“広角ズームをマクロ化”するマイクロフォーサーズ用アダプター
■広角レンズで接写する方法とは?
E-P1を核とした“チョウの飛翔写真撮影システム”。レンズはZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4-5.6を使用しているが、フォーサーズアダプターMMF-1を改造し、最短撮影距離を短縮しているのがミソ。外付けストロボと、ディフューザーも装着している |
昆虫や植物などのマクロ撮影をする場合、マクロレンズを使うのが一般的である。しかしぼくは、広角レンズを使って接写する“広角マクロ”で撮影することが多い。ぼくにとっては昆虫のみならず、“その昆虫がどのような環境にいたか”ということが重要で、そのような視点を表現するのに広角マクロの手法は適しているのだ。
広角マクロに適したレンズは、ライカ判換算28mm相当以上の画角を持つ広角レンズで、最短撮影距離がおおむね20cm以下であることが条件だ。
ぼくが使用しているフォーサーズシステムで見ると、16mm相当の魚眼レンズ「ZUIKO DIGITAL ED 8mm F3.5 Fisheye」が最短撮影距離13cmで、魅力的なスペックだ。しかしこのレンズは大きく、重く、高価であり、残念ながらぼくは持っていない。
もう1つの候補は標準ズームの「ZUIKO DIGITAL 14-54mm F2.8-3.5 II」で、広角端の14mm(28mm相当)で最短撮影距離22cmだから、広角マクロ用としては十分に使える。このレンズは“望遠マクロ”にも使える万能レンズとして評判が高いのだが、しかし残念ながらこのレンズもぼくは持っていないのだ。
ぼくが持っているフォーサーズシステムの標準ズームは「ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6」で、それと最近になって超広角ズーム「ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4-5.6」を入手した。しかしこの2つのレンズは両方とも最短撮影距離が25cmで、広角マクロとして使うにはちょっと物足りない。
フォーサーズシステムの標準ズームZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6(左)と、超広角ズームのZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4-5.6。どちらもコンパクトで、コストパフォーマンスも高い。しかし両方とも最短撮影距離が25cmで、広角マクロとして使うにはちょっと物足りない |
レンズの最短撮影距離を短縮するには、クローズアップレンズを使う方法と、中間リングを使う方法のふたつがある。このうちクローズアップレンズは余計な光学系を増やすことになり画質が落ちる場合がある。だから中間リングを使うほうが画質的に有利であり一般的だ。
ところが、広角レンズに中間リングを組み合わせると、ピントが合わなくなってしまう。一般に、広角レンズは無限遠から接写までのピント移動量が少ないため、普通の中間リングでは厚みがありすぎるのだ。
そこで、手持ちのフォーサーズ用レンズをカメラマウントに押し当てながら確認したところ、このシステムの広角レンズには、1~2mm程度の厚みの中間リングが最適であることがわかった。しかしフォーサーズマウントはバヨネットの厚みが約4mmあり、物理的に1mmの中間リングを作ることは不可能だ。
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■広角ズームの最短撮影距離を縮める(裏技編)
広角ズームの最短撮影距離を縮めるには、中間リングは使えない。かといって、画質劣化の可能性のあるクローズアップレンズも使いたくない。そこで、そのどちらでもない“裏技”を思い付いた。
それは、レンズのマウントを1mm程度“浮かせる”という方法だ。つまり、レンズマウントのネジを緩め、マウントを1mm程度浮かせたままカメラに取り付けるのである。これで厚さ1mm程度の中間リングを取り付けたのと、同じ効果が得られるのだ。
問題は、広角レンズのマウントの取り付けはシビアだということだ。だから1度緩めたマウントネジを、もう1度締め付け再組み立てしても、平行が狂ってピントが悪くなる可能性がある。そこで実験には、中古で1万円程度で購入したZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6を使用した。ぼくはこのレンズを2本持っているので、1本はマクロ用、もう1本は一般用に使い分ければいいだろう。
ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6のマウントのネジを緩めたところ。4カ所のネジを目分量で均等に2mmずつ突出するよう緩める | レンズを逆さにするとマウントがせり出すので、そのままの状態でカメラに取り付ける |
カメラに取り付けた状態。改造前(左)に比べ、改造後(右)はレンズ全体が1mmせり出している。この状態で自動絞りをはじめとする、レンズの全機能が作動する。しかしもちろん、無限遠にピントは合わない。この改造のおかげで、ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6は広角マクロはもちろん、望遠マクロにも使える非常に面白いレンズに変身した |
