ライカレンズの美学
APO-MACRO-ELMARIT-TL F2.8/60mm ASPH.
最新技術で蘇った伝説のマクロレンズ
2017年11月30日 07:00
ライカレンズの魅力を探る本連載。今回はAPO-MACRO-ELMARIT-TL F2.8/60mm ASPH.を取り上げてみたい。本レンズはAPS-CサイズのライカTLシステム用に設計された単焦点マクロレンズで、つい先日に発表されたライカCLにももちろん使用可能なほか、APS-Cサイズへのクロップ使用となるが、35mmフルサイズのライカSLでも使うことができる。
APS-Cサイズに特化したライカTLレンズは当初、23mmの単焦点レンズと18-56mmの標準ズームの2本しかなかったが、その後は55-135mmの望遠ズームや35mm F1.4の大口径標準レンズなど順調にラインナップを増やし、今回取り上げる60mmマクロや、ライカCLと同時発表されたパンケーキタイプの18mmレンズを加えると現在は7本が揃うまでに成長。システム的にもなかなか魅力的になってきた。
古くからのライカファン、特に一眼レフのライカRシリーズを愛用してきた人にとって、APO-MACRO-ELMARIT-TL F2.8/60mm ASPH.の「アポ・マクロ・エルマリート」というレンズ名に対する思い入れは相当に強いだろう。なぜなら、1988年に発売された伝説の銘レンズ、APO-MACRO-ELMARIT-R F2.8/100mmを思い起こさずにはいられないからだ。APS-Cで60mmというのは35mmフルサイズ換算で90mm相当であり、画角的に100mmに近いことも両レンズの類似性を想起させる。もしかしてこれは……。
そうした思いは、実はあながち見当違いではない。ライカカメラ社の開発者に聞いたところ、実際に今回のAPO-MACRO-ELMARIT-TL F2.8/60mm ASPH.は、ライカR用のアポ・マクロ・エルマリート100mmを現代に復活させる意気込みで設計されたそうで、ある意味オマージュでもあるようだ。もちろん、開放F値が同じで画角も近似なこと以外に両レンズにテクニカル的な共通点はほとんどなく、レンズ構成やフォーカス方式はまったく異なるものの、とにかく今の技術で「あの」アポ・マクロ・エルマリート100mmの世界観を再現したかったという話は中々に興味深い。
実際に使ってみるとさすがに写りは素晴らしい。最近のマクロレンズはライカに限らず解像は十分に出しながらも、決して硬くならないものが多いが、このレンズも驚くほど細部まで精密な描写が得られる解像性能を持ちつつ、柔らかいマテリアルはその柔らかさが伝わるような質感描写で、髪の毛のしなやかさも極めて優美に再現されるので、マクロレンズでありながらポートレートにも問題なく使える。非球面レンズを採用したレンズに多い光点ボケ部分の輪線もまったく出ないし、ボケ味そのものも非常にキレイだ。しかも逆光気味で使った時の破綻の少なさは特筆に値する。総じてアポ・マクロ・エルマリートの名に恥じない実力だと思う。
レンズ構成は9群10枚で、そのうち4面が非球面。最短撮影距離は16cmで、レンズ単体で等倍までの接写が可能。レンズの重さは320gと、特に重いわけではないものの、とても薄型なライカTL2ボディと組み合わせるとレンズが大きく見える。デザインは例によって非常にミニマルで、余計なものはまったくない超シンプルな外観。鏡胴はアルミ製だ。付属のフードも金属製で、十分な深さがある。仕上げはブラックとシルバーの2種から選べるのもライカらしいところ。ボディカラーに合わせるのもいいが、ブラックボディにあえてシルバー仕上げのレンズを選ぶといった遊びもできる。
今回はライカTL2と組み合わせて使ってみたが、被写界深度が浅くなる近接撮影ではやはりEVFがあった方が使いやすい。もしあなたがライカTL2のユーザーでこのレンズの購入を考えているのなら、外付けEVFのビゾフレックスも同時に手に入れることをお勧めする。その意味では、EVFを内蔵した新しいライカCLとこのレンズの相性はかなり良さそうだ。
モデル:いのうえのぞみ
協力:ライカカメラジャパン