写真展レポート
「生誕100年 石元泰博写真展 生命体としての都市」展
3館共同開催 東京都写真美術館の展示キーワードは「都市への視線」
2020年10月6日 06:00
東京都写真美術館で、写真家・石元泰博氏の生誕100年を記念した展覧会「生誕100年 石元泰博写真展 生命体としての都市」が開催されている。会期は2020年9月29日~同11月23日にかけて。会場の様子とともに、展覧会の概要をお伝えしたい。
3館による共同開催
本展は、2021年が石元氏の生誕100年となることを祝うかたちで、東京オペラシティアートギャラリーと高知県立美術館との共同で企画開催される作品展となっている。その規模は過去最大だという。
石元泰博氏は1921年にアメリカ・カリフォルニア州のサンフランシスコで生まれた。両親は高知県から渡米した農業移民だった。建築を学ぶために、1946年にノース・ウェスタン大学に入学するも、ほどなくして退学。1947年にシカゴの写真クラブ「フォート・ディアボーン・カメラ・クラブ」(現・フォート・ディアボーン・シカゴ・フォト・フォーラム)に入会し、1948年に作品「ファンタジー」がイリノイ州内で開催されたコンペで一位を獲得。これをうけてインスティテュート・オブ・デザイン(1949年にイリノイ工科大学に併合)に進み、写真を学ぶ。1953年に『U.S.カメラ1954』にビーチに集う人々の脚を写した作品と子どもの作品が掲載される。また同年、日本では『アサヒカメラ』8月号にビーチの写真が掲載。国立近代美術館で開催された「現代写真展 日本とアメリカ」に、エドワード・スタイケンの選出でアメリカの写真家として紹介される。以後発表されていくことになる、シカゴや桂離宮、伊勢神宮、渋谷などの写真は、多くの人が一度は目にしたことがあることだろう。
このうち、東京都写真美術館では、「都市への視線」をテーマに展示を構成。シカゴや東京、桂離宮、多重露光などのミッドキャリアから晩年に至るまでの作品で展示内容を構成している。
石元泰博氏の全貌を展示しようと思うと、東京都写真美術館の現在のフロアでは収まりきらないという。共同での開催となる点をいかして、コンセプトをわけて展示内容をつくっていったのだそうだ。
例えば作家の代表作のひとつともいえる桂離宮のシリーズは、2度にわけて撮影されているが、2回の撮影における時間的な間隔は30年に及ぶ。この間、桂離宮は「昭和の大修理」を経ている。東京都写真美術館では、この大修理後に撮影された作品群を主に展示し、いっぽう東京オペラシティ アートギャラリーでは、1度目に撮影された作品群を主に展示しているという。展示会場それぞれで切り口を変えて作家の姿を伝えていく試みについて、同館は、この桂離宮のシリーズをハブのようにして各館をつなげられないか、と考えたのだと説明する。撮影時期の違いから立ちあらわれてくる“視点の違い”を、ぜひ感じて欲しい、とのコメントがあった。
展示内容はぜんぶで6つのセクションにより構成されている。「シカゴ、シカゴ」からスタートし、「東京」、「桂離宮」と続き、「多重露光」、「刻」、「シブヤ、シブヤ」と、作家の様々な側面を知ることができる内容となっている。以下、各展示室の様子とともに紹介していきたい。
展示1:シカゴ、シカゴ
会場入ってすぐ目に飛び込んでくるのが、シカゴ、シカゴだ。インスティテュート・オブ・デザインを1952年に卒業した石元氏は、日本とシカゴを往復しながら、この都市を撮り続けていった。1958年にシカゴを訪れた際に、石元氏は当初予定していた撮影期間を1年から3年に延長して、作品制作を進めていった。撮影カット数はおよそ6万カットにも及んだ。
ここから生まれたのが、写真集『シカゴ、シカゴ』(美術出版社、1969年)だった。展示内容は『シカゴ、シカゴ その2』(キヤノン株式会社、1983年)所収の作品も含めて構成されているという。
目線は、人物の姿のみならず、都市の姿にも向けられている。街や人々に向けられた視線から、作家の原点である都市像に注目した展示構成とのことだ。
展示2:東京
シカゴから東京に移った石元氏は、以後2012年に亡くなるまで、東京を拠点に活動を続けていった。
2番目の展示室では、石元氏がとらえた東京の姿が紹介されている。人物や建物、自然など、それらを等価にとらえていく石元氏の視線が、そこにはあるという。
展示3:桂離宮
石元氏は2度にわたって桂離宮を撮影している。1度目の撮影は1953年から1954年にかけて。2度目は、1981年から1982年にかけてだ。
展示会場では、この2度目に撮影された作品を主に展示。50年代のオリジナルプリントと、80年代に撮影された作品を、写真家の原直久氏がプリント(石元氏本人が許可)した作品をあわせて展示することで、30年の間隔を経て、作家の視点がどのように変化していったのかを追体験できる構成としているという。
展示5:刻(とき)
石元氏が都市へ向ける視線は、1980年代にニューヨーク・セントラルパークで濡れた落ち葉に向けられたという。この落ち葉から、空き缶や雪上の足跡、雲や水、人の流れといったモチーフが撮影されていく。これらは「うつろい」というシリーズを形成し、写真集『刻 moment』(平凡社、2004年)に結実する。この時、石元氏は82歳となっていた。
展示6:シブヤ、シブヤ
シブヤ、シブヤのシリーズは、渋谷駅前のスクランブル交差点で信号待ちをする人々を捉えた作品群だ。撮影方法にノーファインダースタイルを採ることで、“偶然性”に着目したアプローチがなされている。これら作品は『シブヤ、シブヤ』(平凡社、2007年)にまとめられている。
展示されている作品は、言われなければ気づかないほどシャープだ。ノーファインダーという自由な視点を操る石本氏の姿が作品を通じて想像させられる。85歳となった石元氏の、新しい手法をとりいれていく姿が、そこにはある。
冒頭でお伝えしたとおり、会場全体を通じて、同館の展示では、石本氏の都市や人々に向けられた眼差しが核に展示内容が構成されている。他2館の開催に先駆けてはじまった石元泰博写真展だが、東京オペラシティ アートギャラリーでも間もなく展示がはじまる(10月10日〜12月20日)。高知県立美術館の展示は2021年1月16日〜3月14日にかけての開催となる予定だ。ひとりの作家について、3館で企画展示が開催されるのは、おそらく稀なことではないだろうか。3館それぞれに展示や構成の切り口を変えているとのことなので、作品を多面的に見る機会ともなりそうな、今回の展示。「造形的な視点をもつ」と評される作家の作風や視点からは、緻密に計算され、構築していくアプローチも伺い知ることができるように感じられた。2度、3度見て、なおも新しい気づきがある、見るほどに深みにはまりこんでいく世界がひろがっている。
概要
会期
2020年9月29日~11月23日
休館日
毎週月曜日
※月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館
所在地
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内