著名写真家による“焦点距離別”レンズテクニック

望遠レンズを使いこなすには?

米美知子/小林哲朗/中井精也が解説

「遠くの物を大きく撮るもの」と思われがちな望遠レンズ。実は、特有の大きなボケや圧縮効果を活かすことで印象的な写真が撮れるのです。ここでは、3名の写真家による望遠レンズの使いこなしを解説しましょう。(編集部)

焦点距離185mm編:印象的な風景をパンフォーカスで狙い、メリハリをつけてバランスよく切り取る(米美知子)

望遠側185mmで撮影。PLフィルターで色を引き出し、F16まで絞り込んで背景の梅もしっかり見せている。キヤノンEOS 5D Mark III / EF70-200mm F2.8 L IS II USM / F16 / 1/30秒 / ISO400 / WB:太陽光

通常、ホワイトバランスは[太陽光]、仕上がり設定は[風景]、ISO感度は200~1600、絞りはパンフォーカスにするためにF16が多い。現場に着いたらまずは肉眼で被写体を探すが、両目で広く見ると集中力が散漫になる場合もあるので、ある程度被写体を決めたらファインダーをのぞいてみるとイメージしやすい。

手持ちだとフレーミングが甘くなるので、必ず三脚を使いじっくりと現場で作品を作り上げる。そうすれば現像時は、ほとんど手を加えなくてすむ。

彩りの美しいところを切り取る
梅園から20~30mほど離れた外の道路から目線と同じ高さで撮影する。画面右下の黄色い花をポイントにしながら、色とりどりに咲き誇る花々の美しい部分だけを選んで切り取り、望遠レンズの圧縮効果で絵画調に表現している。

望遠レンズの場合は広角レンズに比べて画面が平坦になりやすいため、光と影や色の組み合わせ、被写体の大小などでメリハリを出したい。遠くを引き寄せるのが得意なレンズだが、曇天時などに無理に遠くの山肌などを狙っても印象が弱いので、あまり欲張らずはっきりと形や特徴がわかる距離の被写体を選んだ方が良い。

光と影を使うときも日中はコントラストが強くなりやすいので、朝夕の太陽が低い位置の時間に撮った方がより作品性は上がる。

陰影を使ってメリハリを出す
霧氷が付いた木々に朝の光が差し込んできた。手前の木をポイントに、2倍のテレコンバーターを使って間延びしないように400mmで撮影。手前の木が背景の日陰に入るようにしている

自然風景を撮るときはやはり広角ズームと望遠ズームの最低2本は持ちたい。望遠側も基本的には200mmまであれば十分だが、フルサイズカメラの場合にはあと少し引き寄せたいこともあるので、テレコンバーターがあると良い。

一般的に望遠レンズはサイズが大きくなるので、しっかりとした三脚に乗せ、ケーブルレリーズを使って極力ブレを抑えよう。また、ミラーアップも効果がある。面倒くさがらずに現場で丁寧に撮影することが大切だ。

PHOTOGRAPHER:米美知子(よねみちこ)

1967年東京都生まれ。2004年ワイ.ワン フォト米美知子写真事務所を開設、フリー写真家として活動を開始する。「夢のある表情豊かな作品」をテーマに日本の森と色彩美を撮り続けている。
http://www.y-onephoto.com/

焦点距離300mm編:望遠レンズで工場を圧縮して緻密な造形を表現する(小林哲朗)

港の対岸から製油所を撮影。配管や階段など、緻密な造形を描き切るため、画質の良い単焦点レンズを選択した。ニコンD800 / AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR II / F11 / 20秒 / ISO100 / WB:オート

露出をコントロールして、肉眼で見える明るさを超越した表現ができるのが夜景撮影の魅力の1つ。長時間露光したあと、パッと背面液晶モニターに画像が浮かび上がる瞬間は何度体験しても感動する。

夜の工場地帯は日中ほど明るさや光の向きの変化がないので、焦らずにじっくりと構図を練ることができる。露出を何度も確認しながらマイペースに撮れるので、自分の思いどおりの写真が撮りやすい。

「かっこいい重なり」を探して三脚を据える
工場は巨大なので、見るポイントによって、プラントの重なり具合が変わり、同じ工場でもまったく違う表情を見せる。三脚を立てる前に周囲を歩いて自分が思う「カッコいい重なり」が見える場所を探す。撮影ポイントを決めたら、三脚にカメラを据えて撮影しよう。

撮影に向かうときは、必ず被写体となる工場の場所を地図で確認しておこう。今回撮影した横浜港に面した石油精製工場は、対岸から撮影するため、複数の構図を考えるには最低でも200mm以上のレンズが必要だとわかる。400mmクラスのレンズがあると、さらに絵作りの幅は広がるだろう。

