ミニレポート

ケンコー・トキナー「ブラックミストNo.05」

“適度なソフト効果”をNo.1と比較検証

ケンコーブランドのソフト系フィルターに「ブラックミストNo.05」が加わった。従来からある「ブラックミストNo.1」との比較を交えて紹介したい。

ブラックミストフィルターは、テレビや映画で使われているソフトフィルターを写真向けに製品化したというフィルターだ。微細な黒い拡散材を光学ガラスに内包することで、光の回折を起こしてソフト効果を出している。

一般的なソフトフィルターほど画面が白っぽくならないそうで、夜景などでも使いやすいとされている。昨今では動画撮影時に使用することで、映画のような見映えを狙って使う人も多いようだ。

これまで同フィルターは効果の強さが、「No.1」という1種類だけだった。そこに「No.05」という従来の半分ほどに効果を抑えたタイプが新登場した。No.1は効果がわかりやすいが、シーンによっては効きすぎることもあった。その課題をNo.05がどのくらいカバーできるのか楽しみである。

ブラックミストNo.1と同No.05のパッケージ。「逆光や夜景の光を印象的に」とある
これまでのケンコーフィルター同様のしっかりとした作りだ

口径別ラインナップと希望小売価格は、No.1とNo.05で共通。49~82mmがあり、3,740~1万1,000円(税込)となっている。

カメラに装着したところ

逆光撮影が効果的

今回ブラックミストフィルターを試してみたところ、画面内に強い光源があると効果が出やすいことがわかった。そこでまず太陽が画面に入る状況でフィルターの無し/No.05/No.1を比較した。

フィルターなし
α7 III / EF35mm F1.4L USM / マニュアル露出(F2・1/1,600秒) / ISO 100
ブラックミストNo.05
α7 III / EF35mm F1.4L USM / マニュアル露出(F2・1/1,600秒) / ISO 100
ブラックミストNo.1
α7 III / EF35mm F1.4L USM / マニュアル露出(F2・1/1,600秒) / ISO 100

比べてみると、No.1はかなりソフト効果が強くコントラストの低下も顕著。「白っぽくならない」とはいえ、シャドウ部は結構持ち上がっている。一方のNo.05はまさにNo.1と不使用の中間といった感じで、適度なソフト効果が出ている。背景を見ると黒い車がほぼ黒いままになっており、それなりのコントラストを保っているようだ。

写真の狙いや好みにもよるが、筆者的には適度にソフト効果が得られるNo.05がこのシーンには適しているように感じた。

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ここからは昼間に撮影したブラックミストNo.05の作例を数点挙げる。

下は強い夕日が直接差し込んでいるシーンだが、No.05でも場合によってはこのようにかなりコントラストが落ちてソフトになってしまうこともある。

α7 III / EF50mm F1.2L USM / マニュアル露出(F2・1/400秒) / ISO 100(ブラックミストNo.05使用)

上の写真と同じ場所で太陽が入らない構図にしたもの。こうすると、ソフト効果はグッと落ちて適度なものになった。このフィルターは逆光撮影が面白いアイテムだが、太陽の位置の調整が使いこなしの1つのポイントのようだ。

α7 III / EF50mm F1.2L USM / マニュアル露出(F2・1/400秒) / ISO 100(ブラックミストNo.05使用)

続いては被写体の頭から少し太陽が見える程度の構図にしたもの。光源付近が輝くようになりゴージャス感が出た。

α7 III / EF50mm F1.2L USM / マニュアル露出(F2.8・1/200秒) / ISO 100(ブラックミストNo.05使用)

ビルの谷間の日陰で撮影したもの。画面に強い光源がないと、効果は限定されるようだ。ただし、ほんのりとソフト効果は出ていて、肌がなめらかに描写されているのがいい。

α7 III / EF50mm F1.2L USM / マニュアル露出(F2・1/250秒) / ISO 320(ブラックミストNo.05使用)

同じようにほぼ順光のシーンでもソフト効果は少ないようだ。それでもコントラストは少し和らぐし美肌効果が現れるので、ポートレートでは活躍しそうだ。

α7 III / EF50mm F1.2L USM / マニュアル露出(F4・1/500秒) / ISO 100(ブラックミストNo.05使用)

夜景ではどうか?

