交換レンズレビュー

SIGMA 85mm F1.4 DG HSM | Art(ソニー用)

“究極のポートレートレンズ”がソニーEマウントに

2018年5月25日に、シグマはソニーEマウントの交換レンズSIGMA 85mm F1.4 DG HSM | Artを発売した。解像力に定評のあるシグマの「Artライン」にラインナップされる1本だ。

発売日:2018年5月25日
実勢価格:税込14万円前後
マウント:ソニーE
最短撮影距離: 0.85m
フィルター径:86mm
外形寸法:約94.7×152.2mm
重量:約1,245g

概要

当レンズは、一眼レフカメラ用Artラインの光学設計はそのままに、ソニー Eマウント用交換レンズとしてAF駆動方式や通信速度の最適化が施されている。

85mmのレンズは、被写体が歪みにくく、35mmや50mmよりも背景をボカして被写体の存在感を強調できる。ゆえに、「85mmはポートレート撮影に最適」と言われることも多い。公式Webサイトでも「究極のポートレート用レンズ」とうたわれている。当レンズを使用し、今回はポートレート撮影を行なった。ソニーα7R IIIに装着して撮影した作例を見ながら、本レンズの魅力を体感していただければと思う。

ソニー純正の「FE 85mm F1.4 GM」と比較すると、描写に関しては両者ともに素晴らしいが、価格とサイズ感には違いがある。

価格面でいうと、SIGMA 85mm F1.4 DG HSM | Artは14万円前後(実勢価格、税込)だが、FE 85mm F1.4 GMは22万円前後(同)だ。価格に関しては、シグマの方がハードルは低い。

サイズにも違いがある。シグマは、純正レンズと比べて一回り以上大きく、質量は425gも重くなっている。サイズに関しては、シグマの方がややズッシリとした印象だ。

デザイン

鏡筒デザインは、いままでのArtラインのものを踏襲。Artラインユーザーからすると「おなじみ」のデザインであり、一目でシグマのArtラインのレンズだとわかる。「極力デザインしないデザイン」がコンセプトなだけあって、シンプルで、長く使っても飽きのこない形に仕上がっている。

今までのArtラインのレンズと違いは、マウント部周辺の造形だ。当レンズはマウントアダプターを介さない"マウントのネイティブ化"による剛性感を特徴としている。

そのほか、表面処理を施し強度を高めた真鍮製マウントを採用し、高い堅牢性を実現している。また、マウント接合部には防塵防滴性に配慮し、ラバーシーリングが施されている。

デザイン面で特筆すべきはそのサイズである。最大径×長さは94.7×152.2mm 、重量は約1,245gとだいぶ大きめだ。筆者は普段キヤノン用のArtラインのレンズを使用しているが、持ったときの感覚はそれと完全に同じものであった。

α7R IIIに装着してみると、明らかにフロントヘビーな印象だ。フードを付けると、ただでさえ大きなレンズがさらに存在感を増す。

ボディα7R III(約657g)とレンズ(約1,245g) を組み合わせると、約1,902gとなる。総重量は一眼レフに装着したときとほとんど変わらない。重たいだけあって安定したホールド感が得られるが、長時間の持ち歩きはオススメできない。

操作性

フォーカスリングには、幅の広いラバー素材が使われている。リングには適度なトルク感があり、MFでもスムーズにピント合わせができる。

AF/MF切替スイッチは鏡筒の左側に配置されている。レンズをホールドしたときちょうど左手の親指の位置にスイッチがくるので、直感的な切り替え操作ができる。そのため、集中力を阻害されることなく撮影に臨める。

AF

レンズごとにチューニングされたAF駆動制御プログラムと高速通信により、AFは純正レンズと同等に速い。暗所でも合焦速度はほとんど落ちず、狙ったところにぴったりと合う高速かつ高精度なAFが気持ちよいと感じた。

筆者は普段、キヤノン用のArtラインのレンズにMC-11をつけ、αシリーズのカメラに装着して撮影しているが、シーンによってはAFの食いつきに弱さを感じることもあった。しかし、ソニー Eマウント用に最適化が施されている当レンズは、AFの合焦速度と精度が飛躍的に向上している。

ちなみに、当レンズは従来のマウントコンバーターMC-11では対応できなかったAF-Cモードでの撮影も可能となっている。

さらに、ボディ内手ブレ補正、カメラ内収差補正機能(周辺光量補正、倍率色収差補正、歪曲収差補正)にも完全対応している。

作品

陸橋の上で、風を感じるモデルを撮影した。フォーカスがきているまつげや髪の毛の1本1本が切れ味鋭く描写されている一方、大口径らしい背景のなだらかなボケが被写体の存在感を引き立てている。圧倒的な解像力を誇るArtラインのレンズらしさを感じた。

