写真展レポート
マイケル・ケンナ写真展:A 45 Year Odyssey 1973-2018
45年間の作家活動を俯瞰 国内初公開となる作品も
2018年12月4日 11:35
風景写真家として知られるマイケル・ケンナ氏の回顧展「A 45 Year Odyssey 1973-2018」が東京都写真美術館において開催されている。同氏の45年にわたる活動の中から、代表作の169点が出展されているもので、会期は2018年12月1日~2019年1月27日まで。
作品はモノクロームのみで構成されており、世界各国の自然、人工物を捉えた風景写真が展示されている。
本展では、この秋にパリで公開された作品や同氏としては珍しい人物を被写体とした作品も展示されている。内覧会に参加する機会を得たので、その模様をお伝えしたい。
作家について
マイケル・ケンナ氏は1953年にイギリスで生まれた写真家で、ロンドン芸術学校で写真を学んだ。その後1977年にアメリカへ渡り、現在はシアトルを拠点に活動を続けている。
風景写真家として知られており、その伝統的な技法・構成、独自の美意識にもとづいて制作された作品は、ビクトリア&アルバート美術館やサンフランシスコ近代美術館など、各国の美術館に収蔵されている。
展覧会の構成
展覧会はタイトルにあるとおり、1973年から2018にかけて撮影された世界各国の風景写真によって構成されており、初期の作品から最新のものまでが展示されている。
展示空間は大きく3室にわけられており、その内の最も広い1室で、この45年間にわたる作品群が紹介されている。
本展覧会でのハイライトは、連作「Impossible to Forget(50年後のナチス強制収容所)」(国内初公開)と、同じく国内初公開となる「RAFU: Japanese Nude Studies 2008-2018(ヌードの習作)」(今秋フランス・パリで公開された)だろう。
どちらも展示空間が別室にわけられており、展示の仕方も異なっている。
Impossible to Forgetは、ヨーロッパ各地のナチス強制収容所を約12年間にわたって記録したシリーズ。本展では約25点が展示されている。
【お詫びと訂正】記事初出時、Impossible to ForgetとRAFU: Japanese Nude Studies 2008-2018がともにパリで初めて公開されたと記述しておりましたが、正しくはRAFUのみでした。お詫びして訂正させていただきます。
作品は1988年から12年間もの時間をかけて撮影されており、同氏によれば訪れることのできる収容所はすべて足を運んだという。これらの作品はフランスの文化省と、レジスタンス博物館に寄贈されており、これによって同氏はシュバリエ芸術章を受章している。この作品郡はヒューストン・ホロコースト・博物館やアメリカ各地を巡回して大きな反響を呼んだという。
「RAFU: Japanese Nude Studies 2008-2018」もまた国内初公開となる作品群だ。風景写真で知られる同氏の人物を被写体とした作品群としても注目されている。
タイトルに掲げられているとおり、2008年から10年の時間をかけて制作された作品で、各作品を見ていくと、ナミコやリョウコ、ミナ、ヒサコ、トモミなど、非常に多くのモデルに向き合ってきていることが伺われた。どの被写体も一般の人々だという。
撮影環境にもこだわりがこめられている。「古い日本の空間」にこだわったと注記されているように、どの作品も古い日本家屋が撮影空間として選ばれているのだ。被写体の身体やフォルムに注目した作品、日本家具とあわせた作品など、様々な視点を垣間見ることができる展示となっている。
見どころ
作品はすべてケンナ氏のオリジナルプリントとなっており、世界的に高い評価を得ているプリント技術も見どころのひとつだ。
中でも注目したいのが、「Impossible to Forget」。額装された作品は、意図的にアクリルパネルが排されており、紙の質感やプリントの濃淡、粒状感などを直に鑑賞できる。
年に一度は日本を訪れているというケンナ氏。展示作品の中には日本の風景を撮影した作品もみられた。特に北海道の雪景色を撮影した作品が多く、防雪柵やタウシュベツ橋を撮影した作品などが展示されていた。
「Kussharo Lake Tree, Study 2」も北海道で撮影された作品。この被写体は何年も通い、その姿の変遷を見守ってきたという。
これまでに刊行された写真集の展示もあった。
展覧会タイトルと同名の書籍『A 45 Year Odyssey 1973-2018』(手前)は、その名のとおり本店展示作品の一部が収めらた写真集だ。造本もコデックス装となっており、作品をしっかりと鑑賞できるつくり。左奥に展示されている紫色の表紙の書籍は、新作である裸婦シリーズが収められた写真集だ。
モノクロームの作品は額装もすべて同じ装いで展示されていて、「余分なものを削ぎ落としたミニマルな作品にしたいと考えている」という同氏の言葉のとおり、一貫してシンプルな見せ方が貫かれている印象だった。しかし、単調かというと当然そのようなことはなく、プリントにはまるで水墨画を思わせるような雰囲気もあり、徹底してモノクロ表現とフィルムによる撮影にこだわっているという同氏の精神性も垣間見ることができるようであった。
同氏のまとまった作品を鑑賞することができる、またとないこの機会、興味のある読者はぜひ足を運んでみてほしい。
展覧会概要
会場
東京都写真美術館
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
開催期間
2018年12月1日(土)~2019年1月27日(日)
開催時間
10時~18時(木曜日・金曜日は20時まで)
1月2日、3日は11時~18時開館、12月28日、1月4日は10時~18時開館
休館日
月曜日
12月24日、1月14日は開館、12月25日、12月29日~1月1日、1月15日は休館
入場料
一般:1,000円(団体800円)
学生:800円(団体640円)
中高生・65歳以上:600円(団体480円)