新製品レビュー

EOS 9000D(外観・機能編)

上級者のサブ機にも嬉しい操作系 一歩上行くエントリー

EOS 9000Dは、キヤノンが4月上旬に発売を予定しているAPS-Cサイズセンサー搭載のデジタル一眼レフカメラ。一眼レフEOSシリーズの中にあっては、エントリークラスとして分類される。

EOS 8000Dからのモデルチェンジを受けて発表された本機であるが、EOS 8000DにEOS Kiss X8iという兄弟機が存在するように、EOS 9000DにもEOS Kiss X9iという兄弟機が存在し、そちらも同時に発表されている。

今回は、兄弟機であるEOS Kiss X9iとの違い、前機種となるEOS 8000Dからの進化点などを交えながら、EOS 9000Dの特徴を紹介していきたい。

(参考)EOS Kiss X9i

デザイン

直線が各部のやわらかな曲線をつなぐ優美なデザインはキヤノンのEOSシリーズ共通の特徴。カメラを構えれば、掌の中に角の立たない優しい感触を覚えることができるだろう。

さらに、EOS 9000Dの場合、小型軽量なエントリーモデルのデジタル一眼レフ、という立ち位置であるだけに、ペンタ部の形状や仕様、ボタン類の配列など、ダウンサイジングのためにさまざまな工夫が凝らされている。

しかし、そうした小型化への努力は、1993年に発売された「EOS Kiss」(フィルムカメラ)から脈々と引き継がれてきたものなので、その栄誉を正統に受けるべきは、実は兄弟機であるEOS Kiss X9iということになる。したがって、「では兄弟機であるEOS 9000DとEOS Kiss X9iのデザイン上の違いはなにか?」というのが本項目の重要な要点になるだろう。

まず、EOS 9000Dのサイズは、幅が131mm、高さが99.9mm、奥行が76.2mmと、EOS Kiss X9iとほとんど変わらない。変わらないというよりは仕様表を見る限り全く同じである。ただし、重さはEOS Kiss X9iの約485g(本体のみ)に対して、約493g(本体のみ)とわずかに重い。

サイズが同じであることが現わしている通り、両機のシルエットは非常に酷似しており、これによってカメラとしてのプラットフォームは共通であることが想像できる。実際、グリップなどの基本部分に大きな違いはなく、両機とも男性・女性を問わず、違和感なく握ることのできるように配慮されたホールディング性をもっている。

大きな違いは、カメラ上部の液晶表示パネルの有無(それに伴うモードダイヤルの位置)と、サブ電子ダイヤルの有無にある。しかし、この2点の違いこそが「プレミアムエントリー 一眼レフ」とされるEOS 9000D に対して、使用感および使用目的に大きな違いをもたらしている重要な要素といっていいだろう。

いきなり、本機の核心をついてしまったのであるが、以下この点に注目しながら各部の詳細を紹介していきたい。

ちなみに、EOS 9000Dは前機種となるEOS 8000D(こちらはEOS Kiss X8iの兄弟機である)より、大きさ、重さ、共にさらなる小型軽量化を達成している。

ボタン類

シャッターボタンの形状はEOS Kiss X9iと大きな違いはない。シャッターボタンの後ろに「電子ダイヤル」が備わっていることも同じ。ただし、EOS 9000Dの場合は、後述の理由で、電子ダイヤルが「メイン電子ダイヤル」という名称になる。

EOS 9000DにはEOS Kiss X9iにはない液晶表示パネルが備えられていることが大きな特長の1つ。液晶表示パネルは露出やISO感度など現在のカメラ設定を表示するもの。キヤノンであれ他のメーカーであれ、上位機種のデジタル一眼レフの多くには液晶表示パネルが搭載されており、これだけでも、EOS 9000Dがカメラ操作に重点を置いた上級者向けのカメラであることを主張しているというものだ。

液晶表示パネルなどなくても背面の液晶モニターでカメラ設定はわかるではないか、と思うかもしれないが、素早く必要な情報を把握するという目的においては、シンプルな液晶表示パネルの方がやはりわかりやすい。液晶モニターのなかったフイルム時代からの一眼レフユーザーにとっては、慣れ親しんだ情報表示方法であるともいえる。

また、「測距エリア選択ボタン」、「ISO感度設定ボタン」、「表示パネル照明ボタン」などは、やはり液晶表示パネルの前に並んでいた方が、既存のEOS上級機ユーザーにとっては馴染み深いに違いない。

液晶表示パネルが(カメラを構えた状態で)右上部に備えられた関係上、モードダイヤルはEOS Kiss X9iと違い左上部に設置されている。EOS 9000Dのプレミアム性を考えると、シーンインテリジェントオートなどの簡単撮影ゾーンではなく、積極的にM・Av・Tv・Pといったクリエイティブゾーンのモード設定で撮影したくなる。