■広角ズームの最短撮影距離を縮める(アダプター編)
レンズマウントを浮かせる裏技は、実はだいぶ以前に自分のブログで紹介済みである。同じ方法を試した方は何人かいたようだが、その中でさらにワイドなZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4-5.6を、広角マクロ用に改造された方がいた。
これはなかなか良いとぼくも思ったのだが、ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4-5.6は超広角ズームとしては安いが、やはりそれなりの値段がする。それにこのレンズは一般撮影に使用しても非常に高性能を発揮するから、マクロ専用に改造してしまうにはどうも忍びないのだ。
などと考えたら、マイクロフォーサーズシステムが発表になった。マイクロフォーサーズシステムには、フォーサーズシステムのレンズが装着できるアダプターも用意されている。そして実に、このアダプターが“使える”事に気付いたのだ。
つまり、アダプターをマクロ専用に改造すれば、レンズは無改造で済むし、さまざまなレンズで同様の効果を試すことが可能になるのだ。そこで、「オリンパス・ペンE-P1」の購入とともに、フォーサーズアダプター「MMF-1」を入手し、このプランを実行してみることにした。
フォーサーズアダプターMMF-1を、レンズ取り付けマウント(フォーザーズマウント)側から見たところ。マウントと電子接点パーツはそれぞれ別の箇所にネジ止めされているので、こちら側のマウントを改造するのは難しそうだ | 次はMMF-1を、カメラ取り付けマウント(マイクロフォーザーズマウント)側から見たところ。電子接点はマウントにネジ止めされているため、こちら側のほうが改造に適している |
まずは電子接点パーツをマウントに固定している小ネジを外す。その次にマウントを止める4本のネジを外す | アダプターからマイクロフォーザーズマウントを外したところ |
マウントの取り付け面の形状に合わせて1mm厚のABS板をカットし、スペーサーを作る。円形パーツのカットの仕方は、こちらの記事を参照 | スペーサーのパーツを、マウント取り付け面にはめ込む |
SB-30を直射するとレンズの影で画面がケラレるので、このようなディフューザーを製作。100円ショップで購入した透明ファイルに、アルミホイルとトレーシングペーパーを貼り付けている。カメラへの装着はマジックテープを使う | ディフューザーを装着するとこんな感じ。もちろん、レンズフードは装着しない。露出、ピント、ストロボ光は全てマニュアルで調整し、ノーファインダーで撮影するのが基本 |
■テスト撮影
※サムネイルをクリックすると長辺1,024ピクセルにリサイズした画像を開きます。
マクロ専用アダプターによって、ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6とZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4-5.6のそれぞれの最短撮影距離が、どれだけ短縮されたのか簡単なテスト撮影をしてみた。なお比較用のノーマル状態での撮影には、オリンパスの「E-420」を使用している。露出はマニュアルで固定し、ストロボは使用していない。
・ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6
【14mm】
マクロアダプター使用、最大倍率 | マクロアダプター使用、最小倍率 | ノーマル状態、最大倍率 |
【17mm】
マクロアダプター使用、最大倍率 | マクロアダプター使用、最小倍率 | ノーマル状態、最大倍率 |
【25mm】
マクロアダプター使用、最大倍率 | マクロアダプター使用、最小倍率 | ノーマル状態、最大倍率 |
【42mm】
マクロアダプター使用、最大倍率 | マクロアダプター使用、最小倍率 | ノーマル状態、最大倍率 |
・ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4-5.6
【9mm】
マクロアダプター使用、最大倍率 | マクロアダプター使用、最小倍率 | ノーマル状態、最大倍率 |
【11mm】
マクロアダプター使用、最大倍率 | マクロアダプター使用、最小倍率 | ノーマル状態、最大倍率 |
【14mm】
マクロアダプター使用、最大倍率 | マクロアダプター使用、最小倍率 | ノーマル状態、最大倍率 |
【18mm】
マクロアダプター使用、最大倍率 | マクロアダプター使用、最小倍率 | ノーマル状態、最大倍率 |
■ストロボシンクロ速度テスト
ストロボを使用する場合、気になるのがストロボシンクロ速度だ。E-P1はカタログ上はシンクロ速度1/180秒以下とあるが、カメラ(シャッター)の個体差もあるから実際に確認してみないとわからない。テスト方法は白壁をストロボ照射して撮影し、画面がケラレないシャッター速度の上限を確認するのである。
その結果、ぼくのE-P1はカタログスペックを上回る1/320秒までシンクロすることがわかった。また、1/500秒までは画面下部がケラレるだけなので、被写体の状態によってはこの速度でも使うことが可能かもしれない。
