デジカメアイテム丼

RODE ワイヤレスプロ

音割れの心配がない32bitフロート録音に対応

動画撮影をする一般ユーザーでもワイヤレスマイクを使うケースが増えているようだ。今年に入って、「AnkerWork M650 Wireless Microphone」がリリースされるなどコンシューマー向けも充実しつつある。

そんな折り、マイク専門メーカーのRODE Microphonesが新たなワイヤレスマイク「ワイヤレスプロ(Wireless PRO)」を発売した。国内では銀一が扱い、10月27日に発売となった。価格は税込6万8,200円となっている。

音割れせずに録音できる「32bitフロート録音」に対応

ワイヤレスプロは2.4GHz帯を使った2波同時受信のデジタル方式ワイヤレスマイクで、マイク内蔵のトランスミッターが2台、レシーバーが1台、バッテリー内蔵の充電器兼収納ケースなどからなる。

こうしたセットは最近のワイヤレスマイクのスタンダードな構成となっており、M650 Wireless Microphoneも同様の機能のパッケージとなっていた。ワイヤレスプロもケースから取り出した時点で自動的に電源が入り、ペアリングも完了している。

左からトランスミッター×2、レシーバー
バッテリー内蔵のケース。トランスミッターとレシーバーを2回ほど充電できる容量がある
収納状態。自動的に充電される
ケースには充電とPC接続のためにUSB Type-C端子を備えている

ほかのワイヤレスマイクと異なるのは、32bitフロート形式の録音機能を搭載しているという点だ。従来の24bit記録では音割れが発生すると元に戻せないという問題があった。32bitフロート形式はダイナミックレンジ(対応できる音量の幅)が広く、まず音割れが発生しないのが特徴となっている。

同社によると、24bitのダイナミックレンジは144dBなのに対して、32bitフロートは1,528dBにもなるという。実現のためにはbit深度を深くするだけではだめで、プリアンプとADコンバーターをレベル別に4セット搭載することで対応できたとしている。

32bitフロートで記録できるのは、トランスミッターの内蔵メモリーに記録する場合(オンボード録音)のみだ。レシーバーからの出力は32bitフロートのものではないため、カメラ側で32bitフロートで記録できるわけではない。

トランスミッター。裏にクリップがある
上向きにマイクを内蔵している。左はマイク端子、右はオンボード録音の開始ボタン

トランスミッターに録音機能を備えたワイヤレスマイクはこれまでもあったが、どちらかというとカメラ側で録音することがメインであり、トランスミッター側の記録はバックアップという意味合いが強かったように思う。

一方のワイヤレスプロは、音割れの心配がほぼ無いオンボード録音をメインにして、カメラ側の音声をバックアップにするという使い方も想定できる。32bitフロート記録は、録音レベルの設定が不要なのでミスがなく、どのような音量が来ても対応できるためだ。

オンボード録音のファイルは32bitフロートのWAVファイルとして保存されている。PCに繋ぐとストレージとして認識されるので、そのままWAVファイルを取り出せる。32bitフロート形式はプロ用の動画編集ソフトは多くが対応しているが、非対応のソフトもあるようだ。その場合は「RODE Central」という無償ソフトで24bitのWAVやMP3形式で書き出すことができる。

RODE Centralによるトランスミッターの設定画面。Mic Gainはレシーバーへの送信用の設定で、オンボード録音には影響しない
RODE Centralでオンボード録音の再生も可能。右のメニューから24bitなどで書き出せる

オンボード録音は40時間以上記録できる(メモリー容量32GB)ので、1日中記録しても十分なストレージとなっている。実際、電源が入ると自動的にオンボード録音を開始することもできる。これだとトランスミッターにある録音ボタンの押し忘れで記録されていないといった失敗が防げる。

カメラごとのレベルプリセットを内蔵

レシーバーもトランスミッターと同じサイズで、小さくまとまっている。こちらも背面にクリップがあり、このクリップがそのままカメラのシューに装着できるようになっている。

レシーバーも小型
側面に設定用のボタンがある

出力はカメラのマイク端子に繋ぐアナログ出力のほか、USB Type-Cによるデジタル出力もある。Lightning用のケーブルも付属しており、iPhoneに繋ぐとそのまま録音できることが確認できた。

アナログ出力はヘッドホン出力になるほか、ヘッドセットを繋ぐと3番目のマイクとしてデジタル出力に加えることもできる。

出力はアナログとUSB Type-Cのデジタルがある

RODE Centralのレシーバー設定画面ではルーティングなどの設定が可能。ルーティングはカメラL/Rチャンネルにどのように振り分けるかの設定で、2つのトランスミッターの音をL/Rに同じく記録するMarged、L/Rに振り分けるSplit、レベルを下げた音声も出力するSafetyがある。

レシーバーの設定画面
ルーティングの設定画面

レシーバーからカメラに送るアナログ出力レベルはマニュアルで調整するほか、プリセットもある。プリセットを選ぶとカメラメーカーからカメラのモデルが選択できる。例えばα7 IIIを選ぶとレシーバーの出力が-15dBに設定される。