F11まで絞り込んで光条を出す
製油所の写真の一部を拡大したもの。工場の強い光源は、絞り込むことで光条が出る。回折現象とシャッター速度の低下に注意して絞り込もう

工場には照明など強い光源が多く光条が出やすい。絞りを絞り込むほど、光条はより放射状に伸びるが、絞り込みすぎるとシャッター速度が遅くなり、手ブレするリスクが高まるので、F11前後までにした方が良いだろう。

工場夜景のような緻密な写真は解像力が求められるので、風が強くてもISO感度は1~2段上げる程度にしておき、三脚やミラーアップ撮影を有効に使って、感度を上げる以外の方法でブレを徹底的に排除しよう。

頑丈な三脚と傘でブレを防ぐ
基本的なことだが、三脚はガッチリしたものを選び、なるべくエレベーターは使わない。さらに、強風の場合は傘で風を遮ると、風によるブレを大幅に減らすことができる。携帯に便利な折りたたみ傘がオススメだ

PHOTOGRAPHER:小林哲朗(こばやしてつろう)

1978年兵庫県生まれ。10年間保育士として勤務。その間撮りためた写真で写真集を4冊出版し、2012年に写真家に転身。主な被写体は、工場、巨大建造物、廃墟など。各地で行われる撮影イベントの講師や、講演会なども行っている。
主な著書に「工場ディスカバリーZ」(アスペクト)などhttp://www.kobateck.com/

焦点距離450mm編:ボケを画面いっぱいに大胆に入れて幻想的な世界を作り出す(中井精也)

秩父鉄道 上長瀞~親鼻。画面全体をイルミネーションのような前ボケで埋め尽くして、ドラマチックに仕上げた。ニコンD7000 / AF-S VR Zoom-Nikkor 70-300mm f/4.5-5.6G IF-ED / F5.6 / 1/750秒 / ISO200 / WB:晴天日陰+A6

「遠くのものを大きく写すためのレンズ」という望遠レンズの特徴ばかりを考えるのではなく、「風景や被写体を圧縮して迫力を出すレンズ」とレンズの効果を知ったうえで焦点距離を選択し、意図に合わせて、被写体との距離を的確に取ることが大切だ。ボケの美しさを気にするあまり、メインの被写体の写り方が中途半端では本末転倒だからだ。

手前の葉にかなり近づいて遠くの列車を狙う
実はかなり高い山の上から、麓を走る列車を撮り下ろしている。ピントは直線距離で約700m先を走る列車に合わせ、レンズから50cmくらいの位置にある逆光に輝く葉っぱを、画面全体に入れて大きくぼかしている。

また、ボケをイメージ的に使うなら、ただぼかせば良いというものではない。ホワイトバランスや仕上がり設定、大胆な露出補正と組み合わせて、自分のイメージにできるだけ近くなるよう調整したい。開放F値だけでなく少し絞ったり、ボケとの距離を変えたりして、理想のボケを追求しよう。

大胆な「前ボケ」で画面を埋め尽くす
これも列車がかなり遠くにあるのがわかる。135mmのレンズで開放F1.8にしてアジサイをぼかし、その色だけで写真を飾った
大胆な「後ボケ」で被写体を目立たせる
線路を飛ぶトンボを置きピンで撮影。トンボを目立たせるため、300mmのレンズを使ったうえで、開放F5.6でボケを大きくした

絞りを開放にし、ピントが合う範囲を狭くしてボケを作るが、ボケそのものを作ることはそれほど難しくない。むしろ難しいのはボケの先にあるメインの被写体との距離の取り方だ。

望遠レンズでボケを作るため、中途半端な距離だと、被写体も大きくなってしまい雰囲気が出ない。シャッターを切る以前に、かなり遠くに被写体がありつつ、手前がきれいにぼける場所を探せるかどうかが、実は一番難しいのだ。

PHOTOGRAPHER:中井精也(なかいせいや)

1967年東京都生まれ。2004年春から毎日1枚必ず鉄道写真を撮影するブログ「1日1鉄!」を継続中。広告、雑誌写真のほか、講演やテレビ出演など幅広く活躍している。株式会社フォートナカイ代表。「世界一わかりやすいデジタル一眼レフカメラと写真の教科書」(インプレス)など著書多数
http://railman.cocolog-nifty.com/

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この記事は、インプレス刊の書籍「イラストでよくわかる 写真家65人のレンズテクニック」から抜粋・再構成しました。

米美知子さん、小林哲朗さん、中井精也さん以外にも、総勢写真家65人それぞれが、焦点距離別に秘蔵のテクニックを紹介。焦点距離やF値といった、レンズの基礎を学べるコーナーもあります。

「イラストでよくわかる 写真家65人のレンズテクニック」(インプレス刊、4月17日発売。税別1,800円)