リコーGXRの「A12」ユニットを実用カスタマイズ――マクロ撮影編

Reported by糸崎公朗

簡単便利な「ディフューザー兼レンズキャップ」

リコーGXR+A12カメラユニットを「マクロ撮影用」として活用するために考案したセット。内蔵ストロボにはディフューザーを装着。外付け電子ビューファインダー「VF2」は取り外している撮影しないとき、ディフューザーはレンズキャップにもなる親切設計。同様のアイデアは以前にも紹介したが、今回は制作方法がさらに洗練された

 前回はリコー「GXR」用の「GR LENS A12 50mm F2.5 Macro」(A12カメラユニット)を“スナップ撮影用カメラ”として実用カスタマイズする記事をお届けした。A12カメラユニットは非常にシャープな標準レンズ(ライカ判換算50mm相当)を装着し、GXRボディ込みでもコンパクトなので、スナップ撮影に最適だ。そこでさらに利便性をアップするため、外付け電子ビューファインダー「VF2」の倍率を拡大する改造を施したのだ。

 しかしA12カメラユニットに装備された「GR LENDS f=33mm 1:2.5 MACRO」はその名の通りマクロレンズであって、スナップ撮影だけに使うのはもったいない。そこで今回は、マクロ撮影に便利な改造を紹介しよう。

 実はA12カメラユニットは、マクロ撮影時に内蔵ストロボを発光させると、レンズの影で画面がケラレるという欠点がある。これを解消するには、内蔵ストロボにディフューザーを装着すればいい。しかしディフューザーは使わないときに邪魔になる。だからそれも解消するため、今回は「ディフューザー兼レンズキャップ」というものを考えてみた。

―注意―

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素材となったのは、100円ショップで購入したタッパー。このふたを外した容器のみ使用する。ただ、この素材はディフューザーとして透明度がありすぎるので、内側にトレーシングペーパーを貼ることにするトレーシングペーパーには、まずコンパスで直径54mmの円(タッパーの内径に合わせた)を描く
次に同じ円の中心から、直径94mmの円を切り出す。ぼくははディバイダーという道具を使ったが、もちろんサークルカッターを使っても良いだろう円形に切り出したトレーシングペーパーの外周(コンパスで描いた円の外側)に、ご覧のような放射状の切れ込みを入れる。このあとコンパスの円を消しゴムで消す
カットしたトレーシングペーパーはご覧のように、タッパーの内側へゆっくりと押し込むさらに指で何度もぎゅっと押さえつけ、タッパーの形になじませる
お椀型になじんだトレーシングペーパーをいったん取り出し、タッパーの内周と底面中心に両面テープ(5mm幅)を貼る。このあとタッパーの内側にトレーシングペーパーを貼り付る次に100円ショップで購入したマジックテープ(かぎ爪のある方)を180×20mmにカット。さらにご覧のような切れ込みを入れる
カットしたマジックテープは、タッパー開口部の内周に沿って(トレーシングペーパーの上から)貼り付けるタッパー外周の突起の一部(約2cm)をカッターで削り取る
タッパーとカメラユニットのご覧の位置に、マジックテープを貼る。これで今回の工作は終了であるディフューザーはこのように装着して使用する。レンズは最短撮影距離までせり出しているが、この状態でストロボ光がけられることはない。なお、マクロ撮影には外付け電子ビューファインダー「VF2」は不要なので、装着していない
撮影しないとき、このディフューザーはレンズキャップとして装着できる。内側に貼ったマジックテープの弾力によってレンズにしっかりとフィットし、取り外しもスムーズだ。ただ電源ONでレンズが少しせり出すので、負担がないようキャップを外してから電源を入れる

テスト撮影

 ハラビロカマキリの幼虫でテスト撮影してみた。ピントはマニュアルで最大撮影倍率0.5倍(ライカ判換算0.76倍)に固定。GR LENS f=33mm 1:2.5 MACROは、その名の通りマクロレンズとして非常に優秀で、ピントの切れ味は鋭くボケ味は美しい。またAPSサイズの撮像素子を搭載しているだけあって、以前紹介したリコー「CX3」の望遠マクロの画像と比較して、画質がきめ細かくなめらかだ。

