交換レンズレビュー
FE 100mm F2.8 STF GM OSS
まろやかなボケと高い解像力を両立
2017年4月3日 12:00
ソニーの35mmフルサイズ用Eマウントレンズに、待望の100mm中望遠単焦点レンズが加わった。
筆者はα7R IIユーザーであるが、ちょうど、仕事でポートレート撮影をする際に使える中望遠単焦点レンズが欲しいと思っていたところだったので、FE 100mm F2.8 STF GM OSSの登場は嬉しいニュースだった。
今回は、公式サイトで「シャープな描写と息をのむ柔らかなボケ味を追求した、中望遠単焦点STFレンズ」と紹介されているFE 100mm F2.8 STF GM OSSを使って女性ポートレートを撮影した。その作例を見ながら、本レンズの魅力を体感していただければと思う。
発売日:2017年3月24日
希望小売価格:18万8,000円(税別)
マウント:ソニーE
最短撮影距離:0.57m
フィルター径:72mm
外形寸法:85.2×118.1mm
重量:約700g
デザインと操作性
筆者がポートレート撮影をする際によく使うのは、35mm、50mm、85mmの3本である。35mmで引き絵を撮り、50mmで大半の撮影をし、85mmで背景をボカして被写体の存在感を強調する、という使い分けをしている。
ただ、もっと背景をボカしたかったり、より被写体の存在感を強調したい、と感じるシーンも多い。そんなときに必要なのが100mmレンズだ。
100mmレンズは85mmよりもさらに焦点距離が長くなるので、開放で使えば背景が大きくボケて、被写体の存在感がより強調される。すべてを100mmで撮影すると単調かつくどくなってしまうが、他の焦点距離のレンズで撮影したものと混ぜて写真を組めば、全体から見てアクセントの効いた1枚になる。
本レンズは、優れた解像力と美しいボケ味を誇るプレミアムレンズシリーズ「G Master」の一員としてラインナップされている。ナノARコーティング、ED(特殊低分散)ガラス、非球面レンズの採用により、画面全体に渡り鋭く切れのある描写が特長だ。
鏡筒に搭載された切り替えリングを操作することで、マクロ域への切り換えが可能な「マクロ域切り換え機能」も搭載している。上質なボケを生かしつつ、最短撮影距離0.57m、最大撮影倍率0.25倍の近接撮影が可能となっている。
レンズ内蔵の光学式手ブレ補正機構を採用し、暗い場所での撮影や近接撮影時の手ブレを補正する。5軸ボディ内手ブレ補正機構搭載のαボディに装着すれば、ボディ内蔵の手ブレ補正の効果も得られるため、さらに撮影領域が広がる。
AF/MFを切り替えるフォーカスモードスイッチをはじめ、フォーカスホールドボタンや絞りリング、絞りリングクリック切り換えスイッチなども搭載し、高い操作性を備えている。
さらに、ほこりや水滴の浸入を防ぐ設計を採用し、屋外の厳しい環境下でも安心して使用できるよう考慮されている。
鏡筒デザインは、これまでのG Masterレンズを踏襲。ボディとの一体感が感じられる、黒とオレンジを基調としたデザインに仕上がっている。
フィルター径は72mm。最大径×長さは85.2×118.1mm。質量は700g。ずっしりとしているので安定したホールド感が得られるが、約625gと小ぶりなα7R IIにフードをつけた状態で装着するとかなりフロントヘビーな印象だ。
筆者は、ボディにバッテリーグリップを装着した方がレンズとのバランスがとれると感じた。後ほど紹介する作例もすべてバッテリーグリップをつけて撮影している。
性能を考えると納得のサイズと重量なのだが、機材の軽量化目的でαシリーズを使われる方にとっては、若干意に反するところがあるかもしれない。
スイッチ類は鏡筒の左側面にまとまっているので、レンズをホールドしながら左手親指で簡単に操作できる。絞りリング、マクロの切り替えもファインダーを覗きながらスムーズに行えた。
フォーカス駆動には、圧電素子の超音波伸縮運動を用いてフォーカスレンズを駆動する「ダイレクトドライブSSM」(DDSSM)を搭載。AFは高速かつ静かで、撮影時の集中力を阻害されることはなかった。
Eマウント初のSTFレンズ