夜景を背景にしたポートレートでもブラックミストの効果を確認してみた。まずはフィルターの無し/No.05/No.1の比較だ。

フィルターなし
α7 III / EF50mm F1.2L USM / マニュアル露出(F1.4・1/100秒) / ISO 3200
ブラックミストNo.05
α7 III / EF50mm F1.2L USM / マニュアル露出(F1.4・1/100秒) / ISO 3200
ブラックミストNo.1
α7 III / EF50mm F1.2L USM / マニュアル露出(F1.4・1/100秒) / ISO 3200

この違いも一目瞭然。No.1は点光源のにじみがかなり大きく出ており、“ドリーミー”といった印象になった。きれいではあるが、場合によっては少々くどいようにも見える。そしてNo.05はNo.1よりもかなりスッキリした画面になった。No.05の絵を見たあとでフィルター無しの絵を見ると少し寂しく見えた。このシーンでもNo.05が丁度いい塩梅になっているようだ。

 ◇

No.05で撮影した夜のシーンを紹介する。下のように玉ボケのあるシーンでは、玉ボケの輪郭が少し柔らかくなるようで、ボケの綺麗さにも一役買うようだ。

α7 III / EF50mm F1.2L USM / マニュアル露出(F1.4・1/100秒) / ISO 6400(ブラックミストNo.05使用)

次はかなり明るいショーウィンドウを背景にしたもの。No.05でもこれくらい明るい光源があると、結構ソフト効果が出てくる。髪の部分のにじみも美しい。

α7 III / EF50mm F1.2L USM / マニュアル露出(F1.8・1/125秒) / ISO 2500(ブラックミストNo.05使用)

こちらは薄暗い顔と多くの点光源という輝度差の大きいシーン。フィルターを使わないとコントラストがキツくなってしまうところだが、No.05によって人物と点光源の「馴染みが良くなった」と表現できそう。シャドウ部はそれなりに締っていて好ましい。

α7 III / EF50mm F1.2L USM / マニュアル露出(F1.4・1/125秒) / ISO 2500(ブラックミストNo.05使用)

動画で試す

冒頭でも述べたとおり、このフィルターは動画撮影でも人気がある。そこで、全てのクリップでブラックミストNo.05を装着して動画を撮影してみた。ポイントはハイライトの美しいにじみと適度に弱まったコントラスト、そして肌の描写だ。

動画作品の場合、そのまま撮影するとコントラストが強くて見ていて疲れるという声もよく聞く。その点、No.05を付けておけばそれなりに見やすい画面になるようだ。Vlogといった動画分野で人気が出るのもうなずける。

まとめ

さて色々試してみたが、ブラックミストNo.05がポートレート撮影でかなり有用なアイテムであることが確認できた。一般的なソフトフィルターやブラックミストNo.1は、ともすると効果の強さから“昭和感”のようなものが出てしまうこともあり、昔に比べてソフトフィルターを使った人物写真を見ることは少なくなったように感じる。

今回ブラックミストNo.05が登場したことで、またソフトフィルターが見直されてきているようだ。強すぎない、いわば隠し味としての効果が写真/動画問わず使いやすいと感じている人が多いのだろう。今は自分なりの見映えを作り出すレタッチやカラーグレーディングを行う人も多いだろうが、ブラックミストNo.05はそうした処理とも相性がいいようである。

No.1とNo.05のどちらかを選ぶとすれば最初はNo.05をおすすめしたいが、作例で見たようにNo.05では効果が弱すぎるシーンもあるので両方あると幅広く対応できよう。逆にNo.05でも効果が強すぎるシーンも目についた。1つの要望として、No.05よりも効果の弱いタイプがあるとさらに良いだろうと感じた次第だ。

α7 III / EF35mm F1.4L USM / マニュアル露出(F2.8・1/640秒) / ISO 100(ブラックミストNo.05使用)

モデル:れい(https://www.instagram.com/_rei207/

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。