切り貼りデジカメ実験室

老眼鏡で作る超望遠レンズ「テレ・ローガン400mm」

メガネレンズ1枚+賞状入れの筒? 個性的な描写のレンズが誕生

100円ショップにはいろいろな「レンズ」が売られているが、実はその中の「老眼鏡」が以前から気になっていた。と言うのも老眼鏡とは凸レンズであるから、原理的には写真用レンズに転用できるのだ。

しかも一般的な虫眼鏡が「両凸レンズ」なのに対し、老眼鏡は片面が凸でもう片面が凹の「凸メニスカスレンズ」で、カメラ用の1枚構成レンズ(「写ルンです」など)と同じ構造をしている。だとすると撮影用にも向いているかも知れない。

そして老眼鏡のレンズとしての焦点距離だが、ネット検索で調べてみると、「度数1で焦点距離1,000mm」、「度数2で焦点距離500mm」、「度数2.5で400mm」、とあった。つまり老眼鏡は数値だけ見れば「超望遠レンズ」として転用できるのである。

そしてレンズ本体となる鏡筒だが、これは賞状などを入れるための「紙管」が良いのではないかと閃いた。紙管にはスポッと取り外せるフタが付いていて、そこにレンズを取り付けて動かせばピント合わせもできるだろう。ところがそのような紙管は100円ショップには売っていない。そこで文具店に行ったところ、40cm程の長さのある紙筒が売っていた。

あらためて100円ショップで「度数2.5」の老眼鏡を購入し、これらを素材として「焦点距離400mm」の超望遠レンズを製作してみることにした。しかも今回もカメラボディはOLYMPUS PEN-Fを使うことにしたので「ライカ判換算800mm相当」という、ものすごい超望遠レンズになる予定である。

このレンズを「テレ・ローガン」と名付けてみたのだが、果たしてどのような写りをするのか? 以下、製作過程からご覧いただきたい。

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カメラとレンズの工夫

100円ショップで老眼鏡を、文具屋で賞状などを入れる紙管を購入した。老眼鏡の度数は「+2.5」でレンズとしての焦点距離は400mm。紙管の長さは約40cmである。

老眼鏡はもちろん片側のレンズ1つだけ使うので、不要な部分をニッパーで切断する。

次に鏡筒の工作に移るが、今回はマイクロフォーサーズのカメラに装着するため、そのボディキャップを2個用意する。工作用なので安価な非純正品をセレクトした。

2個のボディキャップはそれぞれご覧の通り、中心部をくり抜く。私の場合、コンロで熱したカッターナイフでくり抜き、普通のカッターできれいに整える。やり方はこちらの記事を参照のこと。

中心をくり抜いたボディキャップを向かい合わせにしてABS用接着剤で接着する。このパーツは片面はレンズマウントで、もう片面は紙管にジョイントするのである。

紙管は長さ40cmだが、レンズの焦点距離400mmに対しカメラのフランジバック(レンズマウントから撮像素子までの距離)+2個貼り合わせたボディキャップの厚みの分だけ長すぎるので、カットする必要がある。そこで方眼入りの工作用紙を「治具」として紙管に巻き付け、カッターナイフでできるだけきれいにカットする。

治具のお陰もあってなかなかきれいに紙管がカットできた。

工作用紙を丸めてこのようなパーツを製作する。これは紙管とレンズキャップを接続する補強パーツである。そのため、内側は内面反射防止の意味で墨を塗ってある。

上で製作した補強パーツを紙管の内側に接着する。このパーツを取り付けることで、レンズキャップとの接着面が増え、よりしっかりジョイントできるのである。

ボディキャップのパーツを紙管に接着する。接着剤は「ボンドGクリア」を使い、まず両方のパーツの接着面にそれぞれ塗って、10分ほど経ってから2つのパーツをぎゅっと押さえつけると、かなり強力に接着できる。