中でも、特筆すべきは、Eマウント初のSTF(Smooth Trans Focus)レンズという点だろう。STFレンズとは、アポダイゼーション(APD)光学エレメントという特殊効果フィルターを内蔵することで、滑らかで理想的なボケ味が得られるものを指す。
アポダイゼーション光学エレメントは、レンズの中心から周辺に向かうにつれて透過光量を減少させる特殊効果フィルターである。点光源の輪郭を柔らかくしつつ、二線ボケの発生を抑制する力がある。
ソニーのSTFレンズといえば、2006年に発売された、Aマウント用のレンズ「135mm F2.8[T4.5]STF」がある。しかし、ソニーは今回のFE 100mm F2.8 STF GM OSSで新開発のアポダイゼーション光学エレメントを採用。これは135mm F2.8[T4.5]STFをさらに超えるものであると謳っている。
かつての135mm F2.8[T4.5]STFは6群8枚(APDエレメント1群2枚含む)構成だったが、FE 100mm F2.8 STF GM OSSでは10群13枚(APDエレメント含まず)と贅沢な仕様となっており、画質面でも期待できるものとなっている。
他のレンズとの大きな違いは、STFレンズはアポダイゼーション効果により透過光量が減少するため、絞りリングには、レンズ口径と焦点距離によって決まるFナンバーではなく、Tナンバーが表記されている点だ。カメラに表示、記録されるF値もTナンバーの数値となる。
アポダイゼーション光学エレメントを採用すると、レンズ周辺部に向かって段階的に暗くなるため位相差AFを正確に動作させることが難しくなる。したがって、かつてのAマウント用135mm F2.8[T4.5]STFはMF専用レンズだった。
しかし、FE 100mm F2.8 STF GM OSSはこの問題を解決し、コントラストAFと像面位相差AFの両方に対応した。これによりポートレートなどの動体撮影にも使いやすいレンズとなった。
作品
木漏れ日をバックに、開放T5.6で撮影した。背景の木漏れ日の柔らかな描写が、ピントの合った被写体を鮮明に際立たせている。自然な立体感が素晴らしい。
さきほどと同じ場所で、T6.3に絞って撮影をした。木漏れ日の点光源がきれいな円形ボケとなって表現されている。さすがはボケに徹底的にこだわるG MasterのSTFレンズだ。
モデルに桜の枝の間に立ってもらい、開放T5.6で撮影した。前ボケはまろやかでクセがなく、やさしい印象だ。
やや引いて、開放T5.6でモデルを撮影。100mmの焦点距離があれば全身を入れても背景を適度にボカし、被写体を際立たせることができる。筆者は、α7R IIの「顔検出」を「入」にし、さらにAFLボタンに「瞳AF」を割り当て、撮影時にはAFLボタンを押している。この両方を使えば、開放、かつ引いて撮影するときでもモデルの瞳にしっかりとピントを合わせることができる。
マクロ域に切り替え、モデルに寄ってシャッターを切った。瞳に写り込むレフもきちんと描写されており、合焦部のキレのある解像感に驚かされた。
最短撮影距離(57cm)でシャッターを切った。画面がモデルの顔でいっぱいになるくらいまで寄れる。高い解像性能を維持しつつここまで寄れる中望遠レンズは貴重だ。アップの撮影でも多用したくなる。
同じく最短撮影距離で草花を撮影してみた。ピント合焦部からなだらかに始まるやさしいボケが美しい。
モデルにミモザの木に並んでもらい、やや画面の端に寄せて撮影をした。ピントの合っているモデルの周辺、ミモザの花や葉の質感が鮮明に描写されており、画面中央部以外でも解像感が高いことが伺える。
まとめ
公式サイトが謳う「シャープな描写と息をのむ柔らかなボケ味を追求した、中望遠単焦点STFレンズ」という文言に間違いはないと感じた。
ピント合焦部のシャープさと柔らかなボケがとにかく気持ちが良い。特に、そのとろけるようなボケ味がポートレート撮影において女性の存在感をやさしく引き立ててくれるように思う。さらに、描写面だけではなく操作面でも一切の妥協をしていない点が高評価だ。
引いてよし、寄ってよしの本レンズ。ポートレート撮影をする人には必須の1本といえるだろう。
モデル:川口紗弥加