交換レンズレビュー

ソニー FE 20-70mm F4 G

超広角20mmスタートが提案する新しい標準ズームレンズの世界

2月に発売されたソニーの「FE 20-70mm F4 G」は35mmフルサイズ対応の標準ズームレンズ。特徴はGレンズに属するF4通しの高性能レンズであること、そして超広角域の焦点距離20mmからスタートすることです。

20mmスタートと言うのは、主に動画撮影を想定しているのかもしれませんが、静止画においても、本格的な超広角撮影を標準ズームレンズのまま使えることには大きなメリットがあると思います。

サイズ感

本レンズの最大径×長さは、78.7×99mmで、質量は488gとなっています。同じくソニーのF4通しの標準ズームで、24mmスタートの「Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS」が73×94.5mm・426gと、本レンズより少し小さく軽い程度。24mmスタートで105mmまで伸びる「FE 24-105mm F4 G OSS」が83.4×113.3mm・663gと、ひと回り大きく重くなっています。このことから、最新の他のGレンズやG Masterレンズと同じように、本レンズも小型軽量を重視して設計されていることが分かります。

レンズフード「ALC-SH174」を装着して「α7 IV」と組み合わせてみました。超広角20mmスタートの標準ズームとしては、とてもコンパクトに感じられます。

装備・操作性

最新の他のGレンズやG Masterレンズと同じく、絞りリングを搭載しています。これは動画撮影での使用を考慮してのことと思います。「Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS」や「FE 24-105mm F4 G OSS」は絞りリング非搭載ですので、時代のニーズに合わせた新しさを感じるところです。

「絞りリングクリック切り換えスイッチ」も備えているため、クリックの有り/無しを簡単に切り換えることができます。動画撮影時に絞り操作で明るさを調整したい場合、クリックを無しに設定すれば無段階で自然に明るさを調整できるので便利です。クリック有りではカクカクと不自然に明るさが変わってしまいます。

そして「アイリスロックスイッチ」も装備。オンにすると、Aポジションに絞りリングを固定するか、またはF2.8からF22の間で自由に設定できる(Aポジションに入らない)かを選択できます。撮影中の不用意な誤操作を防止できます。

「フォーカスホールドボタン」は、鏡筒左側に加えて上側にもあります。横位置撮影時はもちろん、縦位置撮影時でもボタンを押しやすく配慮されています。これも最新のGレンズやG Masterレンズでよく採用されているトレンドですね。

鏡筒左側のフォーカスホールドボタン
鏡筒上側にもフォーカスホールドボタンがある

このボタンはフォーカスホールド以外にも、「AFオン」「AEロック」「ISO感度」など、さまざまな機能を割り当てることができるため、使ってみると意外に便利です。

また、動画撮影時の機能として、「ブリージング補正」にも対応しています。これによって、ピント位置を変えると画角が狭くなってしまう、あるいは広くなってしまうブリージングを抑制してくれます。

現在のところ、この「ブリージング補正」を搭載したαシリーズのカメラは、「α7 IV」や「α7R V」といった最新モデルに限られるのが悲しいところですが、つまり今後発売されるαは対応しているのが基本となるでしょう。レンズ側がこの機能に対応しているのは将来的にも安心できます。

解像性能

標準ズームながら焦点距離20mmからスタートするのは素晴らしいことですが、試写する前は「さすがに画質に関しては光学的に無理があるかも知れない」と考えていました。

が、結果は画面の隅々まで解像感に優れた素晴らしい描写性能でした。筆者は「FE 24-105mm F4 G OSS」を所有しているのですが、悔しいことに、そのレンズの広角端である24mmよりも明らかに優れた光学性能です。

広角端
α7 IV/FE 20-70mm F4 G/20mm/絞り優先AE(1/400秒・F4.0・-0.3EV)/ISO 100
赤枠内を拡大

もちろん望遠端である70mmの描写性能も非常に素晴らしい。というより望遠端の描写性能の高さには、少し驚かされるくらい優れたものがあります。

望遠端
α7 IV/FE 20-70mm F4 G/70mm/絞り優先AE(1/1,250秒・F4.0・-0.3EV)/ISO 100
赤枠内を拡大

「レンズ補正」機能は「周辺光量補正」、「倍率色収差補正」とも「オート」にしていますが(「歪曲収差補正」はなぜか「無効」になります)、それにしても安定的で優れた解像感です。デジタルカメラ用のレンズとして、ミラーレスカメラ用のレンズとして、きっと高度な画像処理が成されているのでしょう。実にソニーらしい最新鋭のレンズだと思いました。