α7R III / 85mm F1.4 DG HSM / 1/3,200秒 / F2.8 / 0EV / ISO 200 / マニュアル露出 / 85mm

今度は引いて、F1.6でモデルの全身を撮影した。85mmという画角は、このくらい引くと、状況がわかる程度に背景をぼかした上、被写体を際立たせることができる。個人的には、絞り開放付近で引き絵を撮ったときの描写が自然で好みだ。寄りだけではなく引きでも多用したくなる。

α7R III / 85mm F1.4 DG HSM / 1/8,000秒 / F1.6 / 0EV / ISO 200 / マニュアル露出 / 85mm

絞り開放でモデルにやや寄って撮影をした。レンズの色乗りが良く、黄色い花と背景の緑の対比が心地よい。色の多いシーンでも積極的に使いたいと思った。

α7R III / 85mm F1.4 DG HSM / 1/4,000秒 / F1.4 / 0EV / ISO 200 / マニュアル露出 / 85mm

トンネルの壁に寄りかかったモデルを撮影した。コントラストが高い描写をするレンズなので、このように明暗がはっきりとしているシーンをより立体的に描くのに向いていると感じた。

α7R III / 85mm F1.4 DG HSM / 1/320秒 / F4.5 / 0EV / ISO 200 / マニュアル露出 / 85mm

逆光状態でシャッターを切った。こういった光線状態ではピントが合わずにイライラすることが多いが、当レンズに関してはAFの合焦が非常にスムーズだったので、ノーストレスでモデルの瞳にピントを合わせることができた。

α7R III / 85mm F1.4 DG HSM / 1/250秒 / F2.8 / 0EV / ISO 200 / マニュアル露出 / 85mm

遊具の中に佇むモデルを絞り開放で撮影した。モデルの前も後ろも大きくボケてはいるが、ボケ方がナチュラルでクセがないため、自然な雰囲気の1枚に仕上がっている。

α7R III / 85mm F1.4 DG HSM / 1/1,600秒 / F1.4 / 0EV / ISO 200 / マニュアル露出 / 85mm

最短撮影距離(85cm)まで寄ってシャッターを切った。このくらいの距離感があった方が、モデルの自然な表情を捉えることができるように思う。モデルの瞳の中には筆者を始め、目の前の光景がきっちりと写り込んでいる。改めて、合焦部のキレのある解像感に驚かされた。

α7R III / 85mm F1.4 DG HSM / 1/640秒 / F1.4 / 0EV / ISO 200 / マニュアル露出 / 85mm

木々をバックに、絞り開放でモデルを撮影した。背景の木漏れ日の点光源が円形ボケとなって表現されている。ボケの形は完全なる円形ではないが、そこまでは気にならない。

α7R III / 85mm F1.4 DG HSM / 1/2,000秒 / F1.4 / 0EV / ISO 200 / マニュアル露出 / 85mm

同じシーンで、今度はF2.8に絞ってみた。背景のボケがだいぶ円形に近づいた。

α7R III / 85mm F1.4 DG HSM / 1/500秒 / F2.8 / 0EV / ISO 200 / マニュアル露出 / 85mm

F4まで絞ってモデルの全身を撮影した。背景の木々や建物のボケ方が極めて自然で、肉眼で見たものに近い印象となった。

α7R III / 85mm F1.4 DG HSM / 1/125秒 / F4 / 0EV / ISO 200 / マニュアル露出 / 85mm

まとめ

ピント合焦部のキレのある描写と、大口径レンズらしいなだらかで美しく、かつ自然なボケがどのようなシーンでも被写体の存在感を強調する。

AFも高速かつ高精度だ。とにかく撮っていて楽しい。まさに当レンズは「究極のポートレート用レンズ」と言えよう。

サイズは大きめだが、価格と写りを考えると納得だ。αシリーズのボディをお持ちで、ポートレートを撮影する方は、ソニーEマウント用に最適化されたSIGMA 85mm F1.4 DG HSM | Artをぜひ試してみて欲しい。

モデル:川口紗弥加

大村祐里子

1983年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。有限会社ハーベストタイム所属。雑誌・書籍での執筆やアーティスト写真の撮影など、さまざまなジャンルで活動。