次に、カメラ側の音声レベルをいくつにしたら良いかだが、プリセットでは推奨レベル値とその設定方法を記したPDFドキュメントへのリンクが出てくる。ほかのマイクではカメラ側のレベル設定に迷うことが多いので、この点は親切なシステムでありがたい。

アナログ出力の設定。プリセットが便利だ
主要なカメラメーカーのリストが出る
このように機種ごとに出力レベルが自動設定される
カメラ側の設定に関しては出てくるリンクから確認できる仕組みだ

レシーバーにはディスプレイがあり、レベルメーターや各種設定状態が表示される。操作はボタン式で、タッチパネルではない。

レベルメーターを表示したところ。トランスミッターのバッテリー残量もわかる
Mic Gainはレシーバーから調整できるので、音声を聞きながら合わせることが可能
アナログの出力モードやプリセットの機種変更もできる
こちらはアナログ出力をマニュアルで設定しているところ

不要な低音をカットするハイパスフィルターは搭載しているが、ノイズリダクションやイコライザは非搭載だ。アイテムの性格としてはどちらかというとプロ寄りだと思うので、ノイズリダクションや音質の調整が必要なら編集時に行うというスタイルになる。

付属アクセサリーが充実

RODEのマイクは業務用として使われているのもよく見かけるが、ワイヤレスプロはそうした用途でも使えるよう付属アクセサリーが豊富なもの特徴だ。

アクセサリーは充電ケースと同じサイズのケースにまとまっている
ケーブルはUSB Type-CやLightningのほか、アナログ用のケーブルが付属
α7 IIIにレシーバーを装着したところ

ほかでは別売になっていることが多いラベリアマイクも2本付属。RODEでは新しいタイプとなる「Lavalier II」で、端子がネジで固定できる仕様となっている。不用意に抜けないのに加えて、動いたときにノイズも出にくい。

トランスミッターを胸元に付けるとやはり目立ってしまい、業務用としては使いにくい。その点でラベリアマイクが付属するのはプロユーザーには特に助かるところだろう。

ラベリアマイクは小型で目立ちにくい。トランスミッターにもしっかり固定できる
ウィンドジャマーはトランスミッター用とラベリアマイク用が付属。スポンジの風防はラベリアマイク用だ。マイクコードの根本に付けられるカラーのリングもある
ラベリアマイクの装着例
トランスミッターにウィンドジャーマーを付けたところ
クリップには付属の鉄板を付けると磁石で服などに装着できる
磁石を使った装着例。クリップが使えない場合に便利だ。鉄板は付けたままでケースに収納可能

音質も良好。32bitフロートの安心感は大きい

下のサンプル動画は3カットからなり、1つめはカメラの内蔵マイクで収録したもの。2つ目はワイヤレスプロをカメラに繋いで収録したもの。3つ目は、2つめの時にオンボード録音した32bitフロートの音となっている。各カットとも声の大きさを「中→小→大」に変えて読んでもらっている。

RODE ワイヤレスプロの音声サンプル

まず、ワイヤレスマイクを使わないと部屋の反響やノイズが大きく明瞭には収録できない。ワイヤレスマイクを使うとかなり綺麗にに収録できることがわかると思う。遅延も感じられないし、音質も問題無い。

トランスミッター単体で使うとやや吹かれ音が入るようだったので、室内ではあるがウィンドジャーマーを装着した。これで吹かれ音は発生しなくなっている。

今回は大きな声でも原稿を読んでもらったが、このくらいだとカメラ側記録でも音割れはしなかった。そのため32bitフロートでの録音も音質的にはカメラ側記録のものとあまり変わらないものとなっている。

ただ、もっと大きな声の場合は音割れが起きていた可能性があるので、そういう場合は32bitフロートのダイナミックレンジが生きると思う。とにかく、レベルオーバーを心配すること無く収録に臨めるのは安心感が大きい。

カメラ側記録の場合、マイクゲイン、レシーバーの出力レベル、カメラの録音レベルという3つ程度のパラメーターを適切に調整しなければならないのでやはり面倒が多い。32bitフロート録音ならこれらの調整は一切不要なので、その利便性も購入する理由にはなる。

また少々高度な機能になるので今回は割愛するが、タイムコードのジェネレーターも搭載しており、オンボード録音を含めたマルチカメラでの同期をタイムコードでできるようになっている。

とはいえ、オンボード録音のファイルと映像を同期させるのは編集ソフトのいわゆる「波形で同期」の機能を使えばタイムコードなしでも瞬時に位置合わせができる。今回のサンプル動画もDaVinci Resolveの音声波形同期の機能で合わせているが、ご覧のように問題無く同期できていた。

トランスミッター×2、レシーバー、ケースの重さは277gと軽量だ

価格は6万円台ということで競合品よりも高価に見えるが、32bitフロート録音やタイムコードといったプロ向けの機能に加えて、単体では1万7,600円のラベリアマイクが2本付いてくることを考慮すると割高感もさほど無いように思う。初回の輸入分は完売したそうだが、それだけ注目される完成度の高さがあるのは確かだろう。

モデル:進藤もも

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。