最短撮影距離

広角端20mmの最短撮影距離は30cm。ちょっと物足らなさを感じますが、これはAFでの最短撮影距離になります。

最短撮影距離・広角端(AF)
α7 IV/FE 20-70mm F4 G/20mm/絞り優先AE(1/2,000秒・F4.0・-0.3EV)/ISO 400

マニュアルフォーカス(以下MF)にすれば最短撮影距離は25cmと、いっきに5cmも短縮することができます。単焦点レンズほどではありませんがズームレンズとしてはかなり寄れる部類ですので、被写体を大きく写しながら背景を広く入れるといった、いわゆるワイドマクロの写真を撮ることができます。

最短撮影距離・広角端(MF)
α7 IV/FE 20-70mm F4 G/20mm/絞り優先AE(1/20秒・F4.0・+0.3EV)/ISO 100

一方で望遠端70mmの最短撮影距離はAFでもMFでも25cm。レンズ先端から被写体までの距離は10cmないほどです。この時の最大撮影倍率は0.39倍と高く、ちょっとしたマクロレンズなみに被写体を大きく写せます。

最短撮影距離・望遠端(AF)
α7 IV/FE 20-70mm F4 G/70mm/絞り優先AE(1/640秒・F4.0・±0.0EV)/ISO 100

作例を交えながら


「動物瞳AF」を使っての撮影。寝ている猫ですので、そもそもピント合わせは難しくありませんが、それでもスムーズに瞳に合焦してくれるのは気持ちがよいものです。

α7 IV/FE 20-70mm F4 G/70mm/絞り優先AE(1/50秒・F4.0・±0.0EV)/ISO 400

XDリニアモーターを2基搭載するという贅沢な仕様ですので、AFは素晴らしく速く的確で、なおかつ動画撮影においても問題にならないほど静かな駆動音が実現されています。


焦点距離35mmでの撮影。このレンズで最も感心したいところは、やっぱり画質の良さなのではないかなと思います。超広角スタートという思い切った仕様ながら、ズーム全域で周辺までとても安定した高画質を提供してくれていることを試写で実感しました。

α7 IV/FE 20-70mm F4 G/35mm/絞り優先AE(1/180秒・F5.6・-0.3EV)/ISO 100

比較的近距離での望遠端撮影になりますが、どこまでも像が乱れることなく気持ちの良い画が得られています。


シャガの花が群落で満開となっていましたので撮りました。焦点距離20mmというワイドな画角と、素晴らしく寄れる最短撮影距離のおかげで、自由に撮影距離を決めて適度な範囲を画角に収めることができたと思います。

α7 IV/FE 20-70mm F4 G/20mm/絞り優先AE(1/60秒・F8.0・±0.0EV)/ISO 400

お城の石垣にビルの窓の反射が映り、幾何学的な模様が映し出されていました。太陽の周辺で少しゴーストが出現してはいるものの、最新の設計で最新のコーティングが施されたレンズだけに、最新の標準ズームとして優れた逆光耐性をもっていると感じました。

α7 IV/FE 20-70mm F4 G/70mm/絞り優先AE(1/50秒・F8.0・-2.0EV)/ISO 100

焦点距離50mm、頻繁に使う画角でのボケ味を確認したいと思い撮影しました。標準域のボケ味も非常に柔らかく自然で素直なボケ方をしてくれています。ピント面で十分な解像感を出しながら、ボケ味も自然で美しいとくれば、実用性は申し分なくさまざまなシーンで活用できます。

α7 IV/FE 20-70mm F4 G/50mm/絞り優先AE(1/160秒・F4.0・-0.3EV)/ISO 100

同じく焦点距離50mmでの撮影です。絞りはF5.6としましたが、高性能ラインのGレンズらしく、解像感に溢れる高画質な画を得ることができます。

α7 IV/FE 20-70mm F4 G/50mm/絞り優先AE(1/125秒・F5.6・-0.3EV)/ISO 100

スナップ撮影などでは、F4~F5.6あたりの絞り値を使うことが多くなると思いますが、本レンズは開放絞り値F4でも高画質な画像を得られます。大口径レンズによる明るいF値を必要としないのであれば、本レンズの使い勝手の良さと安心感の高さは、画期的に新しいといえるのではないでしょうか。

まとめ

試写した結果、素晴らしい描写性能であることが分かりました。そのうえ携行性に優れ、操作性も上々なのですからいうことがありません。

多くの標準ズームで広角端として設定されている24mmと4mmしか差がありませんが、広角域での4mmの違いが画角に与える影響はとても大きいものがあります。その意味では、ワイド撮影が好きな人や、動画撮影をよくする人にとっての新スタンダードになるレンズかもしれません。

20mmスタートのズームレンズといえば、2022年10月にタムロンから「20-40mm F/2.8 Di III VXD」が発売されています。

本レンズとは、望遠端を抑えて開放F値の明るさをとるか、開放F値を抑えて望遠端を伸ばすかの違いがありますが、描写性能にかんしてはどちらも非常に優れたレンズであることに違いはありません。

これまであまり見られなかった、広角側の広さに注力した製品が登場しているという昨今の新しい流れは、Eマウントユーザーにとってとても喜ばしいことです。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。