オリンパスE-5で「マクロキラー90mm F2.8」のポテンシャルを引き出す

Reported by糸崎公朗

この連載で以前に紹介した世界初のマクロレンズ「マクロキラー40mm F2.8」の兄貴分「マクロキラー90mm F2.8」を現代風にアレンジ。オリンパス「E-5」に外部ストロボと自作ディフューザーを組み合わせ、黎明期のマクロレンズのポテンシャルを最大限に引き出してみる。

世界最初のマクロレンズの兄貴分

 この連載で以前に「DMC-GF1で世界初のマクロレンズ『マクロキラー40mm』を試す」という記事を掲載したが、同じキルフィット社から「マクロキラー90mm F2.8」(Macro-Kilar 1:2.8/90)も発売されていた。

 マクロキラー90mmのレンズ構成はマクロキラー40mmと同じくアポクロマート仕様のテッサータイプで、鏡筒デザインも共通している。しかしマクロキラー40mmが最小クラスの可愛いマクロレンズなのに対し、マクロキラー90mmはけっこうな重量級レンズで、まさに拡大版といった感じである。

 性能もマクロキラー40mmを引き継ぎ、非常に高精細な描写をする。だたし使い勝手の悪さもそのまま継承されており、絞りは“手動プリセット式”で、さらにピントリングと絞りリングが一緒に回る“回転ヘリコイド”を採用している。

 ぼくの持っているマクロキラー90mm F2.8はエキザクタマウントだが(他にM42マウントやペンタコン6などがあった)、このマウントを採用した旧東ドイツ製の一眼レフカメラ「エキザクタ」はなぜか“左手仕様”だったりして、非常に使いづらいカメラだ。

 昔のマクロ撮影機材はこんなにも不便だったのかと感心するが、カメラを現代のデジカメに置き換え、さらに工夫をすることで、レンズのポテンシャルを最大限に引き出そうとするのが、今回の試みである。

 デジタルカメラは、オリンパスが誇るフォーサーズ一眼レフのフラッグシップ機「E-5」をセレクトした。撮像素子が小さめのフォーサーズ規格は接写に有利だし、E-5の“重量級”のボディはマクロキラー90mm F2.8と重量バランスがマッチする。

 また、マクロ撮影では毎度お馴染みのストロボディフューザーも工夫してみた。マクロキラー90mm F2.8はキルフィット社独自のシステムレンズでもあるのだが、その機構に触発されて、ディフューザーもシステマチックなものを考えてみた。