背面のボタン類を、主に液晶モニター右側に集中させているのはEOS Kiss X9iと共通。液晶モニターがバリアングル式である(後述)関係と、なるべく右手だけで簡単に操作を完結できることへの配慮であろう。

そして注目したいのが、背面に備えられた「サブ電子ダイヤル」の存在。これが、EOS 9000Dを始めとしたKissシリーズにはない、もう1つの大きな特長だ。

サブ電子ダイヤルは、マニュアル露出(M)でメイン電子ダイヤルと連携して絞り値/シャッター速度を設定する際や、露出補正を能動的に素早く設定する際に大変便利なダイヤルである。

「サブ」と名がつきつつ、操作性を重視するEOS上級機は皆備えている重要なダイヤルであり、バッテリーグリップを装着した際に、横位置同様に縦位置での操作ができるEOSならではの便利で快適な装備である(ただし、EOS 9000Dには現時点でバッテリーグリップが用意されておらず、これは早めに対応してほしい)。

さらにEOS 9000Dには、カメラ背面右側上部に「AF-ONボタン」が新搭載されたことも大きな特長。露出などとは別に任意でAFを作動させることができるボタンであり、いわゆる“親指AF”を実践するときに重宝するボタンだ。これはEOS Kiss X9iにはもちろん、EOS 8000Dにも未搭載の上級機並み機能である。

撮像素子

撮像素子は、EOS Kiss X9iと同じく、有効約2,420万画素のデュアルピクセルCMOSセンサーが搭載されている。

映像エンジンは最新のDIGIC 7が搭載されているため、2,420万画素のAPS-Cサイズ大型センサーが取得する情報を余裕で処理することができ、EOS Kiss X9i と同様、画像細部のより詳細なディテールや豊かな階調を生み出すとともに、常用ISO25600の最高感度なども可能としている。

AFシステム

一眼レフならではのファインダー撮影時のAF性能はというと、EOS中級機に匹敵する45点オールクロスAFセンサーを搭載している。クロス測距というのは、被写体の条件が縦でも横でも正確に測距できるということ。それが45点全てに搭載されているのであるから、測距精度の高さは押して図るべしといったところだろう。さらに中央はF2.8とF5.6のデュアルクロス測距となっている。

EOS Kiss X9iとの同時搭載の機能であるが、前機種のEOS 8000D、X9i EOS Kiss X8iは19点オールクロス測距に留まっていたのだから(それでも相当なAF性能であるが)、これは大幅な進化といってよいだろう。

一方でライブビュー撮影の性能はというと、搭載されたデュアルピクセルCMOSセンサー1つ1つの画素が位相差AFセンサーの構造を兼ねているため、ライブビュー時でも画面の縦横約80%という広い範囲で高速・高精度なAF(デュアルピクセルCMOS AF)を行うことが可能である。

EOS 70Dで初搭載され、昨今ではミラーレス機のEOS M5にまで搭載範囲を拡大しているキヤノン独自の優れたデュアルピクセルCMOS AFであるが、EOS Kiss X8i、EOS 8000Dでは見送られた機能が、エントリー機としては初めて本機にも搭載されたことは喜ばしい限り。これによってデジタル一眼レフカメラである本機でも、今まで以上に快適なライブビュー撮影が約束されたというものだ。

なお、EOS Kiss X8iとEOS 8000Dのライブビュー撮影には、像面位相差AFとコントラストAFを組み合わせた「ハイブリッド CMOS AF III」が採用されている。

連写機能

EOS 9000Dの連写撮影能力は、最高約6コマ/秒となっており、これはEOS Kiss X9iと同等である。EOS 8000D、EOS Kiss X8iは最高約5コマ/秒だったので、映像エンジンDIGIC 7の処理速度向上が、本機の連写速度向上にも貢献しているのであろう。

ファインダー撮影時なら、約2,420万画素の高画素(RAW/JPEGラージ)のまま、動く被写体にピントを合わせ続けるAIサーボAF IIとの連携により、連続的な動きをする被写体を撮り続け、後からベストショットを選ぶといった使い方もできる。

ファインダー

デジタル一眼レフカメラの醍醐味ともいえる光学式のファインダーは、倍率約0.82倍、視野率約95%。ペンタプリズムでなくペンタダハミラーが採用されているなど、上位機種に比べると見え具合がやや窮屈であることは否めない。しかし、依然として、ミラーレスカメラに比べて遅延のない自然な見え具合が確保されていることも確かである。

ファインダー上部にはディスプレイオフセンサー(アイセンサー)が備えられているため、接眼部に顔を近づけると液晶モニターがオフになる。ファインダー撮影時の省電力性、タッチパネルの誤動作防止、といった効果があり、ディスプレイオフセンサーを非搭載のEOS Kiss X9iよりも積極的にファインダー撮影が活用されることを想定してのことだろう。