紙管に丸めた黒ラシャ紙を入れ、端を接着する。これも内面反射防止のためである。

次にレンズ部の工作。まずは紙管の蓋の頭頂部を取り外す。内側から接着しているだけなので、上からギュッと押し込むと簡単に取り外せる。

工作用紙をサークルカッターで切り抜いて、レンズを取り付けるための台座を作る。そして、そこに組み込む「絞り」も黒ラシャ紙で製作した。

上記の部品を組み立てるとこのようになる。

老眼鏡レンズの固定法はちょっと迷ったが、黒色スポンジ両面テープ(これも100円ショップで購入)で接着してみた。

上記のパーツを、紙管のフタの先に接着するとレンズユニットが完成する。そしてこのユニットは絞り2段の切り替え式なのである。この絞り穴は文房具のパンチで開けたもので直径5.5mm、焦点距離400mmに対し「絞りF73」になる。

タブを引くと大きな絞りに切り替わる。この絞りはサークルカッターで直径18mmに開けたもので、焦点距離400mmに対し「絞りF22」になる。実は最初は絞りF22で製作していたのだが、画質に問題があったため急遽F73の絞りを追加し、せっかくなので切り替え式にしたのである。

レンズユニットを鏡筒にはめ込むと、レンズ本体がいちおうは完成する。しかしテストの結果、撮れた写真はフレアがかかってコントラストが著しく低い。そこで確認したところ、鏡筒の内面反射が大きく、黒ラシャ紙もほとんど役立っていないことが判明した。

原理的に分析すると、超望遠レンズの場合は、本来的にはもっと広い画角のごく一部のみを使用するため、はみ出した画角の光が、長くて狭い鏡筒の中でよけいに乱反射してしまうのだ。

そこで内面反射防止策をいろいろ考えたのだが、「片面段ボール」の内側に墨を塗り、丸めて六角形になるよう折り目を付けたパーツを製作した。

内面反射防止パーツを鏡筒内部に差し込む。この場合は強度的に持つので接着はしなかった。

思った以上に苦労したが、ともかく当初のもくろみ通り「テレ・ローガン400mm」が完成した。さっそくPEN-Fに装着してみると、スリムな超望遠レンズが、コンパクトなカメラボディになかなか似合っている。紙製ながらワニ皮模様なのもなかなかしゃれている(笑)。軽量なので、カメラ側の強力な手ブレ補正機能と相まって、手持ちでサクサク撮ることができそうだ。

テスト撮影

今回の工作はなるべく簡単に済ませたかったのだが、「超望遠」という領域はやはり非常に特殊なもので、上記の製作過程で示したとおり、途中で小絞りを追加し、また内面防止策も強化することになり、けっこうな手間が掛かってしまった。

そこでテスト撮影では、それらの効果の有無を、改良を重ねていった段階ごとにご覧いただきたい。カメラは三脚に固定し、遠方のセメント工場を撮影した。露出モードは絞り優先AE、感度ISO200、画質設定ナチュラルで統一し、2秒セルフタイマーでシャッターを切った。

まずは絞りF22、内面防止策なしの画像。F22と言えば一般的なレンズで言えば最小絞りだが、ライブビューの拡大モードでどれだけ慎重にピントを合わせても、このようなボケボケの画像にしかならない。そこで「小絞り」を追加することにしたのだ。

PEN-F / 1/250秒 / F22 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE

次に絞りF73、内面防止策なしの画像。ちなみに絞りF73なのは、穴開けパンチの穴が5.5mm(実測)だったので、たまたまそうなったのである。先ほどよりずいぶんピントは良くなったが、「本物の超望遠レンズ」の画質にはやはり及ばない。

PEN-F / 1/30秒 / F73 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE

しかし100円の老眼鏡(実質的にはその半値)であることを考えると良く写っていると言えるだろう。問題は思った以上にコントラストが低いことで、そのため内面反射防止パーツを追加することにしたのだ。

