吉村永の「ホントに使える動画グッズを探せ!」
4品目:高レベルの“止める・動かす”が可能に…プロ向けムービー三脚システム
Sachtler(ザハトラー)「Activシステム三脚」
2023年2月1日 07:00
一眼レフ、ミラーレスを問わず、最近のカメラにはもれなくと言っていいほど備わっているのが「動画撮影機能」。写真撮影については一家言あるけれども、動画についてはまだ未知の領域……、という読者も多いはず。
この連載では“スチルカメラ愛好家”に向けて、動画畑出身のカメラマン 吉村永がレンズ交換式デジタルカメラで動画を撮る際に便利なグッズを見つけて紹介していく。時にプロ向けの高価な機材から、馴染みのないメーカーの製品まで積極的に試して紹介できたらと思う。
今回紹介するのは動画撮影用のプロ向け三脚。プロ向け動画三脚は進化やモデルチェンジの少ないジャンルだが、Sachtler(ザハトラー)の「Activシステム三脚」は数十年ぶりといえる革命的な進化を遂げた雲台と脚部のセット品だ。
なお、本稿で扱うのは雲台「aktiv8」と三脚「Tripod Flowtech75 GS」がセ ットになった「System aktiv8 flowtech75 GS」というモデル。実勢価格は税込40万5,900円前後。
役立ち度:★★★★★
コスパ:★★★★
マニアック度:★★★★★
動画用三脚では「カウンターバランス」が重要
まずはこの製品を説明する前に、動画用三脚がどういったものかについて軽く触れておきたい。
写真撮影用の三脚は、乱暴に言ってしまえばカメラをきっちり固定でき、揺れをなくすことが出来れば基本的な役割を果たしてくれる。だが、動画用三脚においてはきっちり止まることはもちろん、なめらかに動き、意図したときにスッと固定できる必要がある。
映像は休みなく録画され続ける性質のもの。なので、例えばカメラを動かしたあとに、固定しようとロックネジを閉めた途端につまみの回転に合わせてカメラが動いてしまうようなバックラッシュのある雲台では、動画の撮影は難しいということになる。
そこでプロ向け三脚に採用されているのがカウンターバランス機構。通常の雲台はロックつまみを緩めて手を離すと、カメラが自重で前か後ろにおじぎをするように倒れてしまう。しかし、この機構はカメラが倒れないように強さを調節できるスプリングが雲台に入っており、撮影前にそのバランスを調整しておくとカメラが前後どんな角度になっている時に手を離しても、ロックつまみを締める必要なしに自由な位置で止まってくれるのだ。
ある意味静止画よりシビアな「水平調整」
プロ向けの動画用三脚はもうひとつの特徴として、カメラの水平をとるために雲台の脚部への取り付け部分が球体関節のような、通称「お釜」と呼ばれる機構になっている(ご飯を炊くお釜に似ている)。
写真撮影向け三脚の場合は、ファインダーを見ながら左右の傾きを調整すればそれで終わりだが、動画の場合はカメラを横に振る「パン」という動作がある。写真撮影時のように左右の傾きだけを合わせてパンをすると、厳密には前後の傾きが合っていないため、パン動作で画面が横移動するときにどんどん水平が狂ってしまうのだ。
そこで、回転軸を完全に地面に垂直にするために、まずは水準器付きのお釜でしっかりと雲台の水平をとるのが動画撮影における三脚セッティングの基本となる。写真用三脚でセンターポールを完全に垂直にするには、3本の脚の長さを細かく調節しなくてはいけないので、この部分が球体関節で調節できるのはセッティングの大幅な時間節約になるわけだ。
FLUID HEADでなめらかな動作
もうひとつ、カメラのなめらかな動きを実現するには、雲台の回転にある程度しっとりした粘り(ドラッグと称する)が必要だ。これを実現するため、多くの動画用雲台は回転部に粘性の高いオイルを封入し、この抵抗でしっとりとした動きを実現している。FLUID HEADと称される機構だ。
さらに特徴的なのが開脚角度の調節機構。写真用の多くは、3本の脚の付け根部分にスライドレバーがあり、これの位置で3段階ほどの開脚角度を決められる。対して動画三脚は「スプレッダー」と呼ばれる3本の脚をつなぐベンツのマークのようなステーで開脚角度を調節している。
一般的なのは「グランドスプレッダー」という、脚部の最下段に装着されていて常に地面に接しているタイプ。これは報道カメラなどが狭いところに何台も並ぶような現場で、三脚の高さをどれだけ変えても脚の設置部分が広がったりすることがなく、いつも同じ占有面積のまま撮影できるというメリットがある。
メカ式なのにしっとり動作するのが良い“ザハトラ―”
さて、ここでようやく今回の製品の説明となるが、メーカーはSachtler。ドイツのブランドで、ドイツ語に近い発音で「ザハトラー」と読む。テレビ関係者の多くはザハトラーと呼ぶが、古くからの映画関係者は英語読みで「サクラー」と呼ぶ場合が多い。
一部、業界外の人で「ハトラー」と呼ぶ人を見かけるが、これは三十年ほど前に某機材販売会社が「The ハトラー」という具合に頭の発音を定冠詞の「The」と誤認して広告を打ったのが始まりと思われる。
動画三脚のメーカーはいくつかあるが、僕がSachtlerの三脚を好きな理由はオイルによるドラッグでなく、あくまでもメカ式でしっとりとした動きを実現していること。
オイル式は動作可能温度が狭めな傾向があり、氷点下の寒冷地でオイルの粘性が高まり動きが渋くなったり、高温時にオイル漏れを起こしたりしがち。業界でもシェアの高い某製品などは、動作温度が-15~30度だったりする。真夏の車などに置いておくと、オイル漏れの可能性が非常に高いのだ。
一方、Sachtlerのメカ式は温度に左右されにくく、調節ダイヤルを「0」にすれば、オイルの粘性とは全く切り離されたフリー状態になる。以下の動画のように恐ろしくスムーズだ。
一生の相棒として
このシステム三脚は、進化の少ない三脚の世界で久々に新しい設計思想が盛り込まれた画期的な製品なのだが、この進化は過去の業務用動画三脚を知らないとあまりピンとこないかもしれないのでここではあえて多くを語らない。実際に説明をすると、レビュー記事は数十ページにも及ぶほどになるからだ。
中でも、本サイトの読者に大きなメリットとしてお伝えしたいのは載せられるカメラの重量範囲の広さ。12kgまでのカメラに対応するのだが、注目したいのはカタログ上で0kg~対応、となっていること。これまでの多くの三脚はカメラが軽いとバランスさせることができなかったのだが、本モデルは小型のカメラにも対応し、実際に僕もマイクロフォーサーズの小型ミラーレスで動画を撮影するときにもこの三脚を使っている。小型カメラでも、疲れを知らずにスムーズな動画が撮影できるわけだ。
価格を聞くとびっくりしてしまう人も多いと思うのだが三脚の耐用年数は長いし、モデルチェンジは少ない。僕は自分がキャメラマンでいられる寿命の間、十分に使える一生物と考えてこれを購入した。デジタル製品より長く使えるクラフツマンシップあふれる製品なので、一生の相棒として文句のない製品だと感じている。