ライカレンズの美学
SUMMILUX-SL F1.4/50mm ASPH.
万能だが、特に人物撮影で真価を発揮する新世代単焦点
2017年10月31日 07:00
ライカレンズの魅力を探る本連載ではこれまでM型ライカ用レンズのみを取り上げてきたけれど、連載25回を数えた今、未レビューのM型レンズは残り数本となった。そこで今後はM型以外のライカレンズの意義や価値についてもレビューしていこうと思う。
現在、M型ライカ以外のレンズ交換式ライカとしては、中判のライカSシリーズ、35mmフルサイズミラーレス機のライカSL、APS-Cサイズミラーレス機のライカTLシリーズがある。今回はその中からライカSL用のSUMMILUX-SL F1.4/50mm ASPH.の魅力を探ってみたい。
レンズの拡充が進むライカSLシステム
まず最初にライカSLについて簡単に説明しておこう。ライカSLはプロ・ハイアマ層をターゲットに開発された35mm判フルサイズ撮像素子を搭載したミラーレス機で、2015年11月に発売された。アルミ削り出しの剛性感溢れるボディには440万ドット&0.8倍の高精細かつ高倍率なEVFを搭載。撮像素子はローパスレス仕様の2,400万画素CMOSセンサーで、連写は最高11コマ/秒。記録メディアはSDカードのダブルで、スロット1は高速なUHS-IIに対応。ボディはもちろん防塵防滴で、Wi-FiやGPS機能も搭載。4K/30fpsの動画機能も備えている。
ライカSL用レンズは標準ズームのVARIO-ELMARIT-SL F2.8-4/24-90mm ASPH.が発売され、次に望遠ズームのAPO VARIO-ELMARIT-SL F2.8-4/90-280mm、今回紹介する単焦点のSUMMILUX-SL F1.4/50mm ASPH.が登場し、現在は全部で3本。まだまだ本数が少ないが、75mm F2と90mm F2という2本の中望遠レンズや、35mm F2の広角、16-35mm F3.5-4.5の広角ズームなどが今後登場する予定だ。
13年ぶりに登場した、最新のズミルックス50mm
というわけでSUMMILUX-SL F1.4/50mm ASPH.である。
このレンズの実物を見たときに誰もが感じるのは「デカい!」ということだろう。ライカ以外の他メーカーにおいても最新のデジタル対応の50mm F1.4はフィルム全盛時代のものに比べてかなり大きくなっているが、そうした認識を踏まえた上でもこの50mmは大きく、フィルター径は82mm、重さは1kgを少し超える。
ただ、もちろん無駄に大きく重いわけではない。SUMMILUX-SL F1.4/50mm ASPH.の光学系は9群11枚で、50mm F1.4レンズとしては構成枚数はやや多めだが、最近の単焦点レンズの設計トレンドを考えると法外に枚数が多いわけではない。それよりも驚くのが使用されている光学エレメントのレンズ直径がどれも非常に大きいことだ。絞り開放、あるいは開放気味で使った時のアウトフォーカス描写にこだわると、ある程度レンズ径が大きい方が有利なためだが、これだけ径の大きいエレメントを使い、それらを高精度に位置決めしつつ、オール金属製の堅牢な鏡胴に収めれば必然的に大きく重くなってしまう。
必要最小限の構成枚数に抑え、小型軽量なレンズを目指したM型用レンズとは明らかに異なる思想だが、同じフルサイズフォーマットのM型ライカとライカSLでどちらも同じ設計思想で作るのであれば、わざわざシリーズを分ける必要がない。その意味では同じライカ製であってもM型ライカ用レンズとまったく異なる設計コンセプトなのは当然なのかも知れない。
SUMMILUX-SL F1.4/50mm ASPH.のスペックシートを見たとき、最初に不思議に思ったのが最短撮影距離が60cmと長めなことだ。ご存じの通り50mm F1.4レンズの一般的な最短撮影距離45cm程度なので、60cmというのは明らかに長い。M型ライカ用の最短が70cmだから、それよりは短いと言えるものの、M型ライカはレンジファインダーの構造的な制約があるから70cmの最短になっているわけで、そういう縛りがないミラーレス機用の50mmレンズとして60cmはどう考えても長い。利便性を考えれば45cm、もしくはそれよりも短い最短撮影距離を実現して欲しかった人は多いだろう。もちろんそんなことはライカの設計陣は百も承知なはず。でも結果的に60cmになった。なぜか?
これはあくまでも筆者の個人的かつ勝手な想像だが、このSUMMILUX-SL F1.4/50mm ASPH.というレンズは、もしかすると人物撮影にある程度特化した設計なのでは?ということ。今回の試用ではポートレートからスナップ、遠景などいろいろ撮ってみたのだが、ポートレートにおける描写の素晴らしさとマッチング具合が図抜けていると感じたのだ。
もちろんそれ以外の被写体を撮影したときの結果が悪いわけでは決してないが、このヌケのよさと髪の毛など「しなやかさ」の再現描写の素晴らしさ、そしてポートレートディスタンスでのボケ味のキレイさなど、ジャンル的には人物撮影がこのレンズにとって一番「ハマる」気がする。ポートレートであれば最短が60cmなのもそれほど気にならない(もちろん45cmならベターだが、人物撮影で多用するわけではない)だろうし、実は他のライカレンズに比べると少しだけ多めな歪曲収差(量的には僅かだしシンプルなタル型なので後補正は容易に行える)もポートレートならそれほど気にならない。ライカのWebサイトでこのレンズの作例に使われている写真がほとんど人物写真なのも何となく示唆的に感じるところである。
一般的に50mm F1.4といえば「標準レンズ」の王道であり、文字通り「何でも」とれるのが身上である。SUMMILUX-SL F1.4/50mm ASPH.ではそうした万能性をある程度はキッチリと担保した上で、人物撮影への適性を最大限に高めたのではないかと個人的に想像したわけだが、本当のところはどうなのか?。ライカのレンズ設計者に会ったときにぜひ聞いてみたい。
モデル:いのうえのぞみ
協力:ライカカメラジャパン