交換レンズレビュー

OM SYSTEM「M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 MACRO IS PRO」

驚くほどコンパクトな望遠マクロレンズ 最大撮影倍率2倍の「S-MACRO」モードも

春本番。頭上に、足元に、花たちが膨れ上がるように咲いています。ということで、今回は美しく可憐な花々をOM SYSTEMの新たなレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO」で撮影しました。

OM SYSTEMのレンズには、35mm判換算で60mm相当の標準マクロレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro」(以下30mm F3.5)、120mm相当の望遠マクロレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro」(以下60mm F2.8)がありますが、2月24日に発売されたのは、最も焦点距離が長い望遠マクロレンズです。

いわゆる標準マクロレンズ、中望遠マクロレンズ、望遠マクロレンズのそれぞれに特徴がありますが、望遠マクロレンズのメリットとしては、ボケの大きさ、そして被写体との距離を長く保てることでしょう。花壇の奥にある花を狙ったり、気づかれないよう近づきすぎずに昆虫を撮ることができます。

最大撮影倍率は1倍(35mm判換算で2倍相当)。後述する「S-MACRO」モードでは2倍(同4倍相当)となり、接写性能に問題はありません。

既存の60mm F2.8(120mm相当)より、さらに焦点距離が長い90mm(180mm相当)の望遠マクロレンズは、花のクローズアップ撮影がメインの私にとって、待望のレンズだったのです。

外観・機能

30mm F3.5や60mm F2.8に比べると、大きさ・重さともにアップしますが、マイクロフォーサーズはシステムとしてコンパクトになるので、180mm相当の望遠マクロとしては453gと軽量、コンパクトといえるでしょう。一日中、手持ちで撮影していても腕が疲れにくいのはありがたいです。

装着ボディはOM SYSTEM OM-1

フォーカスを合わせるとき、レンズの全長が伸びないインナーフォーカス式なのもポイントです。撮影倍率を高くしたときにレンズが繰り出して、うっかり狙っていた水滴を落としてしまったり、レンズ前面に花の花粉をつけてしまう心配もありません。

ピントリングは幅広く、マニュアルフォーカスの操作も容易。ピントリングを前後に動かすとオートフォーカス(以下AF)とマニュアルフォーカス(以下MF)の切り替えができます。

フォーカスリングをスライドさせてMFに切り替えたところ

レンズの側面には「フォーカスリミットスイッチ」が備わっています。AFが作動する距離を制限し、近距離でより素早くピントを合わせをするための機能です。一般的なレンズの場合、このスイッチは2段階程度の距離範囲を選択できますが、このレンズでは「0.25m〜∞」「0.25〜0.5m」「S-MACRO」(後述)の3段階が用意されています。

上からフォーカスリミットスイッチ、ISスイッチ、L-Fnボタン

「L-Fn」ボタンにはさまざまな機能を割り当てることができます。例えば「MF切替」を設定すると、AFが合いにくいシーンで瞬時にMFへと切り替えることができます。

同梱のレンズフードはロック式。取り外ししやすく、簡単には落下しにくくなっています。

作例

次に画質を見ていきましょう。ご覧いただけるように、ハイビスカスのしべを拡大して見ると、実に細くリアルに再現されているのがわかります。このときは手持ちで撮影していますが、最大7段分の補正効果というボディ・レンズ協調の5軸シンクロ手ぶれ補正が強力。ボケも滑らかで素直な表現です。

OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 MACRO IS PRO/90mm(180mm相当)/絞り優先AE(1/60秒・F5・+1.3EV)/ISO 400

遠景の桜も花の一輪一輪が細かに解像され、近距離はもちろん遠距離までもシャープネスの高い画像になっていました。“撮れている”感覚が得られるのは撮影中、とても軽快でした。

細かいフレーミングはズームレンズの方が便利ですが、寄り引きできるところでは、マクロレンズならではの高画質を狙って使うのも良いでしょう。

OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 MACRO IS PRO/90mm(180mm相当)/絞り優先AE(1/400秒・F5.6・+0.3EV)/ISO 200

ウメのしべの先端にピントを合わせています。小さな被写体でも、AFがスムーズに合うのでストレスを感じることは少ないです。

OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 MACRO IS PRO/90mm(180mm相当)/絞り優先AE(1/1,000秒・F3.5・-1.3EV)/ISO 200

花の近くをホバリングしているミツバチ。動いている被写体を撮るのは苦手なのですが、AFがしっかり合わせてくれたのでシャープに撮ることができました。細かな毛だけではなく、そこについた花粉までしっかり写っています。

OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 MACRO IS PRO/90mm(180mm相当)/絞り優先AE(1/4,000秒・F3.5・+1.0EV)/ISO 400

アートフィルター「ファンタジックフォーカス」を使用。ソフト系のエフェクトを通した画像ですが、ピントの合ったしべを見るとシャープです。

OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 MACRO IS PRO/90mm(180mm相当)/絞り優先AE(1/200秒・F3.5・+1.7EV)/ISO 200

F11まで絞り込んで撮ってみました。ピント面の花がとてもくっきりしています。望遠ですし、やや近い距離で撮影しているので、奥に行くに従いボケています。

OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 MACRO IS PRO/90mm(180mm相当)/絞り優先AE(1/100秒・F11・+1.0EV)/ISO 200

夕暮れの逆光で撮影しました。レンズ表面に光が直接入り込むギリギリぐらいの角度ですが、フレアやゴーストがほとんで見られずクリアですね。+2.3EVの補正をかけてハイキーに仕上げました。ムスカリという小さな花が群生していたのですが、前後の花のぼけを入れることで奥行きが感じられます。

OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 MACRO IS PRO/90mm(180mm相当)/絞り優先AE(1/40秒・F3.5・+2.3EV)/ISO 200

春の野で見られるツクシ。奥に見えるのは桜で、背景を感じられる程度のボケになっています。単焦点レンズなので焦点距離によるボケのコントロールができないぶん、絞りや被写体との距離を意識してボケ具合を調整しています。

OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 MACRO IS PRO/90mm(180mm相当)/絞り優先AE(1/800秒・F3.5・+0.7EV)/ISO 200

S-MACRO

「フォーカスリミットスイッチ」を「S-MACRO」に切り替えることで、撮影距離0.224m〜0.5mの高倍率撮影を行なうことができます。このときの最大撮影倍率は2倍。撮影距離0.224m時の絞り開放F値はF5となります。さらに、2倍のテレコンバーターレンズ「MC-20」を使用すると、「S-MACRO」時の最大撮影倍率は4倍に上がります。


チョウの標本を撮影させてもらえたので、1倍、2倍、テレコンを付けた4倍で撮り比べました。

顕微鏡とまではいきませんが、肉眼では見られない細部まで描写されています。パソコンで拡大してみると、意外な造形や金属的な光沢に驚きました。

1倍(通常撮影)
OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 MACRO IS PRO/90mm(180mm相当)/絞り優先AE(0.6秒・F8.0・±0.0EV)/ISO 200
2倍(S-MACRO)
OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 MACRO IS PRO/90mm(180mm相当)/絞り優先AE(1.0秒・F8.0・±0.0EV)/ISO 200
4倍(S-MACRO+MC-20)
OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 MACRO IS PRO/180mm(360mm相当)/絞り優先AE(1.6秒・F11・-0.7EV)/ISO 200/MC-20使用

ちなみにS-MACRO使用時はもちろん、テレコン装着時もAFが働きます。上の4倍の写真もAFでピントを合わせることができました。ここまでの拡大率でAFが効くのはありがたいです。

まとめ

これまで、私の中でのレンズの使い分けを以下のように考えていました。

1. 近距離でのクローズアップ(バラの花芯だけを切り取る、水滴を狙うなど)
→M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
[さすが本職のマクロレンズ、とにかく近づけるし画質も良い]

2. カメラから離れた花を狙う
→M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
[焦点距離を稼ぎたいため明るい望遠ズームレンズを使用]

ここに新しい選択肢として、「M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 MACRO IS PRO」が加わりました。「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」(以下40-150mm)より撮影倍率が高く、被写体に寄れてボケが大きい。そしてマクロレンズならではの優秀な近接画質が得られます。ただし300mm相当までズームできる40-150mmは、今後も被写体が遠い位置にあるとき活躍してくれそうです。

私の撮影は花がメインですが、昆虫や小物の撮影にも便利でしょう。これからも次々に花の咲く時期が続きます。このレンズでいろいろな作品を撮ってみませんか。

吉住志穂

1979年東京生まれ。高校入学後から本格的に撮影を始める。2001年日本写真芸術専門学校を卒業後、写真家の竹内敏信氏に師事。自然の「こころ」をテーマに、主に花のクローズアップを撮影している。2016年には和紙にプリントし、掛軸に仕立てた展示「花時間」を開催し、好評を博す。また各地での講演会や写真誌での執筆を行う。公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員。