次は絞りF73に内面反射防止策を追加した画像。先ほどよりコントラストが上がってより「見られる」写真になった。

PEN-F / 1/13秒 / F73 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE

また、歪曲収差が無く直線がまっすぐに写っているが、この点は優れていると言える。凸メニスカスレンズの効果が、こうしたところに現れているのかも知れない。

ここであらためて気付くのは撮像素子に付着した「ゴミ」が数カ所写っていることだ。これは超望遠レンズで、さらに常識を越えた小絞りで撮影したから起きる現象である。オリンパスのマイクロフォーサーズカメラは強力なダストリダクションシステムを装備しているため、通常の撮影ではこのような写り込みは無いはずである。

比較のため、絞りF22、内面防止策ありの画像も掲載する。ピントは当然悪くなり、色も紫と黄色に滲んでいるのがわかる。

PEN-F / 1/100秒 / F22 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE

光は色(波長)ごとに屈折率が異なり、だから写真用レンズはこの収差を修正する工夫がほどこされているのである。しかし絞りF73で写っていた撮像素子のゴミは、ほとんど目立たなくなっている。

参考に同じ被写体を「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」の25mm(50mm相当)で撮影してみた。実際、超望遠800mm相当ともなると、肉眼では点のようにしか見えない風景を切り取って撮影しているのである。

PEN-F / 1/1,000秒 / F6.3 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE

実写作品とカメラの使用感

完成した「テレ・ローガン400mm」は超望遠レンズとしては常識外れの軽量さだ。F値は暗いが、PEN-Fはかなり強力な手ブレ補正を装備し、ISOオートに設定すれば、昼間なら手持ちでサクサク撮影できてなかなか快適。当然のことながら、PEN-Fの手ブレ補正機能をマニュアルで「400mm」に設定する。

昔は手ブレが起きにくい限界のシャッター速度は「1/焦点距離」秒と言われ、焦点距離800mm相当の場合は「1/800秒」が手持ちの限界のはずだが、PEN-Fとの組み合わせではそれを遥かに超えた遅いシャッター速度でもブレずに撮影でき、驚いてしまった。

フォーカスはもちろんマニュアルだが(フタを前後させてピント合わせする)、超望遠にもかかわらず小絞りのため被写界深度が非常に深く、元々ピントの山がはっきりしないレンズということもあって、ほとんどパンフォーカスとして使用できる。

さて、この特殊でクセのありすぎるレンズで何を撮るのか? 考えても仕方が無いので、ともかく撮影に出掛けてみた。

まずは出がけの自宅付近の藤沢市内にて、富士山が見えていたので撮影。ピントは全体に甘いが被写界深度が深く、遠くの富士山も手前の標識も均質に写っているのがわかる。

PEN-F / 1/100秒 / 0EV / ISO1600 / 絞り優先AE

次に東京都庁の展望台から富士山を撮ってみよう! と思い立ち行ってみたものの、霞んでいて全く見えず……そこで眼下の街並みを撮影。超望遠ならではの圧縮効果のある写真になったが、こういう写真こそシャープなレンズで撮った方が面白いと言えるかも知れない。

PEN-F / 1/60秒 / 0EV / ISO1600 / 絞り優先AE

そこで翌日は作戦を変えて、このレンズならではの特徴を活かした撮り方をしてみることにした。このレンズはカラーで撮っても色が濁るし、元々シャープなレンズではない。

そこでアートフィルターの「ラフモノクロームI」を使用し、また追加した「内面反射防止パーツ」も取り外して、フレアを積極的に採り入れながら撮影することにした。絞りもF22とF73を切り替えながら撮影した。

まずは歩道橋の上から標識などを狙って撮影。絞りF22で画質が荒れ、個性的で面白い描写になった。

PEN-F / 1/160秒 / 0EV / ISO200

別の歩道橋から撮ったものだが、昭和の古い写真のようになった。本来は内面反射のためコントラストが著しく低下しているが、ラフモノクロームはコントラストを上げる画質調整をしているので、ちょうど良い感じでバランスが取れている。絞りF22。

