写真展レポート

写真家インタビュー:マイケル・ケンナから見た“日本の風景”とは

写真展「JAPAN / A Love Story 100 Photographs by Michael Kenna」が4月17日(水)から開催

マイケル・ケンナ氏

マイケル・ケンナは今なお中判のフィルムカメラを使い、ゼラチン・シルバー・プリントで作品を制作する。そのモノクローム写真は、国内外のプリントコレクターを魅了し続けている。

作家活動50年を超えた2024年、日本をテーマにした写真展「JAPAN / A Love Story 100 Photographs by Michael Kenna」が東京・代官山ヒルサイドフォーラムで開かれる。会期は4月17日(水)~5月5日(日)。入場無料。

「待ちながらじっくり考える…」

マイケル・ケンナの写真はどこか水墨画を思わせるような静謐さが印象的だ。風景をダイナミックに写し撮るアンセル・アダムスと全く異なる。

「未知で予測不可能なものが好きです」とケンナは話す。

その写真の多くは、ハッセルブラッドを使い長時間露光で撮影されている。数分から、長いものだと数時間を掛ける。

「待ちながらじっくり考える。その時間が良い。その一方でどう写るか分からない不安な気持ちは、僕にさらに実験し、探求することを促してくれます」

Dancing Trees, Kussharo Lake, Hokkaido 2020 ©Michael Kenna

フィルムはISO 400のコダック・トライXを使い、イルフォード・マルチグレード・ファイバーペーパーにセピアで微妙に調色してプリントを行なっている。

マイケル・ケンナと日本

写真は10代の初め、クリスマスプレゼントで玩具のカメラを贈られ、撮り始めた。カトリック神学校の寄宿学校には暗室があり、そこで現像とプリントも始めた。

転機の1つが交換留学でアメリカに渡ったことだ。ニューヨークからヒッチハイクでカリフォルニアへ向かう旅に出た。

「気づくとメキシコ、ベリーズ、グアテマラ、マイアミなどを旅していました」

それとアメリカでは写真のギャラリーがあり、プリントがアート作品として売買されていることを知った。

イギリスに戻り、マグナム・フォトのスタッフとして1年間働き、広告写真家のアシスタントを経て、再度、渡米した。

「マグナムではメンバーが撮った報道写真を持って、新聞社を周る仕事をしていました」

当初は35mm判カメラを使い、カラーとモノクロで風景写真などを撮影。ロサンゼルスやニューヨーク、サンフランシスコのギャラリーに持ち込んでいた。

「僕の写真はモノクロームの方が強いことが自然と分かってきた。それとともに、結果の分かった撮り方に満足できなくなって、長時間露光を試すようになりました」

これまでに旅した国は40カ国を越える。初来日は1987年。以来、足繁く通い、京都や奈良といった古都だけでなく、東京や大阪などの大都市、また2002年からは北海道を撮り始めた。

「日本は土地が生きていて力強く、要素(elements)が強い国。私たちの世界の儚さと美しさをより強く意識することができます」

対して北海道は優しく魅惑的、かつ危険なまでにワイルドで、絶望的なまでにロマンチックだと評する。

「私にとって視覚的に地上の楽園であり、冬のワンダーランドです」

撮影の方法は至ってシンプルだ。現地を歩き、探索して撮影場所を見つける。言葉の通じない国では、信頼できるガイドと行動を共にする。

北海道では当初、厳冬期に一人で撮影に赴き、自然の厳しさを思い知らされた。静謐な作品を生む風景写真家は、行動的な冒険家の1面も持ち合わせているようだ。

「現地に行く前に入念な準備はしません。3次元の世界で私にとって興味深いものを探し、それが2次元の写真プリントで視覚的に心地よくなるように翻訳、または解釈します」

記憶や痕跡、風景と人間の相互作用の証拠だ。

「『不在の存在』は私の作品に不可欠なテーマ。人物を撮影することはめったにないが、彼らの記憶や痕跡を常に探し続けています」

会場には未公開、新作を含む約100点が並ぶ。日本での開催後はロサンゼルス、ロンドンで巡回予定だ。

「JAPAN / A Love Story 100 Photographs by Michael Kenna」

会場

代官山ヒルサイドフォーラム
東京都渋谷区猿楽町18-88

開催期間

2024年4月17日(水)~5月5日(日)

開催時間

11時~18時(最終日は17時まで。入館は閉館30分前まで)

入場料

無料

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。コロナ禍でギャラリー巡りはなかなかしづらかったが、少し明るい兆しが見えてきた。そんな中でも新しいギャラリーはいくつも誕生している。東京フォトギャラリーガイドでギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。