山岸伸の「写真のキモチ」
第72回:尽きない好奇心と探求心で重ねるテスト
道具を手の内にする
2024年6月15日 12:00
カメラマン生活を送る中で日々人と知り合い、ときにスタジオを訪ねて来てくれる。その場で軽い撮影をすれば相手にとっては写真がプレゼントとなり、こちらはテスト撮影ができて互いの為になる。今回は最近手にしたカメラとそのテスト撮影についてお話しを伺いました。(聞き手・文:近井沙妃)
case01:長尾ひな
SNSの時代になり年齢差を超えて知り合うことも増え、友達の層が広がるいい時代だと思う。どういう人なのかはSNSへの投稿や使い方を通してある程度見えてくる。やり取りをする中で互いにきちんと確認しながら友達になっていくことが大切だと思う。
そうして知り合ったモデルの長尾ひなさんが新潟から来てくれた。せっかく私のスタジオまで来てくれて、手元には新しいカメラがある。撮影した写真は本人にプレゼントして何かに使えたり喜んでくれたら嬉しいし、こちらもテスト撮影ができてありがたい。カメラのテストだけではなくカメラマンと被写体としての相性や雰囲気も掴めるし、一緒に出来そうな仕事があればお願いするきっかけにもなる。
2年振りくらいにOM SYSTEMのカメラを手にしてみた。オリンパスが大好きだったのでOM SYSTEMになってからは使うことが少なくなったが、変わらず同社プロサービス担当のKさんがとてもよくしてくれている。
今回使用したのはOM-1 Mark IIにレンズはM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II。このレンズが発売されたのは約2年前だが、初代を長く使い続けていた私にはまた新しい感覚をくれた。
驚くほどピントが速く、人肌も綺麗。こちらのカメラといえば以前から豊富なアートフィルターも魅力の1つ。2008年12月にオリンパスから発売されたデジタル一眼レフカメラ「E-30」に搭載されてから今ではバリエーションや効果も追加されている機能で一時はよく使用していたが、自分の中では一周回った感覚でまた楽しんでいる。使用したブリーチバイパスIIは露出が少しアンダーになるがなかなかいい雰囲気。
やはりなんといっても軽量で全てのレスポンスが速く気の短い私にはぴったりのカメラだ。もちろん手元にあるオリンパスの機材を手放すことは一切ないがOM SYSTEMの新しいものをこれから少し使ってみたいという気持ちにさせられた。今月末にばんえい競馬を撮りに行く予定があるのでM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROを借りて行こうかなと考えている。
そしてもう1台、ソニーからお借りしているα9 IIIを使ってみた。グローバルシャッター方式で最高約120コマ/秒の撮影が可能な点や静止画時では最速シャッタースピード1/80,000秒に到達したことが特に話題のカメラだが、フリッカーを抑えた撮影や歪みのない画が撮れることなども魅力的。イルコさんやHASEOさんが言うようにこれさえあればという心強さを感じるカメラだね。
高速シャッターを最大限生かせるシチュエーションではないが、感覚を掴むためのテストとしてスタジオでシャボン玉を飛ばして撮ってみた。
何度かこの連載でも登場しているが、最近OMNI(オムニ)クリエイティブフィルターをレンズ前に配置し遊びながら撮ることも多い。このフィルターはレンズの前面にアダプターリングを付け、クリスタルガラスや特殊反射フィルムなど様々な素材からなる「エフェクトワンド」をかざして思いもよらない独創的な反射や写り込みを楽しむことが出来る。光の状況やエフェクトワンドの角度など様々な条件で変化し、同じ写真は2度と撮れないというのもいいよね。
といっても基本的にストレートな表現は避け、何を使ったかあまりわからないようなさり気ない使い方をしている。
軽く雨が降ってきたので帰り際にアシスタントのマッハ佐藤君に外でクリップオンストロボを使用して数枚テスト撮影をしてもらった。対応するソニー製フラッシュの使用で速いシャッターが切れるということでこれもまた楽しみ。
続いてライカ SL3でもパチリ。今年3月下旬に購入したSL3も日常的に仕事で使用しているが、その使用方法と頻度はライカカメラ社の想定以上だと思う。
1時間ほど撮影させてもらい、今後のことを色々と話して是非一緒に何か仕事ができればいいねということで彼女と別れた。
case02:mizuki
コミュニティ放送局に出演したときに知り合った歌手でラジオパーソナリティのmizukiさん。私が撮影した小松美羽さんの写真を見て話が広がり、前々から彼女の作品をご存じだったようで「以前うちのギャラリーに壁画を描いてくれたんだよ」と言ったら是非見てみたいということで訪ねて来てくれた。
小松さんの作品を見たあと、スタジオで2時間ほど話をしてちょっと写真を撮ろうという流れに。スタジオでストロボを使いソニーからお借りしているα9 III、そして以前から使用しているα1で撮り比べ。環境や設定など一切変えずにカメラ本体のみを変えたが、この条件下では特別な差は感じなかった。とにかくテストをするにしてもその時その時で自分なりに気になったことや新しいテストをすることが大切。
そしてあくまでも私は作例を撮るわけではないので撮るなら本人がプロフィールなどに使えるようなものを撮ってあげようと思い撮影している。いつもは端の方でチラッとさり気なく使うOMNIクリエイティブフィルターも今回はフィルターをかけました! って感じでこのフィルターのいい所を全面に出して撮ってみた。
やはりα9 IIIでスポーツや速い動き物を撮ってみたい。撮ってみたいと思うということは撮るということなので完璧に使いこなせないといけない。今そのために一生懸命テストをしている。OM-1 Mark II同様、今月末にあるばんえい競馬の撮影に期待が高まる。このカメラを手にするのは他の方より少し遅かったが、これからたくさん撮ってみたい。
その後会話をしながらOM-1 Mark IIでも軽く撮影。被写体によって似合うだろうなと思うアートフィルターも変わるし、なんとなく試してみて妙にハマるときもある。アートフィルターを知らない人たちが写真を見て「新しく見える」「古く見える」と表現をすることもあって、それはそれで面白いし良いことだと思う。
case03:ゴールデン小雪
最近、ゴールデン小雪さんをたくさん撮影している。彼女は作曲家 故・三木たかし先生のお嬢さん。先生は日本を代表する作曲家で私も1~2枚ほど先生が関わった作品のジャケットを撮ったと思う。ふとした時に鼻歌で出てくるくらい先生の作品は広く多く世に出ている。よく見るとお父さんと顔が似ているよね。彼女が若いときからの知り合いで以前も撮影をしていて、今はまたいろんな話をしながら一緒に写真を残している。
以前はオリンパス E-M1 MarkIIやPEN-Fをよく使用していた時代。最近はライカ SL3やキヤノン EOS R5、ソニー α1、OM-1 Mark II、PEN-Fなどで撮影した。新しいものだけでなく過去も見返すと被写体とカメラの変化に感慨深いものがある。
尽きない好奇心と探求心
新しいものを使ってみたい、そしてまた新しい写真が生まれるんじゃないかという好奇心と探求心を持ち続けること。手に入れたら自分なりのテストを重ねて自分の手の内にしていくこと。大袈裟じゃなくて、ふとした時に小さなことでもね。
それぞれのメーカーやカメラに長所があって、適材適所で使い分けることで自分の求める表現ができればいい。歴代使用してきたカメラを大切にしながらこれからも変化と出会いを前向きに楽しみたい。