PEN-F / 1/640秒 / +0.3EV / ISO1600

道路に降りて交差点の車を撮ってみたが、「交通戦争」という懐かしい言葉を思い起こさせる写真になった。しかしこの交差点は実際にはそれほど混雑しておらず、超望遠のパースペクティブと画像の荒れがもたらす効果である。絞りF22。

PEN-F / 1/125秒 / 0EV / ISO200

商店街を撮ってみたが、空が電線で埋め尽くされているように見える。このような風景も、肉眼では点のようにしか見えない部分を切り取って撮影しているのである。絞りF22。

PEN-F / 1/30秒 / 0EV / ISO1600

次に絞りF73に切り替えて、再び歩道橋の上から撮影してみたが、ざら紙に印刷されたような味わいのある質感になった。

PEN-F / 1/100秒 / 0EV / ISO1600

遠くの家並みと行き交う人びとなどを狙ってみたが、フレアのお陰で独特の空気感が描写されている。絞りF73。

PEN-F / 1/80秒 / 0EV / ISO1600

西日に電線が輝いていたので撮影してみた。超望遠800mm相当で何をどう撮影するのか、自分の視覚がその画角に慣れるまでなかなか難しいものがある。絞りF73。

PEN-F / 1/100秒 / 0EV / ISO1600

上空に飛行機がいたのですかさず撮影。円盤形のレドームを装備したプロペラ機で、米軍のE-2ホークアイだろうか。荒れた粒子と相まって、大昔の戦場写真のようだ。絞りF73。

PEN-F / 1/125秒 / 0EV / ISO1250

夜、月が出ていたので普通のカラーモードに切り替え、手持ちで撮ってみることにした。絞りF73でシャッター速度1/15秒だが、驚いたことに手ブレせずに撮れている。画質は決して良いとは言えないが、いちおうクレーターも写っていて、100円ショップの老眼鏡でここまで写るのだから大したものだといえる。絞りF73。

PEN-F / 1/15秒 / 0EV / ISO3200 / マニュアル露出

現代のレンズの凄さがわかる

超望遠レンズはこの連載の「OLYMPUS AIR A01で“ロケットランチャースタイル”」で超重量級の「ZUIKO DIGITAL ED 300mm F2.8」を使ったことがあるのだが、今回自作した「テレ・ローガン400mm」はそれとは対極の超軽量級の超望遠レンズで、カメラ側の手ブレ補正装置と組みあわせると、気軽に手持ち撮影できるのが特徴だ。

もし、同様の超軽量超望遠レンズをメーカーの技術力でまともな画質で製品化できれば、面白いだろうとあらためて思った。

「テレ・ローガン400mm」は1群1枚の単玉レンズのため収差が大きく高画質とは言えなかったが、世の中には1群2枚の単玉レンズの超望遠レンズが昔から存在し、中でもライカの「テリート400mm F6.8」や「テリート560mm F6.3」は非常な高性能で知られている。

ただし、単玉の超望遠レンズは「テレ・ローガン400mm」もそうであるように、焦点距離の分だけレンズ鏡筒も長くなる。だから、一般の望遠レンズ(ズームも含む)は複数のレンズを組み合わせてレンズ全長を焦点距離よりも短くし、さらに諸収差を除いて大口径化を実現している。

今回の「実験」は撮影用レンズとして何の工夫もない老眼鏡を使った超望遠撮影をしてみたのだが、これによって写真撮影用に設計された超望遠レンズが、いかに沢山の技術の積み重ねによって実現しているかが、実感できたのである。

糸崎公朗

1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。毎週土曜日、新宿三丁目の竹林閣にて「糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」の講師を務める。メインブログはhttp://kimioitosaki.hatenablog.com/Twitterは@itozaki