E-P1用ズームレンズにGX200用「自動開閉キャップ」を装着
■理想の“レンズキャップのないレンズ”を目指す
妙な形のレンズフードに見えるが、実はE-P1用標準ズームM.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6に、リコーGX200用の自動開閉キャップ「LC-1」を組み込んでいる。レンズキャップが不要になり、“速写性”が大幅にアップする。例によってぼくのE-P1は、グリップを外して革貼りした改造品である(こちらの記事を参照) |
オリンパス・ペンシリーズをはじめとするカメラを手がけたオリンパスの名設計者、米谷美久さんは生前「カメラのないカメラが理想だ」と語っていたそうである。“カメラのないカメラ”なんて夢物語みたいだが、しかし一歩でも理想に近づこうとする過程で、米谷さんは“レンズキャップのないカメラ”として1979年に「OLYMPUS XA」を世に送り出した。そしてこの流れは現在にも受け継がれ、コンパクトデジタルカメラは“レンズキャップのないカメラ”(レンズバリア内蔵方式)が当たり前となっている。
ところが、一眼レフカメラ用をはじめとする交換レンズの分野は、なぜか取り外し式のレンズキャップが当たり前となっている。ぼくはこのような状況に対する“提案”として、本連載の「ジャンクカメラで作るレンズバリア内蔵キャップ」で、「ZUIKO DIGITAL 25mm F2.8」レンズ用の「レンズバリア内蔵キャップ」を製作した。
このレンズバリア内蔵キャップは、同じパンケーキレンズであるオリンパス・ペンE-P1用の「M.ZUIKO DIGITAL 17mm F2.8」にも問題なく装着でき、E-P1とのセットでたいへん便利に使用できる。“レンズキャップのないレンズ”は小型軽量のマイクロフォーサーズシステムと組み合わせてこそ、威力が発揮できるのだと実感した。ところが残念なことに、標準ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6」に装着すると、画面周辺が大きくケラレてしまい使い物にならない。
そこで、M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6を“レンズキャップのないレンズ”にするための、別の方式を考えることにした。このM.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6は、ズームレンズには珍しい“沈胴式”が採用されている。収納時にレンズを縮める(沈胴する)ことでコンパクトになり、撮影時に延ばすことでテレセントリック性をはじめとする光学性能を確保するものと思われる。そしてこの沈胴式であることを利用して、“レンズバリア内蔵式”に改造できることに気付いたのだ。
改造の素材として思い当たるのは、リコーから発売されている、GX200(と前機種GX100)専用の自動開閉キャップ「LC-1」である。これは、もともとレンズキャップが取り外し式として設計されたGX200の、オプションパーツとして発売されている。LC-1は、GX200のレンズアタッチメントマウントに、はめ込むようになっている。そしてGX200を電源ONすると、LC-1に内蔵されたレンズバリアを押しのけて、レンズが飛び出してくる。レンズが沈胴式であることを利用した、ユニークなアイデアのレンズバリアだ。
そしてこのLC-1が、同じく沈胴式であるM.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F:3.5-5.6に、どうにか装着できないかと考えたのだ。
以前の記事で、ぼくが製作したZUIKO DIGITAL 25mm F2.8用の「レンズバリア内蔵キャップ」(こちらの記事を参照)を、E-P1用のM.ZUIKO DIGITAL 18mm F2.8に装着してみた。色がちょっとミスマッチだが(笑)、レンズキャップ着脱の煩わしさが無く、かなり利便性が高い | キャップに内蔵されたレンズバリアは、赤いスイッチをスライドするとワンタッチで開く。ただしこのキャップの開口径が小さいので、M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6のような標準ズームに装着すると画面がけられてしまう |
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■「自動開閉キャップ」の組み込み工作
まず、M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F:3.5-5.6に自動開閉キャップLC-1をはめてみる。しかし、レンズがLC-1のバリアを押し広げることはできない。レンズ先端の口径より、LC-1の内径が少し小さいためである | LC-1のバリアを開いて確認してみる。LC-1の内側に飛び出した部分が、レンズ先端部に干渉している。まずこの部分を削ることにした |
LC-1内側の、レンズとの干渉部分を削り取ったところ。道具は金ヤスリとカッターナイフを併用した | 削り取った部分を、分かりやすく赤で示してみた |
さっそくレンズに装着してみると、レンズがバリアを押しのけて開く! なお自動開閉キャップは、2段式鏡筒の1段目にセロハンテープで仮止めしている | しかし喜んだのも束の間、ズームを20mmあたりにするとバリアが閉じてしまう。レンズの飛び出し長が足らないためである |
そこでレンズ先端を延長するために、40.5mm径のプロテクターフィルター(マルミ製)を装着してみた。するとご覧のように、ズーム全域でバリアが全開するようになった | ところがテスト撮影したところ、広角側の画面隅に、バリアの先端が写り込んでしまう事がわかった |