※実写サンプルのサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、別ウィンドウに800×600ピクセル前後で表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。(以下同)

まずは絞りF8、内蔵ストロボONで撮影。ご覧のようにレンズの影で画面下部がケラレてしまった
GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 Macro / 4,288×2,848 / 1/48秒 / F8 / -1EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート / 33mm
そこで、自作したディフューザー兼レンズキャップを装着し、左と同じ条件で撮影。ケラレが無くなり、光も柔らかく自然に照明されている
GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 Macro / 4,288×2,848 / 1/48秒 / F8 / -1EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート / 33mm
こちらはストロボOFF、絞り開放での撮影。被写界深度が浅いのはもちろん、カマキリの黒目(偽瞳孔)が消えているのが興味深い
GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 Macro / 4,288×2,848 / 1/104秒 / F2.8 / -1EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート / 33mm

マクロ用マイセッティングと撮影のコツ

ぼくのA12カメラユニットはモードダイヤルの「MY3」にマクロ撮影用のマイセッティングを登録しているので、その内容を紹介しよう。ちなみに「MY1」と「MY2」にはスナップ撮影用のマイセッティングが登録してあるが、この機能については前回の記事を参照して欲しい。

マクロ撮影用にマイセッティング登録した「MY3」の起動画面。露出モードは絞り優先で、F2.5開放を登録しているが、前ダイヤルで絞りを素早く変更できる。ピントはマニュアルで10cmに固定し、Fn1ボタンに「AF/MF切り替え」を登録している内蔵ストロボを使う場合、オートではなくマニュアル調光を登録している。またFn2ボタンには「フラッシュマニュアル発光量」を登録しており、1/2段刻みの光量調節を素早く行なうことができる。ぼくの場合、絞りF8で発光量1/5.6が基準

 さて、このようにマクロ用にセッティングしたA12カメラユニットだが、実際に野外に持ち出すと意外に撮影が難しいことが判明した。ひとことで言えばピントがなかなか合わず、AFもMFもほとんど当てにならないのだ。

 AFはスナップなど通常撮影ではほぼ問題なく作動するが、マクロに切り替えると“ジーコ、ジーコ”とモーター音がして、実にゆっくり作動する。それだけならまだ良いが、フォーカスが合わない場合が多いので苦労する。

 いちおう、被写体のコントラストの強い部分にAFポイントを合わせるのだが、背景にちょっとでも明るい部分があるとジーコ、ジーコを繰り返したあげく、ピンボケのままシャッターが切れてしまう。また、メニューの「AFモード」から高速作動の「QK-AF」を選択しているが、マクロモードに限ってはあまり効果は感じられない。

 だがしかし、マクロ撮影においてはどんなに高性能なAFも当てにならず、MFで使うのが基本である。ところがGXRはMFに切り替えても非常に使いづらいのだ。まぁ一般にEVFを含めた液晶モニターは、一眼レフカメラの光学ファインダーに比べMFがしにくいのである程度は仕方がない。

 それをフォローするため、GXRはMF時にOKボタンの長押しで画面中心が拡大表示される。とはいえ2倍程度しか拡大されず、これでは深度の浅いレンズを精密にピント調節するのは不可能に近い。これが例えばオリンパスの「ペンE-P1」なら7~10倍のピント拡大モードを搭載しており、操作性に雲泥の差がある。

 またぼくは当初、マクロ撮影用のマイセッティングに「露出モードマニュアル」を登録していた。ところが暗いシーンでストロボONで撮影しようとすると、液晶モニターが暗くなってさらにピントがわかりにくくなる。GXRは露出モードマニュアル時、液晶モニターの明るさが適正露出に対しプラスマイナス2段分追随する仕様になっており、その設定は解除できない。

 その点、「露出モード絞り優先」の場合、液晶モニターはどんなに露出不足でも明るく(適正露出に)表示され、ピント合わせには都合が良い。ところが、このモードでストロボONして撮影すると、暗いシーンではシャッター速度が1/48秒と遅めに設定され、自然光とミックスした撮影では手ブレしやすくなってしまう。マクロ撮影は通常撮影より手ブレしやすいので、できればマニュアルで自由にシャッター速度を選びたいのだ。