液晶モニター

背面の液晶モニターはワイド3型で約104万ドット。バリアングル式なのでカメラを頭上に構えてのハイアングル撮影や、地面すれすれでカメラを構えるローアングル撮影も容易だ。

また、タッチパネル方式を採用しているため、画面の被写体をタッチするだけでピントを合わせたい位置を選択できる他、静止画撮影時にはピントが合うとそのまま自動的にシャッターを切ることができる。

撮影表示画面には、シャッター速度や絞り数値、ISO感度、露出、記録画質などのカメラ設定がわかりやすく表示される。他のEOSシリーズと共通の仕様なので既存のEOSユーザーなら違和感なく必要な情報を確認することができるだろう。

「Qボタン」を押すことで表示されるお馴染みの「クイック設定画面」も健在。目的の設定変更を素早く行うことができる。

また、エントリークラスながらグリッド表示だけでなく水準器表示もしっかり可能である点は地味ながら素晴らしい。

メニューの「撮影画面表示」で「やさしい」を選択すると、専門的な用語でなく「ぼかす」「くっきり」といった初心者向けの言い回しで表示されるようになる。この辺りは、本機があくまでEOS Kiss X9iの派生モデルであり、本格撮影要素を取り入れながらもエントリーモデルらしさを失っていないことを主張しているかのようだ。

無線機能

従来から搭載されていたWi-FiやNFCだけでなく、新たにBluetooth(Bluetooth low energy technology:準拠規格ver4.1)にも対応した。

一度スマートフォンとペアリングを行えば、次回から面倒な設定は必要なく、極めて少ない消費電力で常にカメラとの接続が可能。無料の専用アプリ「Camera Connect」を利用すれば、スマートフォン側の操作だけで自動的にWi-Fi接続に切り換わり、画像の閲覧、保存、遠隔でのライブビュー撮影などを快適に楽しむことができる。

また、ボディ背面には「Wi-Fiボタン」が新搭載された。ボタンを押すだけで、既存の接続履歴が一覧表示されるため、目的の接続先をスムーズに選ぶことができる。

端子類

端子類はボディ左側面の2カ所にまとめられている。

1つ目のカバー内には、上からリモコン端子、外部マイク入力端子の2つが装備されている。リモコン端子は別売のリモートスイッチ「RS-60E3」に、外部マイク入力端子は3.5mmステレオミニプラグに対応している。

2つ目のカバー内には、上から映像/音声出力/デジタル端子とHDMIミニ出力端子(タイプC)の2つが装備されている。映像/音声出力/デジタル端子は付属のインターフェースケーブルなどに対応する。

記録メディアスロット

ボディ右側面にはSDカードスロットを備えている。記録メディアは、SDメモリーカード、SDHCメモリーカード、SDXCメモリーカード(SDHCメモリーカード、SDXCメモリーカードはUHS-I規格に対応)に対応する。

バッテリー

バッテリー室はボディ底面に記録メディアスロットは別に独立して装備されている。

電池はバッテリーパック「LP-E17」を1個使用。バッテリーチャージャー「LC-E17」を使用して充電する。撮影可能コマ数(電池寿命)はCIPA規格準拠で、ファインダー撮影時が常温(23度)約600枚/低温(0度)約550枚、ライブビュー撮影が常温(23度)約270枚/低温(0度)約230枚となっている。

まとめ

映像エンジンDIGIC 7の搭載による画質、連続撮影速度の向上、デュアルピクセルCMOS AFの搭載や測距点数の大幅な増加によるAF性能の向上など、EOS 8000D/Kiss X8iからEOS 9000D/Kiss X9iへの進化は著しいものがある。

EOS 9000DとEOS Kiss X9iは共に、共通のプラットフォームをもつEOSのエントリーモデルであるのだが、EOS 9000Dは液晶表示パネルやサブ電子ダイヤルを搭載することで、上位のEOS一眼レフカメラと同等の操作性を有しているところが大きく異なる点。

もともと、初心者でも扱いやすいように操作体系を簡略化して誕生したのがEOS Kissシリーズであったが、軽く小さいことに着目してEOS Kissをサブ機として(あるときはメイン機としても)活用する中上級者も多かったものである。しかし、そうなると逆に不満を感じてしまうのが操作性。EOS 9000Dはそうした要望に丁寧に答えて生まれた、一歩上行くエントリーモデルというわけだ。

これから一眼レフカメラを手に入れて写真を始めようという人にとっても、上位機を所有する既存のEOSユーザーにとっても、多くのシーンで満足して使うことのできる、小さいながらも懐の広いデジタル一眼レフなのである。

(次回は実写編をお伝えします)

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。