インタビュー
「Adobe Photoshop Lightroom 5」のコンセプトとこれから
プロダクトマネージャーに詳細を聞く
Reported by 小山安博(2013/8/5 08:00)
アドビシステムズの画像管理ソフト「Lightroom」がメジャーバージョンアップして「Lightroom 5」となった。Upright機能などを追加し、さらに画像編集機能を強化している。今回、米Adobe SystemsのプロダクトマネージャーDavid Auyeung氏に、新バージョンのポイントや今後の展開などで話を聞いた。
「Apertureにはない新機能」クラウド対応への強い要望も
「カメラ以外に必要なツールはすべて」というのがLightroomの開発コンセプトだとAuyeung氏は言う。「どのような写真であっても最善の結果を引き出す」ことを目指して開発しており、さらに「日本はどこの国よりも品質を重視する」ことから、クオリティを重視しているそうだ。
Lightroom 5では、修復ブラシで自由な形での修正の対応、Uprightテクノロジーの搭載、円形フィルタ、スマートプレビュー機能など、さまざまな機能追加を行なっている。このバージョンアップでは、「最もいい品質で画像を補正できること、より簡単に、より柔軟に編集できること、色々な共有を可能にすること」という3点を重視してきたという。
Lightroomは写真家向けとされ、Photoshopとは区別されるが、開発チームは同じで共通した機能も多く搭載されており、新機能としてPhotoshopの機能が取り込まれる可能性はある。ただし、Photoshopは写真家だけでなくデザイナーも含めた幅広いユーザー向けであり、Lightroomとはその点でも異なる。Auyeung氏は「写真家にとって使いやすい機能を追加することが重要」と話す。
WindowsとMacの両方を使う筆者にとっては、Lightroomは数少ない選択肢だが、Mac向けにはApertureという強力なライバルがいる。ただ、Auyeung氏は、Lightroom 5の新機能を中心に、「Apertureには同様の機能はないと思う」と機能面の優位性をアピールする。
そうした新機能に対して、今後、Lightroomではどういった機能を追加していくのか。Auyeung氏は「応えられていない要望がたくさんある」と話し、今回も搭載できなかった機能の1つがモバイル対応だ。
モバイル端末でのLightroomの利用について多くの要望が来ており、現在は、同社の技術者が、EOS 5D Mark IIIのRAW画像をiPad上で処理する「初期のコンセプトのデモ」の動画を公開しているが、これを実現するためにさまざまな検討を行なっている最中だという。
ほかに要望が多いのがクラウドへの対応だという。画像の保存や共有にクラウドサービスが利用されるようになり、同社もモバイル向けにRevelを提供しているが、Lightroomからクラウドサービスに直接アクセスして画像を取り込んだり、クラウドの画像に対してスマートプレビューを使ってローカルに画像を保存し、オフライン時にも編集できるようにする、といった連携機能はない。
Revelは、あくまでコンシューマ向けのモバイル用クラウドサービスだが、Lightroomは写真愛好家のようなコンシューマユーザーもターゲットにしており、Auyeung氏は連携サービスのプラットフォームとして位置づけることも可能だと話しつつ、「まだ検討中」と慎重な物言いだった。
Auyeung氏は逆に「クラウドがどういったときに便利か?」と質問を返すなど、クラウドとの連携に関しては模索している、という印象。それでもAuyeung氏は、「開発リソースは限られるが、要望にはなるべく応えていきたい」と話す。
「シーンを認識する」機能もよくある要望だという。これは、例えば人物がいればそれに適した処理を自動で行なったり、風景向けの処理を行なったりといった機能だが、「そういった機能を備えたソフトはあまりない」とAuyeung氏。Lightroomユーザーはこだわりが強く、安定して処理が行なえない機能は搭載できないため、そうした機能の研究をしている状況だという。Auyeung氏には、昨年の来日時に顔認識に関して同様の質問をしているが、「しばらく前から取り組んでいるが、もう少し時間がかかる。鋭意開発中」とのことで、すぐの登場はなさそうだ。
日本市場はまだ伸びるチャンスがある
スマートフォンやタブレットの普及、Windows 8の登場で、「タッチUI」対応端末が増えている。Lightroomは現状、マウスとキーボードでの操作を前提としているが、特に前述のスマートフォン、タブレット対応に向けてタッチUIへの研究も行なっているという。タブレットなどではPCとは使い方が異なる、という認識から、Auyeung氏はその使い方の違いも踏まえたUIが必要になる、と話す。
「使う端末で一番いいインタフェースにしなくてはいけない」とAuyeung氏。まずはタブレット向けに焦点を当てて研究をしていくが、特に、米国でまだタッチ対応PCがそれほど普及していないため、もっと普及したら対応していくという考えのようだ。
Lightroom自体は、バージョンを重ねるごとにユーザー数を増加させてきている。今回、Creative Cloudに対応したことで、さらなる利用の拡大を期待しているという。日本市場、特にプロフェッショナル向けの市場では、返品が一般的な米国に比べると新規導入に慎重な傾向があり、Lightroom拡大の余地はまだあると見ているそうだ。
また、カメラ市場の変化にともない、デジタル一眼レフカメラだけでなく、ミラーレスカメラやスマートフォンへの対応も拡大していく必要性が出てきているという。プロのウェディングカメラマンとしても活動するAuyeung氏は、昨年の来日の際はデジタル一眼レフを持ってきていたが、今回はプライベート用にミラーレスカメラを2台持ってきていた。こうしたユーザーのカメラの変化や機材の増加にも追従し、どんなカメラでの撮影でも、1つのワークフローで対応できるように、Lightroomでは今後も機能拡張を続けていく考えを示している。