GXRはMF時にOKボタンの長押しで画面中心が拡大される。ところがその拡大率は2倍程度で、高性能のレンズを精密にピント合わせするのは難しい。なお、左に距離目盛りが出る点は評価できるGXRは露出モードマニュアル時、液晶モニターの明るさが適正露出に対し±2段分追随する仕様になっている。これは暗いシーンでストロボONで撮影する場合には不便だ。絞り優先モードでは、モニターは常に適正露出で表示される

 また、撮影中におかしなことに気づいたのだが、液晶モニターで確認する画像より、撮影後の画像の方が被写界深度が浅く写っていることがあるのだ。あらためて確認すると、絞り開放に設定していても、撮影前の液晶モニターの画像は任意の値に絞り込まれていることがある。

確認のため、露出モード絞り優先でF2.5開放に設定したレンズを、明るい空に向けてみた。絞りが設定値以上に絞り込まれているのがわかる。撮影は設定した絞り値で行われるので問題ないが、MFのピント合わせに支障がある。この現象はある程度明るい条件のみで起きるようだ

 つまり絞り開放の深度の浅い写真も、深度の深い表示画像を見てピント合わせをしなければならない。これは一眼レフカメラの「自動絞り機構」の逆であり、非合理を通り越して不条理ですらある(笑)。これに限らずソフトウェアで改善できそうな問題点については、今後のファームアップで是非対応してもらいたい。

 以上の点を踏まえた、ぼくのGXR+A12カメラユニットのマクロ撮影の仕方は、まずAFでイケそうなときはAFに切り替え、ダメな場合はカメラを再起動してMFで撮影する。ピント位置はマイセッティングで10cmにセットされるから、そこから任意の位置にピントリングを回すのだ。

 さらにカメラを微妙に前後にずらしながら何枚も撮影し、いわゆる「フォーカスブラケッティング」をすれば、そのうち1枚はジャスピン(死語?)になるだろう。このような撮影では動きの速い昆虫などは無理で、被写体は自ずと限定される。

 GXR+A12カメラユニットは前回の記事でお伝えしたように、スナップ用カメラとしてはなかなか優秀なので、マクロ機能は“豪華すぎるオマケ”と考えた方が良いのかも知れない。そう割り切れば、実に使いこなし甲斐のあるマクロ撮影システムとして、楽しめるかも知れない。

作品

 前回はGXR+A12カメラユニットで「反―反写真」と名付けたスナップ写真を掲載したが、今回はマクロモードを活用するため、近所の雑木林などでキノコや虫を撮影してみた。

 いわゆる自然科学写真なのだが、実はぼくの中でこの種の写真は「反写真」に分類されている。と言うのも、科学的な視点にとってまず重要なのは“被写体の存在”であり、写真は二の次になるからだ。

 もし、自然の生き物を被写体に「写真」としての完成度を目指そうとすれば、被写体は作品の素材として扱われ、科学の意義からは離れてしまうだろう。

 もちろん科学とアートは必ずしも相反するとは限らず、これらを両立させ高い評価を得ている写真も存在する。しかし一般的に、科学写真は写真の中の特殊分野(もしくは傍流)として扱われているように思える。

 まぁ、ぼくの“写真”とか“反写真”などの分類は、観念的で自分勝手な見方に過ぎないのかも知れない。しかし写真にしろアートにしろ、物事にあらためて疑問を持って考えるには何らかの分類基準が必要だ。そこから“思考の切り貼り”が生じ、新たな作品が生まれるかも知れない。

 ともかく今回のような自然科学写真は、ぼくの思考や感覚にフィットしており、多少のカメラの使いにくさなどともせず(笑)撮影できる。しかしだからこそ、これまでの自分のありかたを裏切るような写真にも挑みたくなってしまうのだ。