そこでバリアの開角度を広げるため、このようなスペーサーを作った | スペーサーはこのようにして、自動開閉キャップのバリア内側に貼り付ける |
今度は広角側でもケラレがなくなった。ただし、取り付ける角度によってはケラレが生じるので、モニターを見ながら角度を決める必要がある | 改造した自動開閉キャップは、両面テープで貼り付けることにした。念のため、元に戻すことが出来る“可逆改造”にするためである(キャップは不可逆改造だが)。両面テープは幅広のものを貼り付け、余計な部分をハサミやカッターで切り取る |
まるで違和感無く、装着することができた。バリアは傾いた角度に取り付けられているが、かえってレトロフューチャーな雰囲気を醸し出しているようだ | レンズを収納するとこんな感じになる。こちらもまるで違和感が無い。偶然だが、この状態でバリアはほぼ左右対称の角度で取り付けられている |
レンズ開閉の様子を、動画でお見せしよう。作動はスムーズで、レンズに対し負荷がかけられている感じはしない。
■まとめ
完成した“レンズキャップのないレンズ”は、バリアがスムーズに開閉し、レンズに無理な負荷がかかる様子もなく、たいへん便利に使用できる。これに慣れると、従来の“レンズキャップ式”は本当に煩わしいと思ってしまう。
今回の改造が成功したのは、元の自動開閉キャップLC-1が良くできた製品であったことと、M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F:3.5-5.6が沈胴式を採用していたことのお陰である。このように、素材のよさを最大限に生かすのが「切り貼り」(ブリコラージュ)の醍醐味だと言える。今回の改造は比較的簡単で、しかもLC-1は安く買えるパーツなので、ぜひ試していただきたい。
ただ、使っていてちょっと違和感があったのは、撮影のスタンバイにはE-P1本体の電源ON操作と、レンズを伸ばす操作の、2段階が必要なことだ。コンパクトデジタルカメラは電源ONで自動でレンズが伸びるのが当たり前なので、その感覚でいると「アレッ?」と思ってしまう。ことにE-P1は、レンズを伸ばさずに電源ONすると「レンズの状態を確認してください」というなんとも抽象的な問いかけをしてくるので、困ってしまう。もし、レンズバリアの開閉動作と連動してボディのスイッチがONになれば、非常に便利だと思うのだが、こうした需要はあまりないのだろうか?
■作例(ツギラマ)
今回は作例として、「ツギラマ」をご覧いただこうと思う。デジタルカメラは、何も“普通の写真”を撮るためだけの道具ではなく、さまざまな“写真表現”の可能性に開かれており、ツギラマもそのひとつだ。ツギラマとは“ツギハギ+パノラマ”から命名したもので、被写体を分割撮影した写真をツギハギし、広い視界を得る技法である。同様の技法はイギリス人画家D・ホックニーをはじめとして、さまざまなアーティストが採用しているが、ぼくは自分の“コンセプト”に基づきツギラマを活用している。
今回の撮影はE-P1に装着したM.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6を、焦点距離25mm(ライカ判換算50mm相当)に固定し使用している。そして自分の立ち位置はそのままに、カメラを少しずつずらしながら、360度にわたる視界を100枚ほど分割撮影している。ツギラマはあくまでプリントによる手作業で製作するのが“本作品”だと考えているので、ここに掲載したPhotoshopで加工した画像はツギラマの“下図”である。
香川県観音寺市の、鳥居のある実に味わい深い路地。このような場所を表現するには、写真をツギハギした「ツギラマ」の技法が打ってつけである。レンズは25mm(ライカ判換算50mm相当)に固定し、その場に立ったまま、360度の風景を100枚ほどに分割撮影している E-P1 / M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6 |
ぼくはツギラマを、“人間の視点移動の再現”だと捉えている。人間は視野の狭い眼球を常に移動させ、網膜に写る“風景の断片”を脳内でツギハギしながら広い風景を認識する。この過程の再現がツギラマで、だから普通の写真では不可能な“視点移動”の感覚がリアルに再現されている。ツギラマは、デジタル画像を精密につなぎ合わせる「スティッチング」や、360度の風景を動画的に見せる「QTVRパノラマ」の技法に似ている。しかしツギラマは“継ぎ目”があることによって、それらとは別な“リアリティ”を表現できるのだ。
実は今回のツギラマは、米谷美久さんの故郷である香川県観音寺市で撮影している。米谷さんは高校生時代は写真部に在籍し、その時の撮影経験が、後のカメラ設計に大いに影響を与えたそうである。ぼくは以前の記事にも書いたように、米谷美久さんの影響を強く受けており、それもあって写真表現に工夫を施し、そのための道具であるカメラにも工夫を施すようになった。今回のツギラマ作品も、“写真部の先輩”としての米谷さんはどう評価断されるかは不明だが、ぼくなりのオマージュのつもりである。
なお、ツギラマ撮影のコツについて知りたい人は、下に掲載した「ツギラマワークショップ」にぜひご参加いただければと思う(笑)。
■告知
写真をつなげて広がる世界―「ツギラマ」ワークショップ(講師:糸崎公朗)
会場:リコーフォトギャラリー「RING CUBE」
日程(全2回):11月28日(土)13時~16時30分、12月5日(土)13時~15時30分
参加費(2回分):5,500円
※Webサイトからの申込みが必要
2009/11/9 00:00