絞り開放でも難なくピントを合わせられるはずだ。

AFの方がもちろん便利なのは間違いないけれど、MFの方が「自分で操作して撮った感」が強いのも確かであり、そうした充実感を手軽に味わえるレンズとしても、この3本はZ fcとの相性がいいと思う。

河田一規

(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。ライカは80年代後半から愛用し、現在も銀塩・デジタルを問わず撮影に持ち出している。