動かない被写体として、普段あまり撮らないキノコを撮影してみた。レンズの特性を活かすため、絞り開放で立体的に写してみた(ストロボOFF)。AFが作動する条件だったので、傘の奥にAFターゲットを合わせ、柄の部分にもピントがくるようカメラの位置を調整した。家で調べたら「ツルタケ」のようだが自信がない
GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 Macro / 4,288×2,848 / 1/320秒 / F2.5 / 0EV / ISO400 / マニュアル露出 / WB:オート / 33mm
左のキノコ(ツルタケ?)の傘の裏側を、最大倍率の絞り開放で撮影。これもストロボOFFで、ピント固定で何枚か写したうちからセレクト。深度は浅いがピントの合った部分は非常にシャープだ。本来はもっと絞り込んだ方が“科学写真”になるのだが、あえてファンタジックな作風にチャレンジしてみた
GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 Macro / 4,288×2,848 / 1/60秒 / F2.5 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート / 33mm
先ほどと違う種類のキノコかと思って撮ったのだが、調べるとこれもツルタケに似ている気がする(キノコの同定は慣れないので難しい)。これは絞りF8で、ストロボを微弱発光させている
GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 Macro / 4,288×2,848 / 1/25秒 / F8 / 0EV / ISO400 / マニュアル露出 / WB:オート / 33mm
左のキノコの傘表面を、最大倍率の絞りF8、ストロボONで撮影。MFで“面”にピントを合わせるため、キノコの傘とレンズ正面が平行になるよう位置を調整してみた。地味なキノコのようでいて、大変に美しい造形だ
GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 Macro / 4,288×2,848 / 1/48秒 / F8 / -0.3EV / ISO400 / 絞り優先AE / WB:オート / 33mm
ちょっと変わった感じのキノコで、これは絞り込んでほぼストロボ光のみで撮影した。傘表面の質感は、革細工のようにも見える
GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 Macro / 4,288×2,848 / 1/48秒 / F9 / -1EV / ISO400 / 絞り優先AE / WB:オート / 33mm
左のキノコの傘の裏を最大倍率、絞りF8のストロボONで撮影。ヒダではなくスポンジ状の穴が空いており、拡大して見ると抽象絵画のように美しい。調べると「アワタケ」に似ている気がする
GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 Macro / 4,288×2,848 / 1/48秒 / F8 / -1EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート / 33mm
雨空の中、モンシロチョウがキャベツの葉に大人しく止まっていたので、撮影してみた。AFで絞り開放での撮影だが(ストロボOFF)、奇跡的? に眼にばっちりピントが合っている
GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 Macro / 4,288×2,848 / 1/1230秒 / F3.2 / -0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート / 33mm
雑木林のコナラに止まるルリタテハ。羽を閉じると擬態模様で一見地味だが、拡大するとかなり美しい。この撮影でAFはまったく効かず、MFで何枚も撮影した中からセレクトした。木漏れ日の点光源のボケ具合は、一般的なコンパクトデジタルカメラでは描写不可能だろう(ストロボ微弱発光)
GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 Macro / 4,288×2,848 / 1/133秒 / F2.5 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート / 33mm
目玉模様が特徴のヒカゲチョウを最大倍率で撮影。雰囲気よりディテールを重視するため、絞り込んでストロボ光した。地味な部分の鱗粉も輝いたように見えるから不思議だ
GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 Macro / 4,288×2,848 / 1/48秒 / F8 / -1EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート / 33mm
コナラの洞にニホンミツバチの巣を見つけたので、入り口にカメラを近づけ最大倍率で撮影。大人しい性格のハチなので、ぼくのように慣れていれば刺されることはないが、初心者は真似しない方が良いだろう。全部のハチにピントを合わせたかったが、液晶モニターでは難しい
GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 Macro / 4,288×2,848 / 1/48秒 / F8 / -1EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート / 33mm

告知

 電車の車両を改装した『京阪ミュージアムトレイン』に、糸崎氏の作品「復元フォトモ」2点が展示されています。停車駅と公開日は変則的ですので、以下のサイトでご確認下さい。

京阪電車開業100周年記念『京阪ミュージアムトレイン』

  • 名称:京阪ミュージアムトレイン
  • 開催日:7月10日~9月26日のいずれか(会場によって異なる)
  • 時間:10時30分~16時
  • 会場:京阪中之島駅、京阪枚方市駅、京阪中書島駅
  • 参加費:無料(改札内への入場料などは必要)



糸崎公朗
1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。「非人称芸術」というコンセプトのもと、独自の写真技法により作品制作する。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ ミノルタフォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。ホームページはhttp://itozaki.cocolog-nifty.com/

2010/8/5 00:00