1/200秒 | 1/250秒 | 1/320秒 |
1/400秒 | 1/500秒 | 1/640秒 |
■まとめ
これは“無改造”のフォーサーズアダプターMMF-1を介して、ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4-5.6を装着したE-P1。「マクロ用改造アダプター」と外見上の相違はないが、一般撮影に使うためレンズフードを装着している。もちろんZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6(右)も装着できるが、このような互換性がマイクロフォーサーズシステムのおもしろさだ |
世の中には様々なマクロレンズが発売されているが、広角マクロに使えるレンズとなると種類が限られる。だから今回製作したマクロアダプターは、なかなか重宝するアクセサリーパーツとなった。
ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6および、ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4-5.6との相性は抜群で、両方のレンズともマクロ用に使ってもなかなかの高画質だ。それにこの2つのレンズは、同様のスペックの他社製品に比べ、全長が短くコンパクトである点でも、マクロ撮影に有利だ。
なぜなら同じ最短撮影距離のレンズを比べた場合、全長の長いレンズはその分ワーキングディスタンス(レンズ先端から被写体までの距離)が短くなり、虫が逃げたりストロボ照明がし難くなったりするからだ。この点、ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6も、ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4-5.6も、マクロアダプターに装着しても十分なワーキングディスタンスが取れるのだ。
今回の撮影は、主にチョウの飛翔写真にチャレンジしてみたのだが、この種の撮影にはストロボによる照明が欠かせない。背景を暗めの露出に設定して日中シンクロすると、チョウの動きがぴたっと止まったカッコイイ写真になる。この場合、カメラのオート機能は全て解除し、ピントも、露出も、スロトボ光も、全てマニュアルで固定したほうが成功率が格段に上がる。
オリンパスのストロボFL-14 |
ところが、オリンパスからE-P1にマッチしたデザインとして発売されているクリップオンストロボ「FL-14」は、マニュアル調光ができないのである。そこでコンパクトな折りたたみ式でありながら、マニュアル調光も可能なニコン製ストロボ「SB-30」をE-P1に装着して使用した。SB-30は残念ながら生産中止になってしまったが、オリンパスからぜひとも同様のコンセプトのストロボを発売して欲しいところだ。
E-P1でチョウの飛翔写真を撮りながら気づいたのは、このカメラは微妙にシャッタータイムラグがあるということだ。もちろん普通の撮影では気にならないレベルなのかもしれないが、チョウのように動きの早い被写体を追うと、微妙なシャッターチャンスのズレがどうしても気になってしまう。もっとも、同じオリンパス製のデジタル一眼レフカメラ「Eシリーズ」には顕著なタイムラグは感じられないので、マイクロフォーサーズカメラもそのうち改良されるだろう。
日中シンクロといえば、ストロボのシンクロ速度も気になるところだが、テストの結果“空を飛ぶチョウ”が被写体であれば、1/500秒でも大丈夫なことが分かった。しかし実際の撮影には1/500より速い速度で日中シンクロしたいシチュエーションも多かった。これはE-P1の欠点というより、フォーカルプレーンシャッターの限界である。この点レンズシャッター式のコンパクトデジタルカメラは、最高速度までシンクロするから有利だといえる。
以上、いろいろ欠点や苦労もあったが、E-P1を使っての広角マクロ撮影はなかなか面白く、写りもよくて満足している。もちろん今回の試みは、新規格のマイクロフォーサーズがあって実現したことだ。この意味で、E-P1をはじめとするマイクロフォーザーズシステムは、さまざまな可能性に開かれているのだと、あらためて感じた。
■作例
※サムネイルをクリックすると長辺1,024ピクセルにリサイズした画像を開きます。
先に書いたように、今回の撮影は広角マクロの特性を生かすため、チョウの飛翔写真を中心に行なった。場所は8月に帰省した実家の長野市内で行なった。今年はお盆あたりから急に夏らしい気候になり、撮影時は暑すぎのせいか虫の数は少なめだった。それでもなんとか頑張って、とりあえずは人に見せられるような写真を撮ることができた。
■告知
●猪熊現代美術館地域連携プログラム「復元フォトモ 丸亀あらたし文化商店街」
内容:丸亀の昔の写真をもとに、「復元フォトモ」の手法でかつての街の風景を再現します
会場:ギャラリーアルテ(会期中ギャラリーが移転します)
期間:10月3日~10月31日(ギャラリーアルテ:香川県丸亀市浜町115-9)、11月1日~11月24日(香川県丸亀市本島町笠島328)
会場:リコーフォトギャラリー「RING CUBE」 日程(全2回):11月28日(土)13時~16時30分、12月5日(土)13時~15時30分 参加費(2回分):5,500円※Webサイトからの申込みが必要
2009/10/15 00:00