交換レンズレビュー
SIGMA 70mm F2.8 DG MACRO | Art
あの「カミソリマクロ」が復活 その切れ味に迫る!
2018年6月13日 07:00
その解像力の高さから、「カミソリマクロ」と好評であった初代Macro 70mm F2.8 EX DGであったが、35mmフルサイズ高画素時代に相応しいさらなる高画質を実現し、SIGMA Art ラインシリーズの1本として、新しいマクロレンズSIGMA 70mm F2.8 DG MACRO | Artとしてデビューした。
フォーカスレンズ群を2つとし、それぞれを異なる移動量で動かすことで、無限遠から、最短撮影時まで収差を最小限に抑え解像力のみならず、ボケ味も含め高画質を実現したことが特徴である。
70mmという焦点距離も特徴的であるが、マクロ撮影での現実をよく練りこんだ焦点距離だ。アングルの変化に対して敏感なマクロ撮影ゆえ、効果的にアングル変化を活用したいが、焦点距離が長いと、アングルの変化をさせにくい。かといって短い焦点距離では広角歪み(歪曲収差ではない)によって画像の倒れが発生する。つまり50mmでは短すぎ、100mmで長すぎる。70mmがちょうど使いやすい焦点距離であるのだ。
発売日:2018年5月25日(キヤノンEF)、2018年6月22日(シグマSA)
実勢価格:税込6万円前後
マウント:キヤノンEF、シグマSA、ソニーE(発売日未定)
最短撮影距離: 0.258m
フィルター径:49mm
外形寸法:約70.8×105.8mm
重量:約515g
デザイン
デザインは細身でシックな印象だ。Artラインシリーズらしくモノトーンでまとめられ、仕上げや素材の違いにより落ち着いた高級感を演出している。
細身であることに加え、距離リングのゴム部が大きく、大変にホールドしやすいレンズだ。重量は約515gとそれなりだが、少し大柄なボディとの相性がよく、前後バランスが良い。
最短撮影距離にすると、レンズ全長が1.3倍ほどになった印象である。この時フードがついていないと先細りで、デザインとしてはアンバランスに見えてしまうかもしれない。しかし、最も繰り出した状態でも前後の重量バランスの変化は少ない。手持ち撮影でバランスの変化を感じることはなかった。
フードは鏡胴側にバヨネット装着するので、撮影距離によって前後しない。フードの中でレンズが前後する感じだ。デザインとしては、最短撮影時にも落ち着きがあり、好ましい。最短撮影時は撮影倍率が等倍となり、レンズ先端から、被写体までの距離は数cmとなるので、レンズ保護の観点からも常にフードを装着しておいて良いだろう。
また面白いのは、フィルターネジが2カ所切ってあることだ。1つはレンズ先端部の49mmネジ。フィルターはこちらに取り付ける。もう1つは、フード内側の鏡胴先端に65mmのネジが切ってある。
65mmの方は別売のマクロフラッシュEM-140 DGを取り付けるためのものだ。レンズの動きに連動しないので、フィルターをつけるのには向かないが、EM-140 DGを取り付ける以外に、ねじ込みフードを装着したり、レンズ前端を固定するステーを作ってみたりなど、ユーザーカスタマイズが楽しめそうだ。
操作性
ピントリングは十分な長さがあり、大変にホールド、操作がしやすいものだ。バイワイヤを採用したため、トルクの変動もなく、大変スムーズだ。
ピントリングをごくゆっくり回したときには、レンズが動いていないのではないかと間違うほど、ゆっくりとピントが変わるので、精密なピント合わせがしやすいのだ。
カメラをホールドして、左手がかかる位置にAF/MF切り替えスイッチと距離制限のスイッチがある。どちらもArtラインらしく大きく操作しやすいが、邪魔にならない落ち着いたデザインだ。
距離制限のスイッチはAF時のみ有効であり、MFに切り替えると制限されない。この設定は頻繁にAF/MFを切り替える際には便利だが、そもそも、最短から無限遠まで1秒ほどで合焦できるので、暗い場所やよほどコントラストの低い被写体でなければ、距離切り替えを意識する必要もないだろう。
AF
先にも触れたが、最短から無限遠まで1秒強といったところだが、スムーズで静かな動きである。50cmから無限遠に限定してしまえば、0.5秒程度と思われる。俊速とまでは行かないが、ポートレートや風景などマクロ以外の撮影で不満が出る速度ではない。0.5mから最短(25.8cm)も0.5秒程度なので、こちらはマクロレンズとしては快適な速度であるといえよう。