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まずは「マクロキラー90mm F2.8」(左)そのものを紹介しよう。このレンズは「マクロキラー40mm F2.8」(右)の拡大版とも言える中望遠レンズで、鏡筒デザインも共通している。見た目の最大の違いは、基部に三脚座を装備している点である。ピントリングを回すと、鏡筒に仕込まれたダブルヘリコイドによって、レンズが長く伸びる機構もマクロキラー40mm F2.8と同様である。しかしマクロキラー90mm F2.8には、さらなるカラクリが隠されている
なんとマクロキラー90mm F2.8は、本体基部にもダブルヘリコイドを内蔵し、さらに長~く伸びるのだ。世界初の中望遠マクロのため、繰り出し量をサービスしたのかも知れない(笑)。いずれのヘリコイドもガタは微塵もなく、丈夫で精密にできている。マクロキラー40mm F2.8とマクロキラー90mm F2.8とでは、レンズ先端内側のカバーが外れ、内側にフィルターが装着できる機構も共通している。ただし、カバーの装着方法がマクロキラー40mm F2.8はベアリング式で、マクロキラー90mm F2.8ねじ込み式である点が異なっている。
しかしカラクリはこれだけではない。実はマクロキラー90mm F2.8のヘリコイドを内蔵した鏡筒基部は、交換可能なレンズアダプターなのである。レンズ本体とはライカLマウントで接続されているので、くるくる回すと分解できるのだ。レンズ本体はLマウントなので、同じLマウントを採用したキルフィット社製ミラーハウジングにも装着できる。このミラーハウジングは「リコー『GXR MOUNT A12』に一眼レフユニットを装着する」で紹介しているが、当然ながら本家ライカにも装着できる。
一方のヘリコイド内蔵レンズアダプターには、同じく「リコー『GXR MOUNT A12』に一眼レフユニットを装着する」で紹介したキルフィット社製「テレキラー300mm F5.6」が装着できる。アダプターのヘリコイドを伸ばせば、最短撮影距離もその分短縮できる。装着したカメラはフィルムカメラの「エクサ」。こちらはフィルムカメラの「エキザクタ」に装着したマクロキラー90mm F2.8。1950年代当時の撮影セットだが、TTL露出計も、自動絞りも、クィックリターンミラーも装備されていない。これでちゃんとしたマクロ写真を撮る自信は、今のぼくにはない(笑)
参考までに、手持ちのキルフィット社製品を並べてみた。なかなか想像力をかき立てるシステムではある(笑)
さてE-5への取り付けだが、エキザクタ→フォーサーズマウント変換リング(近代インターナショナル製)を使用する。レンズは基部の三脚座を回転させ(マイナスネジで緩める方式)上下逆に固定する。ストロボはサンパック「PF20XD」を装着。E-5の内蔵ストロボも使えなくはないが、マニュアル調光が2段刻みで微調整が効かない。対してPF20XDは1段刻みのマニュアル調光ができるし、ガイドナンバーも大きい。

「ディフューザー件レンズカバー」の製作

ストロボディフューザーを製作する。素材は100円ショップで購入した詰め替えボトル(左)で、これをカッターで適当な深さにカットする(右)。次に100円ショップで購入したアルミシート(表面がアルミホイルで裏面が紙)を適当なサイズにカットして丸めて、ボトルを加工したパーツの内周に貼り付ける(両面テープを使用)。
さらにマジックテープを貼り付けると、ディフューザーが完成する。レンズの三脚座の上部(と言うか本来の裏)にはマジックテープを貼る。これで今回の工作は終了。
ディフューザーの装着は、上向きにしたレンズの三脚座に取り付ける。ちょうどこの位置にストロボ発光部が重なるのである。ちょっと、マイクを装着したムービーカメラのようにも見える。レンズを最大限に繰り出したところだが、この状態でケラレなくストロボ撮影ができる。それにしても迫力のある異様な姿で、近所で撮影してたら「何ですかそれ?」と知らないおじいさんに声を掛けられてしまった(笑)。
ディフューザーの不使用時は、貴重なマクロキラー90mm F2.8を保護するカバーとして装着できる。このディフューザーは「リコーGXRの『A12』ユニットを実用カスタマイズ――マクロ撮影編」で紹介したタイプのバリエーションである。

テスト撮影

 ごく簡単な比較テストを行なってみた。被写体は「1/60フィギュア」(身長約3cm)を使用。ディフューザーの効果をよりハッキリ示すため、ストロボはサンパックのPF20XDではなく、E-5の内蔵ストロボ(自動調光モード)を使用した。露出モードはマニュアルで、絞りF8、シャッター速度1/250、ISO200、WB太陽光に固定して撮影した。

 このテスト結果を見ると、ディフューザーを装着すればE-5の内蔵ストロボで十分撮影可能のようだが、フィールドでの撮影では条件によって光量不足になることがあった。また、バッテリーの持ち具合や、マニュアル調光のしやすさなどを考慮して、実際の撮影にはPF20XDとディフューザーを併用することにした。

※共通設定:E-5 / 4,032×3,024 / 1/250秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 90mm

