ライカレンズの美学
SUMMARIT-M F2.4/90mm
ELMARITに代わる、実用に徹した中望遠レンズ
2017年9月29日 12:43
ライカレンズの魅力をお伝えする本連載。今回はSUMMARIT-M F2.4/90mmを取り上げてみたい。全部で4本ラインナップされたM型ライカ用SUMMARITレンズのうち、35mmと50mm、そして75mmについては本連載ですでに取り上げ済みであり、今回の90mmで現行SUMMARITシリーズのレビューはコンプリートとなる。SUMMARITシリーズの変遷や概要については75mmや35mmの回を参照して欲しい。
M型ライカ用ズマリットレンズはいずれもF2.4で統一されているわけだが、このF2.4という開放値は単焦点の35mm、50mm、75mmレンズにおいては焦点距離に対して、まあまあ"小口径"である。一方、90mmのF2.4というのは焦点距離を考えると、大口径とは言えないまでも決して小口径ではない。F値を欲張らないことでライカレンズの中では比較的価格が抑えられているSUMMARITシリーズだが、焦点距離を踏まえれば決して小口径とは言えない90mmだけは他の3本と意味合いが少し異なるように思う。
実際、このSUMMARIT 90mmが登場したことで、それと交代するように開放F2.8のELMARIT 90mmがディスコンになっていることを考えると、SUMMARIT 90mmのポジショニングはELMARIT 90mmの後継、あるいは上位レンズという見方もできると思う。
ではそのディスコンに追いやられたELMARIT 90mmと比べて写りはどうなのか? 以前から個人的にとても興味があったので、今回同一条件で比べてみた。
研究:ELMARIT 90mmと描写を見比べる
どちらもF2.8で撮影。合焦部分の描写はELMARITがシッカリ系、SUMMARITは繊細系。ボケはSUMMARITの方が輪郭強調が少なく素直な印象になる。
共通データ:LEICA M(Typ240) / ISO200 / F2.8 / 1/250秒 / WB:オート
結果的に合焦部分はELMARITの方がややコントラストが高く、それもあって線が太く力強い印象だ。対するSUMMARIT 90mmは線が細い合焦で、より繊細な描写になる。しっかりとした描写ならELMARITだが、大口径レンズらしいデリケートなピントの起ち上がりを求めるならSUMMARITという感じだ。
ボケ味については両レンズで傾向が違っていて、ELMARITは玉ボケのエッジが強調されるタイプなのに対し、SUMMARITはボケのエッジ強調が少なく、より自然な印象だ。この点は設計年次の違いが明確に現れている。ただ、一般的にはボケのエッジ強調は無い方が「良い」とされるものの、賑やかなボケ味を求める人にはエッジが好まれる場合もあり、ある意味ケースバイケースだ。
どちらもよく写るが、総じてELMARITはどこか古典的な味わいなのに対して、SUMMARITは現代的に洗練された写り方をする。被写体別に考えると、ラジカルなスナップ用途であればELMARITが合うような気がするが、ポートレートならSUMMARITの方が良いかもしれない。まあ、この辺は好みもあるのであくまでも筆者の印象だが、どちらもそれほど強烈な個性があるわけでは無いものの、同じ堅実さでも微妙にキャラクターが異なるのが面白い。
外観はSUMMARITの方が開放値が明るいにも関わらずELMARITよりも全長は短く、なおかつ重量も若干軽い。小型軽量な中望遠レンズを求める人にもSUMMARIT 90mmはいいチョイスとなるだろう。フードはネジ込み式だが、収納時は逆付けも可能。ELMARITのスライド引き出し式に比べるとフードの有効長は深く、効果的な遮光が期待できる。
あと、両レンズで意外と違うなぁと思ったのがフォーカスリングの回転角で、ELMARITに比べるとSUMMARITは回転角が小さく、フォーカシングが速い。今回はM型ライカのレンジファインダーとライカSLのEVFという2種類のファインダーで使ってみたが、SUMMARITのピント変化の急激さに最初はちょっと戸惑ったものの、慣れるときわめてクイックなピント合わせが可能でまったく問題はない。ELMARITの最短撮影距離が1mまでなのに対し、SUMMARITは90cmまで寄れるのも美点だ。
光学系はELMARITが4群4枚、SUMMARITが4群5枚と枚数は異なるものの、構成図を比べてみるとレンズのパワー配置は非常によく似ていて、ELMARITの2枚目を分割するとSUMMARITの構成にかなり近くなる。こうして見ると、ELMARITの光学系をリファインして進化させたのがSUMMARITとも言えそうであり、ますますELMARITの後継レンズという感がある。
写りに関してはライカレンズの常で新旧甲乙付けがたいが、ボケ描写の素直さや、最短撮影距離の短縮など利便性が向上したSUMMARIT 90mmは、歴代のライカ用90mmレンズの中でもかなり実用性の高い1本で、すでに広角、標準レンズを揃えた人が最初に買うM型用中望遠レンズとしても適していると思う。
モデル:いのうえのぞみ
協力:ライカカメラジャパン