各社カメラとの連動にも注目だ。ソニーのファストハイブリットAFやダイレクトマニュアルフォーカス、瞳AFなどはカメラとレンズが連携していなければならない。その点にも抜かりなく、ソニーEマウントにも対応した。
また、シグマ、およびキヤノンマウントのシグマレンズをEマウントに変換するマウントコンバーターMC-11使用時、これまではAF-Cが動作しなかったが、こちらも動作可能となった。
AF同様、レンズとボディの連携は画像そのものにも必要である。キヤノン製ボディではカメラ内レンズ補正があるが、本レンズではキヤノンのカメラ内レンズ補正にも対応している。
それゆえ、作例撮影時にはカメラ内レンズ補正をON(周辺光量、倍率色収差、歪曲収差)にして撮影した。
作品
チタンの水筒、ステンレスの時計とナイフを砂の上においた。ゴム製ベルトも含めて、それぞれピントが合っている面において、質感の違いを素晴らしく描写している。また、画面右下隅では砂にもピントが合っているが、画面最周辺でも像が流れることなく、高い解像力を発揮している。
高い解像力を求めたレンズは、ボケがガサつきがちだが、本レンズでは前ボケも後ろボケも十分に柔らかな描写をしている。ポートレートでも満足な結果を得られるだろう。逆光の条件だが、中間距離でも素晴らしい解像力である。
太陽と波風に晒されて、柔らかい部分が朽ち落ちた流木。木の繊維までよく描写している。
時計のリューズを等倍撮影した。普段は指先で感じていることが視覚化され、妙な納得感を得る。マクロ撮影の面白さだ。ベゼル、リューズ、ケースそれぞれの仕上げの違いが良くわかる。最短撮影時、F8でのボケは自然な距離感を保ち、現実感がある。
厚いベーコンと玉ねぎを鋳鉄のスキレットで焼く。F11では隅々までピントの合ったシャープな描写。シャープな描写がスキレットとナイフの硬さを引き出し、対比する肉の柔らかさとシズル感を際立たせた。開放絞りで叙情的に表現するのとは違い、レンズの描写の良さが素材を際立たせるのだ。
素材と仕上げが違うボルト&ナット。鍛造ステンレス、真鍮切削、ユニクロメッキの3種だ。輝点のボケはややリング状になっているものの、物体のボケは滑らかで立体感を感じさせる。最短距離でも、ボケの対称性がよく、それも美点である。
別の時計のケース裏側を撮影した。シースルータイプなので、ムーブメントが見える。ピントは錘のベアリングに合わせたが、手前にあるケースも、奥のテンプも厳密には被写界深度に入らない。
しかし、質感は素晴らしく描写され、それぞれのパーツの仕上げの違いが良くわかる。ケース前面が画面最周辺にまで位置するが、均質に高い解像力で描写されていることがわかる。
鋳鉄、チタン、ステンレス、アルミ、プラスチックなどの素材のキャンプ道具を砂の上で撮影。素材描写と前後のボケを見るためだ。素材感の描写は、中心から横方向周辺まで全く申し分ない。
そして、一見してボケが距離に応じて大きくなり、立体感を感じさせる良い描写である。しかし、最も遠いところのボケはややドーナツ状であり、少しボケがざわつく傾向だ。こうした場合は絞りを1段開けるとざわつきが改善する。
まとめ
本レンズはカミソリマクロの後継機にふさわしく、素晴らしい解像力を持ったレンズである。さらにボケも含めた描写力が格段に素晴らしい。レンズ全体を動かす形式では、撮影距離が変わると収差量も変わり、結果描写が撮影距離で変わってしまうが、本レンズでは機構的特徴の通り、最短から無限遠まで描写がほぼ変化しない。
ごく一部絞り値とボケ量との関係において、ボケがざわつく場合はあるが、それは本レンズの評価に影響するほどののものではない。
解像力という点において、最近のレンズはF8やF11よりも明るい絞り値で最大の解像力となる傾向がある。これはレンズがより無収差に近づいているからと言えるが、本レンズでも、中心部が最高の解像力を持つのはF5.6の時であった。
しかし、それはF5.6だけが良いのでなく、その前後、ことにF4~F8では見分けがつかないほどだ。F2.8、F11でも、ほんのわずかな差でしかなく、本レンズのスイートスポットは撮影距離にかかわらず、F2.8~F11の広い範囲であると言える。
F16やF22では回折ボケ、あるいは小絞りボケにより解像感は落ちるが、それは本レンズの収差ではなく、物理現象である。しかし、このことは余程の大判プリントをするのでなければ、気にすることはない。
前述の通り本レンズの合焦面ではどの撮影距離でもシャープだが、ボケは絞り値によって変化する。ボケがざわつくようなときは、1段絞る、もしくは開けると解消することも多いので、使いこなしとして覚えておくと本レンズの良さをさらに味わえるだろう。