まず、フィギュア2体が収まる構図で撮影してみたが、ディフューザー無しだとストロボによる影が出てしまう。同じ距離から、ディフューザーを装着して撮影。光が回って影が消えているのがわかる。
次にレンズの最短撮影距離で撮影。ディフューザー無しではフィギュアの胸のあたりに、レンズの影によるケラレが生じてしまう。同じ距離からディフューザーを装着したところ、ケラレなく撮影することができた。
参考までに、オリンパス純正のマクロレンズ「ZUIKO DIGITAL 35mm F3.5 Macro」の最短撮影距離(等倍)でも撮影してみた。比較するとマクロキラー90mmの方が大きく写っており、等倍以上の撮影が可能なスーパーマクロレンズであることがわかる。

実写作品と使用感

 2月から3月にかけて各地に出かける用事があったので、出先で虫などを撮影してみた。

 本来の「エキザクタ」との組み合わせではまともな写真が撮れる自信のないマクロキラー90mm F2.8だが、E-5との相性はなかなか良い。まずE-5は一般的なデジタル一眼レフカメラとしても大柄で、同じく重量のあるマクロキラー90mmとのバランスが良い。

 そしてE-5は光学ファインダーが大きく明るくて見やすく、マクローキラー90mm F2.8を“実絞り”で使用してもきちんとピントが合わせられる。もちろん絞り込みすぎると暗くなるが、F8までなら最高倍率までピントを合わせることができる。それでもピントが合わない場合、ライブビュー機能を使うこともできる。

 また、E-5が採用したフォーサーズ規格は、撮影素子の縦横サイズがライカ判の約1/2スケールなので、“等倍撮影”すると“ライカ判換算2倍”の撮影倍率が得られる。「マクロキラー90mm F2.8は等倍以上の撮影能力があるので、さらなる高倍率撮影が可能になる。

 もちろん、E-5に装備された手ブレ補正機能も活用できる。さらにストロボの一瞬の光は、マクロ撮影時の手ブレや被写体ブレを確実に防いでくれる。撮影直後に画像チェックできるデジカメなら、ストロボのマニュアル調光で確実な露出が決定できる。

 撮影は基本的にマニュアル露出モードで、絞りF8に固定して使用した。シャッター速度は外光に応じて適宜調整。外部ストロボのPF20XDもマニュアル調光で使用し、被写体の状況に応じて調整した。

 肝心の画質は素晴らしいのひとことで、現代のマクロレンズに引けを取らないシャープな描写をする。もちろんそれは、E-5に搭載された1,230万画素のハ「イスピードLiveMOSセンサー」のお陰でもあり、マクロキラー90mm F2.8のポテンシャルを引き出したとも言えるだろう。

 しかしそうは言っても、このレンズできちんとしたマクロ写真を撮るのは並大抵のことではなく、使いこなしが大変であることには変わりはない。何と言っても50年以上前のクラシックレンズであり、数々の欠点もある。それを知ることで、最新レンズのありがたさをあらためて実感できるところも、古い機材の面白さだといえる。

(編注:実写作品は2月下旬から3月上旬に撮影されたものです)

常緑の葉(多分フトウカズラ)の裏に張り付いていた、オオキンカメムシの集団。生息地の限られた非常に珍しいカメムシで、集団越冬する習性がある。千葉県某所で撮影。シャッター速度を遅めにして背景を描写し、ストロボを弱めに発光。F8に絞っても被写界深度の浅いレンズだが、複数のカメムシに同時にピントが合う角度を探って撮影した。E-5 / マクロキラー90mm F2.8 / 約5.3MB / 4,032×3,024 / 1/60秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 90mmオオキンカメムシの頭部付近を最大倍率で撮影。この倍率でF8に絞るとファインダーはかなり暗くなるが、ピントの山は見やすいのでなんとか撮影できる。画像を拡大すると、工芸品のようなディテールが余すことなく描写されているのがわかる。鮮やかな色彩のグラデーションにも実に見事だ。E-5 / マクロキラー90mm F2.8 / 約4.8MB / 4,032×3,024 / 1/250秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 90mm
オオキンカメムシのそばにいたハエの一種を、最大倍率で撮影。一見して地味な虫だが、拡大して見ると、半球状に規則正しく敷き詰められた複眼が宝飾のように美しい。E-5 / マクロキラー90mm F2.8 / 約4.6MB / 4,032×3,024 / 1/320秒 / F8 / 0EV / ISO400 / マニュアル / WB:オート / 90mm自宅付近の国分寺市ににて撮影した、キイロテントウ。たまたまこの日は温暖だったため、冬眠から一時的に這い出してきたようだ。キイロテントウは一般的なナミテントウより一回り小さく、葉裏に生えるカビを食べる変わった食性がある。E-5 / マクロキラー90mm F2.8 / 約5.3MB / 4,032×3,024 / 1/250秒 / F8 / 0EV / ISO320 / マニュアル / WB:オート / 90mm
同じく国分寺市にて。夜間、シラカシの樹液に来ていたヨツスジノコメキリガというガの一種。その頭部付近を最大倍率で撮影。冬に活動し、糖分を含んだ樹液をエネルギー源にしている。鱗粉が毛のようにフサフサしている。E-5 / マクロキラー90mm F2.8 / 約5.3MB / 4,032×3,024 / 1/160秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 90mm長野市にて。神社のケヤキの樹皮を葉がしたら、米粒ほどの虫が冬眠していた。肉眼では判別不能だが、最大倍率で撮影した画像を見て、ゾウムシの一種であることが判明。E-5 / マクロキラー90mm F2.8 / 約5.3MB / 3,024×4,032 / 1/250秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 90mm
同じく長野市にて。ケヤキの樹皮の下から出てきた、オオハエトリというハエトリグモの一種。最大倍率で撮影すると、大口径レンズのような「単眼」が正面に4つ確認できる。毛むくじゃらのパペットのような、愛らしい顔だ(笑)。E-5 / マクロキラー90mm F2.8 / 約5MB / 4,032×3,024 / 1/250秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 90mm長野市の空き地に咲いていた、フクジュソウの花。ストロボをオフにして、自然光を活かして撮影してみた。絞りF8、シャッター速度1/200だがマクロ撮影ではブレやすい条件だ。しかし手ブレ補正機能が効いたのか、非常にシャープな描写である。E-5 / マクロキラー90mm F2.8 / 約4.7MB / 4,032×3,024 / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 90mm
同じフクジュソウを絞り開放で撮影。ふんわりしたソフトフォーカスになるところが、現代のレンズにはない欠点であり、クラシックレンズならではの美点だと言えるだろう。ちなみに生えていた空き地は道路予定地なので、近いうちにこの株も無くなってしまうだろう。E-5 / マクロキラー90mm F2.8 / 約5.1MB / 4,032×3,024 / 1/800秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 90mmフクジュソウの花心を最大倍率で撮影。植物というより海中のイソギンチャクのように見える。まだ開きはじめの花で、周囲の雄しべから花粉が分泌されていない。E-5 / マクロキラー90mm F2.8 / 約1.2MB / 4,032×3,024 / 1/250秒 / F8 / 0EV / ISO160 / マニュアル / WB:オート / 90mm
最後にオマケの失敗カットだが、オオキンカメムシを逆光+弱めのストロボで撮影したら、ご覧の通り画面が白っぽくなってしまった。これはレンズの内面反射によるフレアーで、昔のレンズはコーティングが単層だったり、経年変化もあって逆光に弱いことがある。昔のレンズの欠点から、最新レンズのありがたみが分かるのだ。E-5 / マクロキラー90mm F2.8 / 約4.9MB / 4,032×3,024 / 1/80秒 / F8 / 0EV / ISO400 / マニュアル / WB:オート / 90mm







糸崎公朗
1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。毎週土曜日、新宿三丁目の竹林閣にて「糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」の講師を務める。メインブログはhttp://kimioitosaki.hatenablog.com/Twitterは@itozaki

2